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5.視察
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翌日、約束通りジェラルドを乗せたアストロメリア家の紋章入りの馬車が、オーデント家の屋敷前にやって来た。
外出用のドレスに身を包んだクレアが、自分の目の前まで馬車が止まるのを待っていると、横に付いていた護衛の騎士と思われる男性が馬から降りて、クレアの許へとやってくる。年齢は20代半ばくらいで、ジェラルドよりやや年上そうだ。
「ジェラルド様の近侍兼護衛を務めておりますコリウス・ベイリーフと申します。本日、護衛を務めさせて頂きますので、以後お見知りおきを」
「クレア・オーデントと申します。本日はよろしくお願い致します」
クレアが挨拶をすると、控え目に笑顔を返して来たコリウスが馬車の扉を開け、乗り込む為に手を貸してくれた。そしてその中では、笑みを浮かべたジェラルドが先に乗り込んでいる。
「クレア嬢、このような早朝から申し訳ない。ですが、あなたに同行して頂き、とても助かります。本当にありがとう」
「いえ。少しでも閣下のお役に立てるのであれば……」
そう答えるクレアの手を取り、今度は中からジェラルドが手を貸してくれる。
そのまま向かい合わせで座ったクレアだが……その馬車の内装に圧倒された。
派手さはないが、内装にはかなり高級な生地が使われており、腰下ろした瞬間、その座り心地の良さに驚く。流石、公爵家の馬車という感じだ。
「本日はリーネル農園とマウロ農園というハーブ園を視察する予定です」
「リーネル農園はラベンダーやローズマリー、マウロ農園はカモミールを取り扱っておりますね。ですが、リーネル農園のラベンダーに関しては、早咲きでも来月辺りからなので……」
「ええ。もちろんそちらも確認済です。ただ今回の視察は、ハーブの品質への拘りを農園管理者がどのようにしているかが、知りたいので……」
「でしたらリーネル農園は、閣下のご希望に合った育て方を一部しておりますね。基本的には当領内のハーブは、料理用やハーブティーとしての需要が多いのですが……。こちらの農園では、ストレス緩和などに効果が高いハーブをそれとは別に徹底した品質管理で栽培しているので」
クレアの返答にジェラルドが目を見張る。
「別で……ですか?」
「ええ。通常は量産スタイルの育て方をしているのですが……拘りのある調香工房や、上質のハーブウォーターをご愛用されている貴婦人方等のご要望で、一部だけ高品質で育てたハーブを取り扱っているのです」
「なるほど。ではこちらもその高品質ハーブを扱う契約をすれば……」
「ですがその分、量産型のハーブよりも単価が高いので、そちらも今回の視察でご確認された方がよろしいかと」
「確かに……」
そう答えたジェラルドは、口元に綺麗な笑みを浮かべて苦笑した。
一見、会話に困らないような雰囲気ではあるが、クレアの方は、いつ話題が途切れるかヒヤヒヤしている。
オーデント家から各農園までは、どちらも馬車で最低30~40分程掛かる……。
その間、この閉鎖的な馬車の中で、高貴な身分の見目麗しいジェラルドと一緒に過ごさなければならないのだ。
その重圧と緊張感から、クレアの胃は段々とシクシク締め上げられている。
「クレア嬢、あなたは随分とリーネル農園にお詳しいようだが、こちらの農園とは何か深い縁でも?」
「閣下、わたくしの様な身分の下の者にお気遣いは無用でございます。どうぞ、クレアと気軽にお呼びくださいませ。口調も砕けたお言葉使いで構いません。逆にそのようにお気遣いある話し方をされてしまうと、こちらの方が恐縮してしまいます」
クレアのその申し出に一瞬、ジェラルドの動きが止まる。
しかし、すぐにふっと笑みをこぼした。
そのジェラルドの反応にクレアも少しだけ緊張が緩まる。
昨日の父を交えての会話の時から、そうだったのだが、ジェラルドは本来、事務的な口調が主流ではないのだろうかと、クレアは感じていた。
だが、恐らくクレアが女性だという事もあり、なるべく事務的な口調にならない様、あえて柔らかめな口調を使って気遣っている節があった。
正直なところ、自分よりも身分の高い人物に気遣われながら会話されてしまうと、逆にクレアの方が委縮してしまう。
「リーネル農園ですが、こちらではわたくしの好むハーブを多く取り扱っているので、その関係で個人的に愛用しております」
リーネル農園は、正確に言うとクレアの好みのハーブではなく、クレアが頼る事が多いハーブを多く取り扱っているので、その関係でよく訪れている農園だ。
実はイアルの事で悩む事が多かったクレアはここ数年、片頭痛に悩まされていた。その痛みを和らげる為にここのハーブをよく愛用しているのだ。
「では、あなたはそれらのハーブをどのように愛用されているのだ?」
早速、普段使い慣れている口調に変えてきたジェラルドにクレアの緊張感が、更に少しだけ緩む。やはり本来は、事務的な話し方をするタイプだった様だ。
「精油の方では部屋に香りを充満させる為、小皿に水を張って精油を数滴垂らし、下から温めたりしております。他には……入浴時にバスタブに数滴垂らして香りを楽しんだり、あとハンカチに染み込ませて気分を落ち着けたい時に香ったりしておりました。ハーブウォーターだと、殆どは美容液として使用しておりますね」
「やはり女性側として、ハーブウォーターの需要は高いのか……」
「ええ。特に妙齢の女性は、美に対しての追及は計り知れませんので。ですから量産型の特産品としては、蒸留手法のついでに副産物として得られる質の良いハーブウォーターをメインにされ、限定品として高品質の精油を売りにされるスタイルでも充分利益を得られるかと思います。ちなみにハーブウォーターは、美容液以外にもお部屋の消臭として使われる事も多いので、そちらも売りにされれば、更に需要者の幅が広がる可能性がございますね」
すると何故かジェラルドが、じっとクレアを見つめてきた。
いくら案内役とはいえ、流石にこの閉鎖的空間で見目麗しい貴公子にじっと見つめられると年頃のクレアは、どぎまぎしてしまう。
「これだけ領地の特産品を効果的にアピール出来るとはオーデント伯は、随分と優秀なご息女をお持ちの様だ。確かあなたは、ご婚約者がいると伺っているが……将来的には、その男性と共にお父上の仕事を引き継がれるのかな?」
ジェラルドのその問いかけにクレアの顔が強張る。
確かに少し前まではイアルという優しい婚約者がいたクレアだが、それはもう一週間前に解消へと話が進んでいる。だが、あまりの直近の出来事なので、恐らくジェラルドにはその情報は入っていないのだろう……。
そんな返答に困ったクレアが、一瞬口ごもる。
「その……家督は恐らく妹の夫となる男性が継ぐ事になるかと思います」
「だが、どう見てもお父上は、あなたとその夫となる男性に家を継がせようと、準備されていた様に見えたのだが?」
「実は数日前にわたくしは、自身が目指したい事があると父に告げ、ご先方へ婚約解消の話を持ち出している最中でして……」
バツが悪そうにそう答えるクレアにジェラルドが、大きく目を見開く。
「これは失礼を。だが、あなたの目指したい事とは……」
「若く幼いご令嬢方の教育係の仕事に興味がありまして。将来的には家を出て、そちらで生計を立てて行こうかと考えております」
ややはにかみながらそう答えると、ジェラルドは神妙な顔つきで顎に手を当てて、考え込んでしまう。
「確かにあなたの様に立派な淑女であれば、素晴らしい教育係になれるとは思うが、ここまで自身の領地の事を熟知されている状態では、私としては実に惜しいと思ってしまうのだが……」
「お褒めの言葉を頂き、恐れ入ります」
「だがお父上があなたの希望をすんなり受け入れるという事は、妹君もあなたの様に優秀な女性という事なのかな?」
何故かやや含みのある笑みを浮かべながら聞いてきたジェラルドにクレアが、ビクリと反応する。
もしやティアラが、どういう令嬢なのかを事前に調べているのでは……。
そうなると今後、オーデント家の商談にジェラルドが不安を抱く可能性があると思いつつも、逆にジェラルドのティアラへ抱く興味を削ぐには、好都合な展開かもしれないとも考えたクレア。
「妹はその……少々自由奔放な性格でして、わたくしとはまた違ったタイプの女性になります。ですが、妹の夫には父がしっかりした男性を選ぶかと思いますので、今後のオーデント家としては何の問題も無いかと……」
色々と言葉を選らんだつもりのクレアだが……自身でも説得力の欠ける言い分にしか聞こえず、段々と声が尻すぼみになってしまった。
そんなクレアの気まずそうな様子にジェラルドが、思わず吹き出してしまう。
「そんなに警戒しなくてもいい。例え妹君の代になる未来があろうとも私は、この話を前向きに検討している」
そう言いつつも目の前のジェラルドは、必死で笑いを噛み殺している。
その様子にクレアが、恥ずかしさで顔が熱くなってしまった。
どうやらジェラルドの方では、すでにティアラがどういう令嬢かの情報は、持っているらしい。そうなると、こちらが必死でティアラと面会させない様に動いていた事は、ジェラルドには全てお見通しだったという事だ。
これは、帰ったら早々に父に報告しなくてはならない。
そしてその事を聞いた父も今のクレアの様に羞恥心で肩を落とすだろう……。
そんな話をしていたら、意外にもあっさりとリーネル農園に到着する。
先にジェラルドが馬車から降り、次に降りるクレアに手を貸してくれた。
御者か護衛のコリウスが手を貸してくれるだろうと思っていたクレアが、恐縮しながらその手を借りる。
外に出ると、ちょうど咲き頃のローズマリーの爽やかな香りが広がっていた。
そしてほんのりラベンダーの香りもする。
どうやら開花はしていないが、蕾から少し香っているようだ。
その香りを味わっていると、ズラリと並んだ農園の従業員や手伝いの者達が、かなり緊張した面持ちで、こちらに目を向けていた。
「アストロメリア公爵閣下、このような場所にわざわざ足をお運びくださり、誠にありがどうございます! 当農園の責任者ボリジと申します!」
そう声を掛けてきたのは、このリーネル農園の管理責任者であり、幼少期からクレアの事を孫の様に気遣ってくれているボリジだ。
50代半ばの彼は、普段ならチャキチャキした話し方で、領主でもあるクレアの父セロシスにも無遠慮で気さくに話しかけてくる人物なのだが。
流石に公爵相手ともなると、かなり緊張しているらしい。
ガチガチになっている……。
その様子が珍し過ぎて笑ってしまいそうなクレアが、慌てて口元を押さえる。
「どうやら私の急な訪問で、皆の手を止めてしまった様だな……。私の事は気にしなくていい。責任者の彼以外は、いつも通り仕事に励んでくれ!」
ジェラルドのその言葉に皆が一斉に顔を見合わせる。
するとボリジが大声で皆に発破を掛けた。
「公爵閣下のお計らいだ! 皆、すぐに仕事を再開しろ!」
それを合図に皆が一斉にお辞儀をしながら、仕事に戻っていった。
「公爵閣下、本日はどのような部分を中心にご視察なされますか?」
「クレアから聞いたのだが、品質管理にかなり拘って栽培しているハーブについて色々知りたいのだが……」
ジェラルドの言葉にやや驚いた表情でボリジが、クレアの方に目を向ける。
するとクレアがニッコリと笑みを浮かべた。
「ボリジ、お願い。閣下をそちらの方へご案内して差し上げて」
「かしこまりました。クレアお嬢様。では……こちらへどうぞ」
クレアの声掛けにボリジの緊張が少し緩んだようだ。
先程よりかは大分肩の力が抜けた様子で、ジェラルドとクレアを目的の場所まで誘導していく。
そしてその後ろを護衛であるコリウスが、少し離れて付いてきている。
クレアは移動しながら、ボリジに簡単にジェラルドの目的を話す事にした。
「閣下はこちらのハーブから高品質の精油をとお考えなの」
「高品質の……それはパフューム等の製造をお考えで?」
「初めはそのつもりだったのだが、どうやらそれには、かなりの調香知識と技術がいるようなので、現在は精油のみの製造を考えている」
「確かにその方がよろしいかと。精油も精油で品質期限という物がございます。あまりにも製造した日より日数が経ってしまうと、香りが無くなってしまう物もあれば、粘りが出る物もございますので……。品質に拘れば拘る程、品物の管理は大変かと思われますね」
「なるほど……」
「よろしければこちらでもその高品質ハーブで作られた精油を製造しているので、おひとつお土産にお持ちになりますか?」
「いいのか?」
「ええ是非、サンプルとしてお持ちください」
「助かる」
大分慣れてきたのかシャキシャキ話すボリジに比べ、ジェラルドの方はクレアと話している時以上に事務的な口調だ。恐らくこれが本来の彼の仕事中の人との接し方なのだろう。クレアがそんな事を思っていると、かなり濃厚なローズマリーの香りが漂ってくる。
「あちらが高品質のハーブを育てている場所でございますね。私の息子のカイルが担当しておりますので、よろしければ呼びましょうか?」
「ああ、是非頼む。色々と聞きたい」
「では少々お待ちください」
そう言ってボリジは、近くにある作業小屋へと入っていた。
恐らくそこにカイルがいるのだろう。
するとジェラルドが、ふいに声を掛けてきた。
「クレア、あなたはあの農園主とは、随分と打ち解けている様だが……」
「ええ。幼少期からよく父に連れられた際、かなり可愛がって貰ったので」
するとボリジがカイルを連れてやって来た。
「閣下、よろしければこちらのカイルがご質問等あればお答えするので、あちらの方で」
「ああ。そうさせて貰おう。カイル、よろしく頼む」
「はい。ではこちらへ、どうぞ」
カイルと共にハーブの所へと向かうジェラルドの後ろを護衛のコリウスが付いて行く。その後ろ姿を見つめていたクレアにボリジが話しかけてきた。
「いや~、本日はクレアお嬢様がご一緒だったので、こちらとしましても本当に助かりました! 私一人ではとてもではありませんが、公爵閣下の対応等、恐れ多くて……」
「ボリジ……私もあなたと一緒よ。この後、その恐れ多い公爵閣下と共にマウロ農園にも行かなければならないの」
「ですが先程、閣下はお嬢様のお名前を呼び慣れているようなご様子でしたが……それなりに関係醸成をなされているのではないのですか?」
「まさか! 閣下とは昨日、初めてお会いしたばかりよ?」
「そうございましたか……。ならば今回は随分と大役を任されてしまったのですね。セロシス様は現在お忙しいのですか?」
「いいえ。閣下が女性目線のご意見をご希望だったから、私に白羽の矢が立ってしまったの……」
それを聞いたボリジが苦笑する。
「なるほど……ティアラお嬢様では、公爵閣下のご対応はなかなか難しい物になりますからね」
「ボリジ、そんな事言わないで? 恐らく父の後を継ぐのは、ティアラとその夫となる男性になるから……」
それを聞いたボリジが大きく目を見開く。
「で、ですが! 次期ご領主はクレアお嬢様のご婚約者のイアル様と!」
「近々、婚約を解消する予定なの。言い出したのは私なのだけれど……」
「そ、そんな! イアル様はとても真面目な方だったので、次期ご領主になってくださる事に手前どもも安心し切っていたのですが……」
「ごめんなさい。でもきっと、お父様が素晴らしい男性をティアラに見つけて来てくださると思うから……。だからあなた達は、安心して?」
そう優しく語りかけるように告げたクレアだが……。
ボリジは悲しそうに俯いてしまった。
「クレアお嬢様は……その後、どうされるのですか?」
「私は……やりたい事があるから家を出ようと思うの」
「ああ……やはり……」
クレアの言葉にますますボリジが、悲しそうな表情を深める。
「イアル様が次期ご領主でなくなる事よりもクレアお嬢様が遠くに行かれてしまう事の方が、手前には悲しくてなりません……」
「ボリジ……家を出た後でも私はここを愛用するつもりよ。だってここのローズマリーで作られた精油は、私の片頭痛を一番和らげてくれるのだもの」
「クレアお嬢様……」
そう言ってクレアが両手でボリジの手を握り締めると、ボリジが今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。
「例えお嬢様がお屋敷を出られた後でも手前どもは、いつでもお嬢様の事をお待ちしております」
「ありがとう……。ボリジ」
そんな会話をしていたら、ジェラルド達が戻って来た。
「ボリジ、こちらはかなりハーブの品質管理を徹底している様だが……もしこちらから運営資金を援助した場合、生産量を更に増やす事は出来るか?」
「し、資金援助ですか!?」
「ああ。これだけ栽培に情熱を捧げている所は、初めてだ。まだ他の農園を視察していないので、はっきり断言は出来ないが……。取引先候補としては、かなり前向きに検討したい」
「ええ! もちろん! 是非ご検討くださいませ!」
どうやらリーネル農園の高品質ハーブの栽培は、ジェラルドの要望に合ったものだったらしい。この件に関しては、きっと父も喜ぶだろう。
こうして最初の視察先であるリーネル農園を後にした二人。
その後、20分ほど馬車で移動し、カモミール栽培が主流のマウロ農園も訪れた。
しかしマウロ農園では、まさか視察に来る人物が公爵閣下だという事が、父の視察を打診した手紙の内容から、抜け落ちていたようで……。皆、高貴な人物の対応に委縮してしまい、結局はクレアが農園内を案内する事になってしまった。
そんなリーネル農園の三分の一の規模のマウロ農園は、確かにハーブの質はいいのだが、生産量があまり多くはない。
その点でジェラルドの取引先候補からは、外れそうな気配だ。
帰りの馬車でそのような事をジェラルドから告げられ、その件も父に報告しないと……と考えていたクレア。するとジェラルドが、明日の予定を告げてきた。
「明日は特に視察予定はないのだが……。この二日間で視察した四つの農園に関して、あなたの意見を聞きたい。特に初日に視察した二つの農園に関しては、あなた抜きでの視察だったので、相談したい事があるのだが、明日そちらへ伺っても構わないだろうか?」
「もちろんでございます。では何時頃、お見えになられますか?」
「そうだな……。午前中は本日の視察内容をまとめたいので、昼過ぎくらいになるかと思うが」
「ではそのように父に伝えておきます」
こうしてクレアにとって、緊張の一日がやっと終わったのだが……。
明日もまたこの緊張感を維持しなくてはならないらしい。
ただ不思議な事に今のクレアは、そこまでジェラルドと共に過ごす事に気を張り詰める事が無くなっている事に自分自身で驚いていた。
外出用のドレスに身を包んだクレアが、自分の目の前まで馬車が止まるのを待っていると、横に付いていた護衛の騎士と思われる男性が馬から降りて、クレアの許へとやってくる。年齢は20代半ばくらいで、ジェラルドよりやや年上そうだ。
「ジェラルド様の近侍兼護衛を務めておりますコリウス・ベイリーフと申します。本日、護衛を務めさせて頂きますので、以後お見知りおきを」
「クレア・オーデントと申します。本日はよろしくお願い致します」
クレアが挨拶をすると、控え目に笑顔を返して来たコリウスが馬車の扉を開け、乗り込む為に手を貸してくれた。そしてその中では、笑みを浮かべたジェラルドが先に乗り込んでいる。
「クレア嬢、このような早朝から申し訳ない。ですが、あなたに同行して頂き、とても助かります。本当にありがとう」
「いえ。少しでも閣下のお役に立てるのであれば……」
そう答えるクレアの手を取り、今度は中からジェラルドが手を貸してくれる。
そのまま向かい合わせで座ったクレアだが……その馬車の内装に圧倒された。
派手さはないが、内装にはかなり高級な生地が使われており、腰下ろした瞬間、その座り心地の良さに驚く。流石、公爵家の馬車という感じだ。
「本日はリーネル農園とマウロ農園というハーブ園を視察する予定です」
「リーネル農園はラベンダーやローズマリー、マウロ農園はカモミールを取り扱っておりますね。ですが、リーネル農園のラベンダーに関しては、早咲きでも来月辺りからなので……」
「ええ。もちろんそちらも確認済です。ただ今回の視察は、ハーブの品質への拘りを農園管理者がどのようにしているかが、知りたいので……」
「でしたらリーネル農園は、閣下のご希望に合った育て方を一部しておりますね。基本的には当領内のハーブは、料理用やハーブティーとしての需要が多いのですが……。こちらの農園では、ストレス緩和などに効果が高いハーブをそれとは別に徹底した品質管理で栽培しているので」
クレアの返答にジェラルドが目を見張る。
「別で……ですか?」
「ええ。通常は量産スタイルの育て方をしているのですが……拘りのある調香工房や、上質のハーブウォーターをご愛用されている貴婦人方等のご要望で、一部だけ高品質で育てたハーブを取り扱っているのです」
「なるほど。ではこちらもその高品質ハーブを扱う契約をすれば……」
「ですがその分、量産型のハーブよりも単価が高いので、そちらも今回の視察でご確認された方がよろしいかと」
「確かに……」
そう答えたジェラルドは、口元に綺麗な笑みを浮かべて苦笑した。
一見、会話に困らないような雰囲気ではあるが、クレアの方は、いつ話題が途切れるかヒヤヒヤしている。
オーデント家から各農園までは、どちらも馬車で最低30~40分程掛かる……。
その間、この閉鎖的な馬車の中で、高貴な身分の見目麗しいジェラルドと一緒に過ごさなければならないのだ。
その重圧と緊張感から、クレアの胃は段々とシクシク締め上げられている。
「クレア嬢、あなたは随分とリーネル農園にお詳しいようだが、こちらの農園とは何か深い縁でも?」
「閣下、わたくしの様な身分の下の者にお気遣いは無用でございます。どうぞ、クレアと気軽にお呼びくださいませ。口調も砕けたお言葉使いで構いません。逆にそのようにお気遣いある話し方をされてしまうと、こちらの方が恐縮してしまいます」
クレアのその申し出に一瞬、ジェラルドの動きが止まる。
しかし、すぐにふっと笑みをこぼした。
そのジェラルドの反応にクレアも少しだけ緊張が緩まる。
昨日の父を交えての会話の時から、そうだったのだが、ジェラルドは本来、事務的な口調が主流ではないのだろうかと、クレアは感じていた。
だが、恐らくクレアが女性だという事もあり、なるべく事務的な口調にならない様、あえて柔らかめな口調を使って気遣っている節があった。
正直なところ、自分よりも身分の高い人物に気遣われながら会話されてしまうと、逆にクレアの方が委縮してしまう。
「リーネル農園ですが、こちらではわたくしの好むハーブを多く取り扱っているので、その関係で個人的に愛用しております」
リーネル農園は、正確に言うとクレアの好みのハーブではなく、クレアが頼る事が多いハーブを多く取り扱っているので、その関係でよく訪れている農園だ。
実はイアルの事で悩む事が多かったクレアはここ数年、片頭痛に悩まされていた。その痛みを和らげる為にここのハーブをよく愛用しているのだ。
「では、あなたはそれらのハーブをどのように愛用されているのだ?」
早速、普段使い慣れている口調に変えてきたジェラルドにクレアの緊張感が、更に少しだけ緩む。やはり本来は、事務的な話し方をするタイプだった様だ。
「精油の方では部屋に香りを充満させる為、小皿に水を張って精油を数滴垂らし、下から温めたりしております。他には……入浴時にバスタブに数滴垂らして香りを楽しんだり、あとハンカチに染み込ませて気分を落ち着けたい時に香ったりしておりました。ハーブウォーターだと、殆どは美容液として使用しておりますね」
「やはり女性側として、ハーブウォーターの需要は高いのか……」
「ええ。特に妙齢の女性は、美に対しての追及は計り知れませんので。ですから量産型の特産品としては、蒸留手法のついでに副産物として得られる質の良いハーブウォーターをメインにされ、限定品として高品質の精油を売りにされるスタイルでも充分利益を得られるかと思います。ちなみにハーブウォーターは、美容液以外にもお部屋の消臭として使われる事も多いので、そちらも売りにされれば、更に需要者の幅が広がる可能性がございますね」
すると何故かジェラルドが、じっとクレアを見つめてきた。
いくら案内役とはいえ、流石にこの閉鎖的空間で見目麗しい貴公子にじっと見つめられると年頃のクレアは、どぎまぎしてしまう。
「これだけ領地の特産品を効果的にアピール出来るとはオーデント伯は、随分と優秀なご息女をお持ちの様だ。確かあなたは、ご婚約者がいると伺っているが……将来的には、その男性と共にお父上の仕事を引き継がれるのかな?」
ジェラルドのその問いかけにクレアの顔が強張る。
確かに少し前まではイアルという優しい婚約者がいたクレアだが、それはもう一週間前に解消へと話が進んでいる。だが、あまりの直近の出来事なので、恐らくジェラルドにはその情報は入っていないのだろう……。
そんな返答に困ったクレアが、一瞬口ごもる。
「その……家督は恐らく妹の夫となる男性が継ぐ事になるかと思います」
「だが、どう見てもお父上は、あなたとその夫となる男性に家を継がせようと、準備されていた様に見えたのだが?」
「実は数日前にわたくしは、自身が目指したい事があると父に告げ、ご先方へ婚約解消の話を持ち出している最中でして……」
バツが悪そうにそう答えるクレアにジェラルドが、大きく目を見開く。
「これは失礼を。だが、あなたの目指したい事とは……」
「若く幼いご令嬢方の教育係の仕事に興味がありまして。将来的には家を出て、そちらで生計を立てて行こうかと考えております」
ややはにかみながらそう答えると、ジェラルドは神妙な顔つきで顎に手を当てて、考え込んでしまう。
「確かにあなたの様に立派な淑女であれば、素晴らしい教育係になれるとは思うが、ここまで自身の領地の事を熟知されている状態では、私としては実に惜しいと思ってしまうのだが……」
「お褒めの言葉を頂き、恐れ入ります」
「だがお父上があなたの希望をすんなり受け入れるという事は、妹君もあなたの様に優秀な女性という事なのかな?」
何故かやや含みのある笑みを浮かべながら聞いてきたジェラルドにクレアが、ビクリと反応する。
もしやティアラが、どういう令嬢なのかを事前に調べているのでは……。
そうなると今後、オーデント家の商談にジェラルドが不安を抱く可能性があると思いつつも、逆にジェラルドのティアラへ抱く興味を削ぐには、好都合な展開かもしれないとも考えたクレア。
「妹はその……少々自由奔放な性格でして、わたくしとはまた違ったタイプの女性になります。ですが、妹の夫には父がしっかりした男性を選ぶかと思いますので、今後のオーデント家としては何の問題も無いかと……」
色々と言葉を選らんだつもりのクレアだが……自身でも説得力の欠ける言い分にしか聞こえず、段々と声が尻すぼみになってしまった。
そんなクレアの気まずそうな様子にジェラルドが、思わず吹き出してしまう。
「そんなに警戒しなくてもいい。例え妹君の代になる未来があろうとも私は、この話を前向きに検討している」
そう言いつつも目の前のジェラルドは、必死で笑いを噛み殺している。
その様子にクレアが、恥ずかしさで顔が熱くなってしまった。
どうやらジェラルドの方では、すでにティアラがどういう令嬢かの情報は、持っているらしい。そうなると、こちらが必死でティアラと面会させない様に動いていた事は、ジェラルドには全てお見通しだったという事だ。
これは、帰ったら早々に父に報告しなくてはならない。
そしてその事を聞いた父も今のクレアの様に羞恥心で肩を落とすだろう……。
そんな話をしていたら、意外にもあっさりとリーネル農園に到着する。
先にジェラルドが馬車から降り、次に降りるクレアに手を貸してくれた。
御者か護衛のコリウスが手を貸してくれるだろうと思っていたクレアが、恐縮しながらその手を借りる。
外に出ると、ちょうど咲き頃のローズマリーの爽やかな香りが広がっていた。
そしてほんのりラベンダーの香りもする。
どうやら開花はしていないが、蕾から少し香っているようだ。
その香りを味わっていると、ズラリと並んだ農園の従業員や手伝いの者達が、かなり緊張した面持ちで、こちらに目を向けていた。
「アストロメリア公爵閣下、このような場所にわざわざ足をお運びくださり、誠にありがどうございます! 当農園の責任者ボリジと申します!」
そう声を掛けてきたのは、このリーネル農園の管理責任者であり、幼少期からクレアの事を孫の様に気遣ってくれているボリジだ。
50代半ばの彼は、普段ならチャキチャキした話し方で、領主でもあるクレアの父セロシスにも無遠慮で気さくに話しかけてくる人物なのだが。
流石に公爵相手ともなると、かなり緊張しているらしい。
ガチガチになっている……。
その様子が珍し過ぎて笑ってしまいそうなクレアが、慌てて口元を押さえる。
「どうやら私の急な訪問で、皆の手を止めてしまった様だな……。私の事は気にしなくていい。責任者の彼以外は、いつも通り仕事に励んでくれ!」
ジェラルドのその言葉に皆が一斉に顔を見合わせる。
するとボリジが大声で皆に発破を掛けた。
「公爵閣下のお計らいだ! 皆、すぐに仕事を再開しろ!」
それを合図に皆が一斉にお辞儀をしながら、仕事に戻っていった。
「公爵閣下、本日はどのような部分を中心にご視察なされますか?」
「クレアから聞いたのだが、品質管理にかなり拘って栽培しているハーブについて色々知りたいのだが……」
ジェラルドの言葉にやや驚いた表情でボリジが、クレアの方に目を向ける。
するとクレアがニッコリと笑みを浮かべた。
「ボリジ、お願い。閣下をそちらの方へご案内して差し上げて」
「かしこまりました。クレアお嬢様。では……こちらへどうぞ」
クレアの声掛けにボリジの緊張が少し緩んだようだ。
先程よりかは大分肩の力が抜けた様子で、ジェラルドとクレアを目的の場所まで誘導していく。
そしてその後ろを護衛であるコリウスが、少し離れて付いてきている。
クレアは移動しながら、ボリジに簡単にジェラルドの目的を話す事にした。
「閣下はこちらのハーブから高品質の精油をとお考えなの」
「高品質の……それはパフューム等の製造をお考えで?」
「初めはそのつもりだったのだが、どうやらそれには、かなりの調香知識と技術がいるようなので、現在は精油のみの製造を考えている」
「確かにその方がよろしいかと。精油も精油で品質期限という物がございます。あまりにも製造した日より日数が経ってしまうと、香りが無くなってしまう物もあれば、粘りが出る物もございますので……。品質に拘れば拘る程、品物の管理は大変かと思われますね」
「なるほど……」
「よろしければこちらでもその高品質ハーブで作られた精油を製造しているので、おひとつお土産にお持ちになりますか?」
「いいのか?」
「ええ是非、サンプルとしてお持ちください」
「助かる」
大分慣れてきたのかシャキシャキ話すボリジに比べ、ジェラルドの方はクレアと話している時以上に事務的な口調だ。恐らくこれが本来の彼の仕事中の人との接し方なのだろう。クレアがそんな事を思っていると、かなり濃厚なローズマリーの香りが漂ってくる。
「あちらが高品質のハーブを育てている場所でございますね。私の息子のカイルが担当しておりますので、よろしければ呼びましょうか?」
「ああ、是非頼む。色々と聞きたい」
「では少々お待ちください」
そう言ってボリジは、近くにある作業小屋へと入っていた。
恐らくそこにカイルがいるのだろう。
するとジェラルドが、ふいに声を掛けてきた。
「クレア、あなたはあの農園主とは、随分と打ち解けている様だが……」
「ええ。幼少期からよく父に連れられた際、かなり可愛がって貰ったので」
するとボリジがカイルを連れてやって来た。
「閣下、よろしければこちらのカイルがご質問等あればお答えするので、あちらの方で」
「ああ。そうさせて貰おう。カイル、よろしく頼む」
「はい。ではこちらへ、どうぞ」
カイルと共にハーブの所へと向かうジェラルドの後ろを護衛のコリウスが付いて行く。その後ろ姿を見つめていたクレアにボリジが話しかけてきた。
「いや~、本日はクレアお嬢様がご一緒だったので、こちらとしましても本当に助かりました! 私一人ではとてもではありませんが、公爵閣下の対応等、恐れ多くて……」
「ボリジ……私もあなたと一緒よ。この後、その恐れ多い公爵閣下と共にマウロ農園にも行かなければならないの」
「ですが先程、閣下はお嬢様のお名前を呼び慣れているようなご様子でしたが……それなりに関係醸成をなされているのではないのですか?」
「まさか! 閣下とは昨日、初めてお会いしたばかりよ?」
「そうございましたか……。ならば今回は随分と大役を任されてしまったのですね。セロシス様は現在お忙しいのですか?」
「いいえ。閣下が女性目線のご意見をご希望だったから、私に白羽の矢が立ってしまったの……」
それを聞いたボリジが苦笑する。
「なるほど……ティアラお嬢様では、公爵閣下のご対応はなかなか難しい物になりますからね」
「ボリジ、そんな事言わないで? 恐らく父の後を継ぐのは、ティアラとその夫となる男性になるから……」
それを聞いたボリジが大きく目を見開く。
「で、ですが! 次期ご領主はクレアお嬢様のご婚約者のイアル様と!」
「近々、婚約を解消する予定なの。言い出したのは私なのだけれど……」
「そ、そんな! イアル様はとても真面目な方だったので、次期ご領主になってくださる事に手前どもも安心し切っていたのですが……」
「ごめんなさい。でもきっと、お父様が素晴らしい男性をティアラに見つけて来てくださると思うから……。だからあなた達は、安心して?」
そう優しく語りかけるように告げたクレアだが……。
ボリジは悲しそうに俯いてしまった。
「クレアお嬢様は……その後、どうされるのですか?」
「私は……やりたい事があるから家を出ようと思うの」
「ああ……やはり……」
クレアの言葉にますますボリジが、悲しそうな表情を深める。
「イアル様が次期ご領主でなくなる事よりもクレアお嬢様が遠くに行かれてしまう事の方が、手前には悲しくてなりません……」
「ボリジ……家を出た後でも私はここを愛用するつもりよ。だってここのローズマリーで作られた精油は、私の片頭痛を一番和らげてくれるのだもの」
「クレアお嬢様……」
そう言ってクレアが両手でボリジの手を握り締めると、ボリジが今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。
「例えお嬢様がお屋敷を出られた後でも手前どもは、いつでもお嬢様の事をお待ちしております」
「ありがとう……。ボリジ」
そんな会話をしていたら、ジェラルド達が戻って来た。
「ボリジ、こちらはかなりハーブの品質管理を徹底している様だが……もしこちらから運営資金を援助した場合、生産量を更に増やす事は出来るか?」
「し、資金援助ですか!?」
「ああ。これだけ栽培に情熱を捧げている所は、初めてだ。まだ他の農園を視察していないので、はっきり断言は出来ないが……。取引先候補としては、かなり前向きに検討したい」
「ええ! もちろん! 是非ご検討くださいませ!」
どうやらリーネル農園の高品質ハーブの栽培は、ジェラルドの要望に合ったものだったらしい。この件に関しては、きっと父も喜ぶだろう。
こうして最初の視察先であるリーネル農園を後にした二人。
その後、20分ほど馬車で移動し、カモミール栽培が主流のマウロ農園も訪れた。
しかしマウロ農園では、まさか視察に来る人物が公爵閣下だという事が、父の視察を打診した手紙の内容から、抜け落ちていたようで……。皆、高貴な人物の対応に委縮してしまい、結局はクレアが農園内を案内する事になってしまった。
そんなリーネル農園の三分の一の規模のマウロ農園は、確かにハーブの質はいいのだが、生産量があまり多くはない。
その点でジェラルドの取引先候補からは、外れそうな気配だ。
帰りの馬車でそのような事をジェラルドから告げられ、その件も父に報告しないと……と考えていたクレア。するとジェラルドが、明日の予定を告げてきた。
「明日は特に視察予定はないのだが……。この二日間で視察した四つの農園に関して、あなたの意見を聞きたい。特に初日に視察した二つの農園に関しては、あなた抜きでの視察だったので、相談したい事があるのだが、明日そちらへ伺っても構わないだろうか?」
「もちろんでございます。では何時頃、お見えになられますか?」
「そうだな……。午前中は本日の視察内容をまとめたいので、昼過ぎくらいになるかと思うが」
「ではそのように父に伝えておきます」
こうしてクレアにとって、緊張の一日がやっと終わったのだが……。
明日もまたこの緊張感を維持しなくてはならないらしい。
ただ不思議な事に今のクレアは、そこまでジェラルドと共に過ごす事に気を張り詰める事が無くなっている事に自分自身で驚いていた。
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