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【番外編】
呼び方
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――――――――◆◇◆――――――――――
婚約披露宴から二か月後くらいのお話です。
本編4話の『天候の国の王太子』にチラッと出てきた『愛称呼び』についてのエピソード的な話です。
前半の回想シーンはエリアテール13歳、イクレイオス15歳、アレクシス14歳になります。
―――――――――――――――――――――
「エリア、お前は昔からアレクの事を略称で呼んでいるが……それは自国の王太子に対しての不敬行為にはならないのか?」
「え……?」
まだ子供っぽさの残る13歳のエリアテールは、今まで一度も疑問を抱かなかった事をイクレイオスに指摘され、キョトンとする。
「その……わたくしの場合、物心が付いた頃からアレク様と呼ばせて頂いておりましたので……」
「しかし、アレクには婚約者がいるのだろう? そのご令嬢は、あまりいい顔をしないのではないか?」
「そう……ですね……。ですが、そうなるとサンライズの巫女全員が、それに該当してしまうので……」
それを聞いたイクレイオスが、少し驚くように片眉を上げた。
「巫女全員?」
「はい。サインライズ王家の方々は、わたくし達巫女の事をとても大切に扱ってくださいます。そして何かあった場合、すぐに相談等がしやすい雰囲気作りの一環として、親しみやすい略称呼びをお許しくださってるのです」
その返答にイクレイオスが、あまり納得出来ない表情をする。
「しかし、ここはサンライズではないんだぞ? 仮にもお前は私の婚約者だ。そのお前が、このコーリングスター滞在中にいくら許しを得ているとはいえ、自国の王太子を略称で呼ぶ行為は、あまり外聞が良くないと思うのだが?」
今まで全く気にした事がなかったが、言われてみれば確かに……と思い、エリアテールは少し考え込む。
「それではコーリングスター滞在中は、アレクシス様とお呼びした方がよろしいですかね?」
そのエリアテールの言葉に、ずっと向かい側のソファーで書類に目を通していたアレクシスが、わざと音を立ててテーブルの上に書類を置いた。
「今更、そんな呼ばれ方するのは、あまりにも他人行儀過ぎて僕は嫌だな~」
そうニコニコしながら、やんわりと拒否するアレクシス。
そのアレクシスの言葉にイクレイオスが片眉を上げる。
「お前の好き嫌いなど関係ないだろ? そもそもこれはこの国の王太子の婚約者として、エリアの振舞いが誤解されやすいという部分が問題点なのだが?」
「でもこの7年間、そんな誤解を受ける者は城内にはいなかっただろ? エリアだって滞在場所によって僕の呼び方を変えるのは、面倒だと思うし……そもそもこの呼び方は、かなり定着してしまっているからね」
「だがそれは幼少期の頃の癖であって、この年齢でも略称呼びのままでは……」
そこでアレクシスは、更に濃い笑みを浮かべながらイクレイオスの言葉を遮る様に口を開く。
「僕はその方がいいな~。でもイクスは嫌なのかい? もしかして嫉妬?」
そんなアレクシスの態度にイクレイオスが、ため息をつく。
「分かった。お前がそれでいいと言うのなら、私はもう何も言わない」
「うん。僕は今まで通り、エリアからは略称呼びがいいな!」
そして再び書類を手に取り、内容の確認を始める。
「エリアもさっきの下らない言いがかりは気にしないで、僕の事は今まで通り『アレク』って呼んでいいからね?」
「は……い」
そんな二人の微妙な空気にエリアテールがやや戸惑っていると、急に部屋の扉がノックされた。
エリーナが扉を開けると、イシリアーナ付きの侍女が入室して来る。
「ご歓談中のところ、大変失礼致します。実は本日、イシリアーナ様のお手元に珍しいお菓子の贈り物がございまして……。是非エリアテール様とご一緒にお召し上がりになりたいとの事で、お呼びしにまいったのですが……」
「珍しいお菓子!?」
甘いものに目がないエリアテールの瞳がキラキラ輝きだす。
しかし、今は自国の王太子でもあるアレクシスの接待も一応兼ねている状態だ。
それを思い出して、すぐに断るモーションに入ろうとする。
「エリア、僕の事はいいから行っておいで?」
「ですが……」
「この後、僕はこの案件をイクスと煮詰めなきゃならないし、君がここにいても多分面白くないよ? それよりも折角イシリアーナ様がお招きくださっているのだから、そちらを優先させないと!」
そう言って、手に持っていた書類の束をバサバサと振るアレクシス。
そんなアレクシスの返答にエリアテールは、無意識で懇願する様な目をイクレイオスに向けた。
「行って構わない。でないと後で母がうるさい……」
そのイクレイオスの言葉にエリアテールの顔が、ぱぁ~っと明るくなる。
「ありがとうございます! では……お言葉に甘えて!」
丁寧な礼をしつつも、エリアテールはエリーナと一緒にイシリアーナ付きの侍女に案内され、いそいそと部屋を出て行ってしまった。
その為、部屋の中はイクレイオスとアレクシスのみとなる。
そんな静まり返った部屋で、アレクシスがおもむろに口を開いた。
「イクスさぁ、いくら自分が略称で呼ばれないのが面白くないからと言って、僕を引き合いに出すの……やめて貰えないかな?」
「別にそんなつもりで言った訳じゃない。常識的に考えて体裁が……」
「はいはい。そうだよねー。自分の事は略称で呼んでくれないのに、婚約者でもない男が略称で呼ばれてたら、そりゃー面白くないよねー」
「お前……さっきからワザと勘にさわる言い回しをしているだろ?」
するとアレクシスは、手にしていた書類をバサっと膝の上に置く。
「当たり前だろ? 君のその下らない嫉妬心で、僕が長年築き上げてきたエリアとの親近感が、後退されかけたんだよ!?」
「だから! 嫉妬などしていないと……」
「正直、さっきの君の言動は、サンライズ王家に対しての公務妨害行為だ!」
「……そこまで大袈裟な事か?」
その言葉にアレクシスが、呆れた様にため息をつく。
「大体……そんなに略称で呼ばれたいのなら、素直にエリアに頼めばいいだろ?」
「だからそんなつもりは……」
「もしまた同じ様に僕をダシに使って、エリアを誘導的に自分の思い通りに行動させようとしたら……本気で巫女保護法適用するからね!」
「そのすぐに巫女保護法を切り札に出すのは、やめろっ!」
そんな経緯もあり、その後もアレクシスの事を略称呼びしていたエリアテール。
しかし、それから4年後……。
「アレク、すまない。また待たせたな」
「構わないよ? だって今、婚礼準備とかも少しずつ入ってきてるから、忙しいんだよね?」
「まぁな」
そう言ってイクレイオスは、エリアテールの座っているソファーの隣に座る。
「イクス様、お仕事お疲れ様でございます」
「ああ」
その呼び方の変化にアレクシスが反応する。
「あれ? エリア、やっとイクスの事、略称呼びするようになったんだ?」
「やっと……?」
「アレク!」
「ああ、ごめん……。こっちの話だから、エリアは気にしないで?」
そう言って紅茶を手に取り、口に付けるアレクシスだったが……よく見ると小刻みに震えてる。
そんなアレクシスの様子を不思議そうに見るエリアテール。
逆にイクレイオスの方は、かなり不機嫌そうな顔をしている。
そして、そんなイクレイオスにアレクシスが一言告げる。
「イクス、良かったね!」
「うるさいっ!」
4年もの歳月を掛けた友人を労ったつもりのアレクシスだったが……何故か物凄い勢いで、一喝されてしまった。
婚約披露宴から二か月後くらいのお話です。
本編4話の『天候の国の王太子』にチラッと出てきた『愛称呼び』についてのエピソード的な話です。
前半の回想シーンはエリアテール13歳、イクレイオス15歳、アレクシス14歳になります。
―――――――――――――――――――――
「エリア、お前は昔からアレクの事を略称で呼んでいるが……それは自国の王太子に対しての不敬行為にはならないのか?」
「え……?」
まだ子供っぽさの残る13歳のエリアテールは、今まで一度も疑問を抱かなかった事をイクレイオスに指摘され、キョトンとする。
「その……わたくしの場合、物心が付いた頃からアレク様と呼ばせて頂いておりましたので……」
「しかし、アレクには婚約者がいるのだろう? そのご令嬢は、あまりいい顔をしないのではないか?」
「そう……ですね……。ですが、そうなるとサンライズの巫女全員が、それに該当してしまうので……」
それを聞いたイクレイオスが、少し驚くように片眉を上げた。
「巫女全員?」
「はい。サインライズ王家の方々は、わたくし達巫女の事をとても大切に扱ってくださいます。そして何かあった場合、すぐに相談等がしやすい雰囲気作りの一環として、親しみやすい略称呼びをお許しくださってるのです」
その返答にイクレイオスが、あまり納得出来ない表情をする。
「しかし、ここはサンライズではないんだぞ? 仮にもお前は私の婚約者だ。そのお前が、このコーリングスター滞在中にいくら許しを得ているとはいえ、自国の王太子を略称で呼ぶ行為は、あまり外聞が良くないと思うのだが?」
今まで全く気にした事がなかったが、言われてみれば確かに……と思い、エリアテールは少し考え込む。
「それではコーリングスター滞在中は、アレクシス様とお呼びした方がよろしいですかね?」
そのエリアテールの言葉に、ずっと向かい側のソファーで書類に目を通していたアレクシスが、わざと音を立ててテーブルの上に書類を置いた。
「今更、そんな呼ばれ方するのは、あまりにも他人行儀過ぎて僕は嫌だな~」
そうニコニコしながら、やんわりと拒否するアレクシス。
そのアレクシスの言葉にイクレイオスが片眉を上げる。
「お前の好き嫌いなど関係ないだろ? そもそもこれはこの国の王太子の婚約者として、エリアの振舞いが誤解されやすいという部分が問題点なのだが?」
「でもこの7年間、そんな誤解を受ける者は城内にはいなかっただろ? エリアだって滞在場所によって僕の呼び方を変えるのは、面倒だと思うし……そもそもこの呼び方は、かなり定着してしまっているからね」
「だがそれは幼少期の頃の癖であって、この年齢でも略称呼びのままでは……」
そこでアレクシスは、更に濃い笑みを浮かべながらイクレイオスの言葉を遮る様に口を開く。
「僕はその方がいいな~。でもイクスは嫌なのかい? もしかして嫉妬?」
そんなアレクシスの態度にイクレイオスが、ため息をつく。
「分かった。お前がそれでいいと言うのなら、私はもう何も言わない」
「うん。僕は今まで通り、エリアからは略称呼びがいいな!」
そして再び書類を手に取り、内容の確認を始める。
「エリアもさっきの下らない言いがかりは気にしないで、僕の事は今まで通り『アレク』って呼んでいいからね?」
「は……い」
そんな二人の微妙な空気にエリアテールがやや戸惑っていると、急に部屋の扉がノックされた。
エリーナが扉を開けると、イシリアーナ付きの侍女が入室して来る。
「ご歓談中のところ、大変失礼致します。実は本日、イシリアーナ様のお手元に珍しいお菓子の贈り物がございまして……。是非エリアテール様とご一緒にお召し上がりになりたいとの事で、お呼びしにまいったのですが……」
「珍しいお菓子!?」
甘いものに目がないエリアテールの瞳がキラキラ輝きだす。
しかし、今は自国の王太子でもあるアレクシスの接待も一応兼ねている状態だ。
それを思い出して、すぐに断るモーションに入ろうとする。
「エリア、僕の事はいいから行っておいで?」
「ですが……」
「この後、僕はこの案件をイクスと煮詰めなきゃならないし、君がここにいても多分面白くないよ? それよりも折角イシリアーナ様がお招きくださっているのだから、そちらを優先させないと!」
そう言って、手に持っていた書類の束をバサバサと振るアレクシス。
そんなアレクシスの返答にエリアテールは、無意識で懇願する様な目をイクレイオスに向けた。
「行って構わない。でないと後で母がうるさい……」
そのイクレイオスの言葉にエリアテールの顔が、ぱぁ~っと明るくなる。
「ありがとうございます! では……お言葉に甘えて!」
丁寧な礼をしつつも、エリアテールはエリーナと一緒にイシリアーナ付きの侍女に案内され、いそいそと部屋を出て行ってしまった。
その為、部屋の中はイクレイオスとアレクシスのみとなる。
そんな静まり返った部屋で、アレクシスがおもむろに口を開いた。
「イクスさぁ、いくら自分が略称で呼ばれないのが面白くないからと言って、僕を引き合いに出すの……やめて貰えないかな?」
「別にそんなつもりで言った訳じゃない。常識的に考えて体裁が……」
「はいはい。そうだよねー。自分の事は略称で呼んでくれないのに、婚約者でもない男が略称で呼ばれてたら、そりゃー面白くないよねー」
「お前……さっきからワザと勘にさわる言い回しをしているだろ?」
するとアレクシスは、手にしていた書類をバサっと膝の上に置く。
「当たり前だろ? 君のその下らない嫉妬心で、僕が長年築き上げてきたエリアとの親近感が、後退されかけたんだよ!?」
「だから! 嫉妬などしていないと……」
「正直、さっきの君の言動は、サンライズ王家に対しての公務妨害行為だ!」
「……そこまで大袈裟な事か?」
その言葉にアレクシスが、呆れた様にため息をつく。
「大体……そんなに略称で呼ばれたいのなら、素直にエリアに頼めばいいだろ?」
「だからそんなつもりは……」
「もしまた同じ様に僕をダシに使って、エリアを誘導的に自分の思い通りに行動させようとしたら……本気で巫女保護法適用するからね!」
「そのすぐに巫女保護法を切り札に出すのは、やめろっ!」
そんな経緯もあり、その後もアレクシスの事を略称呼びしていたエリアテール。
しかし、それから4年後……。
「アレク、すまない。また待たせたな」
「構わないよ? だって今、婚礼準備とかも少しずつ入ってきてるから、忙しいんだよね?」
「まぁな」
そう言ってイクレイオスは、エリアテールの座っているソファーの隣に座る。
「イクス様、お仕事お疲れ様でございます」
「ああ」
その呼び方の変化にアレクシスが反応する。
「あれ? エリア、やっとイクスの事、略称呼びするようになったんだ?」
「やっと……?」
「アレク!」
「ああ、ごめん……。こっちの話だから、エリアは気にしないで?」
そう言って紅茶を手に取り、口に付けるアレクシスだったが……よく見ると小刻みに震えてる。
そんなアレクシスの様子を不思議そうに見るエリアテール。
逆にイクレイオスの方は、かなり不機嫌そうな顔をしている。
そして、そんなイクレイオスにアレクシスが一言告げる。
「イクス、良かったね!」
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4年もの歳月を掛けた友人を労ったつもりのアレクシスだったが……何故か物凄い勢いで、一喝されてしまった。
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