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【番外編】
しるし
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――――――――◆◇◆――――――――――
※ややR15展開気味で甘いのが苦手な方は、ご注意ください。
本編終了後から一カ月半後くらいの二人のお話です。
―――――――――――――――――――――
最近のアレクシスは、少々困った事態によく陥っている。
それは今目の前にいる婚約者に対してだ。
どうも最近、彼女に対しての自分の気持ちの入り方がおかしい……。
そんな彼女の腰よりも長いウェーブ掛かった髪を手に取ると、夜の雪景色の様な淡い幻想的な水色をしている事がよく分かる。それを贅沢に自分の指に絡めたアレクシスは、艶やかな光沢とまるで絹糸の様な柔らかさを感じさせる美しい髪の感触を堪能し始めた。
だが、しばらくすると、アレクシスはその素晴らしく手触りの良い髪を指に絡ませるだけでは満足出来なくなり、今度は唇でもその柔らかい感触を味わおうと、指に絡めとっていた髪に口付けを落し出す。
するとその状況に気付いた婚約者のアイリスが、手に取っていたティーカップを慌ててテーブルの上に戻すと、自分の毛先に唇を這わせているアレクシスに抗議の意味も込めて鋭い視線で睨みつける。
「ちょっと! 何を勝手に人の髪に……」
不満を訴えながらアイリスは髪を後ろに払う仕草をし、アレクシスの指に絡めとられている自身の髪をするりと解く様に取り戻そうとした。だが、髪を後ろに払う為に上げられた白い右腕が、目ざといアレクシスの興味を引いてしまい、そのまま掴まれてしまう。
「何するのよ!! アレク、放して!!」
凛とした声で言い放ち、掴まれている自身の手を解放させようと暴れ出したアイリスは、もう片方の手でアレクシスの腕を引き離そうとした。しかしそれは、アレクシスの思うツボで、そのままあっさりと両手首を拘束されてしまう……。
その状況に危機感を抱いたアイリスは、思わずアレクシスに焦るような表情を向けてしまう。それを堪能するようにアレクシスが、ゆっくりと口の端を上げて微笑んだ。
「アイリス、ごめんね……? ほんの少しだけ……堪能させて?」
甘く優しい笑みを浮かべ始めたアレクシスの様子から、更に危機感を募らせたアイリスが、思わず体を強張らせる。
だがすぐに我に返り、囚われてしまった自身の両腕を何とか解放させようと必至でもがき始めた。
だが、そんなアイリスの抵抗も虚しく、アレクシスは全くアイリスを解放してくれない。
切っ掛けは毎回、ほんの些細な事からなのだ……。
先程、少し……ほんの少しだけ、ティーカップを手に取ろうとしたアイリスがテーブルに手を伸ばした瞬間、彼女の髪が肩からサラリと前方にこぼれ落ちた……ただ、それだけだ。
しかし次の瞬間、アレクシスはその流れる様にこぼれ落ちた夜の雪景色の髪に無性に触れたくなり、触れたら触れたらで今度は指に絡み取りたくなり……。気が付けば、いつも最後にはアイリスの両腕を拘束している自分がいる。
そしてこの後に行われる行為は、ここ最近はいつも同じパターンだ。それを十分理解しているアイリスは、必死でこの拘束から逃れようとした。
「何が『ほんの少し』よ! 少しだった事なんて一度もないじゃない!」
「そうだね……。本当にごめんね?」
謝れば済むと思っているのか、悪気を全く感じていない様子のアレクシスは、この後も一切アイリスを解放する気はないらしい。それどころかアイリスを自分の方に引き寄せ、両腕で閉じ込めるように背中と腰に腕を回して、アイリスの体全体を包み込むように拘束してしまう……。
だが、アイリスは体の不自由さと引き換に解放された両手で、服の上からでも分かるアレクシスの硬い胸板に両手で突っぱねながら、自身の体からアレクシスを引き離そうとした。
しかし細腕のアイリスの力では、剣術の鍛錬で鍛え上げているアレクシスには到底敵う訳もなく……毎回そのまま満足行くまで深く抱きしめられてしまうのだ……。
もうその後は、アレクシスの独壇場と化す。
アイリスを深く抱き寄せたアレクシスは、そのままゆっくりとアイリスの顔に自身の顔を近づけ、儀式のように順番に口付けを落してくるのだ……。
初めは頬で……次は首筋。
そこからうなじへ行き、今度は瞼へと戻ってくる。そして最後は必ず唇を奪う為にアレクシスが小さく息を吸う。
その呼吸音を聞く度にアイリスの体は、毎回強張ってしまう……。そこから先は、アイリスの意志とは関係なく、全く抵抗出来ない状態にされるからだ。
アレクシスの口付けは毎回一回では済まされない。何度も何度も、ゆっくり繰り返される……。
その繰り返される甘い行為は、無意識にアイリスにアレクシスの事を受け入れたいという気持ちを与えてくるので、アイリスはそうなってしまう自分が悔しくてたまらなかった。
そしてそれはアレクシスの方でも似たような事が起きている。初めは、ほんの少し触れたいと思っただけ……。しかし気付けば、毎回それ以上の行為をアイリスに求めてしまう。
以前は触れられるだけで十分満足出来ていた自分が、今ではそれだけでは物足りないと感じてしまう事が多い。あの建国記念日で、アイリスが自分を受け入れてくれると知ってから、アレクシスの理性のタガは外れやすくなってしまったらしい……。
そんなタガが外れやすくなってしまった自分を腹立たしいと思う事がある。
しかし目の前で甘い反応を見せるアイリスを実感してしまうと、その戒めの気持ちは毎回遥か彼方へ飛んで行ってしまう。その飛んで行ってしまった気持ちは、目の前のアイリスが息苦しそうになるまで、なかなか戻っては来ない……。
しばらくアイリスを堪能するも、その自分本意な行動を悔いる気持ちが戻ってくるのだが、そこでやっとアレクシスは我に返る。
そして罪悪感から、苦しそうな状態のアイリスを少しだけ解放してあげようと、両手でアイリスの顔を包み込んだまま唇を離す。
「アイリス……」
そう小さく名前を呼ぶと、いつものアイリスであれば、涙目になりつつもここでキッと睨みつけて文句を言って自分を止めてくれる。それを知っているからこそ、アレクシスはわざとアイリスの名前を呼んだ。
しかし……今回は何故かいつもと違っていた。
名前を呼ばれたアイリスが、凄い勢いでアレクシスの首に腕を回して来たのだ。そのアイリスの大胆な行動にアレクシスが一瞬、目を見開いて驚く。
そしてアイリスは、そのまま噛みつく様にアレクシスの唇を奪いに……は来なかった。
「イッタ!! イタタタ……っ!! アイリス!! 痛いっ! ちょ……っ待って! 鼻っ! 鼻に噛みつくのはやめてくれ!!」
アイリスは油断していたアレクシスの鼻の頭に思いっきり噛みついたのだ……。
「痛っ……。うわっ! 何か歯形がついている感触がする! アイリス……君さ、いくら婚約者でもこれは王太子に対しての不敬になると思うのだけれど……」
「放してって言ってるのに放さないあなたが悪いのでしょ!? 自業自得よ!!」
そういってアイリスは、アレクシスから距離を取り、座っているソファーの一番端まで避難してしまった。
「確かにタガが外れてしまった僕に非はあるけれども……鼻はやめてくれ! 明日エリア達の婚礼の儀の最終打ち合わせにコーリングスターへ行かなくてはならないのに……。これじゃイクスに何を言われるか分からないよ……」
するとアイリスが綺麗過ぎる程の意地の悪い笑みを満足げに浮かべた。
「あら。それはちょうど良かったわ! どうやらイクレイオス殿下は、毎回あなたのその腹立たしいまでの絡み方で、ご苦労なさってるみたいだから。明日は、みっちり仕返しされればいいと思うわ!」
アレクシスに対して勝ち誇るように言い放ったアイリスは、ツンっとそっぽを向く。
対してアレクシスは、自分の鼻の頭を労うように優しく摩っていた。
「あーあ……。これ、明日までに消えるかなぁ……」
「折角つけたのに消えてしまっては困るわ! もう一度深く噛みついておいた方がいいかしら……」
「いい訳ないだろっ!! 全く……。せめて見えない所に噛みついてよ……」
「それでは嫌がらせにならないじゃない」
「そもそも嫌がらせをしないでくれ……」
そんなアレクシスの心配は、見事に的中する。
翌日、コーリングスターを訪れたアレクシスは、来月に風巫女エリアテールとの挙式を控えている王太子のイクレイオスと再会したのだが……。
「やぁ、イクス。久しぶりだね」
「ああ。本当に久方ぶ……り……って、アレク。お前、その鼻のアザは一体どうした?」
昨日、アイリスに思いっきり噛みつかれたアレクシスの鼻は、噛み跡こそ残らなかったものの歯型の様な赤黒いアザをうっすら浮かび上がらせていたのだ。どうやらアイリスは、相当景気よく噛みついてくれたらしい……。
そんなアザが浮かび上がってしまった経緯の説明をイクレイオスが、怪訝そうな顔をしながら待っている。
「えっと、これは……愛のしるし?」
そのアレクシスの返答にイクレイオスは呆れながら、盛大に息を吐く。
「お前のような面倒で鬱陶しい婚約者を持ってしまったアイリス嬢には、もう深い同情の念しかない……」
「うわー、酷いなぁ。仮にも親友に向かって……」
「ついでにそんな男を親友に持ってしまった自分自身にも同情の念を抱かずにはいられない!」
「イクス、そんな事を言ってもいいのかい? 来月、君が無事にエリアと挙式出来るのは、6割方は僕のお陰だよ?」
「そうだなー。その前に散々面白がって、妨害行為をしてくれたがなー」
そう言って毎度お馴染みの軽口を叩き合う二人。
その後、所用で遅れてきたエリアテールも会話に合流するが、その際にも鼻の頭のアザの経緯を心配されながら尋ねられてしまう。
そしてその時も同じ様に答えて誤魔化したアレクシス。
しかしその鼻のアザは愛のしるしと言うには、あまりも痛々しい見た目で……。
アザが完全に消えるまでの二週間は、流石のアレクシスもアイリスに対する過度な愛情表現を渋々自粛したという……。
※ややR15展開気味で甘いのが苦手な方は、ご注意ください。
本編終了後から一カ月半後くらいの二人のお話です。
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最近のアレクシスは、少々困った事態によく陥っている。
それは今目の前にいる婚約者に対してだ。
どうも最近、彼女に対しての自分の気持ちの入り方がおかしい……。
そんな彼女の腰よりも長いウェーブ掛かった髪を手に取ると、夜の雪景色の様な淡い幻想的な水色をしている事がよく分かる。それを贅沢に自分の指に絡めたアレクシスは、艶やかな光沢とまるで絹糸の様な柔らかさを感じさせる美しい髪の感触を堪能し始めた。
だが、しばらくすると、アレクシスはその素晴らしく手触りの良い髪を指に絡ませるだけでは満足出来なくなり、今度は唇でもその柔らかい感触を味わおうと、指に絡めとっていた髪に口付けを落し出す。
するとその状況に気付いた婚約者のアイリスが、手に取っていたティーカップを慌ててテーブルの上に戻すと、自分の毛先に唇を這わせているアレクシスに抗議の意味も込めて鋭い視線で睨みつける。
「ちょっと! 何を勝手に人の髪に……」
不満を訴えながらアイリスは髪を後ろに払う仕草をし、アレクシスの指に絡めとられている自身の髪をするりと解く様に取り戻そうとした。だが、髪を後ろに払う為に上げられた白い右腕が、目ざといアレクシスの興味を引いてしまい、そのまま掴まれてしまう。
「何するのよ!! アレク、放して!!」
凛とした声で言い放ち、掴まれている自身の手を解放させようと暴れ出したアイリスは、もう片方の手でアレクシスの腕を引き離そうとした。しかしそれは、アレクシスの思うツボで、そのままあっさりと両手首を拘束されてしまう……。
その状況に危機感を抱いたアイリスは、思わずアレクシスに焦るような表情を向けてしまう。それを堪能するようにアレクシスが、ゆっくりと口の端を上げて微笑んだ。
「アイリス、ごめんね……? ほんの少しだけ……堪能させて?」
甘く優しい笑みを浮かべ始めたアレクシスの様子から、更に危機感を募らせたアイリスが、思わず体を強張らせる。
だがすぐに我に返り、囚われてしまった自身の両腕を何とか解放させようと必至でもがき始めた。
だが、そんなアイリスの抵抗も虚しく、アレクシスは全くアイリスを解放してくれない。
切っ掛けは毎回、ほんの些細な事からなのだ……。
先程、少し……ほんの少しだけ、ティーカップを手に取ろうとしたアイリスがテーブルに手を伸ばした瞬間、彼女の髪が肩からサラリと前方にこぼれ落ちた……ただ、それだけだ。
しかし次の瞬間、アレクシスはその流れる様にこぼれ落ちた夜の雪景色の髪に無性に触れたくなり、触れたら触れたらで今度は指に絡み取りたくなり……。気が付けば、いつも最後にはアイリスの両腕を拘束している自分がいる。
そしてこの後に行われる行為は、ここ最近はいつも同じパターンだ。それを十分理解しているアイリスは、必死でこの拘束から逃れようとした。
「何が『ほんの少し』よ! 少しだった事なんて一度もないじゃない!」
「そうだね……。本当にごめんね?」
謝れば済むと思っているのか、悪気を全く感じていない様子のアレクシスは、この後も一切アイリスを解放する気はないらしい。それどころかアイリスを自分の方に引き寄せ、両腕で閉じ込めるように背中と腰に腕を回して、アイリスの体全体を包み込むように拘束してしまう……。
だが、アイリスは体の不自由さと引き換に解放された両手で、服の上からでも分かるアレクシスの硬い胸板に両手で突っぱねながら、自身の体からアレクシスを引き離そうとした。
しかし細腕のアイリスの力では、剣術の鍛錬で鍛え上げているアレクシスには到底敵う訳もなく……毎回そのまま満足行くまで深く抱きしめられてしまうのだ……。
もうその後は、アレクシスの独壇場と化す。
アイリスを深く抱き寄せたアレクシスは、そのままゆっくりとアイリスの顔に自身の顔を近づけ、儀式のように順番に口付けを落してくるのだ……。
初めは頬で……次は首筋。
そこからうなじへ行き、今度は瞼へと戻ってくる。そして最後は必ず唇を奪う為にアレクシスが小さく息を吸う。
その呼吸音を聞く度にアイリスの体は、毎回強張ってしまう……。そこから先は、アイリスの意志とは関係なく、全く抵抗出来ない状態にされるからだ。
アレクシスの口付けは毎回一回では済まされない。何度も何度も、ゆっくり繰り返される……。
その繰り返される甘い行為は、無意識にアイリスにアレクシスの事を受け入れたいという気持ちを与えてくるので、アイリスはそうなってしまう自分が悔しくてたまらなかった。
そしてそれはアレクシスの方でも似たような事が起きている。初めは、ほんの少し触れたいと思っただけ……。しかし気付けば、毎回それ以上の行為をアイリスに求めてしまう。
以前は触れられるだけで十分満足出来ていた自分が、今ではそれだけでは物足りないと感じてしまう事が多い。あの建国記念日で、アイリスが自分を受け入れてくれると知ってから、アレクシスの理性のタガは外れやすくなってしまったらしい……。
そんなタガが外れやすくなってしまった自分を腹立たしいと思う事がある。
しかし目の前で甘い反応を見せるアイリスを実感してしまうと、その戒めの気持ちは毎回遥か彼方へ飛んで行ってしまう。その飛んで行ってしまった気持ちは、目の前のアイリスが息苦しそうになるまで、なかなか戻っては来ない……。
しばらくアイリスを堪能するも、その自分本意な行動を悔いる気持ちが戻ってくるのだが、そこでやっとアレクシスは我に返る。
そして罪悪感から、苦しそうな状態のアイリスを少しだけ解放してあげようと、両手でアイリスの顔を包み込んだまま唇を離す。
「アイリス……」
そう小さく名前を呼ぶと、いつものアイリスであれば、涙目になりつつもここでキッと睨みつけて文句を言って自分を止めてくれる。それを知っているからこそ、アレクシスはわざとアイリスの名前を呼んだ。
しかし……今回は何故かいつもと違っていた。
名前を呼ばれたアイリスが、凄い勢いでアレクシスの首に腕を回して来たのだ。そのアイリスの大胆な行動にアレクシスが一瞬、目を見開いて驚く。
そしてアイリスは、そのまま噛みつく様にアレクシスの唇を奪いに……は来なかった。
「イッタ!! イタタタ……っ!! アイリス!! 痛いっ! ちょ……っ待って! 鼻っ! 鼻に噛みつくのはやめてくれ!!」
アイリスは油断していたアレクシスの鼻の頭に思いっきり噛みついたのだ……。
「痛っ……。うわっ! 何か歯形がついている感触がする! アイリス……君さ、いくら婚約者でもこれは王太子に対しての不敬になると思うのだけれど……」
「放してって言ってるのに放さないあなたが悪いのでしょ!? 自業自得よ!!」
そういってアイリスは、アレクシスから距離を取り、座っているソファーの一番端まで避難してしまった。
「確かにタガが外れてしまった僕に非はあるけれども……鼻はやめてくれ! 明日エリア達の婚礼の儀の最終打ち合わせにコーリングスターへ行かなくてはならないのに……。これじゃイクスに何を言われるか分からないよ……」
するとアイリスが綺麗過ぎる程の意地の悪い笑みを満足げに浮かべた。
「あら。それはちょうど良かったわ! どうやらイクレイオス殿下は、毎回あなたのその腹立たしいまでの絡み方で、ご苦労なさってるみたいだから。明日は、みっちり仕返しされればいいと思うわ!」
アレクシスに対して勝ち誇るように言い放ったアイリスは、ツンっとそっぽを向く。
対してアレクシスは、自分の鼻の頭を労うように優しく摩っていた。
「あーあ……。これ、明日までに消えるかなぁ……」
「折角つけたのに消えてしまっては困るわ! もう一度深く噛みついておいた方がいいかしら……」
「いい訳ないだろっ!! 全く……。せめて見えない所に噛みついてよ……」
「それでは嫌がらせにならないじゃない」
「そもそも嫌がらせをしないでくれ……」
そんなアレクシスの心配は、見事に的中する。
翌日、コーリングスターを訪れたアレクシスは、来月に風巫女エリアテールとの挙式を控えている王太子のイクレイオスと再会したのだが……。
「やぁ、イクス。久しぶりだね」
「ああ。本当に久方ぶ……り……って、アレク。お前、その鼻のアザは一体どうした?」
昨日、アイリスに思いっきり噛みつかれたアレクシスの鼻は、噛み跡こそ残らなかったものの歯型の様な赤黒いアザをうっすら浮かび上がらせていたのだ。どうやらアイリスは、相当景気よく噛みついてくれたらしい……。
そんなアザが浮かび上がってしまった経緯の説明をイクレイオスが、怪訝そうな顔をしながら待っている。
「えっと、これは……愛のしるし?」
そのアレクシスの返答にイクレイオスは呆れながら、盛大に息を吐く。
「お前のような面倒で鬱陶しい婚約者を持ってしまったアイリス嬢には、もう深い同情の念しかない……」
「うわー、酷いなぁ。仮にも親友に向かって……」
「ついでにそんな男を親友に持ってしまった自分自身にも同情の念を抱かずにはいられない!」
「イクス、そんな事を言ってもいいのかい? 来月、君が無事にエリアと挙式出来るのは、6割方は僕のお陰だよ?」
「そうだなー。その前に散々面白がって、妨害行為をしてくれたがなー」
そう言って毎度お馴染みの軽口を叩き合う二人。
その後、所用で遅れてきたエリアテールも会話に合流するが、その際にも鼻の頭のアザの経緯を心配されながら尋ねられてしまう。
そしてその時も同じ様に答えて誤魔化したアレクシス。
しかしその鼻のアザは愛のしるしと言うには、あまりも痛々しい見た目で……。
アザが完全に消えるまでの二週間は、流石のアレクシスもアイリスに対する過度な愛情表現を渋々自粛したという……。
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