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2.母の説教
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翌日、アイリスが朝食を取っていると、母マグノリアが引きつった笑顔でアイリスに話しかけて来た。
「アイリス~? 昨日、アレクシス殿下からお手紙を頂いたのだけれど……。あなた二日前に殿下が、わざわざ我が家にお越しくださったのに仮病を使った上にお会いしないで、追い返したって……本当?」
「まぁ! お母様、仮病を使ってだなんで人聞きの悪い! その時、たまたまわたくしは、胸が苦しくなって気分が優れなかっただけですわ!」
そう大袈裟にあえて芝居がかった様に返答するアイリス。
「嘘おっしゃい! もうマーガレットから裏は取れているのよ!? アレクシス様を追い返した後、あなたケーキとクッキーをバカバカ食べていたって言うじゃない! それのどこが胸が苦しい状態なの!」
そう言われ、隣で一緒に朝食を取っている五つ下の妹を睨みつけるアイリス。
どうやらアレクシスにもその情報を漏洩させたのは、この妹の様だ……。
「お姉様がいけないのよ!? あの時、私の分のクッキーまでバクバク食べたんだから! イライラすると暴食に走るの本当、良くないと思う!」
「マルグが残してたから、いらないのかと思って食べてあげただけじゃない!」
「違うもん! 最後に味わって食べようと思って、取っておいただけだもん!」
「そんな事してるから私に食べられちゃうのよ! 世の中、早い者勝ちよ! そもそもその貧乏性な食べ方はやめなさいって、いつも言ってるでしょ!?」
「貧乏性じゃないもん! お姉様みたいに味わいもせずに食べる方が無作法よ!」
「二人とも! いい加減にしなさいっ!!」
母に一喝され、ピタリと言い争いを止める次女と四女。
「アイリス……。あなた、いい加減にしなさいよ? もう16でしょ? 昔の事を根に持って、いつまでアレクシス様を困らせるつもり?」
「別に困らせてる訳ではないわ。ただアレクとは、話したくないだけよ」
「『アレク様』でしょ!? 全く、あなたは……」
「いいじゃない。本人から、そう呼んでいいと許可を頂いているのだから」
「だからって、略称の上に敬称も付けないなんて……」
「お姉様、巫女仲間の間でも評判良くないのよ? 皆が大好きなアレク様に嫌がらせしてるって言われてるんだから!」
「あら、言いたい人には言わせておけば? 実際に嫌がらせをしているのだし」
「アイリスっ!!」
「お姉様っ!!」
母と妹からダブル攻撃を受け始めたアイリスは、さっさと朝食を済ませ、その場を立ち去ろうとした。
「ちょっと! アイリス! まだ話は終わってないのよ!?」
「これからセラフィナ様の別邸に行かないといけないの。毎月交代で担当していたフィーネが今月からウッドフォレストに行ってしまったから、今後の雨乞いの儀の日程をご相談されたいって。なのでお母様、お話は帰ってから伺いますね?」
そう優雅に笑みを作り、ドレスの両裾をチョコンと摘まんでお辞儀をし、足早に去ろうとするアイリス。
しかし、その間際に妹の皿からソーセージを一本摘まんでいった。
「ああっ!? 私のソーセージィィィー! 最後に取っておいたのにぃー!!」
「早い者勝ちって言ったでしょ?」
「お母様ぁぁぁ~!!」
「アイリスっ!!」
ソーセージを口に放り込んだアイリスは、逃げる様に二人の前から立ち去った。
妹が抗議しに来るかもしれないので、足早に向かったエントランスに着くと、入り口前には、すでに雨乞いの儀で外出するアイリスの為に馬車が用意されていた。
「アイリス様? もうご朝食はお済なのですか?」
馬車の前で待機していたエレンが、そう声を掛ける。
「ええ。マルグの所為でゆっくり食べられなかったわ」
「マーガレット様の所為ではなく……二日前のアレクシス様へのご対応の仕方で奥様よりお叱りを受けられていたのではございませんか?」
「エレン……。まさかあなたも母に報告したの?」
「いいえ? その件は全てマーガレット様がしてくださったので私は何も」
そうしれっと答えるエレンだが……少なくともマーガレットに余計な入れ知恵をしている事だけは、確かだ……。
「まぁ、いいわ。それよりもセラフィナ様の別邸に出掛けるわ」
「かしこまりました」
エレンは馬車の扉を開けアイリスを中に促すと、そのまま扉を閉めようとする。
「エレン、あなたは一緒に乗らないの?」
「私が乗ってしまったら、アイリス様の護衛が務まりませんよ?」
「でも……この間は、一緒に乗り込んでいたでしょ?」
「いつものお買い物の時でしたら、そう致しますが……王妃様の許へ行かれる時は、万が一を備えておかなければなりませんので私は馬で参ります」
「そう……。分かったわ。では外からの護衛お願いね?」
「ええ。お任せください」
にっこりと頼もしい笑顔を向けながら馬車の扉を閉めるエレン。
しかし今のアイリスは、余計な事を考えたくなかったので、エレンも一緒にこの馬車に同乗して欲しいという気持ちが少しあった。
そんなアイリスの気持ちとは裏腹に馬車はゆっくりと走り出す。
今から向かう王妃セラフィナの別邸は、幼少期からアイリスが王妃教育で通っている場所だ。
素晴らしいピアノ演奏に定評のあるセラフィナは、音楽をこよなく愛する王妃で、音楽好きの友人女性を集めて音楽鑑賞等を楽しむ事に利用出来るようにと、その別邸を現国王が用意したそうだ。
その他にお気に入りのサンライズの巫女を招待して、お茶会等もしている。
もちろん、アイリスもその一人で王妃教育とは別に頻繁に招待を受けている。
アレクシスの母でもあるセラフィナだが……息子とは違い、感受性豊かで思いやりのある穏やかな女性だ。そんなセラフィナをアイリスは、とても慕っている。
しかし、その息子のアレクシスだけは、どうしても受け入れられない……。
どうしてあんなにも素敵で思いやりに溢れている人から、あんなどす黒い性格の息子が生まれてくるのだろうか……。
そんな事を考えていたら案の定、思い出したくもない忌々し記憶がアイリスの頭の中に蘇って来た。
「アイリス~? 昨日、アレクシス殿下からお手紙を頂いたのだけれど……。あなた二日前に殿下が、わざわざ我が家にお越しくださったのに仮病を使った上にお会いしないで、追い返したって……本当?」
「まぁ! お母様、仮病を使ってだなんで人聞きの悪い! その時、たまたまわたくしは、胸が苦しくなって気分が優れなかっただけですわ!」
そう大袈裟にあえて芝居がかった様に返答するアイリス。
「嘘おっしゃい! もうマーガレットから裏は取れているのよ!? アレクシス様を追い返した後、あなたケーキとクッキーをバカバカ食べていたって言うじゃない! それのどこが胸が苦しい状態なの!」
そう言われ、隣で一緒に朝食を取っている五つ下の妹を睨みつけるアイリス。
どうやらアレクシスにもその情報を漏洩させたのは、この妹の様だ……。
「お姉様がいけないのよ!? あの時、私の分のクッキーまでバクバク食べたんだから! イライラすると暴食に走るの本当、良くないと思う!」
「マルグが残してたから、いらないのかと思って食べてあげただけじゃない!」
「違うもん! 最後に味わって食べようと思って、取っておいただけだもん!」
「そんな事してるから私に食べられちゃうのよ! 世の中、早い者勝ちよ! そもそもその貧乏性な食べ方はやめなさいって、いつも言ってるでしょ!?」
「貧乏性じゃないもん! お姉様みたいに味わいもせずに食べる方が無作法よ!」
「二人とも! いい加減にしなさいっ!!」
母に一喝され、ピタリと言い争いを止める次女と四女。
「アイリス……。あなた、いい加減にしなさいよ? もう16でしょ? 昔の事を根に持って、いつまでアレクシス様を困らせるつもり?」
「別に困らせてる訳ではないわ。ただアレクとは、話したくないだけよ」
「『アレク様』でしょ!? 全く、あなたは……」
「いいじゃない。本人から、そう呼んでいいと許可を頂いているのだから」
「だからって、略称の上に敬称も付けないなんて……」
「お姉様、巫女仲間の間でも評判良くないのよ? 皆が大好きなアレク様に嫌がらせしてるって言われてるんだから!」
「あら、言いたい人には言わせておけば? 実際に嫌がらせをしているのだし」
「アイリスっ!!」
「お姉様っ!!」
母と妹からダブル攻撃を受け始めたアイリスは、さっさと朝食を済ませ、その場を立ち去ろうとした。
「ちょっと! アイリス! まだ話は終わってないのよ!?」
「これからセラフィナ様の別邸に行かないといけないの。毎月交代で担当していたフィーネが今月からウッドフォレストに行ってしまったから、今後の雨乞いの儀の日程をご相談されたいって。なのでお母様、お話は帰ってから伺いますね?」
そう優雅に笑みを作り、ドレスの両裾をチョコンと摘まんでお辞儀をし、足早に去ろうとするアイリス。
しかし、その間際に妹の皿からソーセージを一本摘まんでいった。
「ああっ!? 私のソーセージィィィー! 最後に取っておいたのにぃー!!」
「早い者勝ちって言ったでしょ?」
「お母様ぁぁぁ~!!」
「アイリスっ!!」
ソーセージを口に放り込んだアイリスは、逃げる様に二人の前から立ち去った。
妹が抗議しに来るかもしれないので、足早に向かったエントランスに着くと、入り口前には、すでに雨乞いの儀で外出するアイリスの為に馬車が用意されていた。
「アイリス様? もうご朝食はお済なのですか?」
馬車の前で待機していたエレンが、そう声を掛ける。
「ええ。マルグの所為でゆっくり食べられなかったわ」
「マーガレット様の所為ではなく……二日前のアレクシス様へのご対応の仕方で奥様よりお叱りを受けられていたのではございませんか?」
「エレン……。まさかあなたも母に報告したの?」
「いいえ? その件は全てマーガレット様がしてくださったので私は何も」
そうしれっと答えるエレンだが……少なくともマーガレットに余計な入れ知恵をしている事だけは、確かだ……。
「まぁ、いいわ。それよりもセラフィナ様の別邸に出掛けるわ」
「かしこまりました」
エレンは馬車の扉を開けアイリスを中に促すと、そのまま扉を閉めようとする。
「エレン、あなたは一緒に乗らないの?」
「私が乗ってしまったら、アイリス様の護衛が務まりませんよ?」
「でも……この間は、一緒に乗り込んでいたでしょ?」
「いつものお買い物の時でしたら、そう致しますが……王妃様の許へ行かれる時は、万が一を備えておかなければなりませんので私は馬で参ります」
「そう……。分かったわ。では外からの護衛お願いね?」
「ええ。お任せください」
にっこりと頼もしい笑顔を向けながら馬車の扉を閉めるエレン。
しかし今のアイリスは、余計な事を考えたくなかったので、エレンも一緒にこの馬車に同乗して欲しいという気持ちが少しあった。
そんなアイリスの気持ちとは裏腹に馬車はゆっくりと走り出す。
今から向かう王妃セラフィナの別邸は、幼少期からアイリスが王妃教育で通っている場所だ。
素晴らしいピアノ演奏に定評のあるセラフィナは、音楽をこよなく愛する王妃で、音楽好きの友人女性を集めて音楽鑑賞等を楽しむ事に利用出来るようにと、その別邸を現国王が用意したそうだ。
その他にお気に入りのサンライズの巫女を招待して、お茶会等もしている。
もちろん、アイリスもその一人で王妃教育とは別に頻繁に招待を受けている。
アレクシスの母でもあるセラフィナだが……息子とは違い、感受性豊かで思いやりのある穏やかな女性だ。そんなセラフィナをアイリスは、とても慕っている。
しかし、その息子のアレクシスだけは、どうしても受け入れられない……。
どうしてあんなにも素敵で思いやりに溢れている人から、あんなどす黒い性格の息子が生まれてくるのだろうか……。
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