【本編完結済み】二人は常に手を繋ぐ

もも野はち助

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【番外編:二人の友人達の話】

第三王子の婚約者(前編)

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――――――【★ご案内★】――――――
第三王子エクトルと婚約者ティアディーゼのお話です。(全3話)
※時間軸的には本編の『二人は無自覚なまま手を繋ぐ』のあたりになります。
―――――――――――――――――――



 第三王子エクトルは、困った笑みを浮かべながら両眉を下げた。今の彼は、それぞれ爵位の違う7人の令嬢達に囲まれている。

 14歳となったエクトルは、中等部としては初の後輩が出来る立場となったのだが……それは王族との適切な距離感が分からない生徒と遭遇する確率が上がると言う状況でもあった。
何故なら人数が多かった初等部とは違い、三学年ごとに区切られる中等部と高等部では別学年の生徒と構内で遭遇する割合が上がるからだ。自分達の学年に王族などいなかった世代の彼女らは、まるでエクトルを大人気の舞台俳優のような存在として憧れの念を抱き、群がってくる。

「殿下、よろしければ二週間後に我が家で行うガーデンパーティーにご参加されませんか?」
「まぁ! 子爵令嬢の方が殿下をお誘いするなんて、何て身の程知らずなの!? 殿下、そちらのお茶会よりも我が家が主催する夜会はいかがですか? 子爵家と違い、ご満足頂けるおもてなしを致しますわ!」
「ふふ! 伯爵家と言ってもあなたの家は子爵寄りの家柄ではなくて? その点、我が伯爵家は由緒正しき歴史ある家柄です。王族の方のおもてなしには自信がございますわ。ちょうど来週我が家でもお茶会を予定しておりますので、よろしければ是非殿下もご参加を!」

 7人が代わる代わる自身の家で主催予定のパーティーにエクトルを誘う。
 けたたましく鳴きわめく小鳥のような迫力の令嬢達の怒涛の誘いに困惑気味のエクトルは、少し離れた場所で、この学園の名物となっている二人の手繋ぎ男女に説教をしている自身の婚約者候補に目で訴えるように助けを求める。

 説教をしているのはエクトルの婚約者候補筆頭でもあるオークリーフ侯爵家の令嬢ティアディーゼだ。そして学園の名物となっている手繋ぎ男女というのは、エルトメニア伯爵家の三男リュカスとアーバント子爵家の一人娘であるロナリアである。

 すると、説教を受けていたリュカスが先にエクトルの視線に気付き、ティアディーゼに今の状況を伝えるような動きを見せる。そのリュカスのアシストでティアディーゼもエクトルの状況に気付き、子猫のような大きな瞳を更につり上げて、物凄い勢いでこちらに向かってきた。
 その近づいてくる靴音で、エクトルを囲んでいた令嬢達がピタリと口を閉じる。

「あなた方! また殿下のご帰宅の妨害をなさっているのですか!? まったく……何度お伝えすれば、ご理解頂けるのかしら! 殿下はこの後、ご公務をこなさなければならないのでお忙しいと、わたくしは何度も忠告致しましたよね!?」

 両手を腰に当てて声高らかにティアディーゼが訴える。すると、令嬢達は一斉にビクリと肩を震わせた。

「で、ですが……折角の学園生活の中で殿下も幅広い交流を楽しまれた方がよろしいかと思いまして」
「そ、そうですわ! ここ最近の殿下は、リュカス様方やティアディーゼ様といつもご一緒だったので、たまには別の貴族との交流もされた方がよろしいかと思いまして」
「わたくし達も是非、殿下との交流を深めたいと……」

 すると、ティアディーゼは目を細めながら、小さく息を吐く。

「メアリー様。先程、あなたのご婚約者様が何故か門前で仁王立ちなされていましたが?」
「い、いけない! 今日お招き頂いていたのだったわ!」
「アシュリー様、術式の先生があなたの事を探されておりましたわよ?」
「そう言えば……放課後に補習と先程言われていたような……」
「ミリー様、本日は卒業生の皆様をお見送りする会の打ち合わせがあったのでは?」
「ま、まぁ! どうしましょう!! もう打ち合わせが始まっているわ!」
「他の皆様もこの後にご予定があるのではなくて?」

 白い目を向けながらティアディーゼが、エクトルを囲んでいた令嬢達をジロリと見渡す。すると、残りの令嬢達も「マナーの先生が!」「馬車の迎えが!」「婚約者が!」と思い出したように慌てだした。ちなみにティアディーゼは、恐ろしい事に貴族クラスの中等部の生徒の名前をほぼフルネームで覚えている。もちろん、それは王族でもあるエクトルもだが……。
 そんなティアディーゼの勢いに呑まれた令嬢達は、徐々に退散の姿勢を見せ始める。

「殿下! も、申し訳ございません! わたくし、少々急ぎますのでこれで失礼致します!」
「うん、分かった。でも……特に僕から君達に声を掛けた訳ではないのだけれど」
「――っ! た、大変失礼致しました!」

 やんわりと迷惑だったと訴えてきたエクトルの言葉に令嬢達が、青い顔色をしながらスピーディーなカーテシーを披露する。そして一斉にエクトルの元から散っていった。
 その様子をエクトルが苦笑しながら眺めていると、隣にやって来たティアディーゼが呆れ気味な表情で白い目を向けてきた。

「殿下……。そろそろご自身で彼女達を追い払って頂けませんか?」
「いや、だって……。彼女達、すぐに興奮気味になって全く僕の言葉に耳を傾けてくれないんだよ? だからティアにビシっと指摘して貰った方が、早いかなぁーと思って」
「王族ともあろう方が、何をおっしゃっているのですか!! 殿下がそのように甘過ぎるご対応をなさるから、彼女達がつけ上がるのですよ!? そもそもいつもわたくしが、殿下のお側にいるとは限らないではありませんか!! お一人の時は、殿下ご自身で対処なさらないといけませんのよ!?」

 そう言ってプリプリ怒り出すティアディーゼにエクトルは、顔を覗き込むように少しだけ腰をかがめる。

「でも……この学園内にいる時は、ティアは常に僕の隣にいてくれるよね?」
「――――っ!!」

 すると、ティアディーゼが耳まで真っ赤になった状態でビシリと固まった。
 庇護欲をそそる子犬のような表情で小首を傾げるこの第三王子は、自身の婚約者の弱点をよく心得ていた。ティアディーゼは、この甘えるようなエクトルの仕草に弱い……。
 それは彼女が第三王子の婚約者候補筆頭と囁かれ始めた幼少期の頃からだ。

「だからまた僕が彼女達に囲まれて困っていたら……ティアはすぐに助けてくれるよね?」
「で、ですから! もう幼な子ではないのですから、そういう事はご自身で……」
「ティア……ダメ?」
「くっ……!!」

 畳み掛けるようなエクトルのお強請り攻撃にティアディーゼが屈し始める。

「ちゅ、中等部の期間だけですからね!? 高等部に上った際はご自身でご対応なさってくださいね!?」
「ありがとう、ティア。それまでには出来るだけ自分で対処出来るように努力はしてみるよ」

 極上の笑みを浮かべながら礼を言って来たエクトルの様子にティアディーゼが更に顔を赤らめる。
 しかしその後のエクトルは、自身に付きまとう令嬢達を追い払う事はなかった。エクトルは敢えて、この役をティアディーゼに担わせたかったからだ。

 そもそもこの部分が決め手で、エクトルはティアディーゼを自身の婚約者に選んだと言っても過言ではない。そんなエクトルは7年前、彼女に初めて興味を持った時の事を思い出し始めた。
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