14 / 41
【本編】
14.二人は甘く囁くように手を繋ぐ
しおりを挟む
翌日から学園の構内では、再び仲睦まじく手を繋ぐリュカスとロナリアの姿が目撃される様になった。
しかも以前と比べて、リュカスのロナリアに対する接し方が、かなり甘さを含むものに変わった為、多くの女子生徒達が落胆する事となる。
中には、それでも果敢に挑む女子生徒もいたが、結局はリュカスによって完膚なきまでに断られ、諦めるしかない状態に追いやられていた。
そんな甘い雰囲気を惜しげもなく振り撒きながら、リュカスは嬉々としてロナリアの手を取り、魔獣研究所へと向かっていた。
「リュカ……」
「何?」
「ちゃんと前を向いて歩かないと、危ないよ?」
「大丈夫だよ。それよりも怪我をしているロナの方が転びやすくなっているから、気を付けないとね」
「だからって、そんなに顔を覗き込まれると恥ずかしいのだけれど……」
「だって、こうしてロナと手を繋ぐのは一カ月ぶりだから、嬉しくて!」
そう言ってニコニコしながらロナリアの手を取っているリュカスだが、その手の繋ぎ方は、指を絡ませ合う『恋人繋ぎ』と言われているものだ……。
一週間前のカオスドラゴンに襲われた一件以来、リュカスの中で何かが吹っ切れたようで、最近は幼馴染という雰囲気に一切徹しなくなってしまった。
更にあの後、リュカスはかなり必死な様子でロナリアに告白もしてきた。
「ロナ、緊急事態だったとはいえ、いきなりあんな事をしてしまって、ごめんね……。でもあれは、魔力譲渡の為だけと言う訳ではないんだ。僕はずっと前から、ロナにああいう事をしたいという感情を抱いていて……。だけど、ロナが僕との友情を大切にしていた事も理解しているつもりだよ? だけど……いつかは、僕に対して友愛だけじゃなくて異性に対する恋愛感情も抱いて欲しいんだ……。それまで僕は待つから。だから、もしロナの気持ちの整理がついて、僕の気持ちに応えられそうになったら、教えて欲しい……」
そのリュカスの告白でやっとロナリアは、この二年間リュカスへの恋心が重罪な事のようにしか思えなかった苦しみから解放された。
自分はリュカスの事を一人の男性として、特別な愛情を抱いてもいい。
ずっとそういう感情を抱いてはいけないと、勝手に自分に言い聞かせていたロナリアにとって、リュカスのその告白は救いの光のようだった。
しかし……何故かその時、ロナリアはすでに抱いていたリュカスへの恋心の事を言い出せず、待つと言ってくれたリュカスの言葉に甘んじる選択をする。
折角、お互いに想い合っている事が判明したにも関わらず、だ。
では何故ロナリアは、そのような選択をしてしまったのか……。
それは魔獣の樹海から戻ってから、リュカスのロナリアに対する接し方が、かなり甘いものになってしまったからだ。
今まで涼しげな表情で無自覚に過剰なスキンシップをしていたリュカスだが、カオスドラゴンの一件以降、あからさまに溺愛する接し方を惜しげもなくしてくるようになってしまったのだ……。
救護室に駆けつけて来た際は、ずっとロナリアの手を両手で包み込み、ロナリアがタウンハウスに帰宅する際は、心配だからとついてきた挙句、結局そのまま宿泊した。
その際、常にロナリアの横にピッタリと張り付き、その二人の姿を目にした母レナリアに「何だか昔、リュカス君がロナのお陰で魔法が使えると判明した頃に戻ってしまったみたいね」と、微笑ましい眼差しを向けられた。
だが母のその解釈は、全くの的外れだ。
何故なら現在のリュカスから注がれているのは、当時の純粋な友愛ではなく、甘く熱を含んだ溺愛なのだ……。
その為、ロナリアの心臓は以前よりも更に酷使されている。
今のリュカスは手を繋ぐ際、必ず互いの指を絡めてくる。
話し掛ける時は、甘い笑みを浮かべながら下から顔を覗き込んでくる。
座る際は、以前以上にピッタリと横に付かれ、かなり距離が近くなった。
何かあるごとにすぐに髪に触れてくるし、膝枕回数も無駄に増えている気がする……。
今までもそういう接し方をされる機会はそれなりにあったが、涼しげな表情でされるのと、甘く熱を含んだ表情でされるのとでは、破壊力が全く違う。
リュカスもそういう接し方をされた際、ロナリアが硬直する事を理解しているので、過剰にスキンシップを図ろうとする際は一応、一言声を掛けてくれる。
だが……そのワンクッションがあったとしてもリュカスの甘い接し方は、いつもロナリアの心の準備が整わないまま、決行されるのだ。
何よりもそういう状態にロナリアがなる事をリュカスは気付いているはずだ。
それでも敢えて甘すぎる接し方を強行してくるのは、確実にロナリアを篭絡させる気満々という事になる……。
ロナリアの気持ちの整理がつくまで待つと言ってくれたリュカスだが、現状のリュカスの態度や行動から考えると、待つつもりは一切ないらしい……。
今のロナリアは、ジワジワと手の中に落ちてくるのを待たれている捕獲間近の獲物状態なのである。
そんなリュカスの態度から、ロナリアは抱いている恋心の存在をすぐに伝える事に躊躇した。
今でさえ、この甘すぎる接し方をしているリュカスだ。
もしこの想いの存在を告げてしまったら、恐らくもう手加減はして貰えない。
そんな貞操の危機感を抱いてしまったロナリアは、リュカスから告白を受けた際、一旦保留する事にしたのだ。
だがリュカスの方は、すでにロナリアの気持ちに気付いている様子だ……。
それを知っての上で、あの甘い接し方をしてくるのだから、もはや今の二人はどちらが先に折れるかの我慢比べとなっている。
そんな状態になっている事をロナリアは、友人令嬢達に相談してみた。
しかし、意見は真っ二つに割れる。
一方は、早く想いを告げて甘い恋人期間を楽しむべきだという意見と、もう一方は卒業まで引き延ばし、学生らしい男女交際を維持するべきだと言う意見に分かれたのだ。
そんな中で特に後者の意見を強く訴えてきたのが、ティアディーゼだ。
「リュカス・エルトメニアは、油断も隙もあったものではありません!! ロナの淑女としての品位を守る為にもその恋心は、卒業するまでは隠すべきです!」
そうティアディーゼには力説されたが……。
現状のロナリアは、早くもリュカスの甘い誘惑に屈しそうだ。
リュカスのあの容姿を最大限に活用した甘やかな攻撃は、卑怯である。
そしてその攻撃をリュカスは、故意で繰り出しているはずだ。
その証拠にどんなにロナリアが顔を赤らめても、あの熱のこもった視線で顔を覗き込んでくる行為をやめてはくれない……。
そんな常に甘くなる空気を必死で振り払おうと、ロナリアは敢えて真面目な話題をリュカスに振った。
「そういえば……今日は何で私は魔獣研究所に呼ばれたのかな?」
「なんでも……ロナの魔力が引き寄せてしまう上級魔獣には、ある共通点がある事が分かったらしいんだ」
「共通点?」
「僕もまだ詳しくは聞いていない……。でもロナには安全の為、説明した方がいいから放課後連れて来て欲しいって、上級魔獣を研究しているサイクスさんという男性に頼まれたんだ。その時、僕にも説明してくれるって」
「何だろう? 共通点って……」
「それが何にせよ、上級魔獣を引き寄せてしまう事には変わりないのだから、ロナは今後、絶対に屋外では魔法を使っちゃダメだよ!?」
「わ、分かってるよぉ……」
顔をズイっと近づけながら念を押してきたリュカスに対して、ロナリアは違う意味で焦ってしまう。リュカスの顔が間近に来ると、どうしてもカオスドラゴンに遭遇した時にされた行為の記憶が蘇ってくるのだ。
その事に気付いているのか、リュカスは以前よりも顔を近づけてくる頻度が増えた。最近では確信犯ではないかと、ロナリアは少々疑っている……。
そんなやり取りをしていたら、いつの間にか目的の場所に到着する。
「えっと……。確か三階の一番端の部屋だって……。あっ、ここだね」
そう言ってロナリアと『恋人繋ぎ』をした状態のまま、リュカスが扉をノックする。この状態で部屋に入る事に恥ずかしさを感じたロナリアだが、リュカスにそれを訴えても無言の笑顔で聞き流されてしまう事は分かり切っているので、諦めて羞恥心に耐える事にした。
「失礼します」
「やっと来たわね。いらっしゃい!」
「エ、エレインさんっ!?」
部屋に入ると何故かロナリアがよく知った人物が、笑顔で出迎えてくれた。
その事にロナリアが驚く。
エレインは、ロナリアが高等部に上がってから通っていた魔法研究所で、魔力譲渡に関する研究を行っているチームの研究員だ。リュカスに効率よく魔力を譲渡する方法がないか、色々相談にも乗ってくれた人物でもある。
だが二人を呼び出したのは、魔獣研究所の男性研究員のはずだ。
「えっと……。僕達、サイクスさんに呼ばれたのですが……」
「ここにいるぞー?」
声のした方へ目を向けると、山積みになった本の向こうからヒラヒラと手を振った男性の姿があった。
だが、ロナリアはエレインがこの場にいる事の方に驚いている。
「ここ、魔獣研究所ですよね……? それなのにどうして魔法研究所所属のエレインさんが、いるんですか?」
「サイクスに呼ばれたの。ロナちゃんに魔力性質の説明をして欲しいって」
「私に?」
すると、山積みになった本の陰から、二人を呼び出したと思われるサイクスが姿を現し、中央のテーブルに座るように促して来た。
リュカスと同じ黒髪だが、手入れをしていないのかボサボサだ……。
だが、黒髪なので魔力は強い人のようだ。
「散らかっていて悪いな。とりあえず先に俺達、魔獣研究所の調査結果から説明させて貰うな」
「はぁ……」
よく分からないまま、ロナリアがリュカスと一緒に座るように促された長椅子に腰掛けると、サイクスとエレインも向かい側の長椅子に座った。
「まずロナリア嬢の魔力が上級魔獣を引き寄せる原因なんだが……どうやらその湯水のように沸き上がる魔力体質の所為だ。君の放つ魔法は、魔力の濃度が非常に濃厚だそうだ。その為、特定の種族の魔獣にとって、君の放つ魔法はご馳走のように感じるらしい」
「ご、ご馳走!?」
「サイクスさん、それってロナ自身もその特定の魔獣からすると、ご馳走扱いされるという事ですか?」
「まぁ、屋外で彼女が魔法を放てば、そういう感じになるかな……。で、その特定の種族の魔獣ってのが、ドラゴン系の魔獣だ」
「「ドラゴン!?」」
流石にその情報はロナリアだけでなく、リュカスも驚かせた。
「で、でも! 初等部の頃に僕達を襲って来た魔獣はドラゴンではなかったはず……」
「当時の資料を確認したが、確かに一度目はドラゴンではなく、飛行するリザード系の魔獣だったみたいだな。だがコイツの祖先はドラゴン系だ。ついでに二度目に襲って来た魔獣は、いわゆるキメラってやつだな。無駄に背中に生えている小さな翼があっただろう? あれがまさに過去にドラゴンの血が混ざったという名残になる」
「じゃ、じゃあ、フェイクドラゴンも?」
「あいつも今はリザード系に分類されてはいるが、元はドラゴン系の魔獣だな……。ドラゴンは『魔力を喰らう者』と言われているのは知っているか? 古龍なんかは同属性の魔法をぶち込むと、逆に吸収されるって授業で習っただろう? それだけドラゴンってやつは、魔力との関係性が深いんだよ。だから逆にそのドラゴンの弱点属性をぶち込むと、簡単に倒せる事もある。倒した後に魔石が取れるのもドラゴン系の魔獣だ」
平民上がりなのかサイクスの言葉遣いは、ややぞんざいだ。
だが二人はライアンで慣れているので、あまり気にはならなかった。
それよりも何故、ロナリアの魔力がドラゴン系に好かれやすいのかが、よく分からない。その考えからロナリアが、思わずその疑問をポツリとこぼす。
「でも何故、私の魔力はドラゴンに好まれるんだろう……」
「その説明は、コイツの方が専門だから今回、呼んだ」
そう言ってサイクスが顎で指すように、エレインへと視線を誘導させる。
「それじゃあ、ここからの説明は私がするわね」
そう言って、今度は魔法研究所の研究員であるエレインが語りだした。
しかも以前と比べて、リュカスのロナリアに対する接し方が、かなり甘さを含むものに変わった為、多くの女子生徒達が落胆する事となる。
中には、それでも果敢に挑む女子生徒もいたが、結局はリュカスによって完膚なきまでに断られ、諦めるしかない状態に追いやられていた。
そんな甘い雰囲気を惜しげもなく振り撒きながら、リュカスは嬉々としてロナリアの手を取り、魔獣研究所へと向かっていた。
「リュカ……」
「何?」
「ちゃんと前を向いて歩かないと、危ないよ?」
「大丈夫だよ。それよりも怪我をしているロナの方が転びやすくなっているから、気を付けないとね」
「だからって、そんなに顔を覗き込まれると恥ずかしいのだけれど……」
「だって、こうしてロナと手を繋ぐのは一カ月ぶりだから、嬉しくて!」
そう言ってニコニコしながらロナリアの手を取っているリュカスだが、その手の繋ぎ方は、指を絡ませ合う『恋人繋ぎ』と言われているものだ……。
一週間前のカオスドラゴンに襲われた一件以来、リュカスの中で何かが吹っ切れたようで、最近は幼馴染という雰囲気に一切徹しなくなってしまった。
更にあの後、リュカスはかなり必死な様子でロナリアに告白もしてきた。
「ロナ、緊急事態だったとはいえ、いきなりあんな事をしてしまって、ごめんね……。でもあれは、魔力譲渡の為だけと言う訳ではないんだ。僕はずっと前から、ロナにああいう事をしたいという感情を抱いていて……。だけど、ロナが僕との友情を大切にしていた事も理解しているつもりだよ? だけど……いつかは、僕に対して友愛だけじゃなくて異性に対する恋愛感情も抱いて欲しいんだ……。それまで僕は待つから。だから、もしロナの気持ちの整理がついて、僕の気持ちに応えられそうになったら、教えて欲しい……」
そのリュカスの告白でやっとロナリアは、この二年間リュカスへの恋心が重罪な事のようにしか思えなかった苦しみから解放された。
自分はリュカスの事を一人の男性として、特別な愛情を抱いてもいい。
ずっとそういう感情を抱いてはいけないと、勝手に自分に言い聞かせていたロナリアにとって、リュカスのその告白は救いの光のようだった。
しかし……何故かその時、ロナリアはすでに抱いていたリュカスへの恋心の事を言い出せず、待つと言ってくれたリュカスの言葉に甘んじる選択をする。
折角、お互いに想い合っている事が判明したにも関わらず、だ。
では何故ロナリアは、そのような選択をしてしまったのか……。
それは魔獣の樹海から戻ってから、リュカスのロナリアに対する接し方が、かなり甘いものになってしまったからだ。
今まで涼しげな表情で無自覚に過剰なスキンシップをしていたリュカスだが、カオスドラゴンの一件以降、あからさまに溺愛する接し方を惜しげもなくしてくるようになってしまったのだ……。
救護室に駆けつけて来た際は、ずっとロナリアの手を両手で包み込み、ロナリアがタウンハウスに帰宅する際は、心配だからとついてきた挙句、結局そのまま宿泊した。
その際、常にロナリアの横にピッタリと張り付き、その二人の姿を目にした母レナリアに「何だか昔、リュカス君がロナのお陰で魔法が使えると判明した頃に戻ってしまったみたいね」と、微笑ましい眼差しを向けられた。
だが母のその解釈は、全くの的外れだ。
何故なら現在のリュカスから注がれているのは、当時の純粋な友愛ではなく、甘く熱を含んだ溺愛なのだ……。
その為、ロナリアの心臓は以前よりも更に酷使されている。
今のリュカスは手を繋ぐ際、必ず互いの指を絡めてくる。
話し掛ける時は、甘い笑みを浮かべながら下から顔を覗き込んでくる。
座る際は、以前以上にピッタリと横に付かれ、かなり距離が近くなった。
何かあるごとにすぐに髪に触れてくるし、膝枕回数も無駄に増えている気がする……。
今までもそういう接し方をされる機会はそれなりにあったが、涼しげな表情でされるのと、甘く熱を含んだ表情でされるのとでは、破壊力が全く違う。
リュカスもそういう接し方をされた際、ロナリアが硬直する事を理解しているので、過剰にスキンシップを図ろうとする際は一応、一言声を掛けてくれる。
だが……そのワンクッションがあったとしてもリュカスの甘い接し方は、いつもロナリアの心の準備が整わないまま、決行されるのだ。
何よりもそういう状態にロナリアがなる事をリュカスは気付いているはずだ。
それでも敢えて甘すぎる接し方を強行してくるのは、確実にロナリアを篭絡させる気満々という事になる……。
ロナリアの気持ちの整理がつくまで待つと言ってくれたリュカスだが、現状のリュカスの態度や行動から考えると、待つつもりは一切ないらしい……。
今のロナリアは、ジワジワと手の中に落ちてくるのを待たれている捕獲間近の獲物状態なのである。
そんなリュカスの態度から、ロナリアは抱いている恋心の存在をすぐに伝える事に躊躇した。
今でさえ、この甘すぎる接し方をしているリュカスだ。
もしこの想いの存在を告げてしまったら、恐らくもう手加減はして貰えない。
そんな貞操の危機感を抱いてしまったロナリアは、リュカスから告白を受けた際、一旦保留する事にしたのだ。
だがリュカスの方は、すでにロナリアの気持ちに気付いている様子だ……。
それを知っての上で、あの甘い接し方をしてくるのだから、もはや今の二人はどちらが先に折れるかの我慢比べとなっている。
そんな状態になっている事をロナリアは、友人令嬢達に相談してみた。
しかし、意見は真っ二つに割れる。
一方は、早く想いを告げて甘い恋人期間を楽しむべきだという意見と、もう一方は卒業まで引き延ばし、学生らしい男女交際を維持するべきだと言う意見に分かれたのだ。
そんな中で特に後者の意見を強く訴えてきたのが、ティアディーゼだ。
「リュカス・エルトメニアは、油断も隙もあったものではありません!! ロナの淑女としての品位を守る為にもその恋心は、卒業するまでは隠すべきです!」
そうティアディーゼには力説されたが……。
現状のロナリアは、早くもリュカスの甘い誘惑に屈しそうだ。
リュカスのあの容姿を最大限に活用した甘やかな攻撃は、卑怯である。
そしてその攻撃をリュカスは、故意で繰り出しているはずだ。
その証拠にどんなにロナリアが顔を赤らめても、あの熱のこもった視線で顔を覗き込んでくる行為をやめてはくれない……。
そんな常に甘くなる空気を必死で振り払おうと、ロナリアは敢えて真面目な話題をリュカスに振った。
「そういえば……今日は何で私は魔獣研究所に呼ばれたのかな?」
「なんでも……ロナの魔力が引き寄せてしまう上級魔獣には、ある共通点がある事が分かったらしいんだ」
「共通点?」
「僕もまだ詳しくは聞いていない……。でもロナには安全の為、説明した方がいいから放課後連れて来て欲しいって、上級魔獣を研究しているサイクスさんという男性に頼まれたんだ。その時、僕にも説明してくれるって」
「何だろう? 共通点って……」
「それが何にせよ、上級魔獣を引き寄せてしまう事には変わりないのだから、ロナは今後、絶対に屋外では魔法を使っちゃダメだよ!?」
「わ、分かってるよぉ……」
顔をズイっと近づけながら念を押してきたリュカスに対して、ロナリアは違う意味で焦ってしまう。リュカスの顔が間近に来ると、どうしてもカオスドラゴンに遭遇した時にされた行為の記憶が蘇ってくるのだ。
その事に気付いているのか、リュカスは以前よりも顔を近づけてくる頻度が増えた。最近では確信犯ではないかと、ロナリアは少々疑っている……。
そんなやり取りをしていたら、いつの間にか目的の場所に到着する。
「えっと……。確か三階の一番端の部屋だって……。あっ、ここだね」
そう言ってロナリアと『恋人繋ぎ』をした状態のまま、リュカスが扉をノックする。この状態で部屋に入る事に恥ずかしさを感じたロナリアだが、リュカスにそれを訴えても無言の笑顔で聞き流されてしまう事は分かり切っているので、諦めて羞恥心に耐える事にした。
「失礼します」
「やっと来たわね。いらっしゃい!」
「エ、エレインさんっ!?」
部屋に入ると何故かロナリアがよく知った人物が、笑顔で出迎えてくれた。
その事にロナリアが驚く。
エレインは、ロナリアが高等部に上がってから通っていた魔法研究所で、魔力譲渡に関する研究を行っているチームの研究員だ。リュカスに効率よく魔力を譲渡する方法がないか、色々相談にも乗ってくれた人物でもある。
だが二人を呼び出したのは、魔獣研究所の男性研究員のはずだ。
「えっと……。僕達、サイクスさんに呼ばれたのですが……」
「ここにいるぞー?」
声のした方へ目を向けると、山積みになった本の向こうからヒラヒラと手を振った男性の姿があった。
だが、ロナリアはエレインがこの場にいる事の方に驚いている。
「ここ、魔獣研究所ですよね……? それなのにどうして魔法研究所所属のエレインさんが、いるんですか?」
「サイクスに呼ばれたの。ロナちゃんに魔力性質の説明をして欲しいって」
「私に?」
すると、山積みになった本の陰から、二人を呼び出したと思われるサイクスが姿を現し、中央のテーブルに座るように促して来た。
リュカスと同じ黒髪だが、手入れをしていないのかボサボサだ……。
だが、黒髪なので魔力は強い人のようだ。
「散らかっていて悪いな。とりあえず先に俺達、魔獣研究所の調査結果から説明させて貰うな」
「はぁ……」
よく分からないまま、ロナリアがリュカスと一緒に座るように促された長椅子に腰掛けると、サイクスとエレインも向かい側の長椅子に座った。
「まずロナリア嬢の魔力が上級魔獣を引き寄せる原因なんだが……どうやらその湯水のように沸き上がる魔力体質の所為だ。君の放つ魔法は、魔力の濃度が非常に濃厚だそうだ。その為、特定の種族の魔獣にとって、君の放つ魔法はご馳走のように感じるらしい」
「ご、ご馳走!?」
「サイクスさん、それってロナ自身もその特定の魔獣からすると、ご馳走扱いされるという事ですか?」
「まぁ、屋外で彼女が魔法を放てば、そういう感じになるかな……。で、その特定の種族の魔獣ってのが、ドラゴン系の魔獣だ」
「「ドラゴン!?」」
流石にその情報はロナリアだけでなく、リュカスも驚かせた。
「で、でも! 初等部の頃に僕達を襲って来た魔獣はドラゴンではなかったはず……」
「当時の資料を確認したが、確かに一度目はドラゴンではなく、飛行するリザード系の魔獣だったみたいだな。だがコイツの祖先はドラゴン系だ。ついでに二度目に襲って来た魔獣は、いわゆるキメラってやつだな。無駄に背中に生えている小さな翼があっただろう? あれがまさに過去にドラゴンの血が混ざったという名残になる」
「じゃ、じゃあ、フェイクドラゴンも?」
「あいつも今はリザード系に分類されてはいるが、元はドラゴン系の魔獣だな……。ドラゴンは『魔力を喰らう者』と言われているのは知っているか? 古龍なんかは同属性の魔法をぶち込むと、逆に吸収されるって授業で習っただろう? それだけドラゴンってやつは、魔力との関係性が深いんだよ。だから逆にそのドラゴンの弱点属性をぶち込むと、簡単に倒せる事もある。倒した後に魔石が取れるのもドラゴン系の魔獣だ」
平民上がりなのかサイクスの言葉遣いは、ややぞんざいだ。
だが二人はライアンで慣れているので、あまり気にはならなかった。
それよりも何故、ロナリアの魔力がドラゴン系に好かれやすいのかが、よく分からない。その考えからロナリアが、思わずその疑問をポツリとこぼす。
「でも何故、私の魔力はドラゴンに好まれるんだろう……」
「その説明は、コイツの方が専門だから今回、呼んだ」
そう言ってサイクスが顎で指すように、エレインへと視線を誘導させる。
「それじゃあ、ここからの説明は私がするわね」
そう言って、今度は魔法研究所の研究員であるエレインが語りだした。
12
お気に入りに追加
911
あなたにおすすめの小説

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」
21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」
そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。
理由は簡単――新たな愛を見つけたから。
(まあ、よくある話よね)
私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。
むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を――
そう思っていたのに。
「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」
「これで、ようやく君を手に入れられる」
王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。
それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると――
「君を奪う者は、例外なく排除する」
と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!?
(ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!)
冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。
……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!?
自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる