バスは秘密の恋を乗せる

桐山なつめ

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 それから、あっという間に三週間が経ってしまった。

 今日は美術の授業があって、私は朝からわくわくしていた。
 凛ちゃんと一緒に、二人で校庭のすみっこに座って花壇をスケッチする。
 風景画は苦手だから、なかなか構図が決まらない。
 それにくらべて、凛ちゃんはサラサラと描き進めていってる。

「凛ちゃんって、風景を描くのが上手だよね」
「風景画は、最初にパースをきちんと決めることが大切なの。なにも考えずに描いたら、校舎がふにゃふにゃに見えちゃうわ」
「うっ!」
「ただ枚数を描いてるだけじゃ、上手になんてならないんだから」

 さすが凛ちゃん。画家を目指している人は、いろいろ考えながら絵を描いてるんだな。
 スケッチブックのページをぱらぱらとめくる。
 たくさん描きためたけど、たしかに私の絵はつたない感じがするかも。

「菜月さんのカラー絵って、だいぶ奇抜よね」

 凛ちゃんは色鉛筆で塗った私の絵をのぞきこむ。

「コンクールに応募するわけじゃないから、自由に塗ってるんだ」
「だけど、空を緑色で塗る人にはじめて会ったわ。もっと見せて?」

 スケッチブックを手渡すと、凛ちゃんは「へえ」とか「すごい」とか言いながら、興味しんしんにページをめくっていく。
 私が描く絵はちょっと変わってるって言われることが多いんだ。
 でも、どうしても人の顔を水色や、海を赤で塗りたくなる。
 それがおかしいってことはわかってる。

 だから前の学校ではいわゆる「フツーの絵」を描いていた。
 そのほうが、亜衣に追いつけるって思ってたから。
 でも、やっぱり好きな色をつかって、思ったままに描くのがいちばん楽しい。
 凛ちゃんは、ぜんぶのページを見たあと、

「すてきな絵ね」

 と感心してくれた。

「へんじゃない?」
「ぜんぜん! あたしは、こういう個性的な絵って大好きよ」
 じーんと、心の奥があったかくなっていく。やっぱり凛ちゃんは、本当にいい子。
「ありがとう、凛ちゃん」

 そのまま授業が終わるまで、私たちは絵を描きながらおしゃべりをして過ごした。
 教室に戻るころになって、

「そういえば、神山くんは、いまもバスに乗ってるの?」
「うん、オーディションに向けて頑張ってるみたい」
「……そう」

 凛ちゃんの横顔が、すこしさみしそうだった。
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