バスは秘密の恋を乗せる

桐山なつめ

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「西野さん、すてきな絵ね」

 放課後の美術室。
 教室の片すみでスケッチブックに絵を描いていたら、日向先生からとつぜん声をかけられた。

「この絵の子はお友だち? コンクールに出品するのかしら?」

 日向先生が指をさしたのは、土曜日のらくがき。
 バスの窓からさしこむ朝日に照らされた、神山くんの姿。
 絵のなかだから、帽子はかぶっていない。はじめて知った、神山くんの素顔。

「いい絵になりそうね。締め切りまで一ヶ月半だけれど、やってみる?」

 日向先生は、見込みがない作品にはようしゃなくボツを出す。ってことは……。

「もしかして、このまま進めてもいいってことですか?」
「ええ。あなたが描くつもりなら、応援するわ」
「描きます!」
「ふふ。いいお友だちの絵ね。完成が楽しみだわ」
「ありがとうございます!」

 絵を褒められたのは、すごく久しぶり。うれしさで、胸がぎゅーってなる。
 どんな色を使おう? 風景はどうしよう? あ、神山くんの瞳の色、何色だっけ?
 神山くんの観察眼を見習わなきゃ……なんて考えていると、

「西野さんも、出品するのか?」

 顔をあげると、すぐそばに辻先輩が立っていた。

「ぼくも負けられないな」
「そんな。辻先輩の作品にはかないませんよ」
「おせじはいらないよ。そうだろう、凛?」

 ぎくっ。

 すこし遠い席に座っていた凛ちゃんが、辻先輩の呼びかけに応えてふり向く。
 土曜日に画材店で別れてから、凛ちゃんとはぎくしゃくしている。
 じつは、今日一日凛ちゃんに話しかけることができなかったんだ。
 気まずくなると、その人を避けちゃうのは私の悪いクセ。
 凛ちゃんの顔が一瞬だけ、亜衣とかぶる。
 どうしよう。いまさらだけど、あれは誤解だったんだよって説明しなくちゃ。

「凛ちゃん、あの」

 でも、凛ちゃんは目をほそめてフッと笑う。

「あたしだって負けないわ。これは真剣勝負なんだから」

 あ……よかった、いつもの凛ちゃんに戻ってるみたい。
 でも、その直後。

「もし西野さんが入賞したら、次の部長はわからなくなるな」

 辻先輩がぽつりとこぼす。

「え? 副部長は凛ちゃんなのに、ですか?」
「うちの部は実力主義だからね」

 部長、かあ。前の学校では亜衣が副部長をしていたから、ぜったいなれないと思ってた。
 でも、この学校でなら……もしかして?
 って、なに期待してるの! 凛ちゃんに失礼すぎるよね。
 それに、絵を描くのは亜衣に会うためなんだから。

「菜月さん。コンクール用のキャンバスが必要でしょう? 準備室、行きましょ」

 凛ちゃんが、すくっと席を立った。

「え? 私ひとりでもわかるよ?」
「いいから」

 凛ちゃんからただよう、有無を言わせない圧。
 すごくイヤな予感がする……。
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