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待ちに待った土曜日。お気に入りのワンピースを着て、バスが来るのを待った。
早くバスが来てほしいような、このままずっと待っていたいような、フクザツな気持ち。
何度も案内表示板の時刻表を指でなぞって、時間が合っているかたしかめる。
バスのなかで待ち合わせなんて、なんだかフシギ。
やがて、停留所に向かってくるバスが見えてきて、思わずピンと背すじをのばす。
プシューと、バスの扉が目の前で開いた。
「吉野入口、吉野入口です」
運転手さんのアナウンスを聞きながらステップをあがると、いつもの座に神山くんが座っているのがみえた。
普段とちがう帽子に、黒一色のシャツとズボン。
首元には、キラッと光るネックレスが下がっている。
目が合うと、神山くんは「おう」と言ってぶっきらぼうに手をあげてくれた。
「神山くん、いつもと雰囲気ちがうね。すごく似合ってる」
「そりゃ、せっかく出かけるからな」
それって、私のためにおしゃれをしてきてくれたってこと?
神山くんも、今日を楽しみにしてくれていたのかな。
「あんたの服も、いいじゃん」
神山くんはクスッと笑う。
「あ、ありがとう」
神山くんに褒められた! それだけで、なぜか胸がドキドキしちゃう。
バスから降りると、神山くんは大きく伸びをした。
駅前は、土曜日とあっていつもより賑わっている。
いつもはまっすぐ学校に行くけど、今日は神山くんと並んで商店街へ向かった。
こうして、一緒にバスの外を歩くのははじめてだから変な感じ。
「このまま店に行ってもいいけど、あんた買い物とかないの?」
神山くんは足を止めて、私をふり返った。
「たとえば画材とかさ。ここの商店街、画材店も入ってるんだぜ」
ぴくっ! つい反応しちゃう。画材店は、私の大好きな場所だから。
「でも、画材はほとんど捨てちゃったの」
「それなら、余計ちょうどいいじゃん」
「でも」
「いいから行こうぜ」
くるりと背を向け、神山くんは迷いのない足取りで商店街を進んでいく。
そのままついていくと、ちょっと古めかしいお店が見えてきた。
店内をのぞいてみる。ほのかなオレンジの電灯に照らされて、ずらりと画材が並んでいた。
「わあ、すごい!」
気がつくと、私はお店のなかに飛び込んでいた。
デッサン用の鉛筆に、練り消しゴム。スケッチブックに、木製のパレット。
きれいな額縁に120色の色鉛筆、たくさんの絵筆に、ペン先、インク瓶!
神山くんからはなれて、私は店内を泳ぐように歩きまわった。
新品の画材を手にとるだけで、わくわくしちゃう。
このペンを使ったら、いったいどんな絵が描けるだろう?
あの色、すごくきれい。画用紙に塗ったら映えるだろうなあ。
胸の奥から熱くなって、妄想が止まらない。
「ははっ」
はっとしてふり返ると、神山くんがうれしそうに笑っていた。
「あんた、ほんとに絵を描くのが好きなんだな」
ドクン、と心臓が高鳴る。
「うん……好き」
そう言って、手にしていたスケッチブックを棚にもどした。
「ん? 買わねえの?」
「見るだけにしとく。私には絵を描く資格がないから」
神山くんは、肩をすくめる。
「それ、自分で決めつけてるだけなんじゃないの?」
「そんなことは……」
言葉をさえぎるように、神山くんの手が伸びてきた。
そのまま、私が棚に戻したスケッチブックを取る。
、神山くん?」
早くバスが来てほしいような、このままずっと待っていたいような、フクザツな気持ち。
何度も案内表示板の時刻表を指でなぞって、時間が合っているかたしかめる。
バスのなかで待ち合わせなんて、なんだかフシギ。
やがて、停留所に向かってくるバスが見えてきて、思わずピンと背すじをのばす。
プシューと、バスの扉が目の前で開いた。
「吉野入口、吉野入口です」
運転手さんのアナウンスを聞きながらステップをあがると、いつもの座に神山くんが座っているのがみえた。
普段とちがう帽子に、黒一色のシャツとズボン。
首元には、キラッと光るネックレスが下がっている。
目が合うと、神山くんは「おう」と言ってぶっきらぼうに手をあげてくれた。
「神山くん、いつもと雰囲気ちがうね。すごく似合ってる」
「そりゃ、せっかく出かけるからな」
それって、私のためにおしゃれをしてきてくれたってこと?
神山くんも、今日を楽しみにしてくれていたのかな。
「あんたの服も、いいじゃん」
神山くんはクスッと笑う。
「あ、ありがとう」
神山くんに褒められた! それだけで、なぜか胸がドキドキしちゃう。
バスから降りると、神山くんは大きく伸びをした。
駅前は、土曜日とあっていつもより賑わっている。
いつもはまっすぐ学校に行くけど、今日は神山くんと並んで商店街へ向かった。
こうして、一緒にバスの外を歩くのははじめてだから変な感じ。
「このまま店に行ってもいいけど、あんた買い物とかないの?」
神山くんは足を止めて、私をふり返った。
「たとえば画材とかさ。ここの商店街、画材店も入ってるんだぜ」
ぴくっ! つい反応しちゃう。画材店は、私の大好きな場所だから。
「でも、画材はほとんど捨てちゃったの」
「それなら、余計ちょうどいいじゃん」
「でも」
「いいから行こうぜ」
くるりと背を向け、神山くんは迷いのない足取りで商店街を進んでいく。
そのままついていくと、ちょっと古めかしいお店が見えてきた。
店内をのぞいてみる。ほのかなオレンジの電灯に照らされて、ずらりと画材が並んでいた。
「わあ、すごい!」
気がつくと、私はお店のなかに飛び込んでいた。
デッサン用の鉛筆に、練り消しゴム。スケッチブックに、木製のパレット。
きれいな額縁に120色の色鉛筆、たくさんの絵筆に、ペン先、インク瓶!
神山くんからはなれて、私は店内を泳ぐように歩きまわった。
新品の画材を手にとるだけで、わくわくしちゃう。
このペンを使ったら、いったいどんな絵が描けるだろう?
あの色、すごくきれい。画用紙に塗ったら映えるだろうなあ。
胸の奥から熱くなって、妄想が止まらない。
「ははっ」
はっとしてふり返ると、神山くんがうれしそうに笑っていた。
「あんた、ほんとに絵を描くのが好きなんだな」
ドクン、と心臓が高鳴る。
「うん……好き」
そう言って、手にしていたスケッチブックを棚にもどした。
「ん? 買わねえの?」
「見るだけにしとく。私には絵を描く資格がないから」
神山くんは、肩をすくめる。
「それ、自分で決めつけてるだけなんじゃないの?」
「そんなことは……」
言葉をさえぎるように、神山くんの手が伸びてきた。
そのまま、私が棚に戻したスケッチブックを取る。
、神山くん?」
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