バスは秘密の恋を乗せる

桐山なつめ

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 朝になるのが、こんなに待ち遠しかったのははじめて。
 いつものバスに乗り込むなり、私はいそいで神山くんのとなりに座った。

「おはよ、菜月。そんなに急いでどうし……」
「ドラマ観たよ!」

 あいさつより先に言うと、神山くんはおどろいたように目を丸くする。

「はやっ! つか、よくDVD手に入ったな?」
「えへへ、貸してもらったの」
「マジか。もの好きなやつもいるんだな」
「それより、ドラマすっごく面白かったよ! 神山くん、本当に役者さんみたいだった!」
「みたいじゃなくて、役者だったの」
「あ、そうだった。でも、あんなに長いセリフを覚えられるなんてすごいよ」
「台本覚えるのは役者の基本だし」
「私にはできないよ。神山くんは、頭がいいんだね」
「ま、まあ……毎日徹夜はしてたけど」

「それに、アクションもすごかったね。三話で神山くんが壁を伝って、プールへ飛び込むシーンはかっこよくてドキドキしちゃった! 五話で先生を助けたときは、本物のヒーローみたいだったし……それから」
「ストップ、もういい」
「えっ?」

 神山くんは帽子を深くかぶりなおして、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
 うわあ、私ったら朝からうるさくしすぎちゃった。
 いきなりこんな話されたら、神山くんも困っちゃうよね。

「ごめんなさい。どうしても感想を伝えたくて」
「べつに。怒ってるわけじゃない」
 よく見ると、神山くんの耳は赤くなっていた。
「もしかして照れてる?」
「う、うるせえな」

 いつもクールな神山くんの意外な一面。

「そこまで褒めてくれたやつ、あんたがはじめてだ」

 ぼそりと呟いた神山くんに、なぜかドキッと胸が高鳴る。

「か、神山くんなら、きっとオーディションも合格できるよ。あんなに上手なんだもん」
「当然だろ。このあいだも言ったけど、今のオレの演技のほうが上手いし」
「うんうん。でも、あれ以上に上手ってどんな感じなの? 想像もできないや」

 すると、神山くんはすこし考え込むような仕草をしたあと、

「あんた、土曜日ってヒマ?」
「うん? 予定はないけど」
「じゃ、ちょっと付き合え。オレの演技、見せてやるよ」

 ええええ!? 神山くんの演技が見られるの!? うれしい! 
 あれ? でもそれって一緒に出かけるってこと?
 男の子と二人きりで出かけることを、デートっていうんじゃ……。
 いや、神山くんはそんなつもりで言ったんじゃないはず!

 でも、『デート』って言葉を思い浮かべたとたん、ほっぺたがカァッと熱くなっていく。

「一応言っておくけど、べつにデートってわけじゃねえからな」

 ドキッ! 頭のなかを読まれた!?

「う、うん。わかってるよ!」

 だけど、私を見る神山くんも、なぜかすこし赤くなっている。

「なんだよ?」
「神山くん、また照れてる?」
「べ、べつに照れることなんか言ってねえし」

 神山くんはそう言って、また顔をそむけてしまう。
 そんな神山くんに、私はバスを降りるまでニヤニヤをこらえるのが精一杯だった。
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