バスは秘密の恋を乗せる

桐山なつめ

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 今まで遠くの席でマンガを読んでいた二年生の先輩が、とうとつに口を挟んできた。
 美術部のみんなも手を止めて、私たちをふり返る。

「芸能界でやらかして、表に出てこられないだけなんだから」
「げいのうかい?」
「神山は元子役じゃん。うちの学校を舞台にしたドラマにも出てたでしょ?」

 子役……ってことは神山くんって役者さんだったの!? 
 言われてみれば、『神山慧』って名前に聞き覚えがあったのも、それが理由かもしれない。

 しかも、『うちの学校を舞台にしたドラマ』って?
 たしかに、うちの中学はよくロケ地に使われているって聞いたけど、本当にドラマの撮影をしてたんだ。

 っていうか、一気にいろんなことを言われて、頭がこんがらがりそう。

「やらかしたって、どういうこと?」

 部員のひとりが、おずおずと先輩に尋ねる。

「神山は共演してたヤツをケガさせたの」

 ――え?

「それがバレてドラマは打ち切り。あれ以来、ずっと干されてんだよ」

 それって大変なことなんじゃ……。
 今朝、私を応援してくれた神山くんの顔が目に浮かぶ。
 誰かをケガさせるような人には見えなかったのに。

「神山くんはそんな人じゃないわよ」

 たまりかねたように、凛ちゃんが大声を出した。
 先輩は凛ちゃんの迫力に圧されてたじたじだ。

「な、なに怒ってんだよ。事実だから、神山も気まずくて学校に来られないんだろ?」
「なんですって!?」
「なんだよ!」
「君たち、うるさい。絵のジャマ」

 辻先輩の冷ややかな言葉で、二人ははっとしたようにだまりこんだ。

「すみませんでした」
「ちっ」

 先輩の舌打ちに、凛ちゃんは不満げ。絵筆をにぎる手がふるえている。
 でも二人を一喝してだまらせちゃうなんて、辻先輩ってやっぱり怖い。
 しばらく凛ちゃんはだまって絵を描いていたけど、機嫌は直らないみたい。
 絵を描く手つきが荒くて、こっちまでヒヤヒヤしちゃう。

「ね、ねえ、凛。気晴らしに写生でも行かない?」

 機嫌をうかがうように、部員のひとりが凛ちゃんに声をかけた。
 すると凛ちゃんは、ころっと表情を変える。

「いいわね、行きましょう。菜月さんはどうする?」
「私!?」

 誘ってもらえるのはうれしいけど、どうせ絵を描けるわけじゃない。

「私は、えんりょしておくよ」
「そう。気が向いたら来るといいわ」

 凛ちゃんが美術室を出ていくと、つられたように他の部員たちも凛ちゃんを追いかけていった。凛ちゃんの人気、おそるべし!
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