浮気してるって言ったら、あなたは、私を愛せますか？

浮気してるって言ったら、あなたは、私を愛せますか？

彼と初めて会ったのは、まだ3歳の頃だった。私の両親は、小さな会社の経営者で、いつも忙しそうにしていた。私は、そんな両親からあまり構ってもらえず、寂しい思いをしていたが、ある日両親が珍しく揃って家に帰ってきた日があった。その日は日曜日だったが、朝早くから出かけて行ったため、お昼まで帰ってこなかったのだ。
『ごめんね、今日も仕事があるんだ』
母は申し訳なさそうな顔をしながら、私の頭を撫でた。父はというと、無言のまま、私の横を通り過ぎていった。2人が出ていく時、玄関が閉まる音が聞こえたが、すぐに鍵をかける音も聞こえてきた。私は、両親の足音が遠ざかって行くのを聞きながら、ポツンと1人取り残されていた。
（お母さん……お父さん……）2人はもう戻ってこないのではないかと思った私は、大声で泣き始めた。すると、階段の方から誰かの声がしたような気がしたので、そちらを見てみると、そこには見知らぬ男の子の姿が見えた。
「だあれ？」
「ま、迷子になっちゃって…ここの家の扉が開いていたから…つい……」彼は恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして俯きながら話し始めた。彼の手には、大きな紙袋があり、中にはたくさんのおもちゃが入っていた。
「じゃあ、私と一緒におうち探そう！」「うん！ありがとう」
私は彼を連れて、町中探し回った。そして、ようやく家を見つけた時には、辺りは既に暗くなっていた。
「良かったぁー！！見つかって！！」私は嬉しくなって彼に抱きついた。
「うわぁ！？ちょ、ちょっと待ってよ……」
「ねぇ、君の名前はなんて言うの？」
「僕は……真太郎だよ」「へぇ～真太郎っていうんだね！よろしくね、真太郎くん！」
これが、彼との最初の出会いだった。それからというもの、私は暇さえあれば、毎日のように真太郎の家に入り浸っていた。彼がゲームや漫画が好きだということも知ったし、私にも優しくしてくれるようになった。
そしていつしか、私は彼を好きになっていた。でも、この気持ちを伝える勇気はなかった。もし告白しても振られるだけだろうと思っていたからだ。それに、仮に付き合えたとしても、いつか別れが来るかもしれない。そう考えると怖かった。だから、自分の想いを隠したまま過ごすことにした。
しかし、それは間違いだと気づかされた。私が中学生になった頃のことだった。その頃の真太郎は、背が伸び始めていて、見た目的にもカッコよくなり始めていた。そのため、女子の間では密かに人気があったらしい。だけど、本人はそのことに全く気づいてはいなかったようだ。
ある日のこと、私は友達数人で学校帰りに遊びに行ったのだが、帰る途中に大雨に見舞われた。急いで雨宿りできる場所を探しているうちに、近くに公園があることを思い出したので、そこへ避難することにした。みんなびしょ濡れになって疲れていたので、とりあえずベンチに座って休憩していると、隣にいた女の子が話しかけてきた。その子は同じクラスの子だったが、あまり喋ったことはなかったので、少し緊張してしまった。
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな？」
「え？何？」
「最近、隣のクラスのあの男子いるじゃん。ほら、あのイケメンの子」
「ああ……確かいたね」「実はさ……あたしあいつのこと好きなんだよねぇ～」
「そ、そうなんだ……」
（やっぱりそういうことなんだ……。なんかショックかも……）
「それでね、相談したいことがあるんだけど……あんたはどう思う？」「ど、どういう意味？」
「だから、このままアタックするべきか、それとも諦めるべきなのかってことよ！」
「うーん……私は、まだ早いと思うけど……」
「どうして？」
「だって、今まで全然話したことないんでしょう？いきなり告白するのはハードルが高いんじゃないかな……」
「確かにそうよね……よし決めた！あたし今度から積極的に話しに行くことにするわ！」
「うん、頑張ってね……」
（これでよかったのだろうか……？）
次の日から彼女は本当に、休み時間になると真太郎の元へ行って話をするようになった。最初はぎこちなかったが、だんだん慣れてきたようで、普通に接することができるようになっていた。その様子を見ていた他のクラスメイト達からは、カップルになるのではという噂が流れ始めた。やばい。これは何か納得いかない。私の心の中で焦りと不安が渦巻き始めた。その時だった。
「ねえ、美緒ちゃんはさ、真太郎君のことが好きなの？」「へっ！？」
急にそんなことを聞かれたものだから驚いてしまった。
「べ、別に好きじゃないよ！！ただ、話しやすいなぁとは思ってるけど……」
「ふぅ～ん……怪しいなぁ……」
「ほんとにほんとだよ！じゃあ、私は用事があるから……」
「あっ！逃げた……」
「もう……なんなのよ……」（私って嘘つくの下手だな……）
その後も、彼女の行動を見張っていると、時々目が合うことがあった。その度に睨まれてしまったので、思わず目を逸らしてしまうこともあった。でも、私の方は見ていない時もあったので、バレてはいないようだった。
しかし、ある日の放課後のことだった。彼女が教室から出ようとした時に、真太郎が彼女に話しかけてきたのだ。2人はしばらく会話をしていた。私は気づかれないように隠れていた。すると、彼女は突然真太郎の頬をつねった。
「痛いってば！もうやめてよ……」「へへ～ごめんごめん」
「ところでさ、これから一緒に帰らない？」「え！？」「ダメ……？」
「ううん！もちろんOKだよ！」
（えぇぇぇ！！！）
私は頭を抱えたくなった。よりによってなぜ今日なのだ。そして、そのまま2人で帰って行った。私は後をつけることにした。
（あぁぁぁ！！ついて行かない方が良かったんじゃ……！でも、もし告白されたとしたらどうしよう……）
そんなことを考えながら、歩いていると、2人が公園に入っていくところが見えたので、私もこっそりと入っていった。
「あのさ、俺ずっと前から言いたかったことがあるんだ」
ここから私の予想とは反することが起こった。
「ぼ、僕は…別に好きな人がいるんだ！…」「え！？」私は驚きのあまり声を出しそうになった。
「だから……君とは付き合えないんだ……」
「そっか……分かったよ……」
（えぇぇぇぇ！！！）私はその場で膝から崩れ落ちそうになってしまった。まさかの展開だ。（これってもしかして……フラれたってこと？でも、真太郎には他に好きな人がいたのか……）
私は複雑な気持ちになりながらも、その場を離れようとした。しかし、その時だった。真太郎の声が聞こえてきた。
「そこにいるんでしょ。」私はドキッとして立ち止まった。
「出ておいでよ。僕が気づかないとでも思った？」彼はそう言ってこちらに向かって歩いてきた。
「ま、待って！来ないで！！」私は慌てて逃げ出した。だが、すぐに追いつかれてしまい、腕を掴まれた。
「は、離してよ！」
「嫌だね。逃げようとするなんて、往生際が悪いなぁ。」
真太郎は私の腕を掴んだまま歩き出した。そして、近くにあるベンチに座った。
「何で逃げたの。」「それは……その……」
「僕のことが嫌いになったから？」
「違う……逆だよ……」
「じゃあ何で？」
「それは……言えない……」
「言わなきゃこのままだよ？」
「それでもいいよ……」
「じゃあ、このままでもいいの？」
「うん……」
「そっか。」
「あのさ、何で追いかけてきたの？」
「君のことが…いや、言えないな。」
「え？」よく聞こえなかった。「何でもないよ。」
それから、沈黙が続いた。気まずい空気が流れる中、私は意を決して口を開いた。
「ねぇ、真太郎……聞いて欲しいことがあるんだけど……」
「ん？なに？」
「私ね、真太郎のことが好きだったんだ……。だから、私と付き合ってくれないかな……」
言ってしまった。どうせ振られるだろうと思ってたけど、やっぱり辛かった。涙が出そうになるのを抑えていると、彼が言った。
「ありがとう。僕も同じ気持ちだったよ。」
きっと私の目は、今までで一番開いただろう。「う、嘘……」
「嘘じゃないよ。本当だよ。」「うぅぅ……嬉しいぃぃ！」
私は彼に抱きついた。すると彼も抱きしめてくれた。嬉しくて幸せで胸の中がいっぱいになって、言葉にならないほどだった。
「もう、あの子とさ、仲良くしてるの見てさ、悔しかったんだから！昔あんなに頼ってくれたのに、私のもとを離れないでって、」「ごめんね。でも、もう大丈夫だから。」
「え……それってどういう意味……」
その時だった。彼の顔を見ると、何か企んでいるような顔をしていた。（あれっ……？）
次の瞬間、彼は私の頬に手を当て、キスをした。
「さっきのは浮気とかにはならないよね？」
「そうだけど、もし私が浮気したら、あなた私のこと愛せる？」「うーん……難しいかも……」
「ほら、無理じゃん。だから私と付き合いなさい！これからよろしくお願いします！」
「はい、分かりました……」
（やったぁぁ！！）私は心の中でガッツポーズをして喜んだ。