いちいち惚れさせないで

サドラ

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いちいち惚れさせないで

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私の初恋は、幼馴染だった。小学校に上がったばかりの頃。それから、彼のことをずっと意識している。当たり前のように。
だけど、最近現実が見えてきた。私たちもう高校生。あいつは凄い魅力的だから結構モテる。だけど、私はただの幼馴染でしかない。
「……っ」
悔しくて涙が出てくる。なんでこんなにも苦しいんだろう。なんであいつが他の女と仲良くしてると胸が痛くなるんだろうか。
「……ふぅー」
息を吐く。そして、頬を両手で叩いた。
大丈夫だ。まだ間に合う。今からでも告白すればいい。そしたら、もしかしたら私を選んでくれるかもしれないし。
そう思いながら私は教室を出る。すると、廊下には何故か彼がいた。「あ……」
思わず声が出てしまう。彼はこっちを見て手を上げる。
「お、おう。どうした?」
いつも通りの優しい笑顔を浮かべてこちらを見る。その顔を見ると少しだけ心が落ち着く。
「あのさ……」
私が話そうとすると、彼の周りに人が集まってくる。みんな彼に話しかけたいようだ。
「……」
それを見た瞬間、頭が真っ白になる。嫌な予感がする。
「ごめんね! ちょっと用事があるの!」
気がついたら走り出していた。後ろから彼の呼び止める声が聞こえるけど無視をする。
屋上まで走った後、扉を開けるとそこには誰もいなかった。安心したような残念のような複雑な気持ちになりながらも、適当なベンチに座って一息つく。……これからどうしようか。正直、何を言いたかったのかわからない。ただ、彼と2人で話がしたかっただけだ。
「はぁ……」
ため息をつく。
彼のことが好きな子はたくさんいる。その中には可愛い子もいるだろう。そんな子と付き合えばきっと楽しい毎日を送れるはずだ。……でも、それはできない。だって、私はあいつのことが好きなんだもん。
「……よし!」
私は立ち上がり、スカートについた埃を払う。そして、階段に向かって歩き出した。すると、談笑が聞こえてくる。
「ねぇ、今日の放課後空いてない? 一緒にカラオケ行こうよ」
「あー悪い。今日は先約があるんだよ」……え!?︎ 私は慌てて振り返り、隠れるように物陰に隠れる。聞き間違いじゃないよね……。だって、今の声って……
「え~じゃあ明日ならいい?」
「明日も無理なんだわ。すまんな」
「ううん、全然大丈夫だよ! じゃあさ、来週の土曜日とかどう?」
「そうだな。それで頼むわ」
なんだよあいつ。女子と土曜日にカラオケだと⁉相手の下心にどうせ気付いていないんだ。なんて馬鹿なんだ。というか、断れよ。なんでOKしてるんだよ。
イライラしながら待っていると、女の子が走って帰っていく。それを見届けた後、あいつがゆっくりと歩いてきた。私は見つからないように素早く移動をして逃げる。そして、そのまま自分の家に向かった。
部屋に入るとベッドに倒れこむ。
「クソッ!」枕を思いっきり殴った。どうしてこうなるんだろう。なんであいつは他の女を選ぶんだ。私の方が絶対に幸せにしてやれる自信があるのに。……いや、違う。本当はわかっているのだ。あいつが選んだのは私ではないということを。でも認めたくないだけなのだ。あいつが私のことを好きになってくれていると信じたいだけなのだ。だから、私はずっとこのままでいたいと思っている。でも、いつか終わりが来る。
しかし、グズグズしてもいられない。中学校を卒業すると、もう会えなくなるだろう…たぶん。そうなると、チャンスはこの1回しか残されていない。……決めた。絶対告白する。そして、振られてやるんだ。そしたら、諦めがつくはず。きっとこの恋心を忘れられると思うから。
次の日、学校に行く前にコンビニに寄る。目的はチョコだ。バレンタインデーはまだ先のことだが、買わずにはいられなかった。だって……初めて渡すものだし。
レジに並び、会計を済ませる。店員さんが袋に入れてくれたのを受け取るとすぐに店を出た。
登校中、緊張してきた。心臓がバクバクしているのを感じる。
昨日の夜、何度もシミュレーションをした。その結果、問題ないことが確認できた。後はタイミングだけ。
よし、行くぞ。
覚悟を決めて校門を通り抜けようとした時だった。誰かが走ってくる音が聞こえる。私は足を止め、そちらの方を見る。すると、目の前に現れたのは幼馴染のあいつだ。
「はぁ……はぁ……」肩を大きく揺らし息をしている。そんな姿を見て少しだけ罪悪感を覚えた。……ごめんね。
「お、おはよう」「お、おう……」
彼は呼吸を整えると、私を見る。何か言いたげな表情だ。私は目を逸らす。
「あのさ……」彼が口を開く。
「……何?」
「今日って、なんかあったっけ?」…………は? こいつは何を言っているのだろうか。私は意味がわからず首を傾げる。すると、彼は慌てながら言った。
「ほら、俺の勘違いかもしれないけどさ。今日って、なんかお前がいつもと違った気がしたからさ。気のせいかもしんないけど……」
「……」
「まあ、気のせいだよな! ごめんごめん! 変なこと言って!」
いちいち心臓が跳ね上がる。
「……別に」それだけ言うのが精一杯だった。
「そうか。なら良かったぜ!」
「うん。じゃあ、また後でね」
私は早歩きでその場を去る。
教室に入るなり席に着く。「おはよ~」「おはよー」クラスメイトと挨拶を交わす。……あいつのバカ。本当にバカ。何にもわかっていないんだから。こっちがどれだけ悩んでいるのか知らないくせに。
「おはよー」「おはよー」……ん? 声がする方に顔を向けると、そこにはあいつがいた。
「よう!」片手を上げて笑顔を浮かべている。その隣にいるのは女子生徒だ。これはだいぶ好かれてるな。
「大丈夫?元気ないじゃん」
「うるさい…」
優しくされて嬉しかった。でも、今は素直になれなかった。
「え~なんだよそれ」彼は不満そうな顔をする。
「なんでもない」
「なあ、今日の放課後空いてるか?」……なにこれデジャブなんだけど。もしかして、昨日話していたカラオケの話か。私は小さくため息をつくと、「いいよ」と答える。
「じゃあさ、駅前集合な」
「うん」……あれ? なんでだろう。普通に返事してしまった。しかも、結構楽しみにしている自分がいる。「……わかったよ」私は小さな声で答えた。
「よし、決まりだな!」
結局チョコは渡し損ねた。まあでも二人ではないが、会う約束できたのならOKだ。……それにしても、なんで私はこんなに嬉しいのだろうか。
「ねえ、見て! これ可愛くない?」
「どれどれ~……可愛い!」
「でしょ!」女子たちがキャッキャッ騒いでいる。その様子を横目で見つつ、私は本を読んでいた。
学校が終わると、家に帰ってすぐ待ち合わせ場所に急いだ。ちょっと早く来てやる。すると、家が近いこともあって彼と合ってしまった。
「ねぇ、小雨降ってない?」
「わ、分かんない。」
噓だ。少し我慢している。だって、この前買ったばかりのワンピースを着てきてしまったのだ。彼に見せるために。
「マジか……。でも、俺傘持ってるから安心して。」
「え?ちょっ⁉」
私を傘に入れてきた。これって…相合傘ではないか。
「ほら、もっと寄れって。濡れちゃうだろ?」
肩がくっつく距離だ。私はドキドキしながら歩く。
「着いたぞ。」
「あっ、ありがとう」
こいつは…こういう事が普通にできる人。だからこそ、他の女の子にモテているんだろう。きっとそうだ。
「じゃあ、みんなまだだけど、カラオケ入るか。」
「うん。」「いやぁ、久々だな。」
「そだね。」……ダメだ。全然会話が続かない。というか、私が緊張しすぎて何も言えないだけだけれど。
受付を済ませ、ドリンクバーから飲み物を取ってくる。そして、席に戻ると、みんなが集まってきた。
「おっ、来たね!」
「お疲れ~」
「じゃあ、とりあえず歌おうぜ!」
彼の提案により、マイク争奪戦が始まる。私は適当に曲を入れると、ソファーに座ってジュースを飲む。
「おい、お前も歌うぞ。」
彼が私の横に座ってきた。……え? 嘘でしょ?
「い、嫌だよ。恥ずかしいし……」
「はぁ? 俺らしか歌えないんだから平気だって。ほら、行くぞ。」
確かにこのマニアックな曲を知っているのは私たちだけだろう。だからって二人で歌うのはかなりハードル高いって…!
「わ、分かったよ……」
私は渋々と立ち上がり、歌い始める。すると彼は満足そうに微笑みながらこちらを見てくる。
「上手いな」「ありがと……」……やっぱり無理! でも曲は盛り上がってきている。自然と気持ちも高ぶる。「どうした? なんか顔赤いけど大丈夫か?」
「へっ!?」
突然話しかけられて変な声が出てしまう。
「熱でもあるんじゃないのか?」
そう言うと、額に手を当ててきた。……えぇ!?
「お、おい!」
ちょっと乱暴な口調になった。
歌い終わったあと、こっそりと耳打ちする。
「ちょっと外で。」
私たちは外に出た。
「あんた、いちいちかっこつけんな。」
「そういう意識じゃないんだけどね。」
「あと…いちいち惚れさせないで。」私は顔を真っ赤にして言った。
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