上 下
1 / 1

そろそろキス…とかしないの?

しおりを挟む
少し前、告白された。いきなりだ。約十年苦楽を共にした幼馴染に。中学校を卒業するタイミングで。その日は雨が降っていた。私は傘を忘れてしまって、びしょ濡れになりながら下校していた。そんな私を、彼は自分の傘に入れてくれたのだ。「風邪ひくよ」と一言だけ言って。その瞬間、私の心臓は跳ねた。
「ありがとう。」
「当たり前じゃん。」
「え?」
「好きなんだから…」
「…」
「あの、僕はあなたのことが好きです。大好きなんです。ずっと言おうと思ってて、言うなら今しかないって思ったんだ。」
「え…」
信じられない衝撃だった。今まで恋愛なんてしたことなかったから。もちろん嬉しいけど、どうしていいかわからない気持ちになった。
「ごめんね!急にこんなこと言われても困るよね!」
彼は必死な顔でそう言った。
「ううん。嬉しい。」
彼をそういう目で見たことがないわけじゃない。凄く優しくしてくれるし、頼りにもなる。だけど、それは彼の持ち前で、私だから、ってわけじゃないと思っていた。でも違った。私が気づいてなかっただけで、彼もちゃんと私のことを想ってくれていたんだ。そう思うと、なんだか心があったかくなって、嬉しかった。
「ほんと!?良かったぁー!」
安心しきったような笑顔を見せた。
「私も多分、好き。」
「…」
そういって二人で笑いあった。
その後、なんだかんだ言っていい恋人関係になれているとおもう。月に一回くらいデートすることもある。学校が違うのに、土日を使ってうまくいっている。
しかし、彼は少し、控えめなタイプなのだ。
まず、手を繋いでこない。(私も)
隣を歩くので精一杯だ。あと、スキンシップもない。(私も)
肩を寄せ合うこともない。(私も)
キスどころかハグだってしたことはない。(私も)……あれ?これ付き合ってるのか?という疑問すら湧いてくるレベルである。
まあ、お互い好きって言っているからOKだと思うが、これで本当に大丈夫なのかというのはある。今日は日曜日。明日になれば月曜日になる。
つまり彼と会える時間が少なくなる。
なので、勇気を出して聞いてみることにした。
「ねぇ」
「ん?」
「手繋がないの?」
「えっ!?繋ぎたいです!」
即答だった。「じゃあいこうよ」
「あっはい!」……なんか変な返事が来た気がするがスルーしよう。
さっきまで緊張してたのに、いざ繋ぐとなると恥ずかしいな……。
彼が手を伸ばしてきた。私はそれに応えるように握った。初めてだよ…こんな事するの……。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。」
少し握る力を強くする。すると向こうも同じくらい強く握り返してきた。こういうところを見ると、やっぱり好きだなぁと思う。
そして私たちは歩き始めた。
季節はそろそろクリスマス。私は何を着ようか迷っていた。去年はニットセーターを着ていたのだが、今年はどうするか決めかねていた。その時ふと思い出したのだ。彼に貰ったマフラーのことを。
早速クローゼットを開き、探す。あった!これ可愛いなぁ。
よし決めた。これにしよう。………… 当日になった。待ち合わせ場所はいつもと同じ駅。ちょっと早めに着いたけど、別に問題はないはず。
「お待たせ~」
「待ってないよ。」
うそだ。どうせ凄い早く来て待っていたに決まっている。律儀なんだから。
街は賑やかな飾り付けが施されて明るい。きれいだ。そんな街を私たち二人が歩く。とても楽しい時間が流れていく。まるで幸せを感じているみたいだ。
それから何件か服屋さんを見て回ったり、喫茶店に入って休憩したりしているうちに夕方になってしまった。
「もうすぐ暗くなるね~。」
「そうだね。」
「あのさ、」
思い切りがついて、私は彼の手を取った。
「もう少し一緒に居たいんだけど……だめかな?」
「僕もそうしたかった。」
そう言って彼は笑った。
私も笑って返すと、自然と体が近づいていった。鼓動が速くなっていく。
「ま、マジで?」
「そろそろキスとかしないの?」
そのまま顔を近づける。心臓の音が大きくなってきた。あと数センチで唇が触れる距離で、彼の動きが止まった。
「えっと……」
彼は困っているようだ。私も困っている。この空気に耐えられなくて、つい口を開いてしまっていた。「ごめん、冗談だよ!帰ろうか。」
そう言って手を離そうとした瞬間、腕を引っ張られた。
「えっ……」
目の前には彼の顔がある。唇と唇がくっついている。その事実を理解するまでにしばらくかかった。
「え、えと……あの、ごめんね!急にこんなことしちゃって!」
彼は焦りながら言った。
「ううん、いいよ。」
私はそう言うしかなかった。
「じゃあ、また!」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

👨👩二人用声劇台本「ドライブデート」~海編~

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
思いを寄せている女友達を久しぶりにドライブに誘う。主人公が好きな海へ。 ジャンル:恋愛 所要時間:5分以内 男性一人、女性一人 ◆こちらは声劇用台本になります。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 ※こちらは男女入れ替えNGとなります。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

片思い台本作品集(二人用声劇台本)

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
今まで投稿した事のある一人用の声劇台本を二人用に書き直してみました。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。タイトル変更も禁止です。 ※こちらの作品は男女入れ替えNGとなりますのでご注意ください。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

【ショートショート】職場シリーズ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
某企画用に書いた作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

【フリー台本】星座カノジョ(男女二人用/十二種)

しゃどやま
恋愛
十二星座の性格占いをモチーフにした女の子とデートをする男の子の二人用台本です。ラブコメディかつ、セリフが交互に近いので初心者にもおすすめです。性別改変やアドリブはご自由に。 別名義しゃってんで投稿していた声劇アプリ(ボイコネ!)が終了したので、お気に入りの台本や未発表台本を投稿させていただきます。どこかに「作・しゃどやま」と記載の上、個人・商用、収益化、ご自由にお使いください。朗読、声劇、動画などにご利用して頂いた場合は感想などからURLを教えていただければ嬉しいのでこっそり見に行きます。※転載(本文をコピーして貼ること)はご遠慮ください。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

夫以上の男、妻以上の女

ヘロディア
恋愛
不倫相手とデートに行く主人公。 その相手も既婚者で、かなり質の悪い行為とは知っていたものの、どうしてもやめられない。 しかしある日、とうとう終わりを告げる出来事が起きる…

処理中です...