恋する理由って…?

サドラ

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恋する理由って…?

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物事には理由がある。すべてのことに理由がある。理由がないものは大抵無駄なことだ。
なんだろう、中学三年生にもなると、こういう複雑で哲学的な問題を考えるようになった。
「まあ、そんなことはどうでもいっか」
僕は考えるのをやめた。別に今すぐ答えが欲しいわけじゃないしね。
そうこうしているうちに目的地に到着した。
『星乃学園』と書かれた門をくぐり抜けて、教室へ向かう。
二年前に、中学受験をして、この星乃学園に入学した。割と難しいところだ。
でもしっかりとした教育で(宿題も多くて)結構皆学力高いし、僕はついていけていると思う。生徒一人一人が着実に物事を捉え、考えるようになっている。僕はとくにそうなった。前はどうでもよかったことも考えるようになった。まあこれはいいことだと思う。
「おはよー!」
元気よく挨拶をする。するとクラスメートたちも次々に挨拶してくれる。
これがいつもの風景だった。僕にとって学校生活で一番楽しい時間だった。
今日も授業が始まる。
この授業を受けることにも理由がある。物事は形だけ取られていればいいものではない。授業しているつもり、受けているつもり、これでは偽物だ。しかし、本物など一握りもいない。例え名門校とかよそで言われている学校の数々にももれなく’落ちこぼれ’は存在するのだ。別に僕が落ちこぼれであるわけではない。…と一応思っている。
問題は、落ちこぼれであるか否かではない。僕はいつも成績のために勉強をするのではない。その勉強の内容をものにして、活かせるように生きている。成績を取るためだったら正直変な方法はいくらでもある。でもそれは違う。結局頭の中で理解しなければ意味がないのだ。
ここまで考えるようになっている。そして、その他の理由に、なんか気持ち悪いというところがあるのだ。中学受験のときもあった。志望校なんてものは無かった。有名な中学に受かって他のやつらが手に入れたいのは○○中学に入りました、という称号のような、他人に見せる見せびらかしのようなものを手に入れに行っているように見えた。僕はそれをとても嫌っていた。
こんなことを考えながら、僕は毎日の授業を受けていた。
昼休みになった。弁当を食べようと思い、席から立ち上がった。そのとき、僕の目の前にある人が座ってきた。
「おはよう! 涼介君」
笑顔で挨拶してきたのは、隣のクラスの女子・桜沢美鈴さんだった。
「うん、おはよう」
僕は軽く返事をした。本当はもっと話したいけど、今は少し恥ずかしかった。
「ねえねえ、今日の放課後空いてる?」彼女は首を傾げて聞いてきた。
「えっ……!?」
突然のことで驚いた。今まで一度もそんなことはなかったからだ。
「ちょっと相談に乗って欲しいことがあるんだけど……」
顔を赤らめて言った。
彼女の言う通り、僕たちは友達同士だが、僕は過度に彼女に干渉しすぎないようにしていた。彼女が頼ってくるまでは何も言わないつもりだった。
「う~ん……分かったよ」
「やったぁ!! じゃあ放課後待ってるね!!」
そう言って自分の席に戻っていった。
「何々? 告白ですか?」
周りのやつらは煽ってくる。
「そんなんじゃないと思うよ。」
とだけ返しておく。本当にそんなことはないはずだ。
放課後になり、僕はすぐに帰ろうとしたが、彼女から屋上に来てほしいと言われたので、行くことにした。
扉を開けると、そこには誰もいなかった。屋上には人はあまり来ないので、当然といえば当然だ。
「ごめんね、呼び出しちゃって」
声の方を見ると、そこにいたのは、やはり桜沢美鈴さんだった。気配を消すのがうまいな。
「全然大丈夫だよ。それで用件は何だい?」
そう聞くと、彼女は俯き気味になって、しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「あのさ……私、好きな人がいるんだよね」
「へぇ」
基本、他人には喜んで欲しいと思う。見返りを求めず、お互いを思いやれば、自ずと頼れる関係になると思うからだ。今日もそう思って来たが、まさか恋愛相談されるとは。
「だから、どうしたらいいかな?」
彼女は上目遣いで言う。
「どうすればいいかって言われても……」
どう答えるべきか迷った。
「何かアドバイス無いかな? 例えば、その人と付き合いたいかどうかとか」それを聞いて、一瞬戸惑ったが、こう答えた。
「そうだね……。まずはその人のことをよく知ろうよ。その上で、どうなりたいとか、どんなことがしたいのか考えてみようよ」
すると、彼女は納得したような顔になった。
「確かにそうだね。ありがとう! 涼介君に相談して良かった!」そして、満面の笑みでお礼を言ってきた。
「どういたしまして」
その後僕たちは、しばらく雑談をしていた。しかし、話が一段落したところで、僕は帰ることに決めた。
「じゃあ、また明日」
「うん!」
こんなに話すのは久しぶりだった。やっぱり彼女とは気が合う。
家に帰る途中、ふと思った。
僕は彼女のために助言したが、果たしてそれが正しかったかどうかは分からない。そもそも僕はただ思ったことを口に出しただけに過ぎない。これでいいのか、間違っていないか。こういうことを考えるといつも不安になってしまうのだ。
家に着き、玄関に入る。すると、母親が出迎えてくれた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
僕は返事をして、二階の部屋に向かう。荷物を置き、制服から部屋着に着替える。その間もずっと考えていた。
この考え事にも理由がある。物事を考えるときは大体理由があるものだ。この行動にも理由がある。僕はこの理由を知りたかった。理由を知ってこそ本当の自分になれると思っている。
着替え終わり、僕は勉強机に向かった。でもなぜかずっとさっきの放課後のことを考えていた。なぜだ……? どうしてだ……? 僕は今考えている。
僕は今まで考えたことがなかった。他人の気持ちを考えたこともなかった。結構自分が気持ち良ければよかった。でも、最近はそうでもない。
彼女にとってあの回答は間違いだっただろうか。
僕は恋愛感情を理解しきれていない。それは分かってる。恋愛感情を抱いた先で人はどうなりたいのか、どうありたいのか、僕には答えが出ない。今日の回答じゃ上辺かもしれないから、明日ちゃんと僕の思っていることを言おう。
翌日
「昨日、僕に恋愛相談してくれたよね?」
「え、あー、うん。昨日はありがとう。」
「いや、僕は昨日自分で出した答えが正しかったかどうか分からないんだ。」
「え?」
「僕にはそもそも、恋愛感情とはどこから来るのか、何を目的として、どうなりたい、どうありたいのか、その結論が出ていない。」
「む、難しいことを言うね…」
「あ、ごめん、引いた?」彼女は首を横に振った。
「いや、引いてないよ。むしろすごいなって思う。そこまで考えられるなんて」
「そっか、良かった。」
それから僕は、今までの自分の考え方を話した。
「つまり、君は相手のために行動するんじゃなくて、自分自身がしたいようにすればいいんじゃないかな。例えば……相手に好かれたかったら、自分を磨けばいいし、逆に嫌われたくなければ、相手が嫌なことはしないようにする」
「うわぁ……なんか深いね……! 確かにそうかも! 私、自分のことばっかりだったよ! 相手のことをもっと知ることから始めないとダメだね」
「そうそう。そういうことだね。じゃあ僕、教室に戻るよ」
「あっ! ちょっと待って!!」
「何?」
「えっとね、涼介君は、人を好きになることってある?」
「僕か…今のところないかな……」
「そうなんだ……まあ、そうだよね」
彼女は少し寂しげな表情をした。
「ごめん、変なこと聞いて。じゃ、また放課後」
「うん!」
そう言って彼女は席に戻った。
その日の授業中、僕は彼女のことが気になっていた。
昼休み 僕は一人でご飯を食べていた。友達がいないわけではないが、みんなで食べるより、一人の方が好きだ。それに最近、クラスの女子たちに話しかけられることが増えた。正直疲れる。
「ねえ、一緒に食べてもいい?」桜沢さんがやって来た。
「別にいいけど」
「やったっ!! ありがと」
そう言うと彼女は隣に座ってきた。
「いただきます」
そう言いながら弁当箱を開けると、そこには美味しそうな料理が入っていた。
「すご……」思わず声が出てしまった。
「そうかな? これぐらい普通だよ?」
「そんなことないって。毎日作ってるの?」
「うん。お母さんが仕事忙しくって、私が代わりにやってるんだよ」
「へぇ、偉いな」
「えへへ」彼女が照れた。
「ちなみに今日は何を作ったの?」
「唐揚げだよ」
「へぇ、美味しそうだね」
「はい、どうぞ」と言って、彼女は箸に一つ挟んで差し出してきた。
「えっ!?」
「はい、あーん」
「い、いいよ、悪いよ」
「もう、遠慮しないで!」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
唐揚げは美味しかった。
「何で僕なんかとお昼食べてくれたの?」
「え?」
「僕と一緒にいると、色々言われるかもしれないし」
「気にしてたんだ……。私は全然平気だよ。だって、涼介君優しいもん。困っている人がいたら助けてくれる。だから私も何かお返ししたくてさ」
彼女は少し赤面しながら語った。少し人に親切にしただけでそんなにいい印象を持たれていたのか。知らなかった。
「ありがとう」僕は素直に感謝の言葉を伝えた。
すると彼女はさらに顔を赤くしていた。どういうことだろう。まあ少し恥ずかいセリフではあるか。
「どういたしまして」彼女は微笑みながら言った。
僕はこの笑顔を見たとき、胸の奥に小さな痛みを感じたような気がした。
しかし、僕はその感覚を深く考えようとしなかった。きっと勘違いだと思ったから。それにまだその感情に当たりそうなものが分からなかったから。
午後の授業が始まった。先生の話を聞き流しつつ、僕は隣の彼女を見ていた。
彼女は真剣な眼差しをしていた。その姿はとても凛々しく見えた。
放課後になり、僕たちは帰る準備を始めた。
「ねぇ、一緒帰ろ? 途中まで」彼女が誘ってきた。断る理由もなかったし、彼女と話せる機会ができたので、僕は承諾することにした。
帰り道、僕は彼女から相談を受けていた。その内容は、好きな人のことについてだった。
「実はね、私の好きな人はね、すごくモテてるの。でも、その子は鈍感でさ、自分がモテているなんて全く思ってないみたい。でも私には分かるんだ。彼の優しさが伝わってくるんだ。でも、私には告白する勇気がないんだ……」
「この間より、すごくその人のこと考えて、解釈を広げているんだね。」
「うん!涼介君のおかげ!」
「そっか……」
僕は嬉しさと同時に不安になった。なぜだろうか。
「あのさ、桜沢さんってその人が他の誰かと付き合ったらどう思う?」
「うーん、それは嫌かなぁ……」彼女は悲しげな表情をした。
「そっか……」僕はその顔を見てなぜか苦しくなった。
そして、彼女の恋が実らないことを祈ってしまった。
どうしてこんな気持ちになるんだろう…… 家に帰るなり、僕はベッドに寝転んだ。
僕は自分の感情がよく分からない。今まで感じたことの無い不思議な気分だった。
「ああ……!」
明日彼女に恋愛感情についてもっと聞いてみよう。そしたら一つ僕の謎が解けるかもしれない。
「ねえ、桜沢さん、恋愛感情について、もっと僕に教えてくれないかな。」
「えっ?」
急に顔を真っ赤にして彼女は動揺し始めた。
「ど、どうしたの?」
「な、何でもないよ! うん……分かった……」
そう言って彼女は僕の目をじっと見つめてきた。
「じ、じゃあ説明するね」
「お願いします」
「まず、好きっていうのは、相手のことをずっと考えている状態を言うんだよ」
「あ、ごめん、そういう表面的なことはある程度知っているんだ。もっと深層的な内容というか、恋愛感情の先に、人は何を求めているの?」
「えっと、それはね……」
「うん」
彼女は少し黙った後、ゆっくりと語り始めた。
「私は、彼とずっと一緒にいたいの。例え辛いことや苦しいことがたくさんあっても、二人で乗り越えていきたい。それが私にとっての幸せ。…と言おうとしたけれど、なんかしっくりこないな。多分、理由なんてないんだよ。今の私には、理由なんていらないし。理由なんていらないくらい恋愛感情があるって十分なことなんだよ。」彼女はそう言い切った。
「すごいね……」僕は思わず声に出してしまった。
「えへへ……。どういたしまして」彼女は照れくさそうに笑っていた。
その瞬間、僕は心臓に電気が流れたような衝撃を受けた。今の言葉を聞いた時だった。
気づけば僕は彼女の手に触れていた。
顔が火を噴きそうなほど赤くなる彼女。「あっ……」
僕は我に帰った。何やってるんだ……。慌てて手を離す僕。
「え、えと、あの……」彼女が困惑している。
「ご、ごめん、つい……。いや、別に変なことしようと思ってたわけじゃないんだけど……」僕はしどろもどろになっていた。
「ふぅん」彼女はニヤリとして言った。
「な、何?」
「涼介君、私のこと好きなんじゃない?」
「それは全く分からないよ」僕は否定した。
「そっかぁ……。残念だなぁ」
「えっ!?」僕は驚いた。まさかそんなはずはないと思っていたから。
「私、涼介君のこと、好き…」
今までの彼女の言葉の意味がこのとき、僕の中で納得できてしまった。
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