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第一章(祈)

順応

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制服に身を包む望と俺。
こいつを見るたびに鏡を見ているようで変な気分になる。


15歳になった俺たちはもうすぐで学園の中等部を卒業する。


酷かった成長痛が和らいでいき、身長が伸びるスピードも揺るかになった。
でも、最近測った身長は望と全く一緒で、そろそろ髪を染めるべきか悩んでいる。


髪も瞳も身長も、全てそっくりな俺たち。違うのは性格と、あとは、体つきくらいか?


望は俺より少しだけ線が細い。昔の望は剣の稽古をサボらず完璧にこなしていたのに、今はサボりまくっているようだ。


稽古だけじゃなくて、勉強の方も手を抜くようになった。キッチリこなすアンドロイドが、今やダラけた生活を送っている。


注意しても授業をサボりまくるから、先生達にどうにかしてくれと頼まれたが、俺がどうにか出来るはずもなく。


「ちゃんと受けろよ」と言っても、笑ってスルーされた。


両親は赤点を取らなければいいと、望の好きにさせている。


だから、昔のように、俺と望が比べられることはなくなった。比べられることがあっても、俺の方が優秀だと言われる。


望が本気を出せば俺なんてすぐに抜かされると知っているから、褒められても大して嬉しくはない。


もしかして、わざと手を抜いているんじゃないかと思ったこともあったけど、手を抜こうが本気だそうが、それは望が決めることで俺に口出しする権利はないから…。


「祈、ネクタイ曲がってるよ」


望が俺のネクタイに手を伸ばしてくる。


「いい、自分でやる」


伸ばされた手を叩き落として、ネクタイを結び直した。


至れり尽くせり、望はなんでも俺に尽くしたがる。この上なく迷惑だけど、やめろと言ってもこの男は言うことを聞かない。


用意されている黒い高級車に2人で乗り込み、ゆっくりと車は学園へと進み始めた。


窓の外を見る俺と、俺を見る望。


うっすら窓に見えてんだよ、お前の顔が、その悦に浸った顔をやめろ。俺と同じ顔でそんな気持ち悪りぃ顔してんじゃねぇよ。


言っても改めない望に諦めること数度。
もうこいつの事は放っておくのが吉だ。


学園に着いて車を降りると、女子の騒いでいる声が耳に入る。
俺たち双子は、女子にささる容姿をしているらしく、視線がうざい。


その女子の輪の中から、1人の女が飛び出してきて、俺に抱きついた。

 
「おっはよー祈!あ、望くんもおはよう!」


先日、告白されて付き合った同い年の女。
明るい茶色の髪を巻いてふたつ結びにしている、可愛い系。

顔も可愛かったし、体も良さそうだったから付き合うことにしたけど、このスキンシップはうぜぇな。



「おはよう」と返すと嬉しそうに笑っている。
うん、顔は可愛い。



俺と同じようにこの女、桜に「おはよう」と言われた望は感情のない目で桜を見下ろし、返事をしない。いつも通りだ。


こいつは基本的に必要なこと以外話さないし、俺以外の前では幼い頃と同じ人形のまま。


桜は怯えた様子で望を見上げていた。


「わり。こいつの事は気にすんな」


「……うん」



桜が腕に絡んだまま教室へと向かう。その俺達の後ろを望は歩いていた。




「わーん。桜も同じクラスが良かった~」


教室に着くと、別クラスの桜が駄々をこねたはじめた。


「無茶言うな、早く行け遅刻するぞ」


「うぅ、じゃぁ、また昼休みに迎えにくるね」


「あぁ」


手を振る桜を見送ったあと、教室に入ろうとすれば後ろから腕をガッと掴まれる。


「……なんだよ」


振り向くと望が暗い瞳を俺に向けていた。


……あぁ、クソ……面倒なやつだ。
この瞳をした望はしつこい…。


「くさい」


「は?」


顔を顰めた望が、突如俺のブレザーを脱がしはじめた。
今の望に抗ったって無駄ということを俺はこの数年で学習している。大人しく望のされるがまま。


俺のブレザーを脱がし終えた望は、自分のブレザーを脱いで俺に渡してきた。


「こっち着て」


「……」


「これ香水くさい」


まぁ、たしかに。桜は香水つけすぎだけど。


「……流石にシャツ1枚じゃ寒いんじゃねぇの」


「カーディガン持ってきてるから大丈夫………って、え?祈、心配してくれたの?」
 

さっきまで歪めていた顔が、嬉しそうに爛々としはじめた。


「12月に流石にシャツ一枚じゃ不憫すぎるだろ」


「優しい!僕の弟、優しい!」


騒ぎはじめた望。うるさい。顔も声も態度も全部がうるさい。言わなきゃ良かった。


騒ぐ望の横で、渡されたブレザーを羽織る。


「それどうすんの?」


望の手にある俺のブレザー。


「え、捨てるよ。当たり前じゃん」


にっこりと笑っているこいつが捨てた俺の制服は、何枚目になるだろう……。


普通の家庭だったら、ブチギレられるところだけど、俺の家の財力じゃ、制服の1枚や100枚どうってことなかった。


せめて洗濯すればいいものの、洗濯しろと言ってもこいつのことだ、洗濯したふりして、新品を渡してくるに決まっている。


兄の狂い具合に上手く順応していく自分に呆れながら、とりあえずはこれが一番平和なんだと自分に言い聞かせた。



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