13 / 17
第一章(祈)
順応
しおりを挟む制服に身を包む望と俺。
こいつを見るたびに鏡を見ているようで変な気分になる。
15歳になった俺たちはもうすぐで学園の中等部を卒業する。
酷かった成長痛が和らいでいき、身長が伸びるスピードも揺るかになった。
でも、最近測った身長は望と全く一緒で、そろそろ髪を染めるべきか悩んでいる。
髪も瞳も身長も、全てそっくりな俺たち。違うのは性格と、あとは、体つきくらいか?
望は俺より少しだけ線が細い。昔の望は剣の稽古をサボらず完璧にこなしていたのに、今はサボりまくっているようだ。
稽古だけじゃなくて、勉強の方も手を抜くようになった。キッチリこなすアンドロイドが、今やダラけた生活を送っている。
注意しても授業をサボりまくるから、先生達にどうにかしてくれと頼まれたが、俺がどうにか出来るはずもなく。
「ちゃんと受けろよ」と言っても、笑ってスルーされた。
両親は赤点を取らなければいいと、望の好きにさせている。
だから、昔のように、俺と望が比べられることはなくなった。比べられることがあっても、俺の方が優秀だと言われる。
望が本気を出せば俺なんてすぐに抜かされると知っているから、褒められても大して嬉しくはない。
もしかして、わざと手を抜いているんじゃないかと思ったこともあったけど、手を抜こうが本気だそうが、それは望が決めることで俺に口出しする権利はないから…。
「祈、ネクタイ曲がってるよ」
望が俺のネクタイに手を伸ばしてくる。
「いい、自分でやる」
伸ばされた手を叩き落として、ネクタイを結び直した。
至れり尽くせり、望はなんでも俺に尽くしたがる。この上なく迷惑だけど、やめろと言ってもこの男は言うことを聞かない。
用意されている黒い高級車に2人で乗り込み、ゆっくりと車は学園へと進み始めた。
窓の外を見る俺と、俺を見る望。
うっすら窓に見えてんだよ、お前の顔が、その悦に浸った顔をやめろ。俺と同じ顔でそんな気持ち悪りぃ顔してんじゃねぇよ。
言っても改めない望に諦めること数度。
もうこいつの事は放っておくのが吉だ。
学園に着いて車を降りると、女子の騒いでいる声が耳に入る。
俺たち双子は、女子にささる容姿をしているらしく、視線がうざい。
その女子の輪の中から、1人の女が飛び出してきて、俺に抱きついた。
「おっはよー祈!あ、望くんもおはよう!」
先日、告白されて付き合った同い年の女。
明るい茶色の髪を巻いてふたつ結びにしている、可愛い系。
顔も可愛かったし、体も良さそうだったから付き合うことにしたけど、このスキンシップはうぜぇな。
「おはよう」と返すと嬉しそうに笑っている。
うん、顔は可愛い。
俺と同じようにこの女、桜に「おはよう」と言われた望は感情のない目で桜を見下ろし、返事をしない。いつも通りだ。
こいつは基本的に必要なこと以外話さないし、俺以外の前では幼い頃と同じ人形のまま。
桜は怯えた様子で望を見上げていた。
「わり。こいつの事は気にすんな」
「……うん」
桜が腕に絡んだまま教室へと向かう。その俺達の後ろを望は歩いていた。
「わーん。桜も同じクラスが良かった~」
教室に着くと、別クラスの桜が駄々をこねたはじめた。
「無茶言うな、早く行け遅刻するぞ」
「うぅ、じゃぁ、また昼休みに迎えにくるね」
「あぁ」
手を振る桜を見送ったあと、教室に入ろうとすれば後ろから腕をガッと掴まれる。
「……なんだよ」
振り向くと望が暗い瞳を俺に向けていた。
……あぁ、クソ……面倒なやつだ。
この瞳をした望はしつこい…。
「くさい」
「は?」
顔を顰めた望が、突如俺のブレザーを脱がしはじめた。
今の望に抗ったって無駄ということを俺はこの数年で学習している。大人しく望のされるがまま。
俺のブレザーを脱がし終えた望は、自分のブレザーを脱いで俺に渡してきた。
「こっち着て」
「……」
「これ香水くさい」
まぁ、たしかに。桜は香水つけすぎだけど。
「……流石にシャツ1枚じゃ寒いんじゃねぇの」
「カーディガン持ってきてるから大丈夫………って、え?祈、心配してくれたの?」
さっきまで歪めていた顔が、嬉しそうに爛々としはじめた。
「12月に流石にシャツ一枚じゃ不憫すぎるだろ」
「優しい!僕の弟、優しい!」
騒ぎはじめた望。うるさい。顔も声も態度も全部がうるさい。言わなきゃ良かった。
騒ぐ望の横で、渡されたブレザーを羽織る。
「それどうすんの?」
望の手にある俺のブレザー。
「え、捨てるよ。当たり前じゃん」
にっこりと笑っているこいつが捨てた俺の制服は、何枚目になるだろう……。
普通の家庭だったら、ブチギレられるところだけど、俺の家の財力じゃ、制服の1枚や100枚どうってことなかった。
せめて洗濯すればいいものの、洗濯しろと言ってもこいつのことだ、洗濯したふりして、新品を渡してくるに決まっている。
兄の狂い具合に上手く順応していく自分に呆れながら、とりあえずはこれが一番平和なんだと自分に言い聞かせた。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
イケメン幼馴染に執着されるSub
ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの…
支配されたくない 俺がSubなんかじゃない
逃げたい 愛されたくない
こんなの俺じゃない。
(作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)
少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました
猫むぎ
BL
外の世界に憧れを抱いていた少年は、少女漫画の世界に転生しました。
当て馬キャラに転生したけど、モブとして普通に暮らしていたが突然悪役である魔騎士の刺青が腕に浮かび上がった。
それでも特に刺青があるだけでモブなのは変わらなかった。
漫画では優男であった聖騎士が魔騎士に豹変するまでは…
出会う筈がなかった二人が出会い、聖騎士はヤンデレと化す。
メインヒーローの筈の聖騎士に執着されています。
最上級魔導士ヤンデレ溺愛聖騎士×当て馬悪役だけどモブだと信じて疑わない最下層魔導士
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
悪役令息に転生しましたが、なんだか弟の様子がおかしいです
ひよ
BL
「今日からお前の弟となるルークだ」
そうお父様から紹介された男の子を見て前世の記憶が蘇る。
そして、自分が乙女ゲーの悪役令息リオンでありその弟ルークがヤンデレキャラだということを悟る。
最悪なエンドを迎えないよう、ルークに優しく接するリオン。
ってあれ、なんだか弟の様子がおかしいのだが。。。
初投稿です。拙いところもあると思いますが、温かい目で見てくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる