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プロローグ
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しおりを挟む朝食の場に着くと、すでに父と母と祈が座っていた。
父と母に「おはよう」と言われたので同じ言葉も返す。
いつもだったら、そこで終わり。
祈とは極力話したくないから、挨拶なんてしてなかった。僕が挨拶なんてしたら、また騒いで、機嫌を悪くするだろうと思ったから。
でも今日は…。
「おはよう、いのり」
顔を下に向けて僕を見ないようにしていた弟は、僕の言葉を聞いて顔を勢いよく上げた。
特に意味はなくて気まぐれだった。
僕が挨拶をしたら僕の弟はどんな顔をするんだろうってただ、それだけ…。
父も母も驚いていた、でも1番驚いていたのは祈だった。
大きな瞳をもっと大きくして、僕を見ている。
瞳が溢れそうだなと、少し心配になった自分に驚いた。
「おは…よう、のぞみ」
怒って騒いでまた僕を責めるだろうと思っていた祈は、僕の予想に反して大人しくただ驚いた表情で挨拶を返してくれた。
「あらあらまぁまぁ!」と母が嬉しそうに隣の父の肩を叩いていた。父も何故か涙目だ。
使用人が食事を持ってきて食事が始まる。
今日は普段通りのブレックファーストにワッフルがついていた。
祈はワッフルを食べて「美味しい!」と喜んでいる。
「ワッフルが好きなの?」
自然に出た言葉だった。
祈は大きく口を開けた状態のまま止まった。フォークに刺さったワッフルが行き場を無くしている。
「……うん」
いつも煩い祈が今日は大人しくて不思議だった。
「そうなんだ」
「……」
「……」
「何、これ」
「何が?」
「いや、どうして俺の所にワッフルを置くの?」
「好きなんでしょ?」
「好きだけど…」
「だから、あげる」
目を輝かせて美味しいと言うほど好きなら、僕が食べるよりも祈にあげたほうがいいと思った。
ワッフルは美味しいけど、絶対食べたい訳ではなかったし。
祈は僕が皿に乗せたワッフルを見て、ゴクリと唾を飲み込んでいた。
早く食べたらいいのに。どうして食べないんだ?
祈りはゆっくりとフォークとナイフを動かしてワッフルを切ると口へ運んだ。
モグモグと口を動かす祈と視線が合う。
「何でこっち見るの…」
「美味しい?」
「え、お、美味しい…けど…」
「そう」
祈が咀嚼して飲みこむ姿を見てから、僕も残った食事に手を伸ばす。
祈は僕にチラチラと視線を向け戸惑っているようだった。
その日、祈は僕に近づかなかった。
僕は本を読み、剣の稽古をし、勉強をし、静かに過ごすことができた。ずっと望んでいた生活だ、誰からも邪魔されない、静かな生活。
なのに、何故か心が萎むような感じがした。
瞳を閉じて眠りに落ちる時、僕はまた明日もワッフルが出ればいいなと思った。
そしたら、また祈にあげるんだ。
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