上 下
2 / 2

prologue

しおりを挟む




誰かの視線を感じる。目を向けると、赤い髪をした男が廊下の角から、こちらを覗いていた。その男は周りに誰もいないことを確認すると、両手を広げて僕に近づいてきた。


またか、と突進してきた赤髪の男、アキトを受け止めるために僕も軽く両手を広げた。


「ユノさ~ん!」と僕に抱き着いてきたアキトは、ニコニコと嬉しそうに笑う。アキトは平均より少し低めの身長なので、上目遣いだ。うん、可愛い。


「おはよう、アキト」

「おはようございます!朝からユノさんに会えるなんて俺嬉しい!」


 可愛いな、とアキトの頭を撫でていると、腕の中からアキトが消えた。あぁ、もう終わりかぁ。と悲しくなる。


 「レ、レオ君!」と焦っているアキト。


 案の定、アキトはレオと呼ばれる黒髪の男に首根っこを掴まえられていた。


「ま~た、お前か!ユノに近づくなって言ってんだろ!」

「わーん!いないと思ってたのに来るの早すぎ!助けてゆのさ~ん」


 助けてあげたいけど、そんなことしたら、レオが拗ねちゃうからなぁ。ごめんねという思いを込めて手を振ると、レオがアキトを放り投げた。


ふぎゃ、と変な声を出して、地面に倒れるアキト。毎回、レオに放り投げられてるのに、諦めないな~。と感心する。アキトが懐いてくれるのは嬉しいけど、アキトの味方はできないから、アキトに愛想尽かされても、文句言えない。


 いくぞ、とレオが僕の手首を掴む。


 レオが「アキトに近づくな」って僕に言えば、僕はアキトと距離を置くのに。目も合わせないし話さないし、二度と会わないように逃げまくるのに。でも、レオは優しいから、これからも僕には「近づくな」って言わないんだろうな。


「なんであいつには効かないんだ……」って呟いてるレオの後ろで、アキトが、「またねユノさ~ん、レオく~ん」と手を振っていた。


 掴まれていない方の手で、アキトに手を振ると、アキトが歓喜の声を上げる。その声を聴いて何かを察したレオが僕を睨むので、アハっと、ごまかす様に笑うと、レオは疲れたようにため息をついた。


 













 僕とレオは幼馴染……らしい。らしい、っていうのは、僕には幼い頃の記憶がないんだ。
14歳の時に大きな事故に巻き込まれて、目が覚めたら言葉以外の記憶をなくしていた。


 病室には、両親以外に、レオもいて、僕に記憶がないと分かった時、両親よりも、レオの方が辛そうな悲しそうな顔をしていたのが印象的だった。この世の終わりみたいな顔。


 それから、僕らはずっと一緒。この世界のこと、全てレオが教えてくれた。


 僕とレオ、一緒にいすぎたのか、友達は全くできなかった。世間話くらいはするけど、友達と呼べるのはレオしかいない。別にそれでよかったんだ。

 でも、高等部に上がって、二年生になったころ。アキトが1年生として入学してきた。そして、何故か懐かれて、ことあるごとに僕に近づいてくるようになった。


 クラスメイト以外に話しかけられたことなんてなかったから、後輩のアキトがグイグイ来て戸惑ったけど、正直嬉しかったんだ。友達ってこんな感じなのかなって。


 でも、レオは違ったみたい。今もレオはアキトに敵意むき出しで、見つけたらすぐポイってするけど、出会った当初は、凄かったんだから。


 僕とアキトが会話してたら、問答無用で僕を連れ出して、追いかけるアキトを蹴り飛ばして、怒鳴りつけてたからね。


 あの時は、アキトはもう僕に話しかけてこないだろうなって思ってたんだけど、次の日もその次の日も、僕に会いに来てくれたんだ。レオも段々丸くなって、蹴り飛ばすことも、怒鳴ることもなくなった。アキトの粘り勝ち。


 僕もアキトと仲良くなりたいし友達になりたい、でも、そんなこと、絶対に言えない。


 僕とアキトが話してるって知ったあの日。レオが僕を連れ出して、アキトに暴力をふるった日。レオは、ひどく震えていた。僕の腕を掴むレオの手は汗ばんで、顔も真っ青で、目も赤く、今にも泣きだしそうな。普段のレオからは想像できないほど、乱れていた。


 理由は分からないけど、レオはアキトを……、いや、僕以外の人を恐れているんだ。







しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

弟は僕の名前を知らないらしい。

いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。 父にも、母にも、弟にさえも。 そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。 シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。 BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

過保護な不良に狙われた俺

ぽぽ
BL
強面不良×平凡 異能力者が集まる学園に通う平凡な俺が何故か校内一悪評高い獄堂啓吾に呼び出され「付き合え」と壁ドンされた。 頼む、俺に拒否権を下さい!! ━━━━━━━━━━━━━━━ 王道学園に近い世界観です。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

眠り姫

虹月
BL
 そんな眠り姫を起こす王子様は、僕じゃない。  ただ眠ることが好きな凛月は、四月から全寮制の名門男子校、天彗学園に入学することになる。そこで待ち受けていたのは、色々な問題を抱えた男子生徒達。そんな男子生徒と関わり合い、凛月が与え、与えられたものとは――。

人生イージーモードになるはずだった俺!!

抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。 前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!! これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。 何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!? 本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。

処理中です...