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二章
鋏
しおりを挟む「おい、起きろ」
肩をゆすられ目が覚める。鏡に映る自分を見て、俺はぽかんと口を開けた。
「これ、俺?」
「馬鹿みたいな反応してないでさっさと立て」
自分の姿を見て呆然としていると、ソファーがグルンと回った。立ち上がると、服の上から着ていた白いポンチョみたいなものを脱がされる。そのまますぐ座らされて、鉄さんは鏡を持って後ろ髪を見せてくれた。
「毛先で遊べるくらいの長さ残してるから、これからは自分でセットできるようになれよ」
「…セット…」
呆れたようなため息が後ろから聞こえる。鉄さんは、後ろにあるクローゼットから雑誌を1つ取り出して机の上に置いた。
「これ、やるから、勉強、しろ」
一つ一つの言葉に圧を感じ、俺は縮こまりながら「勉強します」と答えた。できる気はしないが、やるしかない。
毛先がぴょんぴょん跳ねてて、ふわふわしたオシャレな髪。生まれ変わったかのような、自分の姿に心が躍る。
「鉄さん…ありがとうございます。何だか俺じゃないみたい。ちゃんとしなきゃって背筋が伸びます」
「当たり前だ。この俺が切ったんだぞ。お前は一生背筋を伸ばして俺に首を垂れろ」
中指を立て舌を出す鉄さん。最初は怖かったのに今は尊敬の気持ちが勝って、そんな姿もかっこいいなと思ってしまう。
「はい」と笑顔で返事をすれば、鉄さんは驚いたように肩を揺らした。
「……まぁいい。ここからが本題だ。この俺にただでカットしてもらえると思ってないだろうな?」
「あっそうか、お金。すいません。今手持ちがなくて必ずお支払いします」
「いや、金はいい。代わりに俺の質問に答えろ」
先ほどとは違う、竦み上がるようなオーラ。
鉄さんは鏡越しに俺を見る。睨まれているわけじゃない。ただ観察するように、俺の言動を表情を見逃さないと言わんばかりの瞳。
蛇に巻き付かれ、首元を狙われているような錯覚に陥る。
「何故、お前がチカさんたちと共にいる?」
「…け、怪我したところを助けてもらって。行き場のない俺をチカが拾ってくれました」
さっきとは別人のような姿に冷や汗が背筋を流れる。
「なぜ、チカさんがお前なんかを傍に置く?見たところ特徴のない、ただの男だ。お前に価値があるのか?」
チカが、俺を傍に置く理由?俺の価値?そんなの俺にだって分からない。俺だって知りたいよ。
「…分かりません。ただ、ダイがチカが俺を気に入ってるって…」
「は?」
低い低い声。持っている鋏を突き刺されたのかと思うほどの殺気が鉄さんから漏れた。
でも、それは一瞬の間で。次の瞬間、鉄さんは口から笑い声が漏れた。部屋を覆う笑い声。よほど、面白かったのか、手を叩き笑っている。
鉄さんが笑っているのに、俺の体の硬直は解けない。
「あー、はは、久しぶりにこんなに笑ったわ。えーっと、なんだっけ、チカさんが気に入ってるから、傍に置かれてるんだっけ。何の価値もないお前が?あの人たちの力になれないお前が?」
ジョキン、ジョキン、と鉄さんが鋏を鳴らす。
「拾われて、同じマンションに住んで、衣食住の世話をさせられて、なぁ、お前、人間っていうよりペットみたいだな。わんわんって鳴いてみるかぁ?」
……何も言い返す言葉がない。鉄さんの言う通りだ。俺はチカに拾われ、チカに面倒を見られてるペットみたいなもの。
「あの人達の役に立てないなんて、死んでもごめんだし、無能が傍にいることにも虫唾が走る」
いいこと思いついた、と鉄さんが笑って、鋏を鳴らす。
「お前、殺そう」
「…え?」
急に告げられた死の宣告。
「そうすれば、俺もハッピーだし、チカさんもお荷物無くなるし、いいこと尽くし」
今日一楽しそうに笑う鉄さんをみて、ガチだと悟る。ねぇ、ダイ、絶対嚙まないって言ってなかった?殺意マシマシで鋏拭いてるんだけど、どうしたらいいの。
叫び声をあげたくても、声がでない。もう、終わったと、涙が出そうになった時、
「鉄、そこまで」
扉を開いて、チカが部屋に入ってきた。
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