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一章

独りぼっち

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俺が産声を上げたとき、母が息を引き取った。


母を愛していた父は俺を恨んだ。お前が死ねば良かったんだ!って。


それを人伝に聞いたとき、そうゆうことかと納得した。どうして僕にはお父さんがいるのに会えないんだろうって幼い頃、不思議に思っていたからだ。


父は母を愛していた。母も父を愛していた。
でも、父にはすでに奥さんがいて。その奥さんも父を愛していた。


別れを切り出しても、首を縦に振らず、離婚が成立する前に母は妊娠。父も母も喜んだ。まだ成立していないけど、必ず結婚しようと約束し、


母はいなくなってしまった。
俺だけが生き残ってしまった。


父はね、俺を見たくないんだ。生きる意味を無くした屍のように、ただ働くだけの人形のように、毎日仕事ばかりしている。


離婚は成立していない。もう母はいないからどうでもいいんだそうだ。


俺は父の姓に入り、義母と共に暮らした。やはり、義母は俺を恨んでいた。


幼い頃から、俺は義母のサンドバックだった。イラつけば殴られ、泣けば蹴り上げられ、熱湯をかけられたこともあるけど、俺はそれを覚えていない。


痛みは慣れがくる。いつかは治る。嫌だったけど仕様がないって、自分に言い聞かせた。


だって俺は罪の子だから。
だって愛されていないから。

生きる意味がない。死にたいけど、俺は母の命をもらって生きてるから、だから…。


この家には父しかはいれない部屋がある。でも俺は、その部屋に何度か入ったことがあるんだ。
今はもういないけど、その部屋の掃除を担当していた使用人が「燈和さまのお母様ですよ」って招待してくれた部屋。


そこには、柔らかくて綺麗で優しい、どこか俺に似ている女の人の写真がたくさん置いてあった。


父と2人で鼻を合わせ微笑みあっている写真。
海辺で肩を並べている写真、母が向日葵の中で微笑んでる写真、沢山の思い出が、飾られていた。


その中の一つに、大きくなった母のお腹にキスを落とす父の姿があって、俺は、どうしようもなく泣きたくなった。


俺はこんな父の姿見たことない。俺が知っているのは死神のように暗く、笑いもしない、冷たい男だ。こんな幸せな顔で笑うなんて。


死にたい。愛されないなら死んでしまいたい。
でも、こんなに愛されていた母が、俺のせいで死んでしまったんだって考えると、死ねなかった。
 

だから、我慢できた。
独りぼっちで痛くても、18年間ずっと耐えてこれた。


だけど、俺は逃げ出してしまう。
家を出て街に来て、不良にボコボコにされて、俺は3人に出会う。







━━ねぇ、母さん。
俺、逃げてもいいかな。
幸せになりたいって、お腹が痛くなるほど大笑いしてみたいって、そう思ってもいいかな。


俺は独りぼっちで、誰からも愛されてない人間だけど、俺だけの人生を送ってみたいって望んでもいいかな。


ねぇ、母さん。
貴方は俺に何を望んでいますか?



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