上 下
66 / 84
夜会

5

しおりを挟む
 翌日はお休みにした。ちょっと腰が。
「また、おかしなこと始めた」
 また、て何よ?ラジオ体操にもちゃんと入ってる腰を回す運動だよ。
「トルードさんって弓使えます?」
「弓?いいえ、私は剣よ。なに、どうしたの?」
 もう冒険者って隠さないんだね。
「森の中だったら弓かなーって。火は厳禁だよね?」
「そうね。ニイナさん水も使えるから、すぐ消火はできそうだけど。火を使わない方向の方がいいわ」
 なぜ水を使えるのを知っているかというと、料理している時にちゃちゃっと魔法で出しているのを見たからだ。すぐ水を出せるのが便利でつい。初めは、そんなことに魔法を使うなんて、て言ってたけど最終的にはうらやましがられたのでいいとしよう。
「弓は訓練しないと使いこなせないわよ?それに意外と筋力いるんだから」
 …ですよね。そんな予感はしてましたよ。
 森といったらエルフ、エルフといったら弓、というイメージだから聞いてみただけです。
 氷を矢のようにしてとばすかなー、風魔法も使って。
「…どっか行くのか?」
 スミがぽつりと聞いた。
「うーん、皮が欲しいのよ」
「?売ってんじゃん」
「オリジナルのマントを作りたいの」
「なるほど、素材集めね」
「スパイダーを調教したら手っとり早そうなんだけど、そういう魔法ってある?」
 糸を出してもらいたいのだ。丈夫そうだし。それに対する対価はなんだろう。餌なのかな。
「それは魔法じゃないわね」
 魔法ではない。魔法使ではできない。
 獣魔士か。前に聞いたことがある存在だ。会ったことはい。フルドラは獣魔士ではない、剣士だ。たまたま相性のいい相棒に出会えることもあるってこと?従ってる感じじゃなかったもんね。友達、みたいな。
 スパイダーと友達ってどういう感じ?想像できない。表情がさ、ないじゃん?喜んでるのか、楽しいのか、嬉しいのか、わからないと会話できない。
 だからそういうことじゃないんだよなぁ。うまい案が浮かばない。
 正直倒した方が早い。
「オレのお菓子はどうなる」
 知らないよ。なにマジメな顔してそんなことさらりと言ってるのさ。
「自分で作りなよ。お、いいじゃん。スイーツ男子!レシピかいとくから。うん、スミは器用だしマジメだから、きちっとはかってちゃんと作りそう。合ってるよ」
 ここを旅たつ前に書き留めておこう。全般的に好きだよね、スイーツ。
 水のスライムを固くして、透明な計量カップとボール作っていこう。
「あら、いいわねぇ。私、試食してあげるわ」
「ただ食いたいだけじゃん」
 うん、そうだと思う。
「きっとマルさんも大喜びするわ」
 照れて赤くなったスミを感極まってぎゅっとハグする(仮)マルさん。トルードさん、それをニマニマしながら見てるんだろうなあ。
「いいね」
 親指をたてると、
「でしょでしょ~」
 と同じポーズを返してきた。
「パウンドケーキが一番簡単だから、とりあえずそれにしとく?材料いれて混ぜて焼くだけよ。あとは飾り付けを派手にしたら見栄えもいいよ。好きな果物とかいれてもいいし、プレートもいいね。クッキーにチョコで文字を書くのどう?」
「メッセージを書けるのかしら」
 そこまで長いのはムリかな。大きさにもよるだろうけど。
 水のスライムをうす~く延ばしてクッキングシートみたいの作れないかな。固まらないように何かに包めばいい?でもそんな素材ないし。ここは便利な魔法でいろいろ試してやってみよう。
「まずは、どんなものを作りたいか絵を描いてから作るといいよ。想像できるし、手順も決めやすいから」
 時間の無駄なく作るには、順番が大事だからね。
「作るのは決定なのかよ」
 あきらめが混じる声だ。がんばれ。
「「決定ー」」
 いいじゃん、息子からのケーキ。私なら嬉しくて涙出ちゃうよ?
 カララーン。
「いらっしゃいませー」
 挨拶もなれてきたなぁ、トルードさん。
 新規のお客さんかな。自分が薦めた宿に人が来るってうれしいなぁ。押しを認められた、みたいな。そうだろそうだろ、ここはよいとこだぞ~。
「よかった、会えました」
 …!聞き覚えのある声に振り返ると、ガーゼイがいた。
 なぜに?!驚いてあやうくイスから落ちるとことだった。このカウンター席のイスはちょっと高いのだ。
「ニイナさん、知り合いの方?」
「えっと…はい」
 明らかに泊まりに来た客には見えないよね。
「あれ、貴族じゃねぇの?後ろにいるの、この前の人じゃん」
 スミの言うとおりガーゼイの後ろに立っているのは、セバスンさんだった。
「…違うわ。別の人物よ」
 トルードさんが驚くことを言った。
 え?そうなの?双子とか?思わずスミとあんぐりと口を開けて見合ってしまった。
「ディタ殿。少しお話をさせていただきたい」
 …この前の話、だよね?断れるか?押し切られそうで、自信がないんだけど?!
「ディタ?」
 しっ。スミ、そこはスルーして。
「こ、この二人がいてもいいなら、聞きます」
「え?」
「は?」
 右手でトルードさんを、左手でスミをがっとつかむ。逃がさないわよー。
 うそ、お願い。一緒にいてよ~でないと流されそうなんだよ。
「…わかりました」
 苦笑して折れたよ。ほっ。
「まじか?」
 スミが唖然としていた。ガーゼイは臨機応変に対応できるタイプなんだよ。普通の貴族ならムリだろうけど。
「仕方ないわね。それなりの理由もありそうだし。あちらのテーブルへどうぞ」
 立ち上がってトルードさんが案内する。先日、お嬢様が使ったテーブル席だ。
「早くしないと他のお客さんたちが帰って来ちゃうじゃない。そうしたら大騒ぎよ?」
 …確かに。お客さんは全員女性だからね。ガーゼイを見たら、騒ぎになること間違いないわ。
「追加だからな」
 お菓子の追加、了解ですっ。
 ガーゼイの前に私、隣にスミに座ってもらう。執事さんとトルードさんは立っている。
「まず、突然ここに押しかけてしまったことに謝罪をさせて下さい。彼は、セバンス。私の執事です」
 セバンス?スとンをひっくり返しただけじゃん。
 セバンスさんは腕を胸にやってお辞儀をした。お~キレイ。拍手したい。
「まじそっくりなんだけど」
 だよね。
 君の貴族を前に口調が変わらないところに、将来大物になる可能性をおばちゃんは感じるよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある婚約破棄に首を突っ込んだ姉弟の顛末

ひづき
ファンタジー
親族枠で卒業パーティに出席していたリアーナの前で、殿下が公爵令嬢に婚約破棄を突きつけた。 え、なにこの茶番… 呆れつつ、最前列に進んだリアーナの前で、公爵令嬢が腕を捻り上げられる。 リアーナはこれ以上黙っていられなかった。 ※暴力的な表現を含みますのでご注意願います。

祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。

rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...