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夜会

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 …。
「は?」
 耐性ついてなかったわ。おかしいなあ。素で聞き返しちゃったよ。
「夜会って貴族たちが城とかでダンスするやつ?」
 イメージは、キラキラシャンデリアのしたで、おほほ~うふふ~でワルツをくるくる回りながら踊る感じ。
「ええ。皇宮で行われる皇族主催の全貴族が集まる年一回の夜会です」
 顔見せ的なやつか。なら出ればいいじゃん。
「昨年までは、騎士団の仕事を上司に押しこ…巡回の仕事で避けていました」
 今、押し込んだって言おうとしたよね?
「今年は同じ手が使えない?」
「リヴァイアサンの討伐の祝いと、勲章授与があるので無理でした」
 でもその表情からいって上司には掛け合ったんだな。だがダメだったと。ご愁傷様。
 勲章もらえるのか。がんばったもんね、騎士団と魔法使省。うんうん。
 あ。もしかして。
「騎士団代表?」
「はい」
 だよねぇ。普通は騎士団長かもだけど、あの時最終的に首落として決着つけたのはガーゼイだもん。
 ちょっとまって。
 それって…私のせいじゃない?!あの時、ストレングスかけたから。
「あそこで首を落とさねば、さらに被害が広がっていました。感謝しています」
 う…。すかさずフォローがはいる。より刺さるわ…。
「ただ授与式に参加するだけならいいのですよ。儀式ですし。そのあと仕事に戻ればいいので」
 いやいやそれはさすがに無理じゃない?立役者で皇帝から勲章もらった後に巡回する騎士って。どんだけ警備に手が足りないんだって話。誰も許可出さないでしょうよ。
「問題は、両親がパートナーと参加しろと言い出したことです」
 続きがあった。パートナー。女性よね?そんなのいっぱいいるでしょう。相手が見つからないわけはない。引く手あまたのはず。船の見学会の時だって囲まれてたし。あ、もしかして。
「女性が苦手、ですか?」
 ガーゼイは苦笑した。仕事上のつきあいなら普通だと思う。
「押しの強い方は」
 まあ、そりゃそうだ。同姓でも苦手よ、そんな人。
「気弱な方もいますよね?」
「…出会ったことありませんね」
 え?なに言ってるの?そんなわけない…あるの?この国に来て特にそんなこと感じたことないけど。
「お兄さんの奥さんは、平気なんですよね?」
「彼女は幼い頃から知っていますし、昔から姉のようなものです」
 肉食女子の中に草食女子が入れるわけもなく、自然と排除されてしまい、ガーゼイの周りにはいなかった、と。
 不憫だー。どこかにいると思うよ。陳腐な言い方すると『運命の人』が。
 出会いだよ、出会い。ガーゼイに足りないのは強い女子以外の女子だな。世の中は広い。仕事ばかりだと出会える子にも出会えないよ。ましてや仕事場が皇宮なんだからさあ。
 三男だと婚約者も決めないのかな。そこは家庭にもよるのか。こういう時は婚約者いる方が何も考えないで楽なのかもねぇ。
「ディタ殿」
 …なぜこっちを見る。
「パートナーになって参加していただけませんか?」
「却下で」
 即、お断りだ、そんなもの。
 無駄にいい笑顔で私を見るんじゃない。意味ないからね?つられないからね?
 そんな夜会なんて面倒に決まっている。やっかいごとに巻き込まれる匂いしかしないよ。目立つポジションは、ノーサンキュウだ。
「ディタ殿なら、安全でよけいな心配もなく一緒に横に立っていられます」
 安全ってなに?普通は安全じゃないのか?
 私が安全じゃない確立がめっちゃ高そうだ。
「変なアピールされたり、薬盛られたりもないでしょうから」
 はあ?!そっちの安全か。そりゃ私はそんなことする必要もないからしないけどさ。てか、犯罪じゃん。
 怖いわー。ハニートラップをかけられた経験が一回だけじゃないのね。もてる、ていいことばかりでもないんだなー。
「貴族って大変ですね」
「いい案だと思ったのですが。ダメでしょうか」
 ダメに決まっている。
 あ、このままここにいたら説得されてしまうかもしれない。あぶないあぶない。
「後腐れのない親戚に頼むとか、誰かに偽のパートナーを頼むとか、他の手でお願いします。えっと、もう時間ないので失礼しますね」
 うう、コーヒー豆買いたかった。また、来てやる。こっそりと見つからないように。
「あ、待って下さい。外までお送りします」
 いいから。危険な話に流される前に帰りたいだけだから。
 放っておいてくれてもいいのに。こういうとこちゃんとしてくれるんだよ、はぁ。
 店をあわただしく出た。
「すみません、困らせてしまいましたね」 
 困っているのはガーゼイだ。でも、私では役に立てないよ。
「いえ、お役に立てず申し訳ないです。カヒリごちそうさまでした」
 お礼を言う。
 また、おごってもらっちゃったんだよね。さらりと。
「久しぶりにとても楽しい一時でした」
「パートナーと必ずしも結婚しないといけないわけじゃないと思うので、人をやとうのも手だと思います」
 偽装恋人とかそういう商売はここにはないのかしら。
「そ、うですね。もう少し考えてみます」
 うんうん、それがいいよ。頭を柔らかく、ね。
 初めに会った時よりかは顔色よくなったかな。おばちゃん話し相手にはなれるからね。
 手を振って別れた。乗り合い馬車に向かおうとしたところで、知っている人物を見かけた。
「セバスンさん?」
 まあ、帝都にいてもおかしくはない。今日もお嬢様の買い道楽につきあってるのかしら。ほほえましい。あ、今度会ったら帝都でのおすすめスイーツのお店聞いてみようかな。彼女はツンツンしながらも嬉しそうに教えてくれそう。


「坊ちゃま。探しました。急ぎの手紙がありますゆえ屋敷にお戻りを。といってもいつものでしょうが」
「…セバンス。彼女を知っているか?」
 なぜディタ殿はセバンスを知っている?あの表情は、実際に会話をしたことのある知り合いに声をかけるか、だ。ただ見かけだけ知ってる知り合いではない。
 いや、違うな、名前が。
「乗り合い馬車停留所へ向かうあのフードの方ですか?顔には見覚えがございませんが、よく見ていたわけではないので」
「おまえを見て『セバスン』と呟いていた」
「それでは、あちらの知り合いではないでしょうか。最近よく似ていると、双子のようだと忌々しくも言われているのですよ」
 珍しく顔をしかめている。二人を知っている者としては、似たもの同士、だと思うが。
「…なるほど。まだチャンスはあるということだ」
 ならば、情報を集めよう。あちらの方も。手札は多い方がいい。
「至急調べて欲しいことがある。屋敷に戻る」
「はい。かしこまりました」
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