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冒険者へ

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 とにかく、回収せねば!魔物を回収…ラオンと同じ水球しか浮かばなかった。とりあず包む。それでも胴体はすでに半分消えていた。もう頭部しか取り込めない。あー、グロい。これ以上消えないでー!
 ふ~危なかった。ここにきて一番焦りだったわ。前から消えなかったことに感謝しよう。角は陸に戻ってから切断しよう。
 丁度杖から伸びたムチのところで包めた。杖のグラビティを解除する。おお、風船みたいだ。
 帰りは水晶で戻ればいいだけだ。もしかして、また水流?最後くらい転移でいいと思うんだけど。どうかしら?
 宝箱の奥の壁に水晶があった。忘れ物ないかな?見回して。他に取るモノはない。OK。
 水晶にさわる。ガコンと作動する音がした。
「うそー」
 また水流だ。だって初めてのダンジョンのときはボスのときこんな音しなかったし。このダンジョンだけだよー、なんでよー。
 疲れてるのにこれは、きついって!海面でたら、まずポーション飲むぞー。じゃなきゃ宿までたどり着けないかもしれない。体力ないんだからさー。
 あ、角の水球をしまい忘れた。転移で戻る気満々だったから。絶対手を離さないように杖を両手でぎゅっとつかむ。
「うわあ~」
 なんかいつもと違う感じがした。五層だからか?一番深いところだから距離が長く感じるの?それともただの疲労感からくるもの?
 うへ、私は回転系が苦手なのよ~ジェットコースターは好きだけど、回るやつは酔ってしまうからさ~。無事地上まで戻してくれるんでしょうね?!ここまできて、なかったことになんてなったら泣く。
 水晶が罠とか聞いたことないわよー。もう「きゃー」というより「ぎゃあー」だ。
 あ。
 嘘でしょーっ。明るくなってきたと少しほっとしてきたら、海の上に出てた。出たというか、打ち上げられた。空に浮かんでる!
 あれだ、鯨の潮吹きだよ。う~この浮遊感ゾクゾクくる~。嫌いじゃない。嫌いじゃないけど。次にくるのは…落ちるってことで?!
『バルーン』
 浮かばないと、と思ったけど単語がわからなっくて、もう風船しか出てこなかった。それらしきものを今手にもってるわけで。
 結果オーライだけどさ。
 ふざけんなよっダンジョン!
 これはちょっとソロンに文句を言おう。この情報めっちゃ大事じゃん。魔法使えない人は海に真っ逆さまに逆戻りだよね?大怪我だよね?半端な距離じゃないよ?ラスボス倒したら、安全にダンジョンの外に出られるって思うじゃん?そういうものだと思ってたわよ。もう。
「そうだ、フロートだ」
 思い出した。コーヒーフロート飲みたいよ。クリームソーダ、て英語じゃないんだよね。アイスが浮かぶ=フロート。
 足がつくところで魔法を解除する。全身ずぶぬれなのでまだ海でも、歩けるところであればいい。
 歩くと余計に体が重く感じる。足をひきづっている感覚だ。
 ところで。
 ここはどこだろう?いつものダンジョン入り口付近ではないのは、すぐわかった。だって目の前は砂浜だし。ビーチ、なのだ。人はいないけど。空は変わらず青く広がっている。その後ろは大きな崖になっている。上には建物らしきものが見えた。あれを登らないとだめかなぁ。この砂浜どこまで続いてるのだろう。砂浜で休憩してからかなー、とりあえず。お腹もすいたし。もうおばちゃんクタクタだよ。
 まず、重いのはこの魔導具だな。忘れてたよ。カポッと取ってボディバッグにしまう。
 あぁ~縛られない自由ー。空気がおいしく感じられる。
 毎回思うけど、脱ぐ度に開放感を味わえる。休憩したらこの角を切り離す作業をしてみよう。ここなら誰もいないし、魔法かけまくっても平気な…。
 い、いたよ、人。いつの間に。しかも女の子。さっき気づかなかったな。それだけ疲れてたってことかも。
「こんにちわ」
「こ…こんにち、わ?」
 まずは挨拶。あれ?おびえてるような。いきなり声かけるのはよくなかったかな。不審者か?
 ーまって。自分の格好を確認する。全身ずぶぬれの上、魔物との戦いの形跡あり。手には杖と空中に浮かぶ魔物風船。しかも半分切断という状態。グロい。…怖いね。怖いよ!
「え、えっとあの。ダンジョン帰りの冒険者です。決してあやしい者ではありませんっ」
 あわてて弁解してみるが、自分で言っててあやしさ満開だ。
「ここはどこかな?お嬢さん」
 しゃべればしゃべるほどあやしい人倍増な気もしてきたけど、場所が知りたい。
「ーっ」
「おじょうさまーっ」
 ん?右の方から二人走ってくる。あの服装は、剣士か?いや騎士?
 確かにこの子お嬢様っぽい。服装もだけど、パラソルさしてるし。どこか品がある。こんな所にお嬢様なんて…。
 あ。いるじゃないか!貴族の療養中だというお嬢様が、て。ということは、あの崖の上の建物は、近寄るまいち決めた貴族の館では?!お、う…。
「なにやつっ」
「お嬢様お怪我は?!」
 ーうーん、私どっから見ても怪しい人物だ。
 こちらに剣を向け、お嬢様を守る二人は正しいと思う。職務上そうなるよね。
 これ、どう弁解したら解放してくるかなぁ。面倒くさいなー。こっちは早く休みたいし、お腹すいてるし。そろそろ限界なんだけど。
 相手して逃げるのは簡単だけど、その後指名手配とかになったらもっと面倒だ。それこそ冒険者の資格取り上げられたら嫌だし。どうしようかなぁ。
「なんだ?そ、れは」
 あ。まだ浮かせてたわー。杖ごとさっとバッグにしまう。うん、君たちがみたのはきっと幻だよ。
 三人は当然ながら「え?」て顔してる。
 今日も空が青くていい天気だね☆
「貴様っ」
 あの剣を借してくれないかな。あれなら角を切れると思うんだよね。ストレングスかければ。私でもできるかしら。失敗はしたくないな。頼んだらやってくれるかな。
「あのー。え」
 こっちに剣を振りかざして向かってきてた。
 背後でお嬢様ともう一人が何か叫んでる。剣士の声が大きくてよく聞こえない。それに咄嗟に防御壁を作る。あ、ここ海だった。元になる水が多すぎた。つまり材料過多で。魔力の量を間違えたわー。
 ドォーンっと水しぶきが上がる。水の壁越しに見えたのは騎士の驚いた顔とキラキラ光る剣の先だった。いや、これもうこっちに突き通ってるわー。
 久々に魔力を使いすぎた。まぶたが自然におりていく。開ける力がない。まぶたって重いんだなぁ。そして、今自分は後ろにひっくり返る最中だろう、と。真上の太陽のまぶしさをかろうじて見ながら思った…。
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