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冒険者へ

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 翌日は、ギルドには行かず自分の為に洞窟へ行って取ってきた。初級者用は入り口はいって進むと割と広い場所に出る。そこで大体取るわけだ。もちろん、他にも道はあるけど、狭かったりすぐ行き止まりになったりしてパーティだとやりづらいかも。こちとら気にならない気楽なソロだからねー。
 広い場所の方が水のスライムも多くいるので、他の人たちはわざわざ奥まで行かないようだ。私にとっては好都合だけど、人がいない方が。時々、他の魔物も出るけど、初心者ダンジョン中層くらいまでのレベルだし、危険度は低い。そして、入り組んだところの方が、エビの出現率が上がるのだ。これ重要。あれ?食料目的?
 まあ、いいや。おいしいからね。今日も即席ランチいただきます~。
 それにしても不思議だ。水のスライムっていなくならないのかしら。反対に多くなりすぎて洞窟からあふれるってことはないのかな。
 トルードさんに今度聞いてみよう。あの人、冒険者の話詳しそうだからさ。
 あ、今のおいしい。なんだ?今までと違う種類なのかな?すごく甘い。よく見ると他のよりピンク色が濃い。昨日はなかったな。その後も探したけど、見つからなかった。これも聞いてみよう。
 ついエビを探していたら遅くなってしまった。混んでる時間はイヤだなぁ。満員電車を思い出す。みんな『クリーン』をかけてほしいわ。臭いが。これで酔いそうだよ。
 なんだか精神的に疲れたので、早く寝ることにしよう。トルードさんに心配されたけど、仕事ではなく、交通手段に疲れただけなのです。

 水の洞窟は、ダンジョンだからスライムがいなくなる、ということはないらしい。一度に大量消滅すれば一時は少なくなるかもしれないけど、また元にもどっていくのだそう。う~ん、不思議な世界だ。
 で、あの甘いエビ。ピンシュリンというかわいい名前で、なんと高級エビだった。うらやましがられた。
「そこを売らないで食べちゃうのが二イナさんよねぇ」
 いや、知らなかったからさ。でも、知った今でも食べるね、うん。
「口の中がほわ~んと甘さで溶けていったんですよ」
「なにそれ。甘いのってうまいのか?」
「「うまい」」
 トルードさんとはもる。
「今度見つけたら、ぜひ売ってちょうだい!」
 と、何度も念をおされたけど、レアだって言ってたから期待はしないでください。

 壷に魔法をかけて無限にしてもよかったんだけど、一応買い足すことにした。ちょっとビクビクしてるからか、どうも自分が見られている気がしてならない。こういうのは、気のせいだよね。思えば思うほどドツボにはまりそうな感覚。
 購買コーナーへ行く。ギルドのこういうとこは便利だよな。最低限そろう、ていうのが。ポーションは勿論売られているけど、壷とスコップのセットがここでは一番売れているんだろうな。スコップはもういらないから、壷単品しか選択はないけど。
「この壷単品で一つください」
 ファーストフード店みたい。あーハンバーガー食べたくなってきた。
「っ。不正者には売れません」
 は?不正者?私?周りを見回しても、この人は私に言ってるようだ。
「とぼけても無駄ですよ。ネーシャさんから情報は上がってきてるんです」
 いや、ドヤ顔で言われてもな。その前にさ、その名前の人だれ?反対に私の方が「なに言ってるんだコイツ」という表情に担当者はびっくりしたようだ。
「まさか、このギルドに来てネーシャさんを知らないなんて」
 もしやギルドマスターとか?そんな偉い人に会うわけないでしょうが。いちいち冒険者に挨拶するとか?暇人かよ。大体このギルド来るの三回目だよ?それらしき人も見かけたことないし。
「代わりますわ」
 女の人の声がして、視線を向けると、確かこの前列ができてた受付嬢だったような。
「ありがとうございます。しかし、お手をわずらわせるわけには」
「こういう者には厳しく言ったほうがいいいのですわ」
「は、はい」
 なに、この茶番。なんかの劇ですかー?いつの間にかギルド中の視線集めてるじゃん。
「あなた、一昨日水のスライムを納品しましたわね?」
 したけど、それが何か?
「一日であの量はおかしすぎますわ。ユーミは騙したようですけれど」
 ん?ああ、この前の受付の人か。目が合うと、驚いて顔を横に振っている。てことは、この人の独断に近い?
「第三者のモノを横取りしたにちがいありません」
 その物言いにびっくりする。
「なんて卑劣な」
「猫ばばかよ」
 冒険者たちから非難の声が上がる。
 あれ?これって私が他の人のを盗んで壷に入れて、納品したと思われてるの?確かに量じゃ多すぎたみたいだけど。
 完全な言いがかりだ!おっと、カッとなる前にまずは冷静に。感情で言い返すとろくなことにならないのを、経験で知ってる。
 誰が面倒なことするかっつうの。壷から出して、また壷に戻すなんて。劣化するだろうし、こぼすだろうし。ロートがないんだからさ。
「で、証拠は何ですか?」
「証拠?そんなの見ればわかるじゃないですか」
 そーだそーだ、とまた声があがる。
「見てわかるなんて、鑑定の魔法が使えるんですね? それなら誰が採取したのかわかりきってるじゃないですか」
「な」
「ネーシャさん、鑑定魔法使えたんですか!すばらしい!」
「さすが、ネーシャさん!」
 …あの赤い顔は使えないな。
 それにしても外野の声がうるさい。『シャットダウン』を唱える。よし。静かになった。
「そんな決まりきっていることには使いません」
 使えないくせに。
「言いがかりはやめてほしいです」
「なんですって?!」
 本当なんなのこの人。量が多かっただけで、不正と決めつけて。しかも証拠もなし。言いがかり以外の何だっていうのよ。
「コホン。不正者には壷は売りません!」
 かたくなな態度。私を絶対に悪者にしたいらしい。この状況は明らかにおかしい。反対に冷静になれるってもんだ。
 早く上の人出てこないかな。まあ、上がまともかどうかにもよるけど。面倒くさい。
 周りを見て思ったけど、どうやら彼女のシンパらしい。こんな時間のんびりしてるなら、働いた方がいいと思うよ。私が言うのもなんだけど。
 魔法のおかげで、悪口叫び声も文句も聞こえないのが、精神的にありがたいわ。
「結構です。もう二度とここは利用しません」
 頭にこないわけがない。
 こんなこと初めてだ。ギルドで多少変な目で見られても、正面切ってケンカなんて売られたことないわ。ジスティの受付嬢なんて百倍マシだわ。感情的にならないのはムリそう。
 壷は魔法で容量増やせるし。売らなくてもいい。自分で使うのだから。元々その目的でここに来たのだし。
 よし、違うところへ行こう。せっかく宿気に入ってたし、トルードさんにもスミにも会えたのに。台無しだよ、もう!
 ああ、腹立つ。
「なら、返金手続きを」
「はあ?じゃあ、モノは返してもらえるんでしょうね?」
「なにを言ってるの?罰が与えられないだけありがたいと」
 感情的にならないなんてムリー。遮る。
「そっちこそなに言ってるの?モノを猫ばばしようとしているのは、どっちよ?納品物だけもらって、お金も渡せと?どんな悪徳商会よ。信じられないわ」
 あ、シャットッダウン後半切れた。ワザとじゃないのよ~?
 ギルド内がシーンとなる。
「こんなギルド初めてです。他のギルドにかけあってみます」
 捨てぜりふをはいて、さっさと外に出る。
 風を感じて、日常の空気を感じた。
 他のギルドなんて一つしか知らないけどね?ちょっとした憂さ晴らしのセリフだ。いざとなったら戦うよ?魔法使局で採取鑑定魔導具作ってもらっちゃうからね?!
 …ぐるぐる市場を歩き回ったら、少し熱も冷めてきた。
 うん、宮殿行って泣きつくとかないわー。遠い目をしてしまう。
 あんなに腹が立ったのは久々だな。こう、お腹がグワっと熱くなる感じ。よし、イライラを沈める為に、スイーツを作ろう。甘いやつ。自分を思いきり甘やかす。遠慮はしないぞ!
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