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冒険者へ
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しおりを挟む初心者用ダンジョンを二つほど行ってみた。低層だけの日帰りだ。採取目的で。他のダンジョンは遠いし、めぼしいものはなさそうなのでやめた。もう、ここでやることないかな。
「というわけで、違うところへ旅しようと思います」
「なんだ?突然だな。お、照光草じゃねぇか。ん?」
カウンターにいつものように、収穫物を出していった。
「それって虫が好きなんですね」
「おう。ところでなんで凍ってんだ?」
「びっくりして、ファイアーボール連続でブチ込もうとしたんだけど、やめた。でも、触りたくないから」
あそこでとどまった自分を褒めたいね。じゃなきゃ崩落事故おこってたよ。加減できそうな余裕はなかったしなー。
自ら発光する植物。暗い場所で虫をおびきよせて、ぱくっと食べる食虫草。初め、蛍が止まってるのかと思ったら、まさかの植物発光だった。
「触りたくないから、だ?そんな理由で凍らせるとは、魔法の無駄遣いだな」
「ひどい。ノズが喜ぶかなと思ったから採ってきたのに。いいよ、燃やしてやる」
カウンターに手を伸ばす。
「まったまった!悪かった。謝るから。な?ぜひこれは納品を!な?」
「なにを騒いでいるんですか」
苦笑しながら来たのはスロウだ。いつも通りの光景だよね。わかってたから、このセリフのやりとりよ。楽しい~。
と、後ろにグラマラス美女がいる。誰?職員?冒険者にしては装備が軽い。もしかして着てる服に防御魔法が?それなら。
「アナーシャ!」
うお?!まさかの奥さん?こんな美人だったとは。この人ドレス着たら城にいてもおかしくないレベルだよ。王冠と杖を持ってもらいたい。
「ノズの奥様?」
「はい。今日はたまたまポーションの納品に」
「ノズ。あなた、何をしていたのかしら?その方に謝るような行為でも?」
あ、ちょっとハスキーな声。素敵。
「えっあ、いや…そのな」
ノズたじたじだなあ。こんな美女にいわれちゃね。迫力あるもの。
「おや、照光草ですね。何かついて。虫?背鉱虫じゃないですか!」
え。まさかの虫にスロウが興奮?
「なんですって?!」
おわ。アナーシャさんが食い入るように見ている。
「ハイコウチュウってなに?」
二人の突然のテンションがわからず、ノズに聞いた。
「鉱石がついた昆虫だ。そこまで気づかなかったなぁ」
「気づかなかった、ですって?!あなた何の仕事をしているの?」
…奥様怒ってるよ?
ノズは、解体だよね、主な仕事は。私の時には採取方面を少し見てるだけであって。
だが。しかし。反論はできない雰囲気がある。
「す、すまん」
すぐ謝るなあ…わかるけど。うん。
「ニイナさん、これをどこで?」
「えっと…名前忘れた。こ、こっちのダンジョン」
スロウの笑顔の圧力が怖い。慌てて地図を出した。
「低層にしか行ってませんよね?」
もちろん。安全、日帰りがモットーだからね。危ないダンジョンだった?初心者用のとこしか行ってないよ?下は急に中級者とかレベル高い人用だったのかも。自分に関係ないな~なんて思ってたから、詳しく調べてなかったけど。
「ニイナ?…あなたが!」
突然、美女にガシっと手を握られたこの迫力!びびる。ほんときれい。パーツが一つ一つ派手なんだけど、このバディもすごいからね?!
「いつもいつもありがとう。あなたのおかげで、どれだけ研究がはかどったことか!今度ぜひうちにいらして。お礼をしたいと思っていたの!」
お、おう。笑顔がまぶしいっ。ハリウッド女優に会ったら、こんな感じなのかしらん。
「は、はい」
答えはYESしか言えないよ。NOと言えない日本人。
「来週はいかがかしら?今、家の中が片づいてないの。錬金術関係がちょっと散乱していて」
ノズを見上げるとうなづいている。ちょっと目が死んでるぞ?そこまでなのか?ノズは解体の仕事してるだけあって、仕事場いつもきれいに保ってるものね。
むしろどんなのか見たいけど、危険な気もする。やばい代物がそこらへんに転がってるとか、煙があがってるとか、異臭がするとか?だが。
「すいません、来週はここを発とうと思っていまして」
「「「えっ」」」
いや、ノズ、さっき言ったじゃん。てかなんで他の二人もそんなに驚くの?
私、冒険者。旅をする。普通だよね?
「ア、アナーシャさん?」
「…ノズのせいじゃないわよね?」
こわい、こわいよ声が。ノズはめっちゃ首を横に振っている。手も振っている。目が合うと、助けを求められた。さすがにいじるのはかわいそうだ。
「違いますよ。ここではもう欲しい素材がなさそうなので。違うところへ行こうと思って」
「素材?」
意外な答えだったのか、聞き返された。
「私、杖とマントというかコート作りたいんですよ」
あれ?言ってなかったっけ?三人とも無言だ。まあ、一般的じゃないんだろうけどさ。冒険者が自分で作るっていうのは。
物理的にしか使わない大きな杖じゃなくて、もっと実用的&コンパクトを求める。
「面白そうなこと考えているのね」
素材、という単語に反応したアナーシャさんは好意的だ。
「作るって楽しいわよね」
「はい」
気分は「ね~」という女子高生のノリだ。美女は笑っても可愛い。ノズがんばったんだなあ。
「いつまでいられるのかしら?」
「この依頼を受けようと思っているので」
さっき良さそうなものを発見したのだ。
商人の警護。なんとFランクから受けられる珍しい依頼書だった。大体Cランクくらいからが多いみたい。隣の街まで一日半という拠点活動には短い距離と、報酬の安さで人気はなさそうだ。隣街まで行きたい人用、みたいな感じがする。どうせマウシャへ行く方向だし、自分で寄り合い馬車にのって移動するだけなら、少しでもお金もらえるこっちの方がお得よね。募集人数が三人まで、とかなり少ないのも私にとっては利点だ。人見知りですからー。
「これですか。確か二人応募きてましたね」
おっと、ラスト1ではないか。こう言うのって先着順なんだよね。それなら早くー。
「あさって私休みなんです」
ん?
「ノズもですよね?」
「お、う?」
ノズは戸惑いながら返事をした。
「私の家でよければ、場所提供しますが、いかがでしょうか?先日言ったようにニイナさんにぜひ魔導具を見ていただきたいのです」
キッチン道具ね。あ、依頼用紙がぴらぴらと振られる。人質か?!
「まあ!いいわね。うちは飲み物とつまめる物を持って行くわ。ね、あなた」
ノズがうなづく。早いな。…うん、逆らえない二人だよね。
「わ、かりました」
なんだろう、この敗北感。
これって何か作って持って行くってことだよね?キッチン道具だけ見て、ハイおわり、てことはないと思う。なんかその場で作るのも考えとおかないと。飲み物はアルコールだよねぇ、きっと。みんな飲めそうだし、この世界年齢早くから飲んでるものなー。
まぁ、アナーシャさんの錬金術の話も聞きたいし。わくわくしてきたぞ。
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