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冒険者へ
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しおりを挟む「三種類クリアなのでFランクです。おめでとうございます」
「ありがとうございます。これで、ダンジョン行けますよね?」
やったー、いよいよダンジョンデビューだー。
「講習を受けてからですよ」
へ?講習?!予想外の単語がきた。お勉強するの?
一時間くらいの座学を受けないとだめらしい。
「いつ受けますか?」
「最短でお願いします」
ダンジョンいくまでに壁がいくつもあるわー。
「では、明日ですね」
大人になってからの勉強は新鮮だ。ダンジョンとは、という話から始まり、初心者用のダンジョンの説明を受けた。かなり足早の講座だった。テキストはなかったので、とりあえず注意事項などをメモにとった。書き留めるだけで安心する。それで勉強した気になっちゃだめなんだよね。ちゃんと見返して復習しないと。
周りをみてると、そんな真面目にやってない。メモをとってるのは私だけだ。メモ帳、筆記用具は冒険者にとっては高級品かもだけど。おばちゃんは忘れちゃうから、書かないとね。一回聞いただけで覚えられないよ。
よし、これでいよいよ明日からダンジョンだー。
「最短だと明後日ですね」
?…なんかデジャヴ。
「初回はパーティを組んで職員がついていきますので」
なにその至れり尽くせりな仕組みは。自己責任で行ってこーい!みたいな感じじゃないの?!
「そちらの方が後々面倒が少ないのですよ」
…黒い笑みってこういうことね。やっかいな話は聞かないよ。
じゃあ、明日は準備に専念しようかなぁ。持って行くものも色々ありそうだし。その買い物もしなきゃ。キャンプみたいだなぁ、ワクワクする。
「こちらの用紙を持って、明後日八時に来て下さいね」
集合時間が思ったよりも早かった。
「時間厳守でお願いします」
わ、わかってますよ。遅れたら置いてけぼりですね?いや、それ以外にも何かありそうで怖い。ランク下げられて、また初めからやり直しとか。うわ、面倒。せっかくダンジョンデビューまで後少しなのに。絶対遅刻しませんとも。
翌日はショッピング。でもさ、低ランクはお金ないから普通こんなに買えないと思うのよ。と、思ってたら初心者用グッズなる物があった。一つ一つの質は決してよくはないけど、必要最低限はそろうお得品。もちろん私は買わないけどね。
リュックが売っていたので購入した。なかなかいい物が手に入ったわ。大きすぎず小さすぎず。マジックバッグ仕様にするけど、あまりに小さいとばれちゃうからね、そこそこの大きさは必要なわけだ。
宿に戻って、買ったコンロを使ってお弁当や非常食つくったり、防寒グッズや防具に魔力をこめたりしていたら、あっという間に一日が終わった。むしろ一日準備日があってよかったよ。
朝7時45分。ギルドの重い扉を開ける。…すぐに閉めたくなった。なに、この人、人、人ー。久しぶりの人混みをかき分けていく。奥へ行くほど空間ができてきた。さすがに買い取りカウンターに人はいなかった。
「おはようございます」
ノズがいたので声をかけた。仕事なくても朝早いんだなぁ。
「おう、珍しい時間にいるな」
「今日からダンジョンデビューですよ」
紙を見せた。
「楽しそうだな。この色だとあそこのダンジョンか。肉は期待できねぇな」
「肉?やっぱり上級者用にはおいしいお肉が?」
「あるぜ?」
それは楽しみー。て、いつになったら行けるかわからないけどさ。
「今日行くところにも、薬草類はあるから採ってこいよ」
通常任務じゃないか。採ってくるけどね。
「あとキノコもな」
キノコ?それは採ってきたことないな。リュックから図鑑を出してめくる。本当だ、ダンジョンにしか生えないキノコがある。食べて大丈夫?胃腸薬は持ってないぞ。
「そこそこうまいぜ?ダンジョン内では貴重な食料だな」
なるほど。見た目はおいしそうに見えないけどね。紫の水玉柄だよ?ここで聞かなかったらぜっったい手を出さない。
「てかそれなんだ?外へ貸しだしはしてないよな」
「ええ。コピペしました。マイ図鑑です」
「コピペ?」
「写し取ったてことですよ」
「こんな正確に、か?器用だな。考えるだけでもぞっとする」
「手書きじゃないですよ。そんなのムリ。魔法でちょちょいっと」
「…便利だな」
本当本当~魔法便利すぎ!そして、マジックバッグ仕様リュックなので重さも感じない。だから荷物をつめこみすぎた、て思っても全然大丈夫なのだ。
「おや、早いですね」
スロウと女の人が一緒に来た。女戦士だね?だって筋肉があって体格いいし、背中に剣を背負ってるし。そしてやっぱ露出高いなー。その点は、ディタが魔法使でよかった。プロポーションいいなぁ。てか、強そう。職員っていうからスロウみたいな事務方だと思ってた。
「一番乗りはお嬢ちゃ…ん?」
「ニイナです。よろしくお願いします」
たぶん、というか絶対私の方が年上だよ。
「パルマ、久しぶりだなぁ。もう復帰か?」
「よう、ノズ。まあ、ちょいちょいかな」
「おまえが引率とかまじか?」
「はっは、あたしもびっくりだけどな」
二人は知り合いらしい。てか、ちょっと心配な話の内容なんですけど?どういうこと?
「ああ、心配すんな。こいつの腕は確かだから、安全だぜ?」
じゃあ、引率という意味で心配なのか?
「来たようですね」
スロウが言った先に明らかに人に揉まれて、二人の少年が来た。
「ま…にあった…?」
剣を持った子がいうと、
「お…はよ…う…ござい…ます」
びくびくといった感じで弓を背負った子も言った。
「二分前なので大丈夫ですよ。今回、みなさんの引率者はC級のパルマさんです」
紹介した後に、スロウが紙を回収する。
「この三人か、よろしくな。剣士と弓士と魔法使。悪くないな、おもしろそうだ」
見事にバラバラの職種だ。
男の子二人が「え?」と私を見る。うん、驚かれるのは予想していなかったわけじゃないからいいさ。
「ニイナです。よろしくお願いします」
「魔法使?見えねぇ」
つぶやく剣士のわき腹を弓士がつつく。
「ザシュです。こっちはファンクです。よろしくお願いします」
「じゃ、時間だし行くか。遅れるなよ?」
また、あの人混みを抜けるのか。これ、何かの洗礼なわけ?せめてギルドの扉は開けっ放しでもいいんじゃないかなあ。私の中ではあれが一番ネックだ。
「あ、そーだ。ニイナ、ノコギリ草もあったらなー」
ノコギリ草?あとでマイ図鑑で確認してみよう。葉がギザギザしてるんだろうな。また奥様がらみかしら。
パルマは早い。さすが慣れているのか、この人混みもすいすい前に進んでいく。こっちは小走りだよ。慣れだよね、人混みの中を歩くのって。反対に二人は苦労していた。ぶつかりながら、怒鳴られながら、謝りながら進む。がんばれー。
今回行くダンジョンは馬車で二時間弱らしい。結構かかるよなあ。きけばもっと近い初心者用もあるらしい。ノズも『この色は』て言ってたもんなー。いくつかあるのかも。
マウシャ行った時も思ったけど、移動手段が馬車だけってつらい。今回クーラーつけて、てわけにもいかないし。当然ながら王国の用意した馬車と乗り合いの幌馬車は全然違う。王都から乗ってきた馬車とも違うな。今回一番ぼろいよ。基本乗るのは冒険者だから、乗り心地は追求しないだろうけどさー。人を運ぶ、て感じだよね。
同じなのは、ずっと座っていると確実にお尻が痛くなるってことだな。仕方ない。リュックから薄型クッションを出す。中に空気を入れて膨らまそう。
「何をしてる?」
「お尻が痛くなりそうだから」
「そんなん荷物になるだろーが」
ファンクがにらむように言う。どうも私の印象はよくないらしい。
残念ー、このリュックはマジックバッグ仕様だからね。
『エアークッション』で。よし、これくらい。うん、悪くない。
「へえ、今はこんな面白いもんがあるんだな」
売ってはいませんけどね。
「使ってみますか?」
予備はある。何事にも多く持ってる分にはよい。空気を入れてパルマに渡す。
「ぷよぷよしてるな。なるほど、よさそうだ」
板は固いからお尻も固まっちゃいますもんねー。
ザシュは興味ありそうだけど、ファンクは不機嫌顔だ。あれかな、新人同士あわよくば仲良くなりましょう、みたいな。それなのにおばちゃんが来ちゃったものだから、すねちゃった?ふむ、それはかわいそうなことをしたわ。次回自力でがんばって。
「あのパルマさん」
「パルマでいい」
「復帰、ていってましたけどどこか怪我をされていたんですか?」
そのようには見えなかったけど。気になったので聞いてみた。
「あ?いやちがうよ」
あはは、と笑ったあと少し赤くなった。ん?
「あたしさ、赤ん坊を産んだ後なんだよ」
は?おう、産後復帰、てことか。この世界そういうのあるんだ。
「いくつですか?男の子?女の子?」
「まだ一歳になってないな、えーと八ヶ月かな。男の子だ」
八ヶ月か~おすわりできて離乳食始まってるね。
「早いとつかまり立ちとかですかね?」
「まだ歩き回れないけど、歩くぞ」
いやいや歩き回らないって。歩けるのも早くない?この世界は発達早いのかしら。
「腕がなまらないように少しずつ戻していこうかと。なんであんた、じゃなかったニイナに、こんなこと話してんだろ」
がんばって下さい、お母さん。応援してますよ~。
「あたしのことはいいんだよ。ニイナは貴族か?」
男の子二人がぎょっとしたのがわかった。
「違いますよ。なぜそう思うのですか?」
「そうか、よかった。言葉遣いとか態度、こういうの持ってるしな」
「前に馬車乗った時耐えられなかったので作っただけです。二人は同郷?」
「作ったって…」
「なんでわかんだよ」
あら、反抗期っぽい反応。
「なんとなく」
ありがちだし、ね。
「同郷の子がパーティ組むのは多いんですか?」
「多いな。知らない相手より楽だろ?」
まあ、確かに。相手にもよりそうだけど。よっぽど嫌じゃなきゃ、まずは組む相手にするよね。
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