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 トラブルがあったものの、無事旅の最後の宿である伯爵領の館に着いた。
 いや、館というか城?貴族ってすごいんだなぁ~。王城勤めだったけど、こっちの方がリアルな城を感じる。
 ここでは王女様たちとは別れて別館待機となる。まぁ、領主館の警備もあるからね。なんか最後になってようやくそれらしい泊まりの部屋になった。久しぶりのベッドー、何度家のベッドをマジックバッグにいれてこなかったことを悔やんだことか。ぜいたく一人部屋である。
 残念なのはまた風呂はなかったことだ。ここは別館という客の家来たちが主に寝泊まりするところだから、贅沢品はないのだ。ヨゾン、デレス、マミヤたち一部は王女様と一緒だ。ディタは庶民だからね。いいよ、ボッチでもさ。
 建物内を歩いて見学してたら、台所を見つけた。食堂みたいなところだ。なんだかいい匂いがして近づいていったら。
「カカオ?!」
 チョコの香り。ああ、大好きなチョコ。カカオ豆を見つけた。あわてて売ってもらえないか聞いてみた。
「え、この黒豆ですか?苦いし、使い道ないですよ?まあ香りはいいですけど」
 先週南の業者から買ってみたものの、固いしかじったら苦いしで捨てるのも勿体ないしどうしようかとおもってたところらしい。業者さん、ちゃんと調理の仕方も教えなきゃだめじゃん。
 カカオ豆の殻ってカカオティといって健康茶じゃないですかー。美容もいいのよ?
 私の勢いにかなりびっくりしてるみたいだったけど、安く売ってもらえてよかった。うっふっふ。
 台所の片隅をかりて(必死さにひいていたわけではないと思う)魔法を使いまくる。チョコ作りのために。生クリームはなくてもこの世界ミルクはあった。充分だよー。ああ、いい匂い。これだけでもいやされるわ~。私は断然ビター派だ。今度板チョコ用に固める入れ物どっかで作ってもらおう。今はこれで我慢。
 あとは、チョコクッキーとできそうなのはチョコパウンドケーキかな。ケーキ型はなかったから、四角いパウンドはできそう。
 いやー、いい仕事しました。かなり集中した。家だって三種類一度につくったことはない。魔法様々である。かきまぜる、温度調整など魔法を使えば簡単簡単。ああ、オーブンからのいい匂い。そう、ここにはオーブンがあったのだ。火力調整は勿論魔法で。魔石に魔法でタイマーかけておけばほったらかしdok。魔石はバッグに大量にあるしね。この一つの魔石で温度と時間がピッタリなのだ。使ってるオーブンと同じでしょ?レシピ裏覚えだったけどいい感じ。私偉い!
 小躍りしそうな感じでオーブンを開ける。上出来~味はどうかな?あつくて「あっちっち」と言いながらも早く食べたくて味見する。冷える時間は待ってられませんー。
 うん、いいんじゃない?思ったよりかなりビターになったけど。私好みです。残りのパウンドケーキは冷めてから切り分けよう。
 入り口でガン見していた人たちにクッキーをおすそわけした。苦そうな顔をした人もいたけど概ね良好だった。次は砂糖の量を増やしてみようかな。アーモンドやナッツのせるのいいよね。
 体をふく洗い場(さすが領主館)で許可をもらったので、樽風呂を設置してお風呂タイム。今日はボッチだけどさ、さみしくないもんね。ぼーとつかってたらのぼせるとこだった。ここでも魔石が活躍。さっきのオーブンみたいに温度調整。本当便利だわ~。
 部屋に戻り寝る前のティータイム。冷めたパウンドケーキを切り分ける手自家製ハーブティを入れる。なんて贅沢な時間ー。
 ほう、と一息着いたとこにコンコンとノックの音がした。
「マミヤです。ディタ殿、いらっしゃいますか?」
 外面的にちょっと固い声のマミヤだった。
「どうぞ」
 何か起こったのかな?ドアを開けると鎧など外した軽装のマミヤがいた。
「遅くにすみません。あの、ぜひ樽風呂をかしていただきたく」
 セリフが止まる。視線はパウンドケーキだ。いい匂いだもんね。
「どうぞー、他の人もだよね?パウンドケーキ食べる?さっきカカオを二束三文で買ったのよ」
 南は相当カカオがとれるのか、めっちゃ安かった。
「かかお、とは?ずいぶんこげてますがいい匂いです」
 いや、こげてるわけじゃないよ。さっきもそういう目で見られてたけどさ。とりあえず手招きして近くまできてもらい、口に一口ほうりこむ。だってフォークで近づけたら口が開いたからさ(笑)
「んっ?!」
 うん、わかった、おいしいんだよねえ。まだ私食べてないけど。よかったよかった。
「…甘くないのにおいしい」
 そういう認識?甘い物がおいしい、というお菓子の世界観なのかしら。ああ、ぜひともチョコレートをバリバリっと食べさせてあげたいよ。クッキーもだしたらすぐ食べた。晩餐会あったて聞いたけど?おつきの人もそれなりの料理でてるよね?
 いや、そうきらきらした目で見られても。子供と一緒か?!
「え、とあまり量作ってなくて、又今度ね」
「そ、うですか。すみません、つい我を忘れてしまいました」
 とても残念そうだ。これはカカオパウダー精製から仕込まないと。さっきは実験的に使う分しかやってなかったから。
 クッキーと切り分けたパウンドケーキを半々にして女騎士隊へとマミヤに渡す。樽風呂を足して魔石に魔力を全員分たりるように入れ、温度設定して取り付け、マジックバッグに入れてマミヤに渡す。これも量産してみようかな。一応魔石の予備をいれておこう。
「終わったら湯をぬいて”クリーン”ですね?」
 そうそう。改良版の説明もしておいた。
「水入れて、この魔石を押して赤くなったら作動開始。っで、緑になったら適温だから」
「おお。ありがとうございます。来てよかった。明日お返し致します」
 そんな格式ばらなくてもいいのに、なんかもう敬礼しそうな勢いだよ。あ、そうだついでに。
「お風呂あがったら、これつけるといいよ」
「これは、ディタがいつもつけてる?」
「化粧水。水よりは効果あると思うよ。肌にあわなかったら、すぐに水で流してね」
 多分大丈夫だと思うけど。変なのいれてないし。
 やっぱり敬礼される勢いで感謝された。なんでも、私の肌がきれいな理由や(嬉しいわ)白しわけが話題にのぼってたらしい。
 白いのは外にでない、てのもあると思うけど。基本ひきこもりだからさ。いや、それしかないじゃないか。
 さて、荷物の整理をしてから寝よう。このボストンカバンと携帯ポシェットは私しか取り出せない仕様になっている。あげたマジックバッグには制限かけてない。今後依頼がきたらその人専用にしてもいいし。このボストンカバンに、本当あの家一軒入るんじゃないかと思う。帰ったらまずベッド入れてみよう。あとキッチングッズを充実させよう。考えるだけどわくわくしてきちゃうな。

 翌日。またもやヨゾンに会うなり手を出してきた。
「?」
 握手?手を出したら、はたかれたし。なんて対応するんだ。
「昨夜、マミヤたちが争奪戦を行っていた食べ物を俺にも出せ」
 争奪戦?食べ物?てか、こわいよ。
「お菓子だ。なんで俺のところに持ってこない?」
 なにこの俺様おっさんー。あ、クッキーとパウンドケーキのことかな。
「残念でした。もうないですよー」
「なに?!」
「すっからかんです」
 ドーンという文字がとても似合う顔をしてくれた。満足。
「すみません、あの、ヨゾン様の迫力にその…」
 マミヤがそっと近寄って謝って来た。
「数は任ズン分入れたはずだけど、たりなかった?」
 そりゃ一人二種類はなかったから、一個の計算をした。
「え、いや、その、お恥ずかしいのですが、両方食べたいと言い出し、その権利をめぐってちょっとその騒ぎに」
 その結果食べられなかった人が半分でた、てことか。ジャンケン勝負なのかな。
「樽風呂ありがとうございました。こんなに簡単にあたたかいお風呂に入れるとみな喜んでました。それで…ぜひこれを我が騎士隊に譲っていただけないかと」
 今後のために。水さえあればこの魔石でできるもんね。水も魔力持ちがいればいいわけで。もしくは水がでる魔石でいいんじゃない?これは普通にありそうだけど、どうなんだろう。
「勿論代金はお支払いさせて」
「ああ、いいよ、あげるよ」
「いかほどの値。え?」
「え?だってそれ元々マミヤがもらってきた樽じゃん」
「しかしこの魔石が」
「そんなのタダに近いし」
「はあ。ディタ説明しろ。さっきマミヤが簡単と言っていたが又何をした?」
 あ、ヨゾン復活した。
「”自動保温”ですけど。昨夜は水をもらえたので、温度を適温にわかして保つ魔石を樽につけました」
「火魔法でわかさなくてもいい、だと?」
 そうだよ。
「しかもその温度が一定に保たれるのです。騎士隊の最後の一人まで」
 うん、よかったよかった。
「誰もがいつで適温な樽風呂に入れる、と?魔力が少なくてもか」
 そういうこと、かな。魔石に込める魔力は少ない。ディタでなくてもすくなくていいはず。
「水がでる魔石をつければ、誰でもてことになりますね」
 そっちは飲み水じゃなくて樽にためるほどの量だからねぇ。魔力に自信あるほうがいいかも。
「よし。マミヤたちと騎士団でデータとってから売りに出すぞ」
 へ?
「ディタ、魔導局にこないか?」
 ですよねえ、私今回魔導局のためにたくさん働いてる気がする。
 考えておきます、と返事をしといた。正直、前も思ったけど魔法局にいるよりかは精神的にもいいと思う。
 領主間出発前にココアパウダーと作り、クッキーを焼かされました。なんかすっかりヨゾンの部下じゃない?おかしいな。
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