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聖女,この世界のことを知る

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「魔王を討伐してもらうにはこの世界のことを知ることがまず萌ちゃんにしてもらいたいことなんじゃ」

国王ヘンリーのその一言で萌は神殿でこの世界のことを勉強することになった。

「よおおおおし!まずはイケメン神官から頂きじゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

そう意気込んだものの束の間、数時間後萌はすぐに現実を知ることになる。





神殿はどこも真っ白な場所で建物の奥には大きな泉が湧き出ていた。

神官はどの人も忙しなく働いていた。

甘いマスクの神官が沢山いた。

否、嘘である。

どの人も忙しなくしているが、それは毎日日本で言う囲碁や将棋にそっくりなゲームをしたり、マッサージをしたり、健康の話に花を咲かせたりとしていた。

甘いマスクではあるが皆、お菓子を萌にあげ、孫を愛でるかのような甘さなのだ。

そう、お分かりの通り神官はみな若い人で60代くらいのおじいちゃんだったのだ。

「このおじいちゃん神官たち、完全に老後を楽しんでいるわ。なんなの!どこにもイケメン神官はいないじゃない!!!!あんのクソ国王!このぴちぴち女子高生萌を騙したわね!!!!」

「こほん。萌ちゃんや、こっちにきてお菓子食べないかい?萌ちゃんが来ると聞いていっぱい持ってきたんじゃ。」

「萌ちゃんや。こっちにきて肩を揉んでくれないかい?最近痛くてのぉ。うまい按摩屋さんが引退してからなかなか疲れが取れんくてこまっとったんじゃ。」

次から次へと萌の前には老人が沢山集まり、皆口々に萌へと話しかける。

3時間後…。

見事と言っていいのか、萌は完璧に神官たちの心を掴んでいた。

「ハィィィィィィ!ジュジュおじいちゃんいっちょ上がりぃぃぃぃ!!!全身ゆっくり解しといたからね。この後はちゃんと湿布して安静にしておくのよ♡」

「おおおお!萌ちゃんや。ありがとのぅ。疲れがすっかり取れたわぃ!」

「ふふ、いいってことよ!また後で将棋クラブにも顔出すからね!ブレンおじいちゃんには今度は萌が勝つからって言っておいて~」




「ふふっ、皆んな喜んでくれてよかったわ~。私、なんだかんだ言っておじいちゃん子なのよね。」

整体をした後に今度は陶芸クラブに急いで向かおうとした時に萌はハッと我に帰った。

「って、そんなことしてる場合じゃなかった!!!!つかなんでおじいちゃんクラブにハシゴしていってるんかいっ!わしゃまだぴちぴちのJKじゃいっ!それも一応この国の聖女じゃなかったんかいっ!最高神官のエリックに会いに行かなきゃ!」

しかし神官との約束を反故には出来なかったため結局エリックに会いに行けたのはそれから4日後のお昼のことだった。




「ちょっと。エリック!私はこの世界のことを知るために神官にきたの!!!なんで何も情報をくれないのよ!」

エリックは無駄に大きな瞳をうるうるさせて小さな声で「だってぇ……。」と言った。

「だってもさってもない!!!!この国を救うために私は召喚されたんでしょ!?貴方たちは私が魔王を倒して平和になって、私はイケメンとイチャイチャラブラブ生活をおくれてウホウホになって、win-winの関係なのよ!さっさと情報はけや!!!今すぐ教えてくれないとその大事に残してる3本の毛をむしりとるぞ。」

その時の萌の顔はとても花の17歳にあるまじき顔だった。妙齢のエリック神官は恐ろしさのあまり涙が引っ込んで説明し始めた。


「そこまで萌ちゃんが言うならば説明しようかの。この国の、壮大な歴史を…。」

突然険しく厳格な最高神官らしい顔をしたエリックの言葉に萌はゴクリ、と唾を飲み込み耳を傾けた。

もしかして、皆んな邪悪な呪いにかけられておじいちゃんになってしまったのかしら。そうだったらこんなに老人が沢山いるのも納得できるわ。

「この国は昔から竜王が守ってくれたんじゃ。魔王の侵攻もそれで防いでいたんじゃよ。でもな、近年竜王を召喚する儀式の方法の書いた機密書類を国王のヘンリーのやつが老眼で読めなくて後で解読しようとしたところ、そこらへんに置いておいたことが全ての恐怖の始まりじゃった。数日前、偶然飲み屋で知り合ったキャメロンが間違えてキャンプの際に火に焚べて燃やしちゃったんじゃ。それで魔王から国民を守る術がなくなっちゃったってわけ(*´∀`*)」

「(*´∀`*)じゃねーーーーーーーーーーーよ!!!!キャメロンそこで登場するんかい!!!!バチバチ登場回の出オチで出番終了だと思ったよ!だからキャメロンあのメンツの中にいたんだ!なんでただの酒場で知り合ったやつがあのメンツに混じっていたんだろうってずっと不思議だったんだよ!聖女召喚する1番の原因だったからいたのか!今思えばちょっと肩身狭そうな顔してたわ!こんな事実別に知りたくなかったよ!ほんと、なにやらかしちゃってんの!?!?!?キャンプで燃やしちゃうのもダメだけど超重大機密書類をそこらへんに置くヘンリー国王も相当だな、おい!だめだ、この国は!もう終わりだ!魔王に滅ぼされなくても滅亡するわ!」

「萌えちゃーーん。萌ちゃんがワシらの1番星なんじゃ。唯一の希望なんじゃ。後生だからワシらのこと見捨てないでくれやい。」

おいおいと泣くエリックが胸ポケットから1枚の肖像画を萌にチラッと見せつけながら涙をとめどなく流した。

その肖像画を見た萌はぐぬぬぬと唸った。

ここで諦めたらイケメンからチヤホヤされる聖女ルートはなくなる…。

その魂胆を見抜いたのかエリックは追い打ちをかけるかのように「孫は双子なんじゃよ。双子なんじゃがな、性格は真反対なんじゃ。」ともう一枚の肖像画を出しながら言った。

そこには紺碧の髪に冷ややかなブルーの瞳をもったクールなイケメンと同じく紺碧な髪に優しそうなブルーの瞳を持ったイケメンが描かれていた。

萌に衝撃が走った。

2人のタイプの違う双子が萌を争って喧嘩をする。時には笑い合い、時には喧嘩する。そんな3人の友情は長くは続かなかった。双子は萌のことを愛してしまったのだ。今まで双子は欲しいものは全て譲り合うか半分個にしていた。喧嘩したことがなかったのだ。2人は萌の夫ポジを狙うために喧嘩をしたのがはじめての喧嘩だったのだ。3人の関係はもう元には戻らない。3人で過ごしたあの別荘での日々は戻らないのだ。ついには……。あぁ、萌のことで喧嘩しないでー!!!

「ま、そう言う未来もあるかもしれんの」

「エリックお爺さま、すでに起きてしまったことは仕様がないわよ。そうと決まったら魔王の侵攻を防ぐために私に聖なる力の使い方を教えてちょうだい!萌は絶対にこの国を救ってみせる!」

固く誓った拳を高く上げてイケメン双子との日々に鼻を伸ばしたのであった。









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