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前篇:夢の通ひ路
第五話 其の一
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家移りから数日が過ぎた。
初日こそ、見慣れない部屋、庭や調度品等に新鮮味を感じることもあったが、基本的にお邸の造りは一緒だ。そして平安時代の姫君なんて、双六をしたり碁をしたり、歌を詠んでみたり、女房とお喋りしたり。毎日毎日、同じようなことをして大半を部屋の中で過ごす。私もその例外ではない。以前と何も変わらない日々が続いていた。
左大臣家本邸は、これまた迷子になりそうなほどお邸も庭も広く立派なものだった。
左大臣が住む寝殿に対し、母や私の私室は東の対の一角にある。正殿と東の対を繋ぐ二本の橋廊の間には小さな中庭があって、小川のように澄んだ水が流れ、季節の草木が植えられ、自然を感じられるようになっていた。この中庭は四季によって見せる姿を変え、美しい情景を作り出すので、女房達もお気に入りなのだそう。
西の対には、左大臣のもう一人の北の方(つまり、もう一人の奥方)が住まわれているらしいが、まだお会いしたことはない。小梅情報によると、とても優しい方らしく、私の母との関係も良好なのだそうだ。
同じ夫を持ちながら同じ邸の東と西に住む――普通はいがみ合いそうなものだが、西の方も母もおっとり系で争いを敬遠するタイプのようで、お互いに嫌がらせだの悪口だのは本当に一切ないらしい。本人達がそうなので、仕える女房達も然り。左大臣は妻に恵まれているようだった。
西の方には二人の姫君がいらして、大君は帝へ、中君は東宮へ入内なさっているとのこと。父の今の立場や権力は、それもあってのことなのだろう。
「姫様、姫様ってば! 聞いていらっしゃいます?」
白湯を差し出しながら、小梅が私の顔を覗き込んでいた。
全く聞いていなかった、ごめんなさい小梅。
「ええと、何だったかしら。ぼうっとしていたわ」
「だから、朱雀大路での大立ち回りをなさったかぐや姫のことですわ!」
「は? かぐや姫……?」
「女房仲間の間で噂ですの! 右大臣家の三の君様の道中で横暴を働いた者から、か弱い母子をお庇いになられた女がいたのだそうです!」
どこかで聞いた話だ。
何がどうなってかぐや姫になってるの?
頭を抱えたい衝動を必死に抑える。
「右大臣家相手にでございますよ? しかも男ならばいざ知らず、女の身で! なんとまあ、素敵なお方なのでしょう! わたくし、憧れてしまいますわ!」
「女性は、おしとやかな方がよろしいんじゃなかったかしら?」
「ええ、もちろんですわ。ですが姫様、時には強さも必要だと思いますの! その女は颯爽と現れて母子を助け、名乗らずに消え去ったのだそうです。傍で見ていた者の話によると、まるでかぐや姫もかくあらんといったような美しい女だったのですって! その後、誰も彼女の姿を見た者はいないのだとか」
「それは言い過ぎ」
「え?」
「え? い、いいえ。何でもないわ。なるほどね、誰も見ていないから月に帰ったかぐや姫のようだと、それでそう呼ばれている訳なのね」
「ああ…… どれほどお美しいお方なのでしょう。一目でもこの目で見てみたいものですわーー!!」
目の前にいるわよ、小梅。
きゃっきゃしている彼女を横目に、溜息をついた。
あれだけの騒ぎだ、噂話にならない方が無理だろう。その正体が私だってバレていないだけでもよしとしなくてはいけない。随分美化されているようだが、物の怪話の時もそうだったので、ある意味仕方ないと思うよりほかない。それにしたって、かぐや姫は言い過ぎだと思う。
そういえば、あの超絶美形は、あの後どうしたのだろうか。
半ば無理やりに野次馬を押し付けて、自分だけが逃げてきてしまったことに罪悪感を覚えてないといったら嘘になる。が、タイムリミットが迫っていたのだ、実際私の帰宅はかなりギリギリだった。今でもあれが最善だったと思う。
どこかでバッタリと会ってしまったらどうしよう、というような心配や不安は一切ない。なぜなら、私は左大臣家の姫でほぼ一日中お邸内にいるし、日常的な会話は小梅をはじめとした女房達としかしない。異性と会う機会などはほとんどないのだ。
それにしても、随分と余裕のあるような、優雅な雰囲気の人だった。どこか貴族の家の者なのだろうか。帝に近しい方と考えるなら、内裏に出仕していて、それなりに身分のある人とか?
分からないけれど、あそこまでの美形にはもう二度と会えないだろうなと思う。異性を見て、目を奪われたのは初めてのことだった。
ああ、本当にカッコよかったな……
「でも姫様、わたくしはもちろん! 姫様が一番お美しいと思っておりますわよ」
私が黙ったことに何か勘違いをしたのか、小梅が慌てて言った。
なんだ、そのとってつけたような謎のフォローは。
「ありがとう。ところで、小梅。今は何年だったかしら」
そうだ、これを聞こうと思っていたのだ。小梅が変な話をするのですっかり忘れていた。
今は平安時代のいつ頃なのだろう。私の想像では、中期くらいだと思うのだけど。
いつの間にか並べられた朝食を摂りながら、小梅に問いかけた。
今日のおかずは干し魚に茄子の香の物、ゆでた海藻などなど。相変わらずのメニューだ。
この食事にもようやく慣れてきたなと思いながら、強飯と呼ばれるご飯に箸をつける。周りに味付け用の塩、酢、味噌などあるが、塩分過多はこの時代多かったと言われる糖尿病の原因になりかねない。調味料になるべく手を付けないようにしているのは、この身体が三の君のものという認識があるからだ。私が目覚めたときはほぼ瀕死の状態で苦しい思いをしたので、元の世界へ戻るときは、三の君のためにもなるべく健康体でお返ししたい。
ちなみに脚気も死亡率の高い病気であったので、なるべくバランスよく食べることを心掛けている。幸いなことにおかずの品数は多いのでそのあたりはクリアできそうだ。私がこれまで認識していた、いわゆる平安時代の貴族の食膳よりは、どうも三、四品多いようで違和感もあるのだが、ここは時の左大臣家である。おかずが一般的な貴族の食事より多かったとしても不思議ではないし、病み上がりの私に精をつけようと意図的に多くしているのかもしれない。あまり、気にかけるようなことでもないだろう。
「姫様、今は――」
返ってきた小梅の答えに、思わず箸を持つ手が止まった。
「なんですって??」
言い間違い、聞き間違いではないの?
そんな意味も込めて小梅を見たが、同じ答えが返ってきた。
左大臣家の三の君という、自分とは縁のなかった人間になってから、毎日何かしらに驚かされる。
私は記憶喪失の姫ということになっているので、いちいち驚いた反応をしても誰も不思議には思わないが、心情としては、今の小梅の言葉は顎が外れるかと思ったくらいの衝撃だった。
小学生から古典文学に魅せられてきて、日々学び、研究している私である。当然元号も一部あやふやではあるがそれなりに知っているつもりだ。それなのに、小梅の口にした元号は、聞いたことのないものだったのだ。
私の記憶がおかしいのだろうか。それともただの知識不足??悔しいが、後者は完全に否定しきれない部分がある。
「ええと、それじゃ先の帝は……」
「先の帝、でございますか?先帝の五条帝様は、今は五条院にお住まいでいらっしゃいますが……」
ご、五条??
一条でも二条でもなく?
聞いたことがない。さすがに平安時代の天皇の名前くらい分かる。文学は天皇と切っても切れない関係にあるものが多いからだ。これは私の勉強不足とか、そういう類のものではない。
当代の帝は「今上帝」や「上様」と呼ばれているのが普通だ。だから、あえて先帝の名を聞いたのに、これじゃ余計混乱しただけだ。
なにかがおかしい、次元が違うというか。胸がざわざわとする。この世界にきたときと同じだ。
そもそも、ここは平安時代ではなかったの? では、ここはどこ?
ようやく色々と慣れてきたと思った矢先に、またスタート地点に戻るだなんて。
これじゃいつまで経っても元の世界に帰る足がかりなんて、見つけられそうにない。
私の愛してやまない古典文学の宝と呼べる数々の作品達も、この世界では存在していないのだろうか。小梅に聞いて「そんなもの知りません」などと言われたら、発狂してしまうかもしれない。
古典文学は私の生きがいなのに…… 怖くてこれ以上は聞けない。
「姫様、いかがなさいました?」
初日こそ、見慣れない部屋、庭や調度品等に新鮮味を感じることもあったが、基本的にお邸の造りは一緒だ。そして平安時代の姫君なんて、双六をしたり碁をしたり、歌を詠んでみたり、女房とお喋りしたり。毎日毎日、同じようなことをして大半を部屋の中で過ごす。私もその例外ではない。以前と何も変わらない日々が続いていた。
左大臣家本邸は、これまた迷子になりそうなほどお邸も庭も広く立派なものだった。
左大臣が住む寝殿に対し、母や私の私室は東の対の一角にある。正殿と東の対を繋ぐ二本の橋廊の間には小さな中庭があって、小川のように澄んだ水が流れ、季節の草木が植えられ、自然を感じられるようになっていた。この中庭は四季によって見せる姿を変え、美しい情景を作り出すので、女房達もお気に入りなのだそう。
西の対には、左大臣のもう一人の北の方(つまり、もう一人の奥方)が住まわれているらしいが、まだお会いしたことはない。小梅情報によると、とても優しい方らしく、私の母との関係も良好なのだそうだ。
同じ夫を持ちながら同じ邸の東と西に住む――普通はいがみ合いそうなものだが、西の方も母もおっとり系で争いを敬遠するタイプのようで、お互いに嫌がらせだの悪口だのは本当に一切ないらしい。本人達がそうなので、仕える女房達も然り。左大臣は妻に恵まれているようだった。
西の方には二人の姫君がいらして、大君は帝へ、中君は東宮へ入内なさっているとのこと。父の今の立場や権力は、それもあってのことなのだろう。
「姫様、姫様ってば! 聞いていらっしゃいます?」
白湯を差し出しながら、小梅が私の顔を覗き込んでいた。
全く聞いていなかった、ごめんなさい小梅。
「ええと、何だったかしら。ぼうっとしていたわ」
「だから、朱雀大路での大立ち回りをなさったかぐや姫のことですわ!」
「は? かぐや姫……?」
「女房仲間の間で噂ですの! 右大臣家の三の君様の道中で横暴を働いた者から、か弱い母子をお庇いになられた女がいたのだそうです!」
どこかで聞いた話だ。
何がどうなってかぐや姫になってるの?
頭を抱えたい衝動を必死に抑える。
「右大臣家相手にでございますよ? しかも男ならばいざ知らず、女の身で! なんとまあ、素敵なお方なのでしょう! わたくし、憧れてしまいますわ!」
「女性は、おしとやかな方がよろしいんじゃなかったかしら?」
「ええ、もちろんですわ。ですが姫様、時には強さも必要だと思いますの! その女は颯爽と現れて母子を助け、名乗らずに消え去ったのだそうです。傍で見ていた者の話によると、まるでかぐや姫もかくあらんといったような美しい女だったのですって! その後、誰も彼女の姿を見た者はいないのだとか」
「それは言い過ぎ」
「え?」
「え? い、いいえ。何でもないわ。なるほどね、誰も見ていないから月に帰ったかぐや姫のようだと、それでそう呼ばれている訳なのね」
「ああ…… どれほどお美しいお方なのでしょう。一目でもこの目で見てみたいものですわーー!!」
目の前にいるわよ、小梅。
きゃっきゃしている彼女を横目に、溜息をついた。
あれだけの騒ぎだ、噂話にならない方が無理だろう。その正体が私だってバレていないだけでもよしとしなくてはいけない。随分美化されているようだが、物の怪話の時もそうだったので、ある意味仕方ないと思うよりほかない。それにしたって、かぐや姫は言い過ぎだと思う。
そういえば、あの超絶美形は、あの後どうしたのだろうか。
半ば無理やりに野次馬を押し付けて、自分だけが逃げてきてしまったことに罪悪感を覚えてないといったら嘘になる。が、タイムリミットが迫っていたのだ、実際私の帰宅はかなりギリギリだった。今でもあれが最善だったと思う。
どこかでバッタリと会ってしまったらどうしよう、というような心配や不安は一切ない。なぜなら、私は左大臣家の姫でほぼ一日中お邸内にいるし、日常的な会話は小梅をはじめとした女房達としかしない。異性と会う機会などはほとんどないのだ。
それにしても、随分と余裕のあるような、優雅な雰囲気の人だった。どこか貴族の家の者なのだろうか。帝に近しい方と考えるなら、内裏に出仕していて、それなりに身分のある人とか?
分からないけれど、あそこまでの美形にはもう二度と会えないだろうなと思う。異性を見て、目を奪われたのは初めてのことだった。
ああ、本当にカッコよかったな……
「でも姫様、わたくしはもちろん! 姫様が一番お美しいと思っておりますわよ」
私が黙ったことに何か勘違いをしたのか、小梅が慌てて言った。
なんだ、そのとってつけたような謎のフォローは。
「ありがとう。ところで、小梅。今は何年だったかしら」
そうだ、これを聞こうと思っていたのだ。小梅が変な話をするのですっかり忘れていた。
今は平安時代のいつ頃なのだろう。私の想像では、中期くらいだと思うのだけど。
いつの間にか並べられた朝食を摂りながら、小梅に問いかけた。
今日のおかずは干し魚に茄子の香の物、ゆでた海藻などなど。相変わらずのメニューだ。
この食事にもようやく慣れてきたなと思いながら、強飯と呼ばれるご飯に箸をつける。周りに味付け用の塩、酢、味噌などあるが、塩分過多はこの時代多かったと言われる糖尿病の原因になりかねない。調味料になるべく手を付けないようにしているのは、この身体が三の君のものという認識があるからだ。私が目覚めたときはほぼ瀕死の状態で苦しい思いをしたので、元の世界へ戻るときは、三の君のためにもなるべく健康体でお返ししたい。
ちなみに脚気も死亡率の高い病気であったので、なるべくバランスよく食べることを心掛けている。幸いなことにおかずの品数は多いのでそのあたりはクリアできそうだ。私がこれまで認識していた、いわゆる平安時代の貴族の食膳よりは、どうも三、四品多いようで違和感もあるのだが、ここは時の左大臣家である。おかずが一般的な貴族の食事より多かったとしても不思議ではないし、病み上がりの私に精をつけようと意図的に多くしているのかもしれない。あまり、気にかけるようなことでもないだろう。
「姫様、今は――」
返ってきた小梅の答えに、思わず箸を持つ手が止まった。
「なんですって??」
言い間違い、聞き間違いではないの?
そんな意味も込めて小梅を見たが、同じ答えが返ってきた。
左大臣家の三の君という、自分とは縁のなかった人間になってから、毎日何かしらに驚かされる。
私は記憶喪失の姫ということになっているので、いちいち驚いた反応をしても誰も不思議には思わないが、心情としては、今の小梅の言葉は顎が外れるかと思ったくらいの衝撃だった。
小学生から古典文学に魅せられてきて、日々学び、研究している私である。当然元号も一部あやふやではあるがそれなりに知っているつもりだ。それなのに、小梅の口にした元号は、聞いたことのないものだったのだ。
私の記憶がおかしいのだろうか。それともただの知識不足??悔しいが、後者は完全に否定しきれない部分がある。
「ええと、それじゃ先の帝は……」
「先の帝、でございますか?先帝の五条帝様は、今は五条院にお住まいでいらっしゃいますが……」
ご、五条??
一条でも二条でもなく?
聞いたことがない。さすがに平安時代の天皇の名前くらい分かる。文学は天皇と切っても切れない関係にあるものが多いからだ。これは私の勉強不足とか、そういう類のものではない。
当代の帝は「今上帝」や「上様」と呼ばれているのが普通だ。だから、あえて先帝の名を聞いたのに、これじゃ余計混乱しただけだ。
なにかがおかしい、次元が違うというか。胸がざわざわとする。この世界にきたときと同じだ。
そもそも、ここは平安時代ではなかったの? では、ここはどこ?
ようやく色々と慣れてきたと思った矢先に、またスタート地点に戻るだなんて。
これじゃいつまで経っても元の世界に帰る足がかりなんて、見つけられそうにない。
私の愛してやまない古典文学の宝と呼べる数々の作品達も、この世界では存在していないのだろうか。小梅に聞いて「そんなもの知りません」などと言われたら、発狂してしまうかもしれない。
古典文学は私の生きがいなのに…… 怖くてこれ以上は聞けない。
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