家畜少女と盲愛魔王

襟川竜

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HISTOIRE.15

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 無事に使い魔を得た生徒達は、これから一年間、数名ずつに分かれて班として行動する。授業もより実践的なものが増え、使い魔だけでなく生徒間でのコミュニケーションも大事になってくる。何かあれば連帯責任だ。教師が実力の近いもの同士を組み合わせて班を作るのだが、今年は例外が相次ぎ、わたし達だけは元のまま。つまり、特例性シャトレーゼ公爵令嬢アンリエッタ伯爵子息ケイン特待生ルーカスの四人組に、魔王デュグディドゥ吸血公爵モンランシー人狼コルトン不良娘ロゼの組み合わせだ。
 魔力のないわたしと魔王。ぎくしゃくしているアンリエッタとモンランシー。おまけ合格のケインと不良娘のロゼ。
 こうやって見るとルーカス&コルトンペアだけ問題なさそう。使い魔の選択もルーカスの実力に見合っているし、まだ仮契約らしいけれど関係は良好そうに見える。
 割を食う形になってしまった二人には申し訳ないものの、極力問題が起きないようにするためには仕方のない組み合わせ…というよりは消去法かもしれない。
 まあ、そのおかげ(?)でわたし達はとても良い拠点を与えられた。20年ほど前から使われていないお屋敷が、今日からわたし達八人が共同生活をする場である。
 学園の敷地内ではあるものの理由は不明だが長い間使用されていなかった館だ。班ごとに共同生活の場として館が一軒ずつ振り分けられるのだが、他の館と比べると庭も広さも段違い。まあ、長年使われていなかっただけあってかなり埃っぽいし荒れてはいるのだが…。一応、魔王や公爵など位の高い使い魔に配慮したのかもしれない。
「でけーのにおんぼろじゃねーか」
 ちっ、としたうちをしてロゼが悪態をつく。
「おっきーお家だー!」
 そんな彼女とは対照的にデュグディドゥさんは目を輝かせた。
「荷物を置く前に掃除が必要ですね」
「こんなに広い館、私達だけで掃除できるかなぁ?」
「時間もないし、自分達が使う部屋と、食堂と、あとは浴室だけでも済ませてしまおう」
「アタシはパース」
「ロゼ、掃除しないと寝る場所ないんだぞ」
「まだ仮契約だしー。命令すんなしー。呼び出したのそっちなんだから場所くらいご主人様がしてくださいな」
「ぐぬぬ…」
「前途多難そうだな…」
「そうだね。シャルはどうする?」
「レディだけを働かせるわけにはまいりませんので。日が暮れる前に済ませましょう」
「シャトー、掃除ってどうやるの?」
「埃は上から下に落ちるので、基本的には上のほうから順に…」
 庭のベンチにごろりと横になったロゼは放っておいて、わたし達はまず食堂の掃除から始めた。そこにいったん皆の荷物を置き、各々の部屋を決め各自で掃除をする。一度食堂に戻り簡易的な夕食を済ませ小休憩を取った後に大浴場の掃除をした。そのまま湯を張り、レディファーストでわたしとアンリエッタが先に入らせてもらう。ちょうどいいころ合いにロゼもやってきた。
「気持ちいいですね~」
「アタシとしてはもうちょい熱めでもいいけどな。ところで、アンリだっけ?アンタよくあの変態と幼馴染なんてやってられるね」
「サンセール様の事がなければどこにでもいる友情に熱い熱血系ですから」
「どこにでもいる?」
「ケイン、サンセール様のお話が大好きなんです。小さい頃は分厚い伝記をいつも持ち歩いていて…。子どもだから置き忘れもしょっちゅうで…。そのたびに泣いていたんですよ」
「それだけなら微笑ましいエピソードだったのに…。いつからストーカーになったわけ?」
「さあ…。私も昨日初めて知ったから…」
「そーなんだ…」
 ロゼは気まずそうに視線を漂わせた後、アンリエッタと距離を少しだけ詰めた。
「あのさ、これから一年共同生活な訳じゃん?女子ってアタシ達三人だけだしさ、その敬語やめてくんない?なんかむず痒いんだよね。アタシの事もふつーにロゼでいいし。アタシ、女の子には優しいほうなんだから」
「ロゼさんがそういうなら…」
「じゃあ決まり!アンリもシャトーもよろしく!」
「よろしくね、ロゼ」
「よろしく」
「いいねぇ。アタシさ、実は前から人間の女の子って興味あったんだよね。柔らかいんでしょ?さわっていーい?」
「いいけど…」
「やったぁ。んじゃ遠慮なく」
 そういうとロゼはアンリエッタに飛びついた。アンリエッタの顔がみるみる赤くなる。慌てて抵抗するも、上手くいかないようだ。
「おお~柔らかぁい。でもアタシのほうが大きいかも」
「ろ、ロゼ、あの…ちょっと…」
「ここはどんな感じ?」
「ひゃ…」
「なるほどー。んじゃここは?作り一緒?」
「んんっ!」
「赤くなってかぁわいい~」
「…っ!」
「シャトーもいいっしょー?」
「どうぞ」
「ひゃっふー。すべすべだねぇ。絶壁だねぇ。幼児体系のわりに筋肉しっかりついてんじゃーん。ぷに度とずっしりはアンリがやっぱ上だねぇ」
 そういってロゼは体中をまさぐる。確かにこれは貴族令嬢のアンリエッタには酷な行為かもしれない。
 湯から上がってもアンリエッタの顔はしばらく赤いままだった。
 就寝時には主人と使い魔が同室と知りロゼは「アンリ、一緒に寝よ?」というものの、そんなロゼに対しビクつきながら「決まりだから」とだけ告げるとアンリエッタはさっさと部屋に引っ込んでしまった。
「じゃあ、明日の朝7時頃に食堂集合で」
「わかった」
「オッケー」
 それぞれが自室に戻る。
 部屋の中もそれなりに広く、入ってすぐの場所はリビングとなっており、左右それぞれにベッドルームが設けられている。同じベッドで寝ないのは襲われないようにするためだろうか。本契約を結んでいても主従が逆転してしまう場合もあるし、身を守るためなのかもしれない。
「デュグディドゥさんはどちらを使いますか?」
「どっちでもいいよ」
「では、わたしは左で」
「わかった。それじゃあお休み、シャトー」
「はい、お休みなさい」
 にこやかに手を振るデュグディドゥさんに失礼して、先に休ませてもらう。ドアにはカギを一応かけておく。あまり意味はない気がするが、部屋を結界で包むという芸当はできないし、意識の問題だ。
 若干まだ埃っぽい布団に横になる。明日は皆で家具の買い出しと、デュグディドゥさんの契約具を買いに行かないとならない。わたしが用意していたのはワーム・アイ用なので彼には付けられない。このままずっと仮契約のままではいられない。かといって、本契約をした場合の魔力不足も心配だ。自分の魔力で現界できるとは言っていたけれど、それはそれで不安が残る。
 考えなければならない事は山程あるが、一度休息をとろう。慣れない事の連続で少し疲れた。
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