14 / 17
HISTOIRE.14
しおりを挟む
しょんぼりとしたアンリエッタが戻ってきたのは、丁度ケインの名が呼ばれた時だった。言うまでもないが、麗しの吸血公爵様は一緒ではない。
「今年の最後、やっぱりケインなんだね…」
「そのようだな」
「ラストということは、一番制御が難しい対象なんでしょうね」
「…ごめんね、二人とも。気を使わせちゃって…」
「いや…」
「別に…」
なんとも微妙な空気が流れる。わたしもルーカスも場を盛り上げるようなタイプではない。どちらかというと二人とも口数の少ないほうだ。お互いに気を使いあうというのは、なんといえばいいか…。さすがにコルトンも居心地が悪そうだ。
「アンリ、おかえり!…ところで、モンランシー様は?」
「彼は吸血鬼ですので…。暗いところで休むそうです」
「そーなんだ」
この魔王に空気を読めというほうが間違っていることぐらいはわかる。読めるわけがないのは今までの行動でさんざん理解した。けれど、あえて言いたい。空気を読め、と。
「ケインのことだから召喚対象は元竜王のサンセールだと思います」
「サンセール様!私が生まれたときには既に引退していたけれど、伝説級の竜王様だね!」
「ええ。ケインはサンセール様の武勇伝が綴られた伝記が幼少時期からの愛読書ですから」
「わー、すごーい」
わくわくと目を輝かせながらデュグディドゥさんは会場へと視線を戻す。興味の対象が自分からケインへと移った事にアンリエッタはほっと胸をなでおろした。コルトンと簡易的なあいさつを交わすと席へと着いた。
「よしっ」
ケインは二度ほど自身の頬を叩く。おそらくは気合でも入れているのだろう。ということは、いよいよ召喚だ。
何度も言うが、召喚だけならばできる。今年の試験で大事なのは人間界に繋ぎ留めておくための魔力、召喚対象を従わせられるだけの実力だ。
率直に言ってケインの魔力量でサンセールを使い魔にするのは不可能だ。圧倒的に魔力が足りない。
「おいでませ、偉大なる御方。我は汝の武勇に心打たれた者。我は汝との邂逅を望む者。きたるは雷鳴、生々流転の導たれば。雲海の覇者、時すら超ゆる白金たれば。司るは時空、聖域の守護神たれば。我が声届いたならば我に邂逅の許しを」
魔方陣の上、空間に亀裂が入り白色の稲妻が現れ始めた。
「汝の名を呼ぶ許しを」
稲妻が激しさを増す。
「我が名はケイン・ロワール。元竜王サンセールとの邂逅を望む者である!」
目も開けられぬほどの閃光、耳をつんざく轟音。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。ワシを名指しとは、元気なワッパじゃてなぁ」
魔力も体長も人間界に合わせているとはいえ、なかなかどうして威厳漂う竜がいた。全身は白金のように白く輝き、太く逞しい手足に巨大な翼。後ろへと向かって伸びる角はかけたりヒビが入っている。片目が潰れているものの、それは歴戦を生き抜いた猛者に相応しき傷跡だ。
感動でもしたのか、ケインの瞳から涙が零れた。
「ワシのような年寄りではなく、現役の竜王だって呼ぶチャンスじゃったろうに。物好きよのぅ」
「あ、貴方……こほん。貴方様の人選…この場合は竜選でしょうか。それが間違っているとは思いませんし、ラ=ジョヴァンセル様もとても素敵な竜王様です。彼が指揮を執ったリドラカッツの戦い、その手腕には感服いたしました」
最初こそ緊張で声が裏返ったものの、感動やら憧れやらのあふれ出す気持ちを押さえつけて、勤めて冷静に対応をし始める。普段は貴族らしくないケインだが、こういう対応を見ると貴族なんだなと思う。
「ほう…。もうあの戦の情報を掴んでおるとは…。ワッパ、物好きじゃな」
「ですが、失礼ながら申し上げますと、私にとっては貴方様こそが理想の竜なれば」
「『王』とは付けぬか」
「私は竜王を従えたい訳ではありません。貴方様と共に歩みたいのです」
「ふぅむ…。のうワッパよ。お前さん、魔力が足りておらんことは承知しておるな?」
「はい」
「分かっておってワシを呼んだのか?」
「失礼を承知でお呼び立ていたしました。この先も貴方様と共に進むことが望みですが、ここで終わったとて後悔はありません。貴方様にお会いできた。それだけで、悔いなく人生を終われます」
そう言い切ったケインは、晴れ晴れとした笑顔だった。
「そうか…。ワッパよ、友人を思い浮かべよ」
「はい」
そういうとサンセールは口から煙を吐き出した。煙は人の姿をとる。アンリエッタ、ルーカス、ついでにわたし。煙が真似たのはわたし達の姿。わたしはケインに友人認定をされているらしい。
そんなわたし達に向かって猛獣が飛びかかってきた。サーベルのようにとがった牙を持つ巨大なネコ科の動物、サーベルタイガーだ。その姿を認めたケインは魔法具を発動させるよりも早く煙のわたし達を庇うように立ちふさがった。炎を纏わせた拳で思い切り殴るとサーベルタイガーは煙となって消える。
余談だが、魔法具の発動タイミングが遅い。拳に纏わせる量にも左右でバラつきがあるし、形も不格好だ。もう少し鍛錬を積んだほうがいい。
「なるほどのぅ。お前さん、いわゆる熱血系じゃな。ワシも昔は後先考えない熱血系じゃった。懐かしいのぅ」
「ミルーチェの戦いの頃ですよね。確か、235歳頃の」
「ぬぅ…。お前さん、ワシのファン過ぎじゃろ…」
目を輝かせるケインに対し、元竜王が若干引いた。これはこれで二度と見られない可能性の高い光景だ。
「熱血系は嫌いにはなれんのぅ…。じゃがのぅ…。ううーむ…」
悩みに悩みぬいた末、サンセールは結論を出した。
「のう、試験官殿」
「はい」
「ワシはこのワッパが気に入った。ワシに会えるのならば命すら惜しくないなんぞ、中々の阿呆じゃ。加えて考えるより先に体が動くようじゃし、自分の欲に忠実で、なんとも鍛えがいのある子よ。じゃがの、ワシを従えるには魔力が足りん。本人も自覚しとるようじゃ」
ちらりと視線を向けるサンセールの瞳を、ケインはまっすぐ見返している。
「試験の内容としては不合格じゃろう。じゃが、ワシが不合格にしたくない。ここは元ではあるが竜王のワシの顔に免じて、おまけの合格にしてはもらえんかのぅ」
「サンセール殿の頼みとあれば無下にはできません。ですが、使い魔がいないとなると流石におまけでも合格には…」
「もちろんじゃ。ワッパにはワシの孫の面倒を見てもらいたい。じゃじゃ馬娘で最近は皆手を焼いておってなぁ」
その言葉にケインが頬を引きつらせた。死すら覚悟していたというのに、予想外の展開に…というよりは、サンセールのいう『孫』に何やら思うところがあるようだ。
「あ、あの…その、お孫さんってもしかして、末孫のロゼ様…ですか?」
「おお!さすがワシのファンじゃ。ロゼのこともちゃんと知っておったか。ならば話が早い」
「お、俺!不合格でいいです!貴方様のお手を煩わせるなんて…」
「なに、遠慮するでないわ」
慌てて辞退するケインをよそに、サンセールはパチンと指を鳴らした。ピシャーンという稲妻と共に桃色の小柄な竜が召喚された。
「いってー!なんだぁここは!」
「これ、騒ぐでないわ」
「あん?クソジジィ、てめぇの仕業か!ざっけんじゃねーぞコラ!」
「ピーピー喚くでないわ」
パチン
ピシャーン
「ぎゃー!」
もう一度打たれた時には、小柄な竜は人間態へと姿を変えていた。桃色の髪からぶすぶすと煙が出ている。
ケインはというと、両者のやりとりを口をぽかんと開けて見ている事しかできないでいる。
「何度も何度も雷落としやがってぇ…!もう許さねーぞ!」
がばりと起き上がると口を大きく開ける。奥に閃光が見えた。竜種得意のブレス攻撃だ。それをみてケインが両者の間に割って入った。おそらくはとっさにとった行動なのだろう。
「す、ストップ!ストーップ!」
「ああん?」
「ここ人間界!こんなとこでブレスなんて使ったら…」
「知るか!どけクソガキ!」
「どかないよ!こんなところでブレスなんて使わせない!君のブレスは魔界の山を一つ吹き飛ばせるんだ!人間界で使ったら大惨事だ!」
「あ?」
「それにブレスを暴発させて大きな湖だって作っただろ。あの威力の暴発はこの国一つ余裕で消せるんだ」
「え?」
「君が怒りに任せてブレスを打った2386回中1201回は暴発してる。50%の確率で暴発するんだから、そんなの止めるに決まっているじゃないか!」
「あの…」
「ブレスにしたってちゃんと魔力を練らずに撃ってはダメだってヴィーニャ=エスメラルダ様からも言われているだろ」
「ええ…」
「カイケン=エステート=マルベック様とケンカした時だって」
「ちょちょちょ、ちょっと待って、ストップ、ストーップ!」
先ほどまでの威勢はどこへやら、桃竜少女は慌ててケインの話を遮った。目に若干の怯えの色が覗える。
「アンタなんでそんなこと知ってんの!?カイケン兄様とのケンカってついこの間の話なんだけど!?」
「そりゃサンセール様に関する話ならいくらでも」
「いやいや、それはがっつりアタシの話じゃん!」
「あのあとサンセール様まで届いて説教くらってたじゃないか」
「そこから辿る!?」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。ワシの見込んだ通りじゃ。ワッパよ、ロゼの事はやはりお前さんに任せよう」
「は?…え!?ま、待って!それってまさか…」
「試験官殿、このロゼを彼の使い魔に」
「わかりました」
「いや、俺はサンセール様以外は…」
「待っておじい様!謝る、謝るから!ごめんなさい!態度も改めるから!この変態だけは!」
「決定事項じゃ。ワッパよ、見事ロゼを御した暁には再び相まみえようぞ」
「もう一度サンセール様と!?わかりました、謹んでお引き受けいたします」
「ばっ…!断れ!」
「では、さらばじゃ」
雷鳴と共にサンセールが魔界へと還る。後に残ったのは元竜王たっての願いを聞き入れた事で新たな問題に頭を悩ませる事になったマダム・グラルージュと、新たな使命に燃えるケイン、そして絶望の表情を浮かべて膝から崩れ落ちた桃竜少女ロゼだった。
「今年の最後、やっぱりケインなんだね…」
「そのようだな」
「ラストということは、一番制御が難しい対象なんでしょうね」
「…ごめんね、二人とも。気を使わせちゃって…」
「いや…」
「別に…」
なんとも微妙な空気が流れる。わたしもルーカスも場を盛り上げるようなタイプではない。どちらかというと二人とも口数の少ないほうだ。お互いに気を使いあうというのは、なんといえばいいか…。さすがにコルトンも居心地が悪そうだ。
「アンリ、おかえり!…ところで、モンランシー様は?」
「彼は吸血鬼ですので…。暗いところで休むそうです」
「そーなんだ」
この魔王に空気を読めというほうが間違っていることぐらいはわかる。読めるわけがないのは今までの行動でさんざん理解した。けれど、あえて言いたい。空気を読め、と。
「ケインのことだから召喚対象は元竜王のサンセールだと思います」
「サンセール様!私が生まれたときには既に引退していたけれど、伝説級の竜王様だね!」
「ええ。ケインはサンセール様の武勇伝が綴られた伝記が幼少時期からの愛読書ですから」
「わー、すごーい」
わくわくと目を輝かせながらデュグディドゥさんは会場へと視線を戻す。興味の対象が自分からケインへと移った事にアンリエッタはほっと胸をなでおろした。コルトンと簡易的なあいさつを交わすと席へと着いた。
「よしっ」
ケインは二度ほど自身の頬を叩く。おそらくは気合でも入れているのだろう。ということは、いよいよ召喚だ。
何度も言うが、召喚だけならばできる。今年の試験で大事なのは人間界に繋ぎ留めておくための魔力、召喚対象を従わせられるだけの実力だ。
率直に言ってケインの魔力量でサンセールを使い魔にするのは不可能だ。圧倒的に魔力が足りない。
「おいでませ、偉大なる御方。我は汝の武勇に心打たれた者。我は汝との邂逅を望む者。きたるは雷鳴、生々流転の導たれば。雲海の覇者、時すら超ゆる白金たれば。司るは時空、聖域の守護神たれば。我が声届いたならば我に邂逅の許しを」
魔方陣の上、空間に亀裂が入り白色の稲妻が現れ始めた。
「汝の名を呼ぶ許しを」
稲妻が激しさを増す。
「我が名はケイン・ロワール。元竜王サンセールとの邂逅を望む者である!」
目も開けられぬほどの閃光、耳をつんざく轟音。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。ワシを名指しとは、元気なワッパじゃてなぁ」
魔力も体長も人間界に合わせているとはいえ、なかなかどうして威厳漂う竜がいた。全身は白金のように白く輝き、太く逞しい手足に巨大な翼。後ろへと向かって伸びる角はかけたりヒビが入っている。片目が潰れているものの、それは歴戦を生き抜いた猛者に相応しき傷跡だ。
感動でもしたのか、ケインの瞳から涙が零れた。
「ワシのような年寄りではなく、現役の竜王だって呼ぶチャンスじゃったろうに。物好きよのぅ」
「あ、貴方……こほん。貴方様の人選…この場合は竜選でしょうか。それが間違っているとは思いませんし、ラ=ジョヴァンセル様もとても素敵な竜王様です。彼が指揮を執ったリドラカッツの戦い、その手腕には感服いたしました」
最初こそ緊張で声が裏返ったものの、感動やら憧れやらのあふれ出す気持ちを押さえつけて、勤めて冷静に対応をし始める。普段は貴族らしくないケインだが、こういう対応を見ると貴族なんだなと思う。
「ほう…。もうあの戦の情報を掴んでおるとは…。ワッパ、物好きじゃな」
「ですが、失礼ながら申し上げますと、私にとっては貴方様こそが理想の竜なれば」
「『王』とは付けぬか」
「私は竜王を従えたい訳ではありません。貴方様と共に歩みたいのです」
「ふぅむ…。のうワッパよ。お前さん、魔力が足りておらんことは承知しておるな?」
「はい」
「分かっておってワシを呼んだのか?」
「失礼を承知でお呼び立ていたしました。この先も貴方様と共に進むことが望みですが、ここで終わったとて後悔はありません。貴方様にお会いできた。それだけで、悔いなく人生を終われます」
そう言い切ったケインは、晴れ晴れとした笑顔だった。
「そうか…。ワッパよ、友人を思い浮かべよ」
「はい」
そういうとサンセールは口から煙を吐き出した。煙は人の姿をとる。アンリエッタ、ルーカス、ついでにわたし。煙が真似たのはわたし達の姿。わたしはケインに友人認定をされているらしい。
そんなわたし達に向かって猛獣が飛びかかってきた。サーベルのようにとがった牙を持つ巨大なネコ科の動物、サーベルタイガーだ。その姿を認めたケインは魔法具を発動させるよりも早く煙のわたし達を庇うように立ちふさがった。炎を纏わせた拳で思い切り殴るとサーベルタイガーは煙となって消える。
余談だが、魔法具の発動タイミングが遅い。拳に纏わせる量にも左右でバラつきがあるし、形も不格好だ。もう少し鍛錬を積んだほうがいい。
「なるほどのぅ。お前さん、いわゆる熱血系じゃな。ワシも昔は後先考えない熱血系じゃった。懐かしいのぅ」
「ミルーチェの戦いの頃ですよね。確か、235歳頃の」
「ぬぅ…。お前さん、ワシのファン過ぎじゃろ…」
目を輝かせるケインに対し、元竜王が若干引いた。これはこれで二度と見られない可能性の高い光景だ。
「熱血系は嫌いにはなれんのぅ…。じゃがのぅ…。ううーむ…」
悩みに悩みぬいた末、サンセールは結論を出した。
「のう、試験官殿」
「はい」
「ワシはこのワッパが気に入った。ワシに会えるのならば命すら惜しくないなんぞ、中々の阿呆じゃ。加えて考えるより先に体が動くようじゃし、自分の欲に忠実で、なんとも鍛えがいのある子よ。じゃがの、ワシを従えるには魔力が足りん。本人も自覚しとるようじゃ」
ちらりと視線を向けるサンセールの瞳を、ケインはまっすぐ見返している。
「試験の内容としては不合格じゃろう。じゃが、ワシが不合格にしたくない。ここは元ではあるが竜王のワシの顔に免じて、おまけの合格にしてはもらえんかのぅ」
「サンセール殿の頼みとあれば無下にはできません。ですが、使い魔がいないとなると流石におまけでも合格には…」
「もちろんじゃ。ワッパにはワシの孫の面倒を見てもらいたい。じゃじゃ馬娘で最近は皆手を焼いておってなぁ」
その言葉にケインが頬を引きつらせた。死すら覚悟していたというのに、予想外の展開に…というよりは、サンセールのいう『孫』に何やら思うところがあるようだ。
「あ、あの…その、お孫さんってもしかして、末孫のロゼ様…ですか?」
「おお!さすがワシのファンじゃ。ロゼのこともちゃんと知っておったか。ならば話が早い」
「お、俺!不合格でいいです!貴方様のお手を煩わせるなんて…」
「なに、遠慮するでないわ」
慌てて辞退するケインをよそに、サンセールはパチンと指を鳴らした。ピシャーンという稲妻と共に桃色の小柄な竜が召喚された。
「いってー!なんだぁここは!」
「これ、騒ぐでないわ」
「あん?クソジジィ、てめぇの仕業か!ざっけんじゃねーぞコラ!」
「ピーピー喚くでないわ」
パチン
ピシャーン
「ぎゃー!」
もう一度打たれた時には、小柄な竜は人間態へと姿を変えていた。桃色の髪からぶすぶすと煙が出ている。
ケインはというと、両者のやりとりを口をぽかんと開けて見ている事しかできないでいる。
「何度も何度も雷落としやがってぇ…!もう許さねーぞ!」
がばりと起き上がると口を大きく開ける。奥に閃光が見えた。竜種得意のブレス攻撃だ。それをみてケインが両者の間に割って入った。おそらくはとっさにとった行動なのだろう。
「す、ストップ!ストーップ!」
「ああん?」
「ここ人間界!こんなとこでブレスなんて使ったら…」
「知るか!どけクソガキ!」
「どかないよ!こんなところでブレスなんて使わせない!君のブレスは魔界の山を一つ吹き飛ばせるんだ!人間界で使ったら大惨事だ!」
「あ?」
「それにブレスを暴発させて大きな湖だって作っただろ。あの威力の暴発はこの国一つ余裕で消せるんだ」
「え?」
「君が怒りに任せてブレスを打った2386回中1201回は暴発してる。50%の確率で暴発するんだから、そんなの止めるに決まっているじゃないか!」
「あの…」
「ブレスにしたってちゃんと魔力を練らずに撃ってはダメだってヴィーニャ=エスメラルダ様からも言われているだろ」
「ええ…」
「カイケン=エステート=マルベック様とケンカした時だって」
「ちょちょちょ、ちょっと待って、ストップ、ストーップ!」
先ほどまでの威勢はどこへやら、桃竜少女は慌ててケインの話を遮った。目に若干の怯えの色が覗える。
「アンタなんでそんなこと知ってんの!?カイケン兄様とのケンカってついこの間の話なんだけど!?」
「そりゃサンセール様に関する話ならいくらでも」
「いやいや、それはがっつりアタシの話じゃん!」
「あのあとサンセール様まで届いて説教くらってたじゃないか」
「そこから辿る!?」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。ワシの見込んだ通りじゃ。ワッパよ、ロゼの事はやはりお前さんに任せよう」
「は?…え!?ま、待って!それってまさか…」
「試験官殿、このロゼを彼の使い魔に」
「わかりました」
「いや、俺はサンセール様以外は…」
「待っておじい様!謝る、謝るから!ごめんなさい!態度も改めるから!この変態だけは!」
「決定事項じゃ。ワッパよ、見事ロゼを御した暁には再び相まみえようぞ」
「もう一度サンセール様と!?わかりました、謹んでお引き受けいたします」
「ばっ…!断れ!」
「では、さらばじゃ」
雷鳴と共にサンセールが魔界へと還る。後に残ったのは元竜王たっての願いを聞き入れた事で新たな問題に頭を悩ませる事になったマダム・グラルージュと、新たな使命に燃えるケイン、そして絶望の表情を浮かべて膝から崩れ落ちた桃竜少女ロゼだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる