13 / 17
HISTOIRE.13
しおりを挟む
「ルーカス、お帰りなさい!コルトンさん、お久しぶりです!」
「…ただいま戻りました」
「…お久しぶりです」
ニコニコと笑みを浮かべるデュグディドゥさんとは対照的な二人の返事だが、まあ気にしていないようなのでわたしもあえて何も言いはすまい。
契約の同意を済ませた後は会場に戻ってくる者もいるが、大抵はそのまま本契約へと進むため別室へと移動する。ルーカス達のようにすぐに席に戻ってくるのは珍しい。今回の場合は召喚された彼が魔王と知り合いだった事もあり、本契約前にあいさつに立ち寄ったのだろう。
「つかぬ事をお聞きしますが、なぜ貴方様がここにいらっしゃるのでしょうか?」
「やだなぁ、そんなにかしこまらないでよ。私達友達じゃないか」
友達という単語にルー・ガルーが頬を引きつらせたのは言うまでもない。
「一応魔王と下っ端獣人ですからね、礼儀はわきまえておきませんと」
「そういうもの?」
「そういうものですが、どうしてもと仰るのならば…」
「じゃあどうしてもで。コルトンさんが敬語ってすっっっっっごく変だし」
「……こほん、では失礼して。なんでお前が人間界に居る。まさか魔王のくせに召喚されたとか言わないだろうな」
「実はそうなんだ。ここにいるシャトーがご主人様だよ」
じゃじゃーんという効果音が聞こえた気がする。
ルー・ガルーは何か言いたげに口を開閉したあと、ため息交じりに「魔王の自覚マジでないな…」と呟いた。
「それでね、こっちがシャトーの友達のケインで、もう一人あそこにいるのがアンリだよ」
そういってデュグディドゥさんは会場を指す。そう、ちょうど今からアンリエッタの番なのだ。
「あの布陣…召喚対象は吸血鬼か?」
「布陣だけでわかるなんてすごい!」
「そりゃま、あの並びは有名だからな」
「ケインが言うには、召喚対象はシャルル=ド=モンランシー様らしいよ」
「はぁ?あの伯爵様?さすがに契約は難しいだろ…」
召喚対象が吸血公爵と呼ばれる魔人だと知り興味が湧いたようだ。
シャルル=ド=モンランシー。伯爵という階級でありながら人間界と魔界に多大なる貢献をしたとして近年公爵の位を賜ったという有能な魔人。吸血鬼という種族でありながら日中でも行動ができ、十字架や神聖術も大した影響を受けないと言われている。その麗しき容姿に心を奪われ彼のとりこになった令嬢も多いとか。
「ルーカス、ヒザ貸せ」
「どうぞ」
そういうとルー・ガルーはパチンと指を鳴らす。するとぼふんという音とともに少量の煙が発生し、あとにはまるで狼のぬいぐるみのような、可愛らしい姿のルー・ガルーがいた。彼はそのままぽすんとルーカスの膝に座る。
「コ、コルトンさんが、お人形さんに!?」
「誰が愛玩人形だ。契約すりゃ誰だって人間界で活動しやすくなるために仮の姿ってやつを手に入れるんだよ」
「そうなんだ…知らなかった…」
「そんなことよりも、そろそろ来るみたいだぞ」
その言葉に会場へと視線を戻す。いつの間にやら呪文は唱え終わっており、空間の裂け目から美青年が現れる。この国では珍しい黒く艶やかな髪、宝石のような真紅の瞳。透き通るような白い肌。女生徒だけでなく男生徒ですら息をのむ美しさ。彫刻のような完成された美。
美しいとは彼のためにある言葉なのではないかとすら思えてくる。
「あの…」
「……」
アンリエッタが言葉を発するよりも早く麗しの吸血公爵様は小さなため息をついた。憂いたその表情に女生徒たちが黄色い声を上げる。心を撃ち抜かれて倒れた者も半数ほどいるようだ。
当の本人はアンリエッタにさっさと背を向けて仮契約の書類にサインを済ませて出て行ってしまった。それを見てアンリエッタが慌てて道具類を片付けて後を追う。
「…へ?終わり?」
「噂通りいけ好かない野郎だぜ」
ぽかんとするデュグディドゥさんに腕を組みながらルー・ガルーが言う。
「あれ、たぶん怒ってるんだと思う。シャルってさ、実はアンリのおばあ様の元使い魔なんだよ。おばあ様が亡くなって契約解消されてるんだけど、その時に『ちゃんと自分に合う使い魔を見つけなさい』ってアンリは言われててさ。でもその、シャルはさ、アンリのいわゆる初恋の人でさ。言いたいこと、わかる?」
「初対面の俺でもよくわかったよ」
よくわかっていないのはデュグディドゥさんだけのようなので、ここから先は当人達が話してくれるまでこちらから聞く必要はないだろう。
モンランシー公としては元々召喚に応じるつもりはなかったのだろうが、今回は魔界王の命令。元とはいえ長年使えた主人の孫だ。元主人の顔に泥を塗る訳にもいかず、仕方がなく仮契約を結んだという状況だろう。ここから本契約に進むのか、しばらく仮契約で進むのかは当人達の問題だ。
「じゃあ俺行ってくるわ。すげーの召喚するから見ててくれよなっ」
アンリエッタが気がかりだと思い切り顔に書かれているが、だからこそケインはあえて明るくそう言って席を立つ。
「ロワール家当主クロード・D・ロワールが息子、ケイン・ロワールと申します。正式なご挨拶はまた後程」
「これはご丁寧に。仮の姿で失礼します。私はコルトン=シャルルマーニュ。お見知りおきを」
互いに短い挨拶をかわすと、ケインは会場へと向かった。
「…ロワール家にしては、いい奴だな」
ぼそりと呟き、彼は恐る恐るわたしを見る。気持ちはわからないでもない。
「シャトレーゼ・ボルドーと申します。魔力はありません。何故主人を務めているのか自分でも謎です。かしこまる必要もありません」
「…なるほど、よくわかった。コルトン=シャルルマーニュだ。こちらも畏まってもらう必要はない。できる範囲で協力もする。よろしく頼む」
「はい、心強いです」
そんなわたし達のやりとりを、デュグディドゥさんは頭に疑問符を浮かべて眺めていた。
「…ただいま戻りました」
「…お久しぶりです」
ニコニコと笑みを浮かべるデュグディドゥさんとは対照的な二人の返事だが、まあ気にしていないようなのでわたしもあえて何も言いはすまい。
契約の同意を済ませた後は会場に戻ってくる者もいるが、大抵はそのまま本契約へと進むため別室へと移動する。ルーカス達のようにすぐに席に戻ってくるのは珍しい。今回の場合は召喚された彼が魔王と知り合いだった事もあり、本契約前にあいさつに立ち寄ったのだろう。
「つかぬ事をお聞きしますが、なぜ貴方様がここにいらっしゃるのでしょうか?」
「やだなぁ、そんなにかしこまらないでよ。私達友達じゃないか」
友達という単語にルー・ガルーが頬を引きつらせたのは言うまでもない。
「一応魔王と下っ端獣人ですからね、礼儀はわきまえておきませんと」
「そういうもの?」
「そういうものですが、どうしてもと仰るのならば…」
「じゃあどうしてもで。コルトンさんが敬語ってすっっっっっごく変だし」
「……こほん、では失礼して。なんでお前が人間界に居る。まさか魔王のくせに召喚されたとか言わないだろうな」
「実はそうなんだ。ここにいるシャトーがご主人様だよ」
じゃじゃーんという効果音が聞こえた気がする。
ルー・ガルーは何か言いたげに口を開閉したあと、ため息交じりに「魔王の自覚マジでないな…」と呟いた。
「それでね、こっちがシャトーの友達のケインで、もう一人あそこにいるのがアンリだよ」
そういってデュグディドゥさんは会場を指す。そう、ちょうど今からアンリエッタの番なのだ。
「あの布陣…召喚対象は吸血鬼か?」
「布陣だけでわかるなんてすごい!」
「そりゃま、あの並びは有名だからな」
「ケインが言うには、召喚対象はシャルル=ド=モンランシー様らしいよ」
「はぁ?あの伯爵様?さすがに契約は難しいだろ…」
召喚対象が吸血公爵と呼ばれる魔人だと知り興味が湧いたようだ。
シャルル=ド=モンランシー。伯爵という階級でありながら人間界と魔界に多大なる貢献をしたとして近年公爵の位を賜ったという有能な魔人。吸血鬼という種族でありながら日中でも行動ができ、十字架や神聖術も大した影響を受けないと言われている。その麗しき容姿に心を奪われ彼のとりこになった令嬢も多いとか。
「ルーカス、ヒザ貸せ」
「どうぞ」
そういうとルー・ガルーはパチンと指を鳴らす。するとぼふんという音とともに少量の煙が発生し、あとにはまるで狼のぬいぐるみのような、可愛らしい姿のルー・ガルーがいた。彼はそのままぽすんとルーカスの膝に座る。
「コ、コルトンさんが、お人形さんに!?」
「誰が愛玩人形だ。契約すりゃ誰だって人間界で活動しやすくなるために仮の姿ってやつを手に入れるんだよ」
「そうなんだ…知らなかった…」
「そんなことよりも、そろそろ来るみたいだぞ」
その言葉に会場へと視線を戻す。いつの間にやら呪文は唱え終わっており、空間の裂け目から美青年が現れる。この国では珍しい黒く艶やかな髪、宝石のような真紅の瞳。透き通るような白い肌。女生徒だけでなく男生徒ですら息をのむ美しさ。彫刻のような完成された美。
美しいとは彼のためにある言葉なのではないかとすら思えてくる。
「あの…」
「……」
アンリエッタが言葉を発するよりも早く麗しの吸血公爵様は小さなため息をついた。憂いたその表情に女生徒たちが黄色い声を上げる。心を撃ち抜かれて倒れた者も半数ほどいるようだ。
当の本人はアンリエッタにさっさと背を向けて仮契約の書類にサインを済ませて出て行ってしまった。それを見てアンリエッタが慌てて道具類を片付けて後を追う。
「…へ?終わり?」
「噂通りいけ好かない野郎だぜ」
ぽかんとするデュグディドゥさんに腕を組みながらルー・ガルーが言う。
「あれ、たぶん怒ってるんだと思う。シャルってさ、実はアンリのおばあ様の元使い魔なんだよ。おばあ様が亡くなって契約解消されてるんだけど、その時に『ちゃんと自分に合う使い魔を見つけなさい』ってアンリは言われててさ。でもその、シャルはさ、アンリのいわゆる初恋の人でさ。言いたいこと、わかる?」
「初対面の俺でもよくわかったよ」
よくわかっていないのはデュグディドゥさんだけのようなので、ここから先は当人達が話してくれるまでこちらから聞く必要はないだろう。
モンランシー公としては元々召喚に応じるつもりはなかったのだろうが、今回は魔界王の命令。元とはいえ長年使えた主人の孫だ。元主人の顔に泥を塗る訳にもいかず、仕方がなく仮契約を結んだという状況だろう。ここから本契約に進むのか、しばらく仮契約で進むのかは当人達の問題だ。
「じゃあ俺行ってくるわ。すげーの召喚するから見ててくれよなっ」
アンリエッタが気がかりだと思い切り顔に書かれているが、だからこそケインはあえて明るくそう言って席を立つ。
「ロワール家当主クロード・D・ロワールが息子、ケイン・ロワールと申します。正式なご挨拶はまた後程」
「これはご丁寧に。仮の姿で失礼します。私はコルトン=シャルルマーニュ。お見知りおきを」
互いに短い挨拶をかわすと、ケインは会場へと向かった。
「…ロワール家にしては、いい奴だな」
ぼそりと呟き、彼は恐る恐るわたしを見る。気持ちはわからないでもない。
「シャトレーゼ・ボルドーと申します。魔力はありません。何故主人を務めているのか自分でも謎です。かしこまる必要もありません」
「…なるほど、よくわかった。コルトン=シャルルマーニュだ。こちらも畏まってもらう必要はない。できる範囲で協力もする。よろしく頼む」
「はい、心強いです」
そんなわたし達のやりとりを、デュグディドゥさんは頭に疑問符を浮かべて眺めていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる