家畜少女と盲愛魔王

HISTOIRE.11

　翌日、中断になっていた使い魔召喚の試験が再開された。
「えー、最後にもう一度言いますが、試験では本当に、ほんっっっとうに何が起きるかわかりません。魔界王との契約により、今回は魔界の住人を召喚対象としている者全員が必ず召喚することが可能となっています。本来ならば資格がなく召喚に応じない者もいます。ですが、今回はそれがない。つまり、召喚後の難易度がぐっと上がっているのです。召喚できたからと気を抜かず、むしろより一層気を引き締めてください。召喚した後の皆さんの行動が今回の評価対象にもなります。よいですね」
　マダム・グラルージュは「何が起きるかわからない」のところでわたしに――正確にはわたしの隣にいるデュグディドゥさんにちらりと視線を向ける。会場の生徒達も同様だ。もちろんわたしも彼を見た。だが当の本人は目を輝かせながらわくわくしている。これから召喚される使い魔候補達を早く見たくて待ちきれないと顔に書かれている。
　国王陛下と魔界王の交わした契約の一つに、わたしの使い魔として行動をともにするというものがある。前にも言ったけれど、わたしは国の暗部に深く関わってる。つまり、魔界王はお詫びとして暗部の仕事に魔王を使ってもよいと言ってきたのだ。今のところ他国との戦争になりそうな案件はないものの、魔法の使用できるレベルで就職先が決まったりと実力重視の現社会に不満を唱える革命派なるものは多数存在する。その鎮圧にも魔王が使えるとなると、なかなかどうして断るのは惜しい。
　更には、今後５年は魔界の住人を召喚対象とした場合、この国の人間の召喚には必ず応えるという契約もした。召喚者と住人が必ず契約を結べる訳では無いが、応じず交渉すらできないよりかはかなりマシである。
　またアーシュビッツ国立魔術学院への補償として魔界でしか入手できない貴重な鉱石や植物などの無償提供がこれまた５年間約束された。
　結果としては大事に至らなかった訳だけれど下手をすればルミナスヴェール魔導王国と魔界との戦争にもなりかけ、死傷者も多数出ていたかもしれないと思えば、魔界王としてこれくらいは当然と言うことなのだろう。
　これでは足りないのでは？と感じる人もいるかも知れないが、国ではなく世界が違うのだ。魔界王としてこれが最大限の誠意なのだろう。
　余談だが魔界王曰く「デュグディドゥが死んでも自己責任だから気にしなくてもいいよ」との事だそう。

「ではまず、例年通りに進行できる天界からの召喚試験を行います。対象者は速やかにこちらまで来るように」
　その案内に全体の三分の一が席を立つ。
　天界とは、魔界と対となる世界で秩序や善性を重んじる種族の天使達が暮らしている場所である。召喚には必ず応じるがその後の問答で判断されるため、人によっては実力を示す為に戦う魔界の住人よりも難しいと感じる者もいる。また、天使の判断基準はそれぞれの天使で違うため、これをすれば正解というものがない。戦闘力よりも精神性が試されるのだ。