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HISTOIRE.10
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魔界王の出現に気がついたのか、ソーヴィニヨンのブレスが止まる。同時にアンリエッタ達も荒い息遣いのまま彼を見つめた。3人とも汗だく。それほどまでに集中しなければならない大仕事だったと言うことなのだろう。
「どういう状況…?」
ケインがぽつりと呟く。おそらくは無意識に漏れた言葉だろう。
「決まっているだろう、デュグ=ディ=ドゥが『パパーたちゅけてー』と泣きついてきたのだ。心優しいパパは可愛い我が子の為にわざわざ出向いたという訳さ」
「なんか、思ってたのと違う」
「…疲れゆえかな?心の声がダダ漏れだよ、少年」
呆然と呟いたケインの一言に、魔界王は少しだけ言葉を紡げなかったようだ。まあ確かに見た目は若いし威厳のある立ち居振る舞いではない。どちらかといえば…チャラい、と分類されるものだ。キラキラと輝く若き王子や英雄のような容姿なのに。これがいわゆる『喋ると三枚目』というやつなのだろうか。
「ご足労いただき…」
「挨拶はよい、事情はサラッと聞いてきた」
そう言うと魔界王は浮かべていた意地悪そうな笑みを消し、慌てて上空から降りてくるソーヴィニヨンへと視線を向ける。魔人型に戻ったソーヴィニヨンは急ぎ膝を付き頭を垂れた。魔界王への謁見ともあり、手早く容姿も整えている。彼と同じように膝まづこうとしたわたし達を、魔界王は片手で制した。
「ソーヴィニヨンよ、率直な感想が聞きたい。魔物型に戻らざるをえなくされた今の心境はどうだ?」
「…想定外の実力でした。貴方様の判断を疑うつもりは毛頭ありませんが、齢100という以外ほとんど情報がなく、彼からも威厳は欠片も感じず、それ故に若輩者に土をつけられ頭に血が上りました」
「そうか。では今はもう冷静に状況を判断できるな?」
「はい。貴方様の顔に泥を塗り、なんとお詫び申し上げたらよいか。どのような処罰でも」
「よろしい。では只今を持ってカベルネ=ソーヴィニヨンの黄金の竜騎士の称号を剥奪、魔力もワーム・アイ程まで剥奪させてもらう。一から修行し直せ」
「ありがたき温情、感謝いたします」
「次にデュグ=ディ=ドゥ」
「は、はい」
名を呼ばれ、デュグディドゥさんは慌てて膝を付き頭を垂れた。
「今回はソーヴィニヨンがふっかけた喧嘩だが、うっかり我を忘れたな?」
「す、すみません」
「『申し訳ございません』だ」
「申し訳ございません」
「お前はまだ発展途上の子供だ。今回は大目に見よう。魔王の称号はそのまま保留するが、現在所持している魔力はすべて…いや、人型維持と現界できる量分は残しておいて構わん」
「わかりました」
「それと、シャトーは君かな?ああ、そのままで構わないよ」
こちらに向き直った魔界王は、頭を垂れようとしたわたしを制す。
「改めまして、私は魔界王。名は魔界王の座についたときに失っていて名乗ることはできないのだ、申し訳ない。この度は色々と迷惑をかけたね。大事にはならなかったようだが、重ね重ね申し訳ない。そして申し訳ないついでに一つ頼みがある。後ほど国王陛下にも許可は取らせてもらうが、デュグ=ディ=ドゥを君の使い魔として暫く預かってほしい」
「国王陛下が許可するのであればわたしは構いません。ですが、わたしには魔力がないのであまりお役に立てるとは思えないのですが」
「デュグ=ディ=ドゥに負担させるから大丈夫。この子に人間界のルールを教えてやってくれまいか。このとおりだ」
「顔を上げてください、魔界王様。わたしには魔界を統べる王たるお方の頼みを断ることなどできません。もちろん、国王陛下の許可が降りればの話ではありますが、その際には責任を持ってお預かりさせていただきます」
「そう言っていただけるとありがたい」
再びわたしからデュグディドゥさんとソーヴィニヨンへと向き直ると、魔界王は二人に手を差し出した。
「さあ、魔力の提出を」
「「はい」」
二人の体から黒いモヤのような魔力が放出される。二人はそれを纏め球体にし、それぞれ魔界王へと提出した。魔力をほぼすべて失ったと言えるソーヴィニヨンは人型を保てず本来の竜形態へと姿を変えた。
「さて、では私は国王陛下殿へお詫びしてくるから。2体ともいい子で待っているんだよ」
そう言うと魔界王は空間を裂き消えていった。
5分もせずに戻ってきた彼は「許可もらったから、デュグ=ディ=ドゥよろしくね☆」とウインクを投げ、ソーヴィニヨンを連れて魔界へと戻っていった。
この2時間後、わたしとデュグディドゥさんは学院長に呼び出され国王陛下と魔界王が結んだ正式な契約書を見ながら説明を受けることになる。
「どういう状況…?」
ケインがぽつりと呟く。おそらくは無意識に漏れた言葉だろう。
「決まっているだろう、デュグ=ディ=ドゥが『パパーたちゅけてー』と泣きついてきたのだ。心優しいパパは可愛い我が子の為にわざわざ出向いたという訳さ」
「なんか、思ってたのと違う」
「…疲れゆえかな?心の声がダダ漏れだよ、少年」
呆然と呟いたケインの一言に、魔界王は少しだけ言葉を紡げなかったようだ。まあ確かに見た目は若いし威厳のある立ち居振る舞いではない。どちらかといえば…チャラい、と分類されるものだ。キラキラと輝く若き王子や英雄のような容姿なのに。これがいわゆる『喋ると三枚目』というやつなのだろうか。
「ご足労いただき…」
「挨拶はよい、事情はサラッと聞いてきた」
そう言うと魔界王は浮かべていた意地悪そうな笑みを消し、慌てて上空から降りてくるソーヴィニヨンへと視線を向ける。魔人型に戻ったソーヴィニヨンは急ぎ膝を付き頭を垂れた。魔界王への謁見ともあり、手早く容姿も整えている。彼と同じように膝まづこうとしたわたし達を、魔界王は片手で制した。
「ソーヴィニヨンよ、率直な感想が聞きたい。魔物型に戻らざるをえなくされた今の心境はどうだ?」
「…想定外の実力でした。貴方様の判断を疑うつもりは毛頭ありませんが、齢100という以外ほとんど情報がなく、彼からも威厳は欠片も感じず、それ故に若輩者に土をつけられ頭に血が上りました」
「そうか。では今はもう冷静に状況を判断できるな?」
「はい。貴方様の顔に泥を塗り、なんとお詫び申し上げたらよいか。どのような処罰でも」
「よろしい。では只今を持ってカベルネ=ソーヴィニヨンの黄金の竜騎士の称号を剥奪、魔力もワーム・アイ程まで剥奪させてもらう。一から修行し直せ」
「ありがたき温情、感謝いたします」
「次にデュグ=ディ=ドゥ」
「は、はい」
名を呼ばれ、デュグディドゥさんは慌てて膝を付き頭を垂れた。
「今回はソーヴィニヨンがふっかけた喧嘩だが、うっかり我を忘れたな?」
「す、すみません」
「『申し訳ございません』だ」
「申し訳ございません」
「お前はまだ発展途上の子供だ。今回は大目に見よう。魔王の称号はそのまま保留するが、現在所持している魔力はすべて…いや、人型維持と現界できる量分は残しておいて構わん」
「わかりました」
「それと、シャトーは君かな?ああ、そのままで構わないよ」
こちらに向き直った魔界王は、頭を垂れようとしたわたしを制す。
「改めまして、私は魔界王。名は魔界王の座についたときに失っていて名乗ることはできないのだ、申し訳ない。この度は色々と迷惑をかけたね。大事にはならなかったようだが、重ね重ね申し訳ない。そして申し訳ないついでに一つ頼みがある。後ほど国王陛下にも許可は取らせてもらうが、デュグ=ディ=ドゥを君の使い魔として暫く預かってほしい」
「国王陛下が許可するのであればわたしは構いません。ですが、わたしには魔力がないのであまりお役に立てるとは思えないのですが」
「デュグ=ディ=ドゥに負担させるから大丈夫。この子に人間界のルールを教えてやってくれまいか。このとおりだ」
「顔を上げてください、魔界王様。わたしには魔界を統べる王たるお方の頼みを断ることなどできません。もちろん、国王陛下の許可が降りればの話ではありますが、その際には責任を持ってお預かりさせていただきます」
「そう言っていただけるとありがたい」
再びわたしからデュグディドゥさんとソーヴィニヨンへと向き直ると、魔界王は二人に手を差し出した。
「さあ、魔力の提出を」
「「はい」」
二人の体から黒いモヤのような魔力が放出される。二人はそれを纏め球体にし、それぞれ魔界王へと提出した。魔力をほぼすべて失ったと言えるソーヴィニヨンは人型を保てず本来の竜形態へと姿を変えた。
「さて、では私は国王陛下殿へお詫びしてくるから。2体ともいい子で待っているんだよ」
そう言うと魔界王は空間を裂き消えていった。
5分もせずに戻ってきた彼は「許可もらったから、デュグ=ディ=ドゥよろしくね☆」とウインクを投げ、ソーヴィニヨンを連れて魔界へと戻っていった。
この2時間後、わたしとデュグディドゥさんは学院長に呼び出され国王陛下と魔界王が結んだ正式な契約書を見ながら説明を受けることになる。
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