家畜少女と盲愛魔王

襟川竜

文字の大きさ
上 下
6 / 17

HISTOIRE.6

しおりを挟む
「私とキミでは実力に差がありすぎる。私は左手のみで相手をするから傷をつけてみたまえ」
「確かにソーヴィニヨン様に勝てる気はしませんけど……いいんですか?」
「もちろんさ」
「わかりました」
 デュグディドゥさんは頷くとわたしを後ろへと下がらせた。
 ソーヴィニヨンの暇つぶしに付き合うのは面倒だが、人間界では無名の魔王の実力は知っておきたい。魔力量が桁違いなのは既に身をもって知ってはいるが、それ以外の情報は何もない。
 魔界騎士の称号をもつカベルネ=ソーヴィニヨンは人間界でも有名だ。彼は竜族でありながら人型を好み、戦場を渡り歩いている。身にまとう黄金の鎧から、ついた通り名は『黄金の竜騎士』。
 先程アンリエッタがケインに説明していたように、敵兵の千人斬りや一個小隊を一人で潰すなど噂は絶えない。
 そんな猛者がよく新米教師の召喚に応じたものだ。大方、暇つぶしだったのだろう。
 対するデュグディドゥさんは人間界での知名度はおそらく0ゼロ。魔王の称号を持っている以上、弱くはないとは思うが未知数だ。解っているのは魔人型かもしれないと言うこと。種族も戦い方もわからない。
 ソーヴィニヨンとの戦いでどれだけ手の内を晒すかはわからないが、後で調べる手間が少しは省けたと前向きに捉えることにしよう。
「デュグディドゥさん、結界が壊れないように程々でお願いします」
「シャトーが言うならそうするよ」
 種族さえわかれば戦い方はおおよそ見当がつく。
「僭越ながら、開始の合図はわたしが」
 結界ギリギリまで下がり、流れ弾からいつでも回避行動が取れるように警戒しつつ、わたしは合図を出した。

「試合……始め!」

 両者、動かず。
 それをみて、ソーヴィニヨンは「かかってこい」と手招きをする。稽古をつけると言っていた通り、自分からは動かないと言うことか。
「向かっていくのは苦手なんだよなぁ」
 そういってデュグディドゥさんはとりあえず走り出した。武器らしきものを作り出したり、魔法を使うような動きはない。とりあえず殴ってみよう、そんな考えが筒抜けだ。
 案の定あっさりかわされ背中をランスの腹で叩かれる。
「そんなのでは稽古にならないじゃないか」
「接近戦とか苦手で…」
「なら遠距離魔法でも使ったらどうだい」
「それも苦手で…」
 とりあえず殴りかかりはするものの、ことごとく返り討ちにあう。
「魔界王様と一体どうやって戦ったのやら」
 まったくだわ。魔王の称号は魔界王と戦って認められたもののみ得られるはず。肉弾戦も魔法戦もだめなら、何を認められて魔王になったのだろうか。
「戦闘は友達の力を借りてたから。人間界では勝手に召喚しちゃいけないって師匠も言っていたので…」
「友達…?魔界王様には原則、1人で挑むものだが」
「友達っていうのはジュエル・スライムでして」
「スライムゥ~?」
「はい。みんなとっても仲良しなんです」
「スライムなんてワーム・アイの次に弱っちぃ奴じゃないか」
「そんなことないですよ。そりゃ上位種に比べれば大したことはないかもしれませんが、古代から姿を変えずに現代まで生き残っていると言うことは、それだけ生存能力が高いと言うことです」
 確かに人間界も含め世界は世代交代を繰り返して進化してきた。環境が変わればそれに合う能力を得るために、何世代も代を重ねてきた。そうして今のわたし達がある。
 原生生物、古代種、呼び名は様々だが、古代から生き残っている事には何かしら理由があって当然なのだろう。
「って、師匠が言ってました」
「ただの受け売りかい」
「聞いた時はなるほどって思いましたけどね」
「まあ確かにキミの師匠が言うことも一理あるだろう。だが、それだけだ。所詮は劣等種、私のように優秀な上位種には勝てないよ」
「そうですか…」
 それまでとりあえず殴りかかっていたデュグディドゥさんが大きく距離をとった。
「ねぇシャトー、武器として魔獣を召喚するなら世界条例違反とかにならないよね?」
「武器…そうですね、配下の魔獣を戦闘時のみの一時的召喚なら違反にはならなかったと思います」
「わかった、ありがとう」
 そう言うと、デュグディドゥさんは空中に五芒星を指でささっと描く。簡易的な即時召喚の魔法陣だ。その中から一振りの剣をとりだす。
 宝石を削って炎を模した剣の形にしたもの、と言えばわかりやすいだろうか。その形状は斬ると言うよりは鈍器のようだ。ルビーで作ったと言われたら信じてしまいそうな紅い剣は光に透けて輝き、見る角度で色を変える。
 美しい。その一言に尽きる。
「ほぅ…まるで宝石で出来たフランベルジュのようだな。とても美しい」
「綺麗なだけじゃなくて、とっても頼りになるんですよ」
 少しだけ怒気を含んだ声音でデュグディドゥさんは答える。体勢を低くし、懐へと駆ける。横薙ぎの一撃をソーヴィニヨンは易々と受け止めた。そこから打ち合いが始まる。攻防は激しさを増し、ある程度戦闘経験を積んだ者にしかその斬撃は見えていないだろう。
 ソーヴィニヨンは涼しげな顔のまま、片手に持ったランスで全て受け止めている。対するデュグディドゥさんは両手持ち。時折見えるその表情は、なぜか無表情に近かった。それでも彼からは微かに怒りの気配が感じ取れる。攻撃が当たらない苛立ち、という訳ではなさそうだが…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

処理中です...