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HISTOIRE.6
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「私とキミでは実力に差がありすぎる。私は左手のみで相手をするから傷をつけてみたまえ」
「確かにソーヴィニヨン様に勝てる気はしませんけど……いいんですか?」
「もちろんさ」
「わかりました」
デュグディドゥさんは頷くとわたしを後ろへと下がらせた。
ソーヴィニヨンの暇つぶしに付き合うのは面倒だが、人間界では無名の魔王の実力は知っておきたい。魔力量が桁違いなのは既に身をもって知ってはいるが、それ以外の情報は何もない。
魔界騎士の称号をもつカベルネ=ソーヴィニヨンは人間界でも有名だ。彼は竜族でありながら人型を好み、戦場を渡り歩いている。身にまとう黄金の鎧から、ついた通り名は『黄金の竜騎士』。
先程アンリエッタがケインに説明していたように、敵兵の千人斬りや一個小隊を一人で潰すなど噂は絶えない。
そんな猛者がよく新米教師の召喚に応じたものだ。大方、暇つぶしだったのだろう。
対するデュグディドゥさんは人間界での知名度はおそらく0。魔王の称号を持っている以上、弱くはないとは思うが未知数だ。解っているのは魔人型かもしれないと言うこと。種族も戦い方もわからない。
ソーヴィニヨンとの戦いでどれだけ手の内を晒すかはわからないが、後で調べる手間が少しは省けたと前向きに捉えることにしよう。
「デュグディドゥさん、結界が壊れないように程々でお願いします」
「シャトーが言うならそうするよ」
種族さえわかれば戦い方はおおよそ見当がつく。
「僭越ながら、開始の合図はわたしが」
結界ギリギリまで下がり、流れ弾からいつでも回避行動が取れるように警戒しつつ、わたしは合図を出した。
「試合……始め!」
両者、動かず。
それをみて、ソーヴィニヨンは「かかってこい」と手招きをする。稽古をつけると言っていた通り、自分からは動かないと言うことか。
「向かっていくのは苦手なんだよなぁ」
そういってデュグディドゥさんはとりあえず走り出した。武器らしきものを作り出したり、魔法を使うような動きはない。とりあえず殴ってみよう、そんな考えが筒抜けだ。
案の定あっさりかわされ背中をランスの腹で叩かれる。
「そんなのでは稽古にならないじゃないか」
「接近戦とか苦手で…」
「なら遠距離魔法でも使ったらどうだい」
「それも苦手で…」
とりあえず殴りかかりはするものの、ことごとく返り討ちにあう。
「魔界王様と一体どうやって戦ったのやら」
まったくだわ。魔王の称号は魔界王と戦って認められたもののみ得られるはず。肉弾戦も魔法戦もだめなら、何を認められて魔王になったのだろうか。
「戦闘は友達の力を借りてたから。人間界では勝手に召喚しちゃいけないって師匠も言っていたので…」
「友達…?魔界王様には原則、1人で挑むものだが」
「友達っていうのはジュエル・スライムでして」
「スライムゥ~?」
「はい。みんなとっても仲良しなんです」
「スライムなんてワーム・アイの次に弱っちぃ奴じゃないか」
「そんなことないですよ。そりゃ上位種に比べれば大したことはないかもしれませんが、古代から姿を変えずに現代まで生き残っていると言うことは、それだけ生存能力が高いと言うことです」
確かに人間界も含め世界は世代交代を繰り返して進化してきた。環境が変わればそれに合う能力を得るために、何世代も代を重ねてきた。そうして今のわたし達がある。
原生生物、古代種、呼び名は様々だが、古代から生き残っている事には何かしら理由があって当然なのだろう。
「って、師匠が言ってました」
「ただの受け売りかい」
「聞いた時はなるほどって思いましたけどね」
「まあ確かにキミの師匠が言うことも一理あるだろう。だが、それだけだ。所詮は劣等種、私のように優秀な上位種には勝てないよ」
「そうですか…」
それまでとりあえず殴りかかっていたデュグディドゥさんが大きく距離をとった。
「ねぇシャトー、武器として魔獣を召喚するなら世界条例違反とかにならないよね?」
「武器…そうですね、配下の魔獣を戦闘時のみの一時的召喚なら違反にはならなかったと思います」
「わかった、ありがとう」
そう言うと、デュグディドゥさんは空中に五芒星を指でささっと描く。簡易的な即時召喚の魔法陣だ。その中から一振りの剣をとりだす。
宝石を削って炎を模した剣の形にしたもの、と言えばわかりやすいだろうか。その形状は斬ると言うよりは鈍器のようだ。ルビーで作ったと言われたら信じてしまいそうな紅い剣は光に透けて輝き、見る角度で色を変える。
美しい。その一言に尽きる。
「ほぅ…まるで宝石で出来たフランベルジュのようだな。とても美しい」
「綺麗なだけじゃなくて、とっても頼りになるんですよ」
少しだけ怒気を含んだ声音でデュグディドゥさんは答える。体勢を低くし、懐へと駆ける。横薙ぎの一撃をソーヴィニヨンは易々と受け止めた。そこから打ち合いが始まる。攻防は激しさを増し、ある程度戦闘経験を積んだ者にしかその斬撃は見えていないだろう。
ソーヴィニヨンは涼しげな顔のまま、片手に持ったランスで全て受け止めている。対するデュグディドゥさんは両手持ち。時折見えるその表情は、なぜか無表情に近かった。それでも彼からは微かに怒りの気配が感じ取れる。攻撃が当たらない苛立ち、という訳ではなさそうだが…。
「確かにソーヴィニヨン様に勝てる気はしませんけど……いいんですか?」
「もちろんさ」
「わかりました」
デュグディドゥさんは頷くとわたしを後ろへと下がらせた。
ソーヴィニヨンの暇つぶしに付き合うのは面倒だが、人間界では無名の魔王の実力は知っておきたい。魔力量が桁違いなのは既に身をもって知ってはいるが、それ以外の情報は何もない。
魔界騎士の称号をもつカベルネ=ソーヴィニヨンは人間界でも有名だ。彼は竜族でありながら人型を好み、戦場を渡り歩いている。身にまとう黄金の鎧から、ついた通り名は『黄金の竜騎士』。
先程アンリエッタがケインに説明していたように、敵兵の千人斬りや一個小隊を一人で潰すなど噂は絶えない。
そんな猛者がよく新米教師の召喚に応じたものだ。大方、暇つぶしだったのだろう。
対するデュグディドゥさんは人間界での知名度はおそらく0。魔王の称号を持っている以上、弱くはないとは思うが未知数だ。解っているのは魔人型かもしれないと言うこと。種族も戦い方もわからない。
ソーヴィニヨンとの戦いでどれだけ手の内を晒すかはわからないが、後で調べる手間が少しは省けたと前向きに捉えることにしよう。
「デュグディドゥさん、結界が壊れないように程々でお願いします」
「シャトーが言うならそうするよ」
種族さえわかれば戦い方はおおよそ見当がつく。
「僭越ながら、開始の合図はわたしが」
結界ギリギリまで下がり、流れ弾からいつでも回避行動が取れるように警戒しつつ、わたしは合図を出した。
「試合……始め!」
両者、動かず。
それをみて、ソーヴィニヨンは「かかってこい」と手招きをする。稽古をつけると言っていた通り、自分からは動かないと言うことか。
「向かっていくのは苦手なんだよなぁ」
そういってデュグディドゥさんはとりあえず走り出した。武器らしきものを作り出したり、魔法を使うような動きはない。とりあえず殴ってみよう、そんな考えが筒抜けだ。
案の定あっさりかわされ背中をランスの腹で叩かれる。
「そんなのでは稽古にならないじゃないか」
「接近戦とか苦手で…」
「なら遠距離魔法でも使ったらどうだい」
「それも苦手で…」
とりあえず殴りかかりはするものの、ことごとく返り討ちにあう。
「魔界王様と一体どうやって戦ったのやら」
まったくだわ。魔王の称号は魔界王と戦って認められたもののみ得られるはず。肉弾戦も魔法戦もだめなら、何を認められて魔王になったのだろうか。
「戦闘は友達の力を借りてたから。人間界では勝手に召喚しちゃいけないって師匠も言っていたので…」
「友達…?魔界王様には原則、1人で挑むものだが」
「友達っていうのはジュエル・スライムでして」
「スライムゥ~?」
「はい。みんなとっても仲良しなんです」
「スライムなんてワーム・アイの次に弱っちぃ奴じゃないか」
「そんなことないですよ。そりゃ上位種に比べれば大したことはないかもしれませんが、古代から姿を変えずに現代まで生き残っていると言うことは、それだけ生存能力が高いと言うことです」
確かに人間界も含め世界は世代交代を繰り返して進化してきた。環境が変わればそれに合う能力を得るために、何世代も代を重ねてきた。そうして今のわたし達がある。
原生生物、古代種、呼び名は様々だが、古代から生き残っている事には何かしら理由があって当然なのだろう。
「って、師匠が言ってました」
「ただの受け売りかい」
「聞いた時はなるほどって思いましたけどね」
「まあ確かにキミの師匠が言うことも一理あるだろう。だが、それだけだ。所詮は劣等種、私のように優秀な上位種には勝てないよ」
「そうですか…」
それまでとりあえず殴りかかっていたデュグディドゥさんが大きく距離をとった。
「ねぇシャトー、武器として魔獣を召喚するなら世界条例違反とかにならないよね?」
「武器…そうですね、配下の魔獣を戦闘時のみの一時的召喚なら違反にはならなかったと思います」
「わかった、ありがとう」
そう言うと、デュグディドゥさんは空中に五芒星を指でささっと描く。簡易的な即時召喚の魔法陣だ。その中から一振りの剣をとりだす。
宝石を削って炎を模した剣の形にしたもの、と言えばわかりやすいだろうか。その形状は斬ると言うよりは鈍器のようだ。ルビーで作ったと言われたら信じてしまいそうな紅い剣は光に透けて輝き、見る角度で色を変える。
美しい。その一言に尽きる。
「ほぅ…まるで宝石で出来たフランベルジュのようだな。とても美しい」
「綺麗なだけじゃなくて、とっても頼りになるんですよ」
少しだけ怒気を含んだ声音でデュグディドゥさんは答える。体勢を低くし、懐へと駆ける。横薙ぎの一撃をソーヴィニヨンは易々と受け止めた。そこから打ち合いが始まる。攻防は激しさを増し、ある程度戦闘経験を積んだ者にしかその斬撃は見えていないだろう。
ソーヴィニヨンは涼しげな顔のまま、片手に持ったランスで全て受け止めている。対するデュグディドゥさんは両手持ち。時折見えるその表情は、なぜか無表情に近かった。それでも彼からは微かに怒りの気配が感じ取れる。攻撃が当たらない苛立ち、という訳ではなさそうだが…。
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