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HISTOIRE.2
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終了の鐘が鳴り、教室内は一気に騒がしくなる。
「いよいよだね、シャトレーゼは何にしたの?」
そう話しかけてきたのは癖のある赤毛をポニーテールにし、黒の紐リボンで結んだ可愛い系から段々大人っぽくなってきた少女。成長期は早いから、このままいけば美人になれるでしょうね。
彼女の名前はアンリエッタ・シャンパーニュ。シャンパーニュ公爵家の四女。アーシュビッツ魔術学院は寮制で、彼女とは同室。わたしに話しかけてくる奇特な人物だ。
先程も言ったが、ここは名門校。国からの命令とはいえ、魔力の無いわたしに話しかける人物などいない。わたしも他人と接するのは好まないから何の問題もないのだが、何故かアンリエッタはわたしの側を離れない。おかげで最近は、彼女の幼馴染とそのルームメイトも一緒にいる事が多くなった。仲良し4人組状態で、正直言って疲れる。
「ワーム・アイにした」
「ワーム・アイってなんだっけ?」
「これ」
魔獣図鑑を見せると、流石にアンリエッタの顔が引きつった。巨大な目玉から無数の触手が生えている、寄生タイプの魔獣である。こんな気持ち悪いやつ、普通なら召喚しない。女子なら尚更だ。
「なんでこれ?スライムの方がまだマシじゃない」
「スライムと同じ魔力量で召喚も繋ぎもできるから。あとスライムより知力が高い」
召喚対象が強ければ強いほど召喚に必要な魔力も、人間界に繋ぎとめておく魔力も多くなる。魔力のないわたしには、召喚しても命令を聞くかわからない単細胞のスライムよりも、そこそこ知力のあるワーム・アイの方が使い勝手がいい。
「そーなんだ…」
どう返したらいいのかわからないらしく、アンリエッタは黙ってしまった。そこへ助け舟がくる。
「いたいた。アンリ、シャトレーゼ、早いとこ試験場行こうぜ」
そう教室の入り口から声をかけてきたのは、先程通り名で出したアンリエッタの幼馴染の少年。その隣には彼のルームメイトがいる。クラスの違う彼等とは昼食と下校を共にするのが殆どだが、試験は学年単位で行われる為、必ずと言っていいほど声をかけてくる。
明朗快活な幼馴染君の名前はケイン・ロワール。ロワール伯爵家の九男。魔力は貴族の中では低い方で、魔術よりも体術を得意としている。セルリアンブルーの髪は遠目からでもよく目立つ。
もう1人はルーカス・ブルゴーニュ。彼は貴族ではなく魔術の才能を買われて入学した特待生。いつも笑顔を浮かべているケインとは対象的で、真顔に近いどこかムスッとした表情である。一匹狼を気取っていそうな雰囲気を出しているのだが、ケインと行動を共にしていることが多い。振り回されるうちに諦めた、といったところかもしれない。深緑色の髪から覗く青い瞳は、森の中にひっそりと存在している池のよう。
早く召喚したくて仕方がないのだろう。浮き足立つケインに、ルーカスは眼鏡を直しながらため息をついた。
「行こっか」
「うん」
やれ何を召喚するのかとか自信がないとか、楽しそうに喋りながら歩く2人の後ろを、わたしとルーカスは無言で歩く。
アンリエッタと同じようにケインもわたしの事は特になんとも思わないようで普通に話しかけてくるが、ルーカスは違う。ケインに付き合っているだけ、というのが態度に現れている。わたしも別に人付き合いがしたい訳ではないので、同じような態度になっているのだろう。特に敵意を向けられらている訳でもないし、気にする必要性は無いと判断している。
試験会場は元々闘技場で、一部を改装したとはいえ、見た目はまんま闘技場である。これはあえてそう残されている。召喚された天使や魔人などは、自分が力を貸すに値するか実力を示す事を求める場合がある。ようは戦えという事だ。この試験、場合によっては命がけにもなる。
昔は生徒と召喚獣の一対一で、生徒が死ぬ事もあったらしい。だが今は生徒が命の危機に陥った場合、教師が助けるようになった。なんでも多くの貴族親達から抗議の声が上がったのだとか。最近は子供を甘やかす傾向が強いらしい。時代の流れってやつね。
そういう訳なので、試験場には武器となる魔法具の持ち込みが許可されている。わたしも一応愛用の魔弾銃を持っては来ているが、ワーム・アイ相手に使う必要性は無いだろう。
魔法具というのは、魔術を安定して使用するための道具である。触媒だの媒体だの国によって名称は異なるが、魔力をコントロールする作用がある物のことだ。自身の持つ魔力と、自然界に漂う目に見えない力、通称《アトラ》と呼ばれる力を混ぜ合わせることで魔術が発動する。
魔法具には初心者用から上級者用まで様々な物があり、自身のレベルに応じて徐々に段階を上げていく。魔法具の形状も様々で、例えばアンリエッタは杖、ケインは手甲、ルーカスは本型を使用している。
それぞれ特徴があり、杖は攻撃魔術や治癒魔術、支援魔術などあらゆる魔術に強いオールラウンド型だ。その反面、接近戦は不得手。確かに殴ればそれなりに痛いし、宝石等の装飾が施されていれば引っ掻き傷だってできるだろう。だが、多少強化魔術が掛けられているとはいえ、所詮はただの棒。後方支援特化型と考えた方がいい。
ケインの様な武具タイプの特徴は身体強化魔術になる。武具に魔術を纏わせ、攻撃や防御に使用する。魔術騎士と呼ばれる一定層の人間は全身をこの武防具で覆っている。ケインはやたらと火炎系を使いたがるけれど、傾向的には武具全てに違う属性の魔術をかけている者が多い。
ルーカスの使う本型は杖と同じ様に接近戦は不得手で、攻撃魔術と相手への妨害魔術を得意とする。主な特徴としては、一度戦った相手の情報を記録し、保存する事ができるという事だろう。自分で書き込む図鑑の様な物だと思えばいい。
ちなみに、わたしが使う魔弾銃だが、その名の通り魔術を込めた弾を撃ち出す銃である。使用者は自分で調整した弾を使うのだが、わたしの場合は必要な分を発注し、研究所で開発された弾を軍から支給してもらう。呪文の詠唱なしで魔術を発動させられるものの、精密な射撃の腕とそこそこの費用が掛かるため、使用者はほとんどいない。
「いよいよだね、シャトレーゼは何にしたの?」
そう話しかけてきたのは癖のある赤毛をポニーテールにし、黒の紐リボンで結んだ可愛い系から段々大人っぽくなってきた少女。成長期は早いから、このままいけば美人になれるでしょうね。
彼女の名前はアンリエッタ・シャンパーニュ。シャンパーニュ公爵家の四女。アーシュビッツ魔術学院は寮制で、彼女とは同室。わたしに話しかけてくる奇特な人物だ。
先程も言ったが、ここは名門校。国からの命令とはいえ、魔力の無いわたしに話しかける人物などいない。わたしも他人と接するのは好まないから何の問題もないのだが、何故かアンリエッタはわたしの側を離れない。おかげで最近は、彼女の幼馴染とそのルームメイトも一緒にいる事が多くなった。仲良し4人組状態で、正直言って疲れる。
「ワーム・アイにした」
「ワーム・アイってなんだっけ?」
「これ」
魔獣図鑑を見せると、流石にアンリエッタの顔が引きつった。巨大な目玉から無数の触手が生えている、寄生タイプの魔獣である。こんな気持ち悪いやつ、普通なら召喚しない。女子なら尚更だ。
「なんでこれ?スライムの方がまだマシじゃない」
「スライムと同じ魔力量で召喚も繋ぎもできるから。あとスライムより知力が高い」
召喚対象が強ければ強いほど召喚に必要な魔力も、人間界に繋ぎとめておく魔力も多くなる。魔力のないわたしには、召喚しても命令を聞くかわからない単細胞のスライムよりも、そこそこ知力のあるワーム・アイの方が使い勝手がいい。
「そーなんだ…」
どう返したらいいのかわからないらしく、アンリエッタは黙ってしまった。そこへ助け舟がくる。
「いたいた。アンリ、シャトレーゼ、早いとこ試験場行こうぜ」
そう教室の入り口から声をかけてきたのは、先程通り名で出したアンリエッタの幼馴染の少年。その隣には彼のルームメイトがいる。クラスの違う彼等とは昼食と下校を共にするのが殆どだが、試験は学年単位で行われる為、必ずと言っていいほど声をかけてくる。
明朗快活な幼馴染君の名前はケイン・ロワール。ロワール伯爵家の九男。魔力は貴族の中では低い方で、魔術よりも体術を得意としている。セルリアンブルーの髪は遠目からでもよく目立つ。
もう1人はルーカス・ブルゴーニュ。彼は貴族ではなく魔術の才能を買われて入学した特待生。いつも笑顔を浮かべているケインとは対象的で、真顔に近いどこかムスッとした表情である。一匹狼を気取っていそうな雰囲気を出しているのだが、ケインと行動を共にしていることが多い。振り回されるうちに諦めた、といったところかもしれない。深緑色の髪から覗く青い瞳は、森の中にひっそりと存在している池のよう。
早く召喚したくて仕方がないのだろう。浮き足立つケインに、ルーカスは眼鏡を直しながらため息をついた。
「行こっか」
「うん」
やれ何を召喚するのかとか自信がないとか、楽しそうに喋りながら歩く2人の後ろを、わたしとルーカスは無言で歩く。
アンリエッタと同じようにケインもわたしの事は特になんとも思わないようで普通に話しかけてくるが、ルーカスは違う。ケインに付き合っているだけ、というのが態度に現れている。わたしも別に人付き合いがしたい訳ではないので、同じような態度になっているのだろう。特に敵意を向けられらている訳でもないし、気にする必要性は無いと判断している。
試験会場は元々闘技場で、一部を改装したとはいえ、見た目はまんま闘技場である。これはあえてそう残されている。召喚された天使や魔人などは、自分が力を貸すに値するか実力を示す事を求める場合がある。ようは戦えという事だ。この試験、場合によっては命がけにもなる。
昔は生徒と召喚獣の一対一で、生徒が死ぬ事もあったらしい。だが今は生徒が命の危機に陥った場合、教師が助けるようになった。なんでも多くの貴族親達から抗議の声が上がったのだとか。最近は子供を甘やかす傾向が強いらしい。時代の流れってやつね。
そういう訳なので、試験場には武器となる魔法具の持ち込みが許可されている。わたしも一応愛用の魔弾銃を持っては来ているが、ワーム・アイ相手に使う必要性は無いだろう。
魔法具というのは、魔術を安定して使用するための道具である。触媒だの媒体だの国によって名称は異なるが、魔力をコントロールする作用がある物のことだ。自身の持つ魔力と、自然界に漂う目に見えない力、通称《アトラ》と呼ばれる力を混ぜ合わせることで魔術が発動する。
魔法具には初心者用から上級者用まで様々な物があり、自身のレベルに応じて徐々に段階を上げていく。魔法具の形状も様々で、例えばアンリエッタは杖、ケインは手甲、ルーカスは本型を使用している。
それぞれ特徴があり、杖は攻撃魔術や治癒魔術、支援魔術などあらゆる魔術に強いオールラウンド型だ。その反面、接近戦は不得手。確かに殴ればそれなりに痛いし、宝石等の装飾が施されていれば引っ掻き傷だってできるだろう。だが、多少強化魔術が掛けられているとはいえ、所詮はただの棒。後方支援特化型と考えた方がいい。
ケインの様な武具タイプの特徴は身体強化魔術になる。武具に魔術を纏わせ、攻撃や防御に使用する。魔術騎士と呼ばれる一定層の人間は全身をこの武防具で覆っている。ケインはやたらと火炎系を使いたがるけれど、傾向的には武具全てに違う属性の魔術をかけている者が多い。
ルーカスの使う本型は杖と同じ様に接近戦は不得手で、攻撃魔術と相手への妨害魔術を得意とする。主な特徴としては、一度戦った相手の情報を記録し、保存する事ができるという事だろう。自分で書き込む図鑑の様な物だと思えばいい。
ちなみに、わたしが使う魔弾銃だが、その名の通り魔術を込めた弾を撃ち出す銃である。使用者は自分で調整した弾を使うのだが、わたしの場合は必要な分を発注し、研究所で開発された弾を軍から支給してもらう。呪文の詠唱なしで魔術を発動させられるものの、精密な射撃の腕とそこそこの費用が掛かるため、使用者はほとんどいない。
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