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第二章 牢屋ときたら大脱走
その1 牢屋は常に出会いの場所?
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『――聞…え…すか?ソル…ト』
……誰?
『この国には、すでに魔王が…』
まおう?
『目覚め…です、ソル…ト』
なに?
『力を…今こ…解放…るのです』
ちから?
『早く…いと…彼女の身…危険が…』
かのじょ?
彼女って誰の事?
『もはや、一刻の猶予も…』
あなたは一体…?
『契約の証として、私の解放に真の名を――』
けいやく?
何の事?
『お願い、目覚めて――』
「いー加減に起きなさい!」
「ぅわあ」
俺は誰かの大声で目が覚めた。
「やっと起きたわね。まったくいつまで寝てる気だったのよ」
「んー…あ、パイン。おはよう」
「『おはよう』ぢゃないわよ」
俺はまだぼぅっとしている頭で、あたりを見回す。
どうやら俺がいるのは薄暗く小さい部屋のようだ。
そこには家具らしいものがなく、ご丁寧に鉄格子がついている。
……ん?
鉄格子?
「な、な、な、なんじゃこりゃ!?」
「なによ、どしたの」
「こ、これって、どういうこと!?」
どうしたのと聞くパインに、俺は鉄格子を指差しながら聞いた。
「ああ、これ。みりゃ分かるでしょ?捕まっちゃったのよ」
動揺しまくりの俺と違ってパインはあっさりと答えた。
「…マジ?」
「こんなウソついて、どーすんのよ」
「マジですか!?」
あああ、と俺は頭を抱えた。
何てことだ。
この俺があんな黒マント風情に捕まってしまうとは…。
ツェン・ソルト、一生の不覚。
「くすくす…」
俺が頭を抱えていると、奥のほうから笑い声が聞こえてきた。
「誰?」
「あ、ごめんなさい」
声のした方を見ると、俺たち以外にも四人の女性がいた。
ぱっと見、年齢はばらばらみたいだ。
そのうちの一人、俺の行動を笑ったのはベールを被った人だ。
ベールが顔全体を覆っているため顔を見ることはできないが、声から判断すると、俺と同い年くらいの少女だろう。
「えっと…」
「ごめんなさいね。妹のシャルトゥーナが笑ってしまって」
「あ、いや、別に気にしていませんから……って『シャルトゥーナ』!?」
ベールの少女の変わりに黒髪の美人さんが答えた。
まてよ、シャルトゥーナってもしかして…。
それに、こっちの黒髪美人もどこかで見たことが。
「ベールを被った貴女は…もしかしてシャルトゥーナ…様?」
半信半疑で、俺は尋ねる。
「はい」
ベールの少女――シャルトゥーナ様は、楽しそうに答えた。
「じゃ、じゃあ貴女は…」
「貴女のお察しの通り、ヤークティ共和国第一王女ティファーヌ・ディア・ディ・ヤークティですわ」
俺が黒髪美人さんに視線を向けると、キッパリと、そしてハッキリと答えてくれた。
ま、マジですか?
誘拐事件に巻き込まれ、黒マントに首を絞められ、目が覚めたら見知らぬ牢屋。
これだけでも驚きなのに、そのうえ王女様たちまでいましたときたもんだ。
これで驚かないほうがおかしい。
ヤークティ共和国には二人の王女様がいる。
一人は現在目の前にいる黒髪美人、ティファーヌ・ディア・ディ・ヤークティ様。
もう一人は、妹のシャルトゥーナ・リー・フェン・ヤークティ様。
ティファーヌ様は、御歳24。
腰まで届く黒く艶やかな髪と、空のように綺麗な青い瞳を持っている。
紫系統で纏まとめられたドレスは、ティファーヌ様にとても良く似合っている。
艶やかな黒髪は、銀色の簪や髪飾りで飾られている。
弓を描く柳眉、整った目鼻立ち、薄っすらと引かれた口紅が美しさを引き立てている。
遠くからしか見た事なかったけど、こうして近くで見ると、凄く綺麗だ。
母さんとはまた違った美人さんだ。
「くすくす…」
俺が呆然ぼうぜんとしていると、またシャルトゥーナ様に笑われてしまった。
口元(と思われる場所)に手を当てて笑う仕草は、育ちの違いを実感させられる。
白と淡い桃色のドレスが愛らしさを引き立てているが、頭部全体を覆っているベールによって台無しにされていた。
ちょっと、もったいない感じがするな。
キラキラと光る小さな金のティアラを頭上に乗せているが、おそらくベールが落ちないようにしているのだろう。
「…俺、何か変ですか?」
「あ、いえ。ごめんなさい。別に変だというわけではありませんの。私、人と話す事はほとんどないものですから…」
俺が聞くと、申し訳なさそうに言われた。
なんだか逆に悪いことをしてしまったみたいだ。
「あ…えと…気にしないでください」
「ごめんなさいね」
俺達の会話を聞くと、ティファーヌ様は言った。
「この子、貴女も知っての通り病気がちで、滅多に人と話をすることがなくて…」
「そうでしたね。じゃあ、こんな所にいたら体に悪いですよね」
そう、ティファーヌ様の言う通り、シャルトゥーナ様は病気がちで、城から外に出ることは無い。
ベールを被っているのは、汚れた空気を吸い込まないようにするためらしい。
何でも、ほんの少し汚れた空気を吸っただけでも、熱を出して倒れてしまうとか。
…まあ、あくまで噂なのだけれど。
そのせいで、シャルトゥーナ様の素顔は謎に包まれている。
「ええ。あら?でもなんだか今は調子がよさそうね」
楽しそうに笑うシャルトゥーナ様を見て、ふと疑問に思ったらしく、ティファーヌ様は尋ねた。
「ええ。先ほどまでは気分がすぐれなかったのですけれど…。この方が来た時からなぜか調子がよくて。そういえば、私まだ貴方の名前を聞いていませんでしたわ」
「あ、そういえば…。自己紹介が遅れました。俺――じゃない、私はソルトといいます」
俺は軽く二人に会釈する。
「アタシ達も自己紹介するね」
そう言ってパインと一緒にいた残りの二人も話しかけてきた。
「アタシはコルレッタ・グルーソル。よろしく、ソルト」
「私はレティア・バーナーンです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
コルレッタと名乗ったのは黄色の短い髪で橙色の瞳の女性。
緑系統で纏まとめられた半袖のシャツと短パンを身に付け、革製のベストを羽織はおっている。
レティアは長い緑色の髪と、茶色の瞳の女性。
黄緑色のワンピースの上に、白いエプロンをしている。
見た感じでは、コルレッタは元気で明るそう。
レティアは正反対の物静かで落ち着いている感じ。
どちらも20代前半ではないだろうか。
「それにしても、俺達はいったい何のために捕まったのですか?」
俺が聞くと、全員が表情を変えた。
シャルトゥーナ様は見えないけど。
パインもなんだか悲しそうな顔だ。
どうやら金銭目的の誘拐事件ではないようだ。
たぶん、俺達にとって危険な事なのだろう。
もしかしたら、命に関わるのかもしれない。
少しの沈黙。
それを破ったのはティファーヌ様だった。
「………実はね…私達、生贄にされる為に集められたみたいなのです」
「い、いけにえ!?」
「そう、生贄よ」
重い口を開いたティファーヌ様から聞いたのは、俺が予想した通り、嫌な単語だった。
「冗談じゃないよ、生贄なんて!」
「そんな事言ったってどーすんのよ」
「決まっているだろ?こんな牢屋ところから脱走するんだよ!」
パインの言葉に俺は拳を握り締め、立ち上がって言った。
お前達は生贄になるのだ、なんて言われて、はい分かりました、というわけにはいかない。
なんとしてでもここから逃げなければ。
「脱走?武器もないのに?」
「あ」
コルレッタの冷静なツッコミにより、俺は武器がない事に気付かされた。
「で、でも、こんな所でただ生贄にされるのを待つよりも、やれる事をやるべきだよ」
俺の話をみんなはただ黙って聞いている。
けれども表情は優すぐれない。
「そう簡単に脱走できるもんなの?」
「そ、それは…」
「失敗する可能性が高いと思うわ」
「そうだけど…」
「アタシ達が勝てる相手かな?」
「う…」
「とても危険だと思うわ」
「…」
みんなの顔を見回すと、パイン、ティファーヌ様、コルレッタ、レティアの順で反対の意見を言われた。
四人の意見は正しいだろう。
武器もない、敵の戦力も分からない。
それに――このメンバーで戦えるかすら分からない。
でも……。
「でも、このまま何もしないよりはましだと思いますわ」
そう言ってくれたのは、最後までみんなの話を聞いていたシャルトゥーナ様だった。
「確かにそうですけど、でも…」
「逃げようが逃げまいが、どちらにしろ危険ですわ」
コルレッタの言葉にシャルトゥーナ様はキッパリと答えた。
「「「「……」」」」
みんなその言葉に黙り込んでしまった。
シャルトゥーナ様の言う通り、逃げようが逃げまいがこのままでは危険なのだ。
「私はソルトさんの意見に――脱走に賛成ですわ」
「…脱走するという事は走らなければならないかもしれないのよ?」
あ、そうか。
シャルトゥーナ様は体が弱いんだった。
今は気分がいいみたいだけれど、走ったりして具合が悪くなったりしたらどうしよう。
「大丈夫です。足手まといにはなりませんわ」
ティファーヌ様の問いに答えるその声からは、揺るがないほどの決心が感じられた。
「そう。貴女がそう言うのならば、私は止めないわ。………私も脱走することに決めるわ」
「お姉様…」
シャルトゥーナ様とティファーヌ様が立ち上がった。
「ここにいたってしょーがないもんね」
「皆で力を合わせようよ」
「ただ黙って何もしないよりはましですね」
パイン、コルレッタ、レティアが立ち上がった。
「よーし。みんなで力を合わせて逃げだそう!」
「「「「ええ」」」」
俺の掛け声に、みんな元気よく頷うなずいた。
――ただ一人、シャルトゥーナ様を除いて。
「でも、どうやってここから出るのです?」
「「「「「……」」」」」
この一言で全員が固まった。
何も、このタイミングで言わなくても…。
※ ※ ※
『ケッキョク捕まっちまったよ…。いったいどーするのさ、ウンディーネ』
ソルトが黒マントの男に連れ去られたのを見届けた後、報告するべく緑の少年は代理者の元へと戻った。
が、一歩遅かったらしく、部屋の中には代理者はいなく、水色の女性だけが残っていた。
女性は少年と同じく半透明で、全体的に水色をしている。
早い話が、人ではない。
少年は部屋の何処どこにも代理者がいない事から、儀式が近いことを悟り、ガックリと肩を落として、ため息混じりに尋ねた。
『大丈夫ですよ、シルフ』
『どこが?』
『彼女の事です。何かきっと考えがあるはずです』
女性――ウンディーネは心配そうに問いかける少年――シルフに微笑みながら答える。
その答えを聞き、シルフは表情を険けわしくしながら再び問う。
『…それって、アイツを封印するって事?』
『恐らくは…』
『ムリだ!《言葉の継承者》がいないんだよ!?』
『それでも、彼女はやるかも知れません』
『ムチャだ!《力》があったって《言葉》が無ければ発動しないんだ!』
意気込んで言うシルフから目をそらし、ウンディーネは《力の継承者》がいるであろう方を見た。
『…もしかしたら、彼女はもう、見つけたのかもしれません』
『え?』
それきりウンディーネは黙だまり込む。
ただひたすらに、彼女の無事を信じて。
……誰?
『この国には、すでに魔王が…』
まおう?
『目覚め…です、ソル…ト』
なに?
『力を…今こ…解放…るのです』
ちから?
『早く…いと…彼女の身…危険が…』
かのじょ?
彼女って誰の事?
『もはや、一刻の猶予も…』
あなたは一体…?
『契約の証として、私の解放に真の名を――』
けいやく?
何の事?
『お願い、目覚めて――』
「いー加減に起きなさい!」
「ぅわあ」
俺は誰かの大声で目が覚めた。
「やっと起きたわね。まったくいつまで寝てる気だったのよ」
「んー…あ、パイン。おはよう」
「『おはよう』ぢゃないわよ」
俺はまだぼぅっとしている頭で、あたりを見回す。
どうやら俺がいるのは薄暗く小さい部屋のようだ。
そこには家具らしいものがなく、ご丁寧に鉄格子がついている。
……ん?
鉄格子?
「な、な、な、なんじゃこりゃ!?」
「なによ、どしたの」
「こ、これって、どういうこと!?」
どうしたのと聞くパインに、俺は鉄格子を指差しながら聞いた。
「ああ、これ。みりゃ分かるでしょ?捕まっちゃったのよ」
動揺しまくりの俺と違ってパインはあっさりと答えた。
「…マジ?」
「こんなウソついて、どーすんのよ」
「マジですか!?」
あああ、と俺は頭を抱えた。
何てことだ。
この俺があんな黒マント風情に捕まってしまうとは…。
ツェン・ソルト、一生の不覚。
「くすくす…」
俺が頭を抱えていると、奥のほうから笑い声が聞こえてきた。
「誰?」
「あ、ごめんなさい」
声のした方を見ると、俺たち以外にも四人の女性がいた。
ぱっと見、年齢はばらばらみたいだ。
そのうちの一人、俺の行動を笑ったのはベールを被った人だ。
ベールが顔全体を覆っているため顔を見ることはできないが、声から判断すると、俺と同い年くらいの少女だろう。
「えっと…」
「ごめんなさいね。妹のシャルトゥーナが笑ってしまって」
「あ、いや、別に気にしていませんから……って『シャルトゥーナ』!?」
ベールの少女の変わりに黒髪の美人さんが答えた。
まてよ、シャルトゥーナってもしかして…。
それに、こっちの黒髪美人もどこかで見たことが。
「ベールを被った貴女は…もしかしてシャルトゥーナ…様?」
半信半疑で、俺は尋ねる。
「はい」
ベールの少女――シャルトゥーナ様は、楽しそうに答えた。
「じゃ、じゃあ貴女は…」
「貴女のお察しの通り、ヤークティ共和国第一王女ティファーヌ・ディア・ディ・ヤークティですわ」
俺が黒髪美人さんに視線を向けると、キッパリと、そしてハッキリと答えてくれた。
ま、マジですか?
誘拐事件に巻き込まれ、黒マントに首を絞められ、目が覚めたら見知らぬ牢屋。
これだけでも驚きなのに、そのうえ王女様たちまでいましたときたもんだ。
これで驚かないほうがおかしい。
ヤークティ共和国には二人の王女様がいる。
一人は現在目の前にいる黒髪美人、ティファーヌ・ディア・ディ・ヤークティ様。
もう一人は、妹のシャルトゥーナ・リー・フェン・ヤークティ様。
ティファーヌ様は、御歳24。
腰まで届く黒く艶やかな髪と、空のように綺麗な青い瞳を持っている。
紫系統で纏まとめられたドレスは、ティファーヌ様にとても良く似合っている。
艶やかな黒髪は、銀色の簪や髪飾りで飾られている。
弓を描く柳眉、整った目鼻立ち、薄っすらと引かれた口紅が美しさを引き立てている。
遠くからしか見た事なかったけど、こうして近くで見ると、凄く綺麗だ。
母さんとはまた違った美人さんだ。
「くすくす…」
俺が呆然ぼうぜんとしていると、またシャルトゥーナ様に笑われてしまった。
口元(と思われる場所)に手を当てて笑う仕草は、育ちの違いを実感させられる。
白と淡い桃色のドレスが愛らしさを引き立てているが、頭部全体を覆っているベールによって台無しにされていた。
ちょっと、もったいない感じがするな。
キラキラと光る小さな金のティアラを頭上に乗せているが、おそらくベールが落ちないようにしているのだろう。
「…俺、何か変ですか?」
「あ、いえ。ごめんなさい。別に変だというわけではありませんの。私、人と話す事はほとんどないものですから…」
俺が聞くと、申し訳なさそうに言われた。
なんだか逆に悪いことをしてしまったみたいだ。
「あ…えと…気にしないでください」
「ごめんなさいね」
俺達の会話を聞くと、ティファーヌ様は言った。
「この子、貴女も知っての通り病気がちで、滅多に人と話をすることがなくて…」
「そうでしたね。じゃあ、こんな所にいたら体に悪いですよね」
そう、ティファーヌ様の言う通り、シャルトゥーナ様は病気がちで、城から外に出ることは無い。
ベールを被っているのは、汚れた空気を吸い込まないようにするためらしい。
何でも、ほんの少し汚れた空気を吸っただけでも、熱を出して倒れてしまうとか。
…まあ、あくまで噂なのだけれど。
そのせいで、シャルトゥーナ様の素顔は謎に包まれている。
「ええ。あら?でもなんだか今は調子がよさそうね」
楽しそうに笑うシャルトゥーナ様を見て、ふと疑問に思ったらしく、ティファーヌ様は尋ねた。
「ええ。先ほどまでは気分がすぐれなかったのですけれど…。この方が来た時からなぜか調子がよくて。そういえば、私まだ貴方の名前を聞いていませんでしたわ」
「あ、そういえば…。自己紹介が遅れました。俺――じゃない、私はソルトといいます」
俺は軽く二人に会釈する。
「アタシ達も自己紹介するね」
そう言ってパインと一緒にいた残りの二人も話しかけてきた。
「アタシはコルレッタ・グルーソル。よろしく、ソルト」
「私はレティア・バーナーンです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
コルレッタと名乗ったのは黄色の短い髪で橙色の瞳の女性。
緑系統で纏まとめられた半袖のシャツと短パンを身に付け、革製のベストを羽織はおっている。
レティアは長い緑色の髪と、茶色の瞳の女性。
黄緑色のワンピースの上に、白いエプロンをしている。
見た感じでは、コルレッタは元気で明るそう。
レティアは正反対の物静かで落ち着いている感じ。
どちらも20代前半ではないだろうか。
「それにしても、俺達はいったい何のために捕まったのですか?」
俺が聞くと、全員が表情を変えた。
シャルトゥーナ様は見えないけど。
パインもなんだか悲しそうな顔だ。
どうやら金銭目的の誘拐事件ではないようだ。
たぶん、俺達にとって危険な事なのだろう。
もしかしたら、命に関わるのかもしれない。
少しの沈黙。
それを破ったのはティファーヌ様だった。
「………実はね…私達、生贄にされる為に集められたみたいなのです」
「い、いけにえ!?」
「そう、生贄よ」
重い口を開いたティファーヌ様から聞いたのは、俺が予想した通り、嫌な単語だった。
「冗談じゃないよ、生贄なんて!」
「そんな事言ったってどーすんのよ」
「決まっているだろ?こんな牢屋ところから脱走するんだよ!」
パインの言葉に俺は拳を握り締め、立ち上がって言った。
お前達は生贄になるのだ、なんて言われて、はい分かりました、というわけにはいかない。
なんとしてでもここから逃げなければ。
「脱走?武器もないのに?」
「あ」
コルレッタの冷静なツッコミにより、俺は武器がない事に気付かされた。
「で、でも、こんな所でただ生贄にされるのを待つよりも、やれる事をやるべきだよ」
俺の話をみんなはただ黙って聞いている。
けれども表情は優すぐれない。
「そう簡単に脱走できるもんなの?」
「そ、それは…」
「失敗する可能性が高いと思うわ」
「そうだけど…」
「アタシ達が勝てる相手かな?」
「う…」
「とても危険だと思うわ」
「…」
みんなの顔を見回すと、パイン、ティファーヌ様、コルレッタ、レティアの順で反対の意見を言われた。
四人の意見は正しいだろう。
武器もない、敵の戦力も分からない。
それに――このメンバーで戦えるかすら分からない。
でも……。
「でも、このまま何もしないよりはましだと思いますわ」
そう言ってくれたのは、最後までみんなの話を聞いていたシャルトゥーナ様だった。
「確かにそうですけど、でも…」
「逃げようが逃げまいが、どちらにしろ危険ですわ」
コルレッタの言葉にシャルトゥーナ様はキッパリと答えた。
「「「「……」」」」
みんなその言葉に黙り込んでしまった。
シャルトゥーナ様の言う通り、逃げようが逃げまいがこのままでは危険なのだ。
「私はソルトさんの意見に――脱走に賛成ですわ」
「…脱走するという事は走らなければならないかもしれないのよ?」
あ、そうか。
シャルトゥーナ様は体が弱いんだった。
今は気分がいいみたいだけれど、走ったりして具合が悪くなったりしたらどうしよう。
「大丈夫です。足手まといにはなりませんわ」
ティファーヌ様の問いに答えるその声からは、揺るがないほどの決心が感じられた。
「そう。貴女がそう言うのならば、私は止めないわ。………私も脱走することに決めるわ」
「お姉様…」
シャルトゥーナ様とティファーヌ様が立ち上がった。
「ここにいたってしょーがないもんね」
「皆で力を合わせようよ」
「ただ黙って何もしないよりはましですね」
パイン、コルレッタ、レティアが立ち上がった。
「よーし。みんなで力を合わせて逃げだそう!」
「「「「ええ」」」」
俺の掛け声に、みんな元気よく頷うなずいた。
――ただ一人、シャルトゥーナ様を除いて。
「でも、どうやってここから出るのです?」
「「「「「……」」」」」
この一言で全員が固まった。
何も、このタイミングで言わなくても…。
※ ※ ※
『ケッキョク捕まっちまったよ…。いったいどーするのさ、ウンディーネ』
ソルトが黒マントの男に連れ去られたのを見届けた後、報告するべく緑の少年は代理者の元へと戻った。
が、一歩遅かったらしく、部屋の中には代理者はいなく、水色の女性だけが残っていた。
女性は少年と同じく半透明で、全体的に水色をしている。
早い話が、人ではない。
少年は部屋の何処どこにも代理者がいない事から、儀式が近いことを悟り、ガックリと肩を落として、ため息混じりに尋ねた。
『大丈夫ですよ、シルフ』
『どこが?』
『彼女の事です。何かきっと考えがあるはずです』
女性――ウンディーネは心配そうに問いかける少年――シルフに微笑みながら答える。
その答えを聞き、シルフは表情を険けわしくしながら再び問う。
『…それって、アイツを封印するって事?』
『恐らくは…』
『ムリだ!《言葉の継承者》がいないんだよ!?』
『それでも、彼女はやるかも知れません』
『ムチャだ!《力》があったって《言葉》が無ければ発動しないんだ!』
意気込んで言うシルフから目をそらし、ウンディーネは《力の継承者》がいるであろう方を見た。
『…もしかしたら、彼女はもう、見つけたのかもしれません』
『え?』
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