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第3章 魔王退治に魔王が同行するってどういう事?
その10
しおりを挟む「くそっ!油断した!」
「ゼロさん!」
「こっちへくるな!距離を取れ!」
駆け寄りかけていた私は、その言葉で後ろに下がる。
靄から飛び出したゼロさんを追って無数の蔦が伸びている。
不規則に動き回る蔦にゼロさんは徐々に絡みつかれ、ついにはぐるぐる巻きにされてしまった。
それでもゼロさんは余裕そうな笑みを浮かべている。
本当に余裕なら抜け出しているだろうし、ハッタリかもしれない。
「憎らしや、憎らしや。母は何故揺り籠の守人なぞ産み出したのやら。母が死したのは不幸の感情が溢れたからなのに」
「だからと言って、世界が不幸の感情で充満するのが嫌だったんじゃろ」
靄が薄れ、私にも蕾が見えるようになった。
花が開き、中から蝶の羽が生えた女性が現れる。
青白い肌、スラリと伸びた四肢、緩やかにウェーブのかかった金髪、整った顔立ち。
その美しさに心が奪われそうになる。
けれど、彼女はなんだか…そう、まるで人形のよう。
美しさに息を呑み、見惚れてしまいそうになるけれど、どこか作り物のような、儚くて、触れてはならない存在に感じる。
ガラス細工や人形と例えるのがしっくりくる、そんな不思議な存在。
そして何故か私は、生きていないと感じた。
「憎らしや、憎らしや。この世界は一度無に帰さねばならぬ。母もそれを望んでおった」
「じゃがその反面、産み出した子等を護りたいとも願った」
「愛憎とは表裏一体のもの。どちらが欠けても回りはせぬ。ああ、嘆かわしや。母も感情に支配されておったとは」
彼女はそう言ってはらはらと涙を流した。
何故だろう、その涙は美しすぎて偽物に感じる。
「時に、お主は随分とまぁ不幸の感情を溜め込んでおるのぅ。揺り籠の守り人が聞いて呆れるわ」
「儂にもわからん。3000年程封印されておったらしくての、記憶が欠損だらけなんじゃよ」
「妾達ではなく、何故お主が封印なぞされるのじゃ?」
「さあ、覚えとらん。覚えておらんが、今は魔王と呼ばれておるよ」
「ほぅ…それは興味深い」
彼女は目を細め、ゼロさんを見据えたまま私を指差した。
一気に鼓動が早くなる。
少しでも動いたらダメだと、なぜかそう思った。
ゼロさんの笑みが消え、彼女を睨み上げる。
「汝の名はなんと?」
「…リューベングール」
「そこの女子、妾は何という名が相応しい?」
「わ、私ですか?」
「お主以外におるか?」
「…いません」
「では女子よ、妾に相応しい名を」
急に言われても思いつかない。
でも、逆らったら私は死ぬ。
そんな気がする。
人形のように美しく、ガラスの様に繊細で、どこか作り物の様な儚い存在。
「えっと、ルナさん、なんてどうでしょうか?」
「理由は?」
「えっと、月の光の様に淡くて綺麗だなぁと思ったものですから…」
本当は儚いで思い浮かんだのは月下美人だったんだけど、ルナ・ビューティはなんか、ねぇ?
「妾は綺麗か?」
「はい、とっても」
「世辞はよい」
「いえ、本当に綺麗です。見ていると吸い込まれそうで、その、少し怖いです」
「そうか」
私の答えに満足したのか、彼女は柔らかく微笑んだ。
「女子よ、汝の名はなんと?」
「や、夜々子です」
「ヤヤコよ、お主に免じて今これを処分するのは止めてやろう。まあ、足止めはさせてもらうがの」
「ぐぅっ」
「ゼロさん!」
ゼロさんをぐるぐる巻きにしている蔦に花が咲き始める。
花が咲くたびに苦しそう。
「魔力が切れれば解放されるから安心せい。ヤヤコよ、ルナという名、気に入ったぞ。いずれまた何処かで会うやもしれん。楽しみにしておるよ」
そう言って彼女ーールナさんは飛び立ってしまった。
魔法をかけられていた訳でもないのに、今まで動けなかった体が急に動く様になった。
「ゼロさん!」
私は慌てて駆け寄るも、蔦はキツく巻き付いていてナイフか何かがないと切れそうにない。
「時間がない、ヤヤコくん先に脱出するんじゃ!」
「ゼロさんを置いてなんて行けません!」
「儂は瘴気の中でも平気じゃ。じゃが魔力が切れたらヤヤコくんが…」
「ハンカチ持ってます!」
「こんな濃度の濃い場所では役に立たん!いいか、この蔦は儂の魔力を吸って…」
「じゃあ浄化魔法を使います!」
「なに?」
瘴気を吸い込んで、ろ過して、綺麗にする。
空気清浄機に掃除機を足したようなやつがベストね。
電源なんてないから、充電式とか電池式で…。
「間に合わん!ヤヤコくん逃げ…」
「考えてるからちょっと黙ってて!」
目を閉じて精密にイメージする。
掃除機や空気清浄機を分解なんてした事ないから内部構造は自分なりのイメージよ。
「ごほっ」
息苦しい。
ゼロさんの魔法が消えかかってるんだ。
ハンカチで口を塞ぎながら集中するも、手足の先端が痺れてきた。
肌もピリピリする。
「ぐぁぁぁぁ!」
ゼロさんの悲鳴に思わず目をあけた。
え?なに?
可愛いのがいるんだけど。
その瞬間、イメージが決まる。
そうよ、吸収と浄化を一度にやらなくてもいいのよ!
ゴツくなくたっていいじゃない。
ここはファンタジー世界なのよ、ファンタジーといえば、やっぱりこういうのでしょう!
「これが私の浄化魔法だーーー!」
「ぱおーーーん!」
杖の魔石が輝き、ポンという音と共に白い煙の中から現れたのは、丸っこくデザインされた青いゾウさんだった。
「ゼロさん!」
「こっちへくるな!距離を取れ!」
駆け寄りかけていた私は、その言葉で後ろに下がる。
靄から飛び出したゼロさんを追って無数の蔦が伸びている。
不規則に動き回る蔦にゼロさんは徐々に絡みつかれ、ついにはぐるぐる巻きにされてしまった。
それでもゼロさんは余裕そうな笑みを浮かべている。
本当に余裕なら抜け出しているだろうし、ハッタリかもしれない。
「憎らしや、憎らしや。母は何故揺り籠の守人なぞ産み出したのやら。母が死したのは不幸の感情が溢れたからなのに」
「だからと言って、世界が不幸の感情で充満するのが嫌だったんじゃろ」
靄が薄れ、私にも蕾が見えるようになった。
花が開き、中から蝶の羽が生えた女性が現れる。
青白い肌、スラリと伸びた四肢、緩やかにウェーブのかかった金髪、整った顔立ち。
その美しさに心が奪われそうになる。
けれど、彼女はなんだか…そう、まるで人形のよう。
美しさに息を呑み、見惚れてしまいそうになるけれど、どこか作り物のような、儚くて、触れてはならない存在に感じる。
ガラス細工や人形と例えるのがしっくりくる、そんな不思議な存在。
そして何故か私は、生きていないと感じた。
「憎らしや、憎らしや。この世界は一度無に帰さねばならぬ。母もそれを望んでおった」
「じゃがその反面、産み出した子等を護りたいとも願った」
「愛憎とは表裏一体のもの。どちらが欠けても回りはせぬ。ああ、嘆かわしや。母も感情に支配されておったとは」
彼女はそう言ってはらはらと涙を流した。
何故だろう、その涙は美しすぎて偽物に感じる。
「時に、お主は随分とまぁ不幸の感情を溜め込んでおるのぅ。揺り籠の守り人が聞いて呆れるわ」
「儂にもわからん。3000年程封印されておったらしくての、記憶が欠損だらけなんじゃよ」
「妾達ではなく、何故お主が封印なぞされるのじゃ?」
「さあ、覚えとらん。覚えておらんが、今は魔王と呼ばれておるよ」
「ほぅ…それは興味深い」
彼女は目を細め、ゼロさんを見据えたまま私を指差した。
一気に鼓動が早くなる。
少しでも動いたらダメだと、なぜかそう思った。
ゼロさんの笑みが消え、彼女を睨み上げる。
「汝の名はなんと?」
「…リューベングール」
「そこの女子、妾は何という名が相応しい?」
「わ、私ですか?」
「お主以外におるか?」
「…いません」
「では女子よ、妾に相応しい名を」
急に言われても思いつかない。
でも、逆らったら私は死ぬ。
そんな気がする。
人形のように美しく、ガラスの様に繊細で、どこか作り物の様な儚い存在。
「えっと、ルナさん、なんてどうでしょうか?」
「理由は?」
「えっと、月の光の様に淡くて綺麗だなぁと思ったものですから…」
本当は儚いで思い浮かんだのは月下美人だったんだけど、ルナ・ビューティはなんか、ねぇ?
「妾は綺麗か?」
「はい、とっても」
「世辞はよい」
「いえ、本当に綺麗です。見ていると吸い込まれそうで、その、少し怖いです」
「そうか」
私の答えに満足したのか、彼女は柔らかく微笑んだ。
「女子よ、汝の名はなんと?」
「や、夜々子です」
「ヤヤコよ、お主に免じて今これを処分するのは止めてやろう。まあ、足止めはさせてもらうがの」
「ぐぅっ」
「ゼロさん!」
ゼロさんをぐるぐる巻きにしている蔦に花が咲き始める。
花が咲くたびに苦しそう。
「魔力が切れれば解放されるから安心せい。ヤヤコよ、ルナという名、気に入ったぞ。いずれまた何処かで会うやもしれん。楽しみにしておるよ」
そう言って彼女ーールナさんは飛び立ってしまった。
魔法をかけられていた訳でもないのに、今まで動けなかった体が急に動く様になった。
「ゼロさん!」
私は慌てて駆け寄るも、蔦はキツく巻き付いていてナイフか何かがないと切れそうにない。
「時間がない、ヤヤコくん先に脱出するんじゃ!」
「ゼロさんを置いてなんて行けません!」
「儂は瘴気の中でも平気じゃ。じゃが魔力が切れたらヤヤコくんが…」
「ハンカチ持ってます!」
「こんな濃度の濃い場所では役に立たん!いいか、この蔦は儂の魔力を吸って…」
「じゃあ浄化魔法を使います!」
「なに?」
瘴気を吸い込んで、ろ過して、綺麗にする。
空気清浄機に掃除機を足したようなやつがベストね。
電源なんてないから、充電式とか電池式で…。
「間に合わん!ヤヤコくん逃げ…」
「考えてるからちょっと黙ってて!」
目を閉じて精密にイメージする。
掃除機や空気清浄機を分解なんてした事ないから内部構造は自分なりのイメージよ。
「ごほっ」
息苦しい。
ゼロさんの魔法が消えかかってるんだ。
ハンカチで口を塞ぎながら集中するも、手足の先端が痺れてきた。
肌もピリピリする。
「ぐぁぁぁぁ!」
ゼロさんの悲鳴に思わず目をあけた。
え?なに?
可愛いのがいるんだけど。
その瞬間、イメージが決まる。
そうよ、吸収と浄化を一度にやらなくてもいいのよ!
ゴツくなくたっていいじゃない。
ここはファンタジー世界なのよ、ファンタジーといえば、やっぱりこういうのでしょう!
「これが私の浄化魔法だーーー!」
「ぱおーーーん!」
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