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復活の『勇者様』③

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 少しずつ村に馴染んでいくみんなにホッとしつつも、いつかボロが出ないかと不安も募る。村は働き手が増えたことと勇者が討伐した野獣の毛皮なんかを売ったりとかで、この1週間でずいぶんと潤ってきたようだった。みんなは畑仕事や水汲み、木材の運搬など力仕事は簡単に覚えたけれど(キメラだからだろうか?)、料理や糸紡ぎ、裁縫などの細かい作業には苦戦しているようだった。それでもみんな、ずいぶんと笑顔が増えた。1番の楽しみは1日の終わりに本屋のおばちゃんがやってくれる本の読み聞かせのようだった。
「アッシュ様はすごいなぁ」
「本当に。さすが勇者様だ」
「毎日のように野獣を討伐してくれる」
「この辺りにはもう、野獣はいないんじゃないか?」
「かもな」
「でも……ちょっと、怖いよな」
「わかる。なんていうか、こう…。同じ人間じゃないというか」
 勇者はこの1週間、ほとんど村にいなかった。野獣討伐したその足で隣村まで商品を売りに行き、そこで食料などを調達、夕方までに村へ帰ってくる。片道歩いて1日半ほどの距離を、ほぼ1日で往復していることになる。不眠不休で動けるゾンビだとはいえ、能力は生前のままのはずだから、つまりこいつは生きていた頃から化け物じみていたってことだ。そりゃ勇者だって祀り上げられる訳だ。
 そんな勇者は当然ながら村人たちにも段々と怖がられるようになってきた。尊敬しつつも怖い。自分たちとはどこか違う特別な存在。こういうのなんて言うんだっけ、畏怖?とにかくそんな感じで、親しげに話はするけれど、どこか距離をとっている。勇者自身もそれを感じ取っているのか、以前より積極的に関わろうとしない。一歩引いて、あくまでも一時的に滞在しているのだという感じが伝わってくる。
 アイツは一応、俺たちの視界に入らないよう日中は宿に引きこもっているみたいだ。俺は夜はみんなと一緒に集会所にいるから何をしているかはわからないが、今のところは怪しい動きはなさそうだ。
 つーか勇者のやつ、アイツの監視どころか思いっきり村から離れてるってのはどういう事なんだよ。アイツの世話は勇者の役目だろーが。必要だから殺させないでとか言っておきながらなんなんだよ。
 そんなモヤモヤを抱えながら、俺は真夜中の散歩をしていた。普段はみんなが不安がるから夜はずっと一緒にいるんだけど、なぜだか今日はふと目が覚めてしまった。もう一度寝ようにも目が冴えて眠れない。気分転換も兼ねて村の中を散歩中だ。力を合わせて建築中のキメラ達用の家の前までくる。完成までは後少しだ。最初は難しかった建築作業も、慣れてきた今では結構楽しい。ここが完成すれば全員揃って飯も食えるし、大きな風呂も用意した。個室はないけれど、一人一人にちゃんとベッドもある。今みたいにぎゅうぎゅう詰めになって寝なくてもいい。
「ご機嫌ですね」
「…! びっくりした…」
 嬉しくてにまにましていた俺に、勇者が急に声をかけてきた。心臓止まるかと思った。こいつに会うのはほぼ1週間ぶりだ。結構元気そうだ。
「今日は見回り行かないのか?」
「この辺の野獣はほぼ全滅させたと思います」
「そーなんだ」
「あの子達もずいぶんと馴染んだようですし、僕達はそろそろ次へ向かう頃合いかなと思いまして。なので君に会いにきました」
「次…。そうだな。でも、みんな大丈夫かな?」
「こればかりは実際に離れてみないとわかりませんね」
「そっか。うん、まあ、そうだよな」
「つきましては、僕とカルミア君、彼女の3人で次について相談をしたいのです」
「!!」
「君の心の準備ができたらやりましょう」
 そう言って勇者は背を向けた。
 心臓が止まるかと思ったのは本当だ。できればアイツに会いたくない。でも、わかってる。リーダーは俺だ。たとえリーダーらしくなくても、最終決定を下すのは俺だ。アイツとも話して今後の方針を決めなきゃいけない。怖いけど、やらないと。やるって決めたのは俺なんだから。
「な、なあ、今からでもいいか?」
「え?構いませんが…。でも、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないけど、でも、たぶん、明日になったらもっと怖くなってできなくなる気がするから」
「…わかりました。ですが、無理はしないでくださいね」
「おう」
 震える手をぎゅっと握る。恐怖と緊張で体がうまく動かないが、俺は勇者の後をついて宿屋へと向かった。
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