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(グロ注意)幕間・アッシュside

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アッシュ視点になります。
グロ要素が強めになるため、苦手な方は読み飛ばしてください。
なお、読まなくても本編に支障は出ないようになっております。

 ※ ※ ※

「参ったなぁ…」
 僕が思っていた以上に、彼女はカルミア君のトラウマだったらしい。命令されてしまった以上、僕は最終的には彼女を殺す事になる。カルミア死霊術ネクロマンシーは相性がとても良いのだろう。まだ未熟だからこそ多少の抑えはきくが、命令されてしまうとどうしても抗いきれない。彼女を殺すのも時間の問題だ。
 パニックを起こして走り去ってしまった彼を追って命令を取り消してもらうのが一番早いが、命令を全無視してしまうと僕の体が保たない。
「すぐパニックになっちゃうところ、変わってないなぁ。何度追い詰めても精神壊れないから、つい構っちゃうんだよねぇ」
「いい趣味とは言えませんね」
 両手をあげて降伏のポーズをとりつつも、彼女はねっとりとした声音と瞳で、ただカルミア君だけを見ている。目の前にいる僕は見ていない。カルミア君を見つけたその瞬間から、カルミア君以外はどうでもいいのだ。おそらく、自分の命ですら。
「間違えて斬ってしまうと大変なので、そこを動かないでくださいね」
 そう言って剣を下ろすと、彼女は「んふっ」と笑った。
「うう…」
 大雑把に張り倒したせいか、何名かの研究者が意識を取り戻す。命令通り、まずはこちらを片付けてしまおうか。だってこの人達武器持ってるし。武器を向けてくるのは敵だけ。敵は倒すもの。情けをかけてはいけない。司教様もそう言っていた。
 それに……お腹も空いた。
「もう一度忠告します。間違えて斬ってしまうので動かないでくださいね」
「はぁい」
 脅威は感じないけれど、敵であることに変わりはない。それにこの人達はカルミア君を傷つけようとした。何故かはわからないけれど、それだけは許せない。カルミア君を傷つける者は、誰であろうと許さない。
 急ぐ必要性を感じず、むしろパニック状態のカルミア君を考えれば、すこしゆっくりでもいいかもしれない。
 歩いて近づく僕に気づき、研究者は慌てて銃を拾い上げた。
「と、止まれ!」
 手が震えて照準が合っていない。案の定2発外し、3発目でようやく僕に当たる。着弾の衝撃で多少体はよろけたものの、それだけだ。耐えられない痛みじゃない。
「ひっ…」
 ガンガンと追加で撃たれた。耐えられるだけで痛くない訳じゃない。もちろん痛い。ビリビリと痺れる。けれど、だからどうしたという感じだ。そこそこ不快ではあるけれど、大した問題ではない。
「え…あ、あ、あああああああああ!」
 鬱陶しいので腕を切り落とす。戦意の喪失を確認。うるさいので首を斬り落とせば、ゴロリと転がり僕を見上げる。何が起きたのかわからないという表情で瞬きを一つ。察しの悪い研究者も居たものだ。
 溢れ出る血は食欲をそそる香りで、今すぐに啜りたい欲求に駆られる。けれども体は次の獲物を殺したくてたまらない。命令に従うべきか、ゾンビの本能に従うべきか。ああ、なんて嫌な葛藤なのだろう。
 さてどうしようかと視線を動かせば、意識を取り戻していた者達はみな戦意を喪失していた。手にしていた銃を放り投げ、「助けてくれ」と口々に命乞いをしている。
 つまらない。
 リーダーさんとの戦いは、とっても楽しかったのにな。
 近くにいたまだ気絶している女の首を刎ねつつ、次の獲物へと歩き出す。
「く、来るなっ!化け物!」
「心外ですね。…ああ、でも今の僕ゾンビですし、間違ってないのか」
 スパンと首を刎ねれば、男は首を刎ねられた事に気づいていなかったようで、慌てて逃げようとした。そんな事をすれば当然頭は転げ落ちる。「え?」なんて情けない声を出しながらゴロリと頭が転がり、遅れて血が吹き出した。バランスを崩した体が床の頭の上に倒れ込む。自身の血を浴びた頭が何やらくぐもった声を出す。首を切られてもほんの少しの間生きているなんて、人間は中々どうして生命力があるんだな。そんな事をぼんやりと思った。
「うわぁぁぁぁぁ!」
 悲鳴をあげて何人かが逃げ始める。血の匂いが濃くなってから、無性にお腹が減っている。悲鳴をあげて逃げ惑う背中を見ていたら、狩りたくて堪らなくなってきた。悲鳴がとても心地がいい。命乞いをして座り込んでいる者よりも、逃げ惑う者を追う方が楽しそうだ。
 おかしいな。僕、こうだったっけ?今までは一度も逃げ惑う背中に楽しさなんて感じなかったのに。
 あれ?そうだっけ?どうだっけ?
 ゾンビだから楽しいのかな?
 それとも勇者の時から楽しかったのかな?
 まあいいや。どうせ殺す事に変わりはないんだから。つまらないくらいなら、楽しい方がいいに決まってる。
 タン、と床を蹴ればあっさり追いつき首を刎ねてしまった。おっと失敗。これはつまらない。もっと手加減してあげなくちゃ。
 斬り落とした頭を掴みぶん投げる。
「ぐぇっ」
 当たった。バランスを崩したので剣を素早く薙ぎ、斬撃を飛ばしてみる。面白いように両足が斬れてぐしゃりと床に落ちた。こんな事出来たらいいな、とは思っていたけれど、本当にできるとは思わなかった。いいな、これ。ちょっとここで練習していこう。
 ちょうどいい練習相手にわくわくが止まらない。ただ、殺さないように手加減するのが難しい。狙ったところに当てるのも難しくて、何度も何度も練習する。
 片足を斬り飛ばそうと思っても両足を落としてしまうし、背中に即死しない程度に当てようと思えば、勢い余って一刀両断。腕に当てるつもりが頭にあたり、脳みそがベシャリと飛び散る。勿体ない事をしてしまった。コロコロと床を転がる目玉もうっかり踏み潰してしまった。食べたかった。でも、拾い食いはしてはならないって司教様言ってたしなぁ。
 段々狙い通りに当てられるようになってきた。こうなるととっても楽しい。四肢が欠損し床でもがいている男を掴んでぶん投げる。宙を舞う体から血が吹き出して部屋に赤い絵を描く。両足を失い這って逃げていた女に命中した。
 そうだ、空中の敵も斬れるようになりたいな。近くにあったのを投げると、勢いが強すぎて天井にグシャリと張り付いてしまった。もう少し加減をしなければいけなかったようだ。大丈夫、練習材料はまだ沢山あるんだから。
 もっと沢山練習しよう。上手にできるようになったら、司教様みたいにカルミア君も喜んでくれるかもしれない。
 上達していくのが楽しくて、気づけば辺り一面阿鼻叫喚。血の匂いが充満して空腹で頭がクラクラする。とりあえず食事にしようとして、体がまだ殺していないと訴えている事に気がついた。
 おかしいな。確かにまだ息のある者はいるけれど、ちゃんと殺したはずなのに。体が訴える方へと視線を向ければ、ああ、そうだった。彼女を忘れていた。
 彼女はちゃんと動かずに待っていた。ニコニコと笑みを浮かべ、返り血を全身に浴び、誰かの腸をネックレスのように首に引っ掛けている。
「凄いですね。この状況でよく笑えますね」
「えぇー、この惨状を作った本人が言うの?」
 首から下がっている腸を外してやり、僕はそのまま口へと運ぶ。だいぶ前から引っ掛かっていたのか、腸はもう冷めてしまっていた。
「うわー、食べるんだぁ。そういやさっき、ボソッとゾンビだとか言ってたねぇ」
よく聞こえましたねひょふひほへまひはへ
「私、耳いいんだぁ。お腹空いちゃうの?人肉美味しい?」
「すごく美味しいです」
「ほうほう。そこだけ聞くと、なんだかゾンビというよりはグールっぽいね」
「グール?」
「人肉を食べる怪物さんだよ。野獣とは違って人の姿。普段は人間のフリをして暮らしているらしいよ。いつから存在していたのか、まだ解明されていないのさ。ああ~、研究したい」
 腸を食べた事で少しだけ命令を抑え込む余裕ができた。これなら大丈夫かな。
「多分もう動いて大丈夫ですよ」
「そう?いやぁ、ありがたいわぁ。ずっと手を挙げていたから肩が凝っちゃったよ」
「貴女には色々と協力していただきたいのですが…。条件は何にしましょうか。命の保証は、どうでもいいですよね?」
「そうだね。キミ、初対面なのに私の事よくわかってるねぇ。私は、15151を観察できればそれでいいよ」
「手を出したら両目抉りますよ」
「おおう、殺されるより困る。本当に私の事よくわかってるねぇ。ちょっと怖いよ。もしかしてキミも千里眼みたいな特殊能力持ちかい?」
「いいえ。…キミですか?」
「うん、そう。もしかして知らないのかい?」
「彼は千里眼とかいう能力をもっているという事ですか」
「その通り。あの子だけしか発現しなかった特殊能力だよ。同じように育てても他の子には現れなかったんだよね」
 思い出しているのか、うっとりとした表情で彼女は言う。カルミア君だけという事は、何かしらの条件が彼に当てはまったという事なんだろう。死霊術ネクロマンシーと相性がいいというのは関係あるのだろうか。何にしても目的の為には彼女が必要だ。どうにかして説得しなければ。
「変な事をお聞きしますが、腕の一本くらいは必要経費だと思いますか?」
「腕?そうだねぇ…足の方が助かるけれど、まあ構わないよ」
「ありがとうございます。話が早くて助かります」
「私こそ、あの子に会わせてくれてありがとう。15151がいなくなってからの私の世界は灰色だったよ。薬も飲まずによく生きていたものさ」
「…彼もそろそろ落ち着いているかもしれませんし、行きましょうか」
「はいはーい」
 死体はそのままに僕達は地上行きの階段を登る。彼女はずっと「背は伸びたのかな?体型はどうだろう?千里眼の力は強くなったのかな」などと言いながらうっとりとした表情を浮かべていた。
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