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キメラとゾンビとイカレ研究者⑥
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「子供二人で旅だなんて大変だっただろう」
「裏山の野獣を倒してくれたんだって?なんとお礼をいえばいいか…」
「人恐怖症なんだって?良ければ部屋で食事にするかい?」
「服がボロボロじゃないか。うちの服見ていかないかい?」
「悪いねぇ、この村には鍛冶屋はないんだよ。砥ぐくらいならできるんだが…」
旅人がほとんど来ないのか、村に着くなり囲まれた。こんなに大勢の人間に囲まれると、違うのに研究所に居た頃を思い出す。自分でも体が強張っていると分かったのだ、背負っている勇者が気づかないはずがない。爽やかスマイルでさらっと切り抜けてくれた。
二人旅をしているということ。俺は悪い人につかまり人体実験を受けていて人恐怖症であるということ。囚われの仲間たちを助けるために旅を続けているということ。
あながち間違ってはいないが、真実とも言えない。けど村人にそれを確かめるすべはない。
まだ何か聞きたそうな村人達に「一度休息をとらせてほしい」といって、一旦宿へと向かう。一人部屋でゆっくりしたいところではあるが、何か起きた場合すぐ対処できるようにと二人部屋を取らせてもらった。
「大丈夫ですか?」
「だいぶ痛みは引いてきた」
「横になります?」
「そーだなぁ…」
ちらりと腰かけたベッドに視線を向ける。柔らかい布団が中にお入りと手招きしている。今すぐ飛び込んで爆睡したいところではあるのだが、ゆっくり風呂にも入りたい。寂れた村のくせにこの宿には大浴場があるらしい。近くに天然の温泉が湧いていてそこから引いているのだとか。これはもう、入らない理由がない。
「先に風呂に行こうかな。打ち身にもいいらしいし」
「そうですか。あの、僕も一緒に行っていいですか?」
「いいけど……そっか、俺人恐怖症って設定だったな」
「それもそうですが、『ふろ』というのがよくわからなくて…」
「は?いやいや、風呂は風呂だろ」
「その『ふろ』というのはあって当たり前なのでしょうか?」
「当たり前にあるのかといわれると、無いところもあるとしか…。研究所は衛生管理が大事だからあったけど、革命軍には無かったし」
「なるほど」
こいつは一体何を言っているのだろうか。そういえば住んでいる地域によって同じものでも名称が違うことがあるって師匠が言っていたっけ。勇者の故郷では違う言い方をしていたのかもな。
「とにかく風呂行こうぜ。ずっと川で水浴びだったし、久々にあったまりてぇ」
「あったまる?」
疑問符を浮かべる勇者を連れて大浴場へと向かう。気持ち大きめな浴場に客は俺達だけ。貸し切りっていいねぇ。
だが、そんな俺とは対照的に勇者は不思議そうな顔であたりをきょろきょろと見まわしている。そんな今日何度目かもわからない「こいつなにやってんだ?」という疑問は、すぐに解消されることになる。
「ここは何をする場所なんですか?」
「なにって脱衣所だよ」
「だついじょ?」
「服着たまま風呂になんて入れないだろ」
「つまり、服を脱ぐ場所なんですか?」
「そうだけど…」
「へー」
「えっと、まず靴脱いでここに置く」
「ふむふむ」
「服を脱いだらこのかごに入れて」
「ほうほう」
「この扉から浴室に」
「…!な、なんですかこの熱気!敵襲!?」
「風呂で待ち構えてたら敵というよりただの変態だろ」
俺の説明を聞きながら同じように行動し、開けた扉から流れてきた湯気にここまで過剰反応する。まさかとは思った。けどこいつは勇者だ。人間達からすれば立ち寄ってくれた勇者様は歓待だろうし、旨いもの食って、ふっかふかの布団で寝て、美女侍らせての天国生活を送っていたはずだ。さすがにそれはないと思った。
「カ、カルミア君……この水、熱いです!」
「そりゃぁ…温泉だし」
「これに…入るんですか?」
「そうなるかな」
生唾をごくりと飲みこんだっぽい勇者の顔は、今から温泉に入ろうとしているそれではない。今から死地に赴くことを告げられ死を覚悟した者の顔だ。まさか風呂場でそんな顔を見ることになるとはさすがに想定外だ。むしろ予想できたやつがいたら凄すぎる。
覚悟を決めるために深呼吸する勇者の頭に手桶で汲んだお湯をぶっかける。
「熱っっっ!」
「んなわけあるか、ちょうどいいわ。ほれ、先に体と髪洗うぞ」
ここでも「あれはなに?これはなに?」があったが、面倒なので割愛する。湯船に入るのをためらう勇者を蹴り入れて(マナー違反だからみんなはマネすんなよ)お湯に浸かれば、はぁ…体も心もほぐれる温かさがなんとも気持ちいい。
「温かいです」
「そりゃ風呂だしな」
「なんだか、凄くホッとします」
「風呂だからな」
「…生きている時に入りたかったな」
小さく呟き、この広い湯船の中で勇者は膝を抱えた。さすがの俺でも確信した。確かめるのは、ためらわれた。
着やせするタイプなのか、全身の筋肉がすごい。それと同じくらいに傷跡もすごい。死線を潜り抜けてきたのは知っている。次こそは仕留めようとこっちも頑張ったから。
けど、こんな勇者は見た事ない。
「あの、僕って温かい水に入っても大丈夫なんでしょうか?」
「ん?んー、多分大丈夫じゃねーかな。一応防腐処理してあるし。調子悪くなったら生肉でも食えば直ると思うぜ」
「そうですか」
リラックスするための風呂でこんなに気まずいことあるんだろうか…。
「あの」
「なんだ?」
自分で口を開いたのに勇者はためらう。すごく言いにくいのだろう。この前八つ当たりした時に話を聞いてもらったってのもあって、俺は次の言葉を待つことにした。
ずっと水面を見つめていた勇者は意を決したように顔を上げ真剣なまなざしで俺を見た。
「あの、僕、人間の生活って初めてでっ。君の分かる範囲でいいので教えてもらうことって可能でしょうか?」
「人間の生活?」
「はい」
村に入るのが初めてではなく、人間の生活が初めて。風呂に入ったことないと言っていた(正確には言ってはいないが)時点でなんかありそうだなーとは思っていたが、さすがに生活が初めてといわれるとは思わなかった。最初から殺されること前提で勇者をやっていたみたいだし、こいつも複雑な事情があるんだろうな。
「答えられる範囲でいいのなら」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「それで、お前の言う『生活』ってどこからどこまで?」
「そうですね…。ふろは今覚えました。やどがよくわかりません」
「宿は旅人が泊るところ。今回は二人部屋だけど、一人部屋もある。イスとテーブルはわかるよな」
「はい。ただ、あの大きな板のようなものがわからないです」
「俺が腰かけてたあれはベッド。寝るところだ。使い方はそん時教える」
「はい!」
「今回は俺が人恐怖症って設定だから部屋で食事させてもらえるけど、普通は食堂で食う。食器の使い方はわかるか?」
「しょっき?」
「スプーンとかフォークとか」
勇者はふるふると首を横に振る。部屋で食わせてもらえてラッキーだったかもしれない。こうなると、子供でも分かる生活が本当に全部わからない可能性があるな。今後の行動にも支障が出るかもしれない。どこまでできるかちゃんと確認しておいた方がいいな。
「なるほどな。俺もマナーとかわかる方じゃないけど、できる限り教えるよ」
「ありがとうございます!」
「……あのさ、今までどういう生活してたのかって、聞いてもいい?」
「もちろんです!今まではずっと野営していました。僕は勇者なので、町や村には入らずに周辺を夜通し見張っていました。町や村での情報収集は仲間達が行ってくれていました。勇者が来たという事は近くに魔王軍がいるという事。それは人々に恐怖と不安をもたらすので、僕は立ち寄る訳にはいきませんでしたからね」
「…は?」
「食事は適当に狩りをして賄っていました。汚れた時は川で水浴びしていました。司教様…あ、僕を育ててくださった方です。彼も言っていました。『お前は普通の人間と違い勇者という特別な存在だ。普通の人間と同じ暮らしをしてはならない。もし普通の人間と同じ暮らしをすればお前の神聖が失われてしまうだろう』と。そして一人で生きていけるように戦うすべや止血方法、毒物の見分け方や天術など、たくさんの事を教えてくださったんです。なかでも野営に関する知識は今でもとても助かっています」
嬉しそうに、誇らしげに勇者は語った。だが、聞いている俺には違和感が残る。ずっと野営?人里には入らない?普通の人間の暮らしをしてはならない?いくら何でもおかしいだろ。風呂にも入ったことがない。食器もベッドも知らない。これは、普通どころか普通以下だ。
「野営の時は、仲間も一緒に野営してたんだよな?」
「いいえ、ずっと僕一人ですよ。さっきも言ったじゃないですか、皆さんは情報収集してくれていたんです。僕は勇者だから人前に姿を見てはいけなかったので、皆さんが情報収集してくれてすごく助かっていたんです」
「……」
「勇者である僕と一緒に来てくれる。それだけでとてもありがたいのに、情報収集まで。僕が未熟なばかりに皆さんにまで一緒に戦ってもらうこともありました。僕はそんな彼等にとても感謝していましたし、大好きだったんですけど…」
殺された時の事を思い出したのか、勇者の表情が曇る。俺はというと、自分から聞いておいて勇者のあまりにもあんまりな扱いに言葉が出なかった。
勇者?いや、道具だ。もしかしたら道具以下かもしれない。
「こんな事言ったら怒られるかもしれないけど。僕、今が一番楽しいんです。君とこうやって話をするのが凄く楽しい。ずっと、誰かと関わりたかった。でも僕は勇者だからしちゃいけなくて。だから君につい話しかけてしまって。君に拒絶されてやっぱり止めようって思ったけど、君の本音を聞いて、やっぱり関わりたくなった。ずっと謝っていたかと思えば、置いて行かないで。一人にしないでって、泣いて言うから」
「え?俺そんなこと言ってた?」
「うん、言ってた」
「まじか…」
「だから、これは僕の責任だなって。君が寂しいというのなら、せめて寂しくないように仲間に会わせてあげなくちゃって、そう思って」
「そっか…。つか、お前も寂しかったんだな」
俺の言葉にきょとんとした後、
「そうか…僕、寂しかったんだ…」
彼は茫然と呟いた。
「裏山の野獣を倒してくれたんだって?なんとお礼をいえばいいか…」
「人恐怖症なんだって?良ければ部屋で食事にするかい?」
「服がボロボロじゃないか。うちの服見ていかないかい?」
「悪いねぇ、この村には鍛冶屋はないんだよ。砥ぐくらいならできるんだが…」
旅人がほとんど来ないのか、村に着くなり囲まれた。こんなに大勢の人間に囲まれると、違うのに研究所に居た頃を思い出す。自分でも体が強張っていると分かったのだ、背負っている勇者が気づかないはずがない。爽やかスマイルでさらっと切り抜けてくれた。
二人旅をしているということ。俺は悪い人につかまり人体実験を受けていて人恐怖症であるということ。囚われの仲間たちを助けるために旅を続けているということ。
あながち間違ってはいないが、真実とも言えない。けど村人にそれを確かめるすべはない。
まだ何か聞きたそうな村人達に「一度休息をとらせてほしい」といって、一旦宿へと向かう。一人部屋でゆっくりしたいところではあるが、何か起きた場合すぐ対処できるようにと二人部屋を取らせてもらった。
「大丈夫ですか?」
「だいぶ痛みは引いてきた」
「横になります?」
「そーだなぁ…」
ちらりと腰かけたベッドに視線を向ける。柔らかい布団が中にお入りと手招きしている。今すぐ飛び込んで爆睡したいところではあるのだが、ゆっくり風呂にも入りたい。寂れた村のくせにこの宿には大浴場があるらしい。近くに天然の温泉が湧いていてそこから引いているのだとか。これはもう、入らない理由がない。
「先に風呂に行こうかな。打ち身にもいいらしいし」
「そうですか。あの、僕も一緒に行っていいですか?」
「いいけど……そっか、俺人恐怖症って設定だったな」
「それもそうですが、『ふろ』というのがよくわからなくて…」
「は?いやいや、風呂は風呂だろ」
「その『ふろ』というのはあって当たり前なのでしょうか?」
「当たり前にあるのかといわれると、無いところもあるとしか…。研究所は衛生管理が大事だからあったけど、革命軍には無かったし」
「なるほど」
こいつは一体何を言っているのだろうか。そういえば住んでいる地域によって同じものでも名称が違うことがあるって師匠が言っていたっけ。勇者の故郷では違う言い方をしていたのかもな。
「とにかく風呂行こうぜ。ずっと川で水浴びだったし、久々にあったまりてぇ」
「あったまる?」
疑問符を浮かべる勇者を連れて大浴場へと向かう。気持ち大きめな浴場に客は俺達だけ。貸し切りっていいねぇ。
だが、そんな俺とは対照的に勇者は不思議そうな顔であたりをきょろきょろと見まわしている。そんな今日何度目かもわからない「こいつなにやってんだ?」という疑問は、すぐに解消されることになる。
「ここは何をする場所なんですか?」
「なにって脱衣所だよ」
「だついじょ?」
「服着たまま風呂になんて入れないだろ」
「つまり、服を脱ぐ場所なんですか?」
「そうだけど…」
「へー」
「えっと、まず靴脱いでここに置く」
「ふむふむ」
「服を脱いだらこのかごに入れて」
「ほうほう」
「この扉から浴室に」
「…!な、なんですかこの熱気!敵襲!?」
「風呂で待ち構えてたら敵というよりただの変態だろ」
俺の説明を聞きながら同じように行動し、開けた扉から流れてきた湯気にここまで過剰反応する。まさかとは思った。けどこいつは勇者だ。人間達からすれば立ち寄ってくれた勇者様は歓待だろうし、旨いもの食って、ふっかふかの布団で寝て、美女侍らせての天国生活を送っていたはずだ。さすがにそれはないと思った。
「カ、カルミア君……この水、熱いです!」
「そりゃぁ…温泉だし」
「これに…入るんですか?」
「そうなるかな」
生唾をごくりと飲みこんだっぽい勇者の顔は、今から温泉に入ろうとしているそれではない。今から死地に赴くことを告げられ死を覚悟した者の顔だ。まさか風呂場でそんな顔を見ることになるとはさすがに想定外だ。むしろ予想できたやつがいたら凄すぎる。
覚悟を決めるために深呼吸する勇者の頭に手桶で汲んだお湯をぶっかける。
「熱っっっ!」
「んなわけあるか、ちょうどいいわ。ほれ、先に体と髪洗うぞ」
ここでも「あれはなに?これはなに?」があったが、面倒なので割愛する。湯船に入るのをためらう勇者を蹴り入れて(マナー違反だからみんなはマネすんなよ)お湯に浸かれば、はぁ…体も心もほぐれる温かさがなんとも気持ちいい。
「温かいです」
「そりゃ風呂だしな」
「なんだか、凄くホッとします」
「風呂だからな」
「…生きている時に入りたかったな」
小さく呟き、この広い湯船の中で勇者は膝を抱えた。さすがの俺でも確信した。確かめるのは、ためらわれた。
着やせするタイプなのか、全身の筋肉がすごい。それと同じくらいに傷跡もすごい。死線を潜り抜けてきたのは知っている。次こそは仕留めようとこっちも頑張ったから。
けど、こんな勇者は見た事ない。
「あの、僕って温かい水に入っても大丈夫なんでしょうか?」
「ん?んー、多分大丈夫じゃねーかな。一応防腐処理してあるし。調子悪くなったら生肉でも食えば直ると思うぜ」
「そうですか」
リラックスするための風呂でこんなに気まずいことあるんだろうか…。
「あの」
「なんだ?」
自分で口を開いたのに勇者はためらう。すごく言いにくいのだろう。この前八つ当たりした時に話を聞いてもらったってのもあって、俺は次の言葉を待つことにした。
ずっと水面を見つめていた勇者は意を決したように顔を上げ真剣なまなざしで俺を見た。
「あの、僕、人間の生活って初めてでっ。君の分かる範囲でいいので教えてもらうことって可能でしょうか?」
「人間の生活?」
「はい」
村に入るのが初めてではなく、人間の生活が初めて。風呂に入ったことないと言っていた(正確には言ってはいないが)時点でなんかありそうだなーとは思っていたが、さすがに生活が初めてといわれるとは思わなかった。最初から殺されること前提で勇者をやっていたみたいだし、こいつも複雑な事情があるんだろうな。
「答えられる範囲でいいのなら」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「それで、お前の言う『生活』ってどこからどこまで?」
「そうですね…。ふろは今覚えました。やどがよくわかりません」
「宿は旅人が泊るところ。今回は二人部屋だけど、一人部屋もある。イスとテーブルはわかるよな」
「はい。ただ、あの大きな板のようなものがわからないです」
「俺が腰かけてたあれはベッド。寝るところだ。使い方はそん時教える」
「はい!」
「今回は俺が人恐怖症って設定だから部屋で食事させてもらえるけど、普通は食堂で食う。食器の使い方はわかるか?」
「しょっき?」
「スプーンとかフォークとか」
勇者はふるふると首を横に振る。部屋で食わせてもらえてラッキーだったかもしれない。こうなると、子供でも分かる生活が本当に全部わからない可能性があるな。今後の行動にも支障が出るかもしれない。どこまでできるかちゃんと確認しておいた方がいいな。
「なるほどな。俺もマナーとかわかる方じゃないけど、できる限り教えるよ」
「ありがとうございます!」
「……あのさ、今までどういう生活してたのかって、聞いてもいい?」
「もちろんです!今まではずっと野営していました。僕は勇者なので、町や村には入らずに周辺を夜通し見張っていました。町や村での情報収集は仲間達が行ってくれていました。勇者が来たという事は近くに魔王軍がいるという事。それは人々に恐怖と不安をもたらすので、僕は立ち寄る訳にはいきませんでしたからね」
「…は?」
「食事は適当に狩りをして賄っていました。汚れた時は川で水浴びしていました。司教様…あ、僕を育ててくださった方です。彼も言っていました。『お前は普通の人間と違い勇者という特別な存在だ。普通の人間と同じ暮らしをしてはならない。もし普通の人間と同じ暮らしをすればお前の神聖が失われてしまうだろう』と。そして一人で生きていけるように戦うすべや止血方法、毒物の見分け方や天術など、たくさんの事を教えてくださったんです。なかでも野営に関する知識は今でもとても助かっています」
嬉しそうに、誇らしげに勇者は語った。だが、聞いている俺には違和感が残る。ずっと野営?人里には入らない?普通の人間の暮らしをしてはならない?いくら何でもおかしいだろ。風呂にも入ったことがない。食器もベッドも知らない。これは、普通どころか普通以下だ。
「野営の時は、仲間も一緒に野営してたんだよな?」
「いいえ、ずっと僕一人ですよ。さっきも言ったじゃないですか、皆さんは情報収集してくれていたんです。僕は勇者だから人前に姿を見てはいけなかったので、皆さんが情報収集してくれてすごく助かっていたんです」
「……」
「勇者である僕と一緒に来てくれる。それだけでとてもありがたいのに、情報収集まで。僕が未熟なばかりに皆さんにまで一緒に戦ってもらうこともありました。僕はそんな彼等にとても感謝していましたし、大好きだったんですけど…」
殺された時の事を思い出したのか、勇者の表情が曇る。俺はというと、自分から聞いておいて勇者のあまりにもあんまりな扱いに言葉が出なかった。
勇者?いや、道具だ。もしかしたら道具以下かもしれない。
「こんな事言ったら怒られるかもしれないけど。僕、今が一番楽しいんです。君とこうやって話をするのが凄く楽しい。ずっと、誰かと関わりたかった。でも僕は勇者だからしちゃいけなくて。だから君につい話しかけてしまって。君に拒絶されてやっぱり止めようって思ったけど、君の本音を聞いて、やっぱり関わりたくなった。ずっと謝っていたかと思えば、置いて行かないで。一人にしないでって、泣いて言うから」
「え?俺そんなこと言ってた?」
「うん、言ってた」
「まじか…」
「だから、これは僕の責任だなって。君が寂しいというのなら、せめて寂しくないように仲間に会わせてあげなくちゃって、そう思って」
「そっか…。つか、お前も寂しかったんだな」
俺の言葉にきょとんとした後、
「そうか…僕、寂しかったんだ…」
彼は茫然と呟いた。
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