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キメラとゾンビとイカレ研究者③

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「2、3日様子を見ようかなと思ったんですが、なんか夜でもフル稼働してますし、今からサクッと突入しますか?」
「なんで急に投げやりなんだよ」
「だって夜襲かけたかったのに眠らなそうなんですもん」
 戻ってくるなりため息交じりでそう言われた。夜襲をかけたいって勇者が言っていいセリフなんだろうか。
「寝る時間とかないんですか?君がいた時どんな感じでした?思い出してください」
「大真面目に嫌なこと言うなぁ。こちとら思い出したくもないっつーの」
「そうかもしれませんが大事な部分です」
「わかってるよ…」
 研究所に居た頃なんて、思い出したくない。でも今も実験で苦しんでいるキメラ達のためだ、やるしかない。
「窓はなかった。時計もなかった」
「時間帯がわからないわけですか」
「五人くらいで一部屋使ってた。寝るのも飯食うのもそこ。トイレだけは声かけて外に出てた」
「入口に見張りがいるということですか」
「いや、見張りはいなくて、ボタン押すと来てくれるんだ」
「なるほど」
「あとは呼ばれるまでずっと部屋。絵本が置いてあって、字は読めないから絵だけ眺めてた。あとは、紙と色んな色のペンがあって、自由に描いてた」
「監禁というよりは軟禁なのでしょうか?」
「ただの暇つぶし用アイテムだと思う。俺は怖いとかを一時とはいえ忘れられるから、絵本が好きだった」
「…失礼しました」
「別にいいよ、今更だし。呼ばれる順番はバラバラだった気がする。よく入れ替わってたし」
「入れ替わる?」
「呼ばれたまま戻ってこないとか、しょっちゅうあったからな。言われたわけじゃないけど、死んだんだろうな」
「……」
「しばらくすると新しい奴が入ってくる。新しい奴は大体ぶっ壊れて帰ってくる。で、環境に適応する。これが日常だと思い込むんだ。俺もそうだった。痛いけど頑張ればうまい飯が食えるから」
「そう、でしたか…」
「同情でもしてきたか?俺の体験談もっといる?」
「機会があれば。同情はしますが、今は施設の内情のほうが必要なので」
「へいへい。つっても、自由に歩き回れるわけじゃなかったしな。職員はみんな同じ格好だし、部屋と実験場の往復くらいしかしなかったからな」
「そうですか。キメラ達の部屋同士は近いですか?それとも離れてました?」
「えっと…確か5部屋くらいずつまとめて配置されてた気がする」
「では仮名称居住区は実験設備の場所とは区画が違うと考えていいですね」
「嫌な仮名称だな。それ以外に思いつかねぇけど」
「居住区を見つけられれば一気にキメラ達を開放できるわけですね。問題は位置か…」
「そういや、何時かはわからないけど鐘がなったな」
「鐘、ですか?」
「ああ。それが鳴ると飯が配られるんだ」
「ということは、一日三回は確実に鳴るわけですね。何かに使えるかな?一応確認してみるか」
「あとは…」
 何かあったかなと記憶をたどれば、丸眼鏡で不気味に微笑む女を思い出して身震いする。あいつは確か偉い奴だったはずだ。できれば会いたくない。
「空も白んできましたし、僕戻りますね。思い出せと言っておいてなんですが、青ざめてますよ。少し休憩したほうがいいと思います。日中は野獣もほとんど活動しませんし、今のうちに寝ておいてくださいね」
「…わかった」
 そういうと勇者は足音をほとんど立てずに姿を消した。
 眠れそうにはないけれど、とりあえずごろんと横になる。ひんやりとした地面は気持ちいいが、体が痛い。防寒用のマントを敷くが、うーん、まだ痛い。虫とかいそうだがその辺から足でガーっと落ち葉を集めてみる。半年以上前に落ちたであろう葉っぱたちは、当然ながらほぼ腐葉土状態だ。なんとなくふかふかになったのでもう一度マントをしき横になる。さっきよりはマシかな。
 …ダメだ、ついつい土の中から虫が出てくる想像をしてしまう。毒虫だらけの部屋に入れられたという嫌な思い出が蘇る。あれはマジで恐怖だった。羽の生えたやつがいなかっただけまだマシだ、と言っていいのは体験した本人だけだ。そもそも床が見えなくなるくらいの大量の虫を部屋に入れるとかどんな神経してるんだよ。まてよ、部屋にいっぱい入れたら、その後は当然出すよな?え?あの量どうやって片づけたんだ?
 うう、背筋がゾッとした。もういいや、考えたってわからないし。
 横になるのはあきらめて近くの木にもたれかかる。眠れるかな、どうだろ?とりあえず目を閉じる。風に葉がそよぐ音、遠くで鳥の声もする。夜が明けてきて暖かくなってきた。遠くでガラガラと音がしている。馬車か何かだろうか。水音…川か。
 色々な音はしているが、ゆったりとした時間が流れる。目を閉じただけでもこんなにゆったりとできるんだな。
 肉体的にも精神的にも、自覚しているよりも疲れが溜まっていたらしい。いつの間にか眠ってしまっていた俺が目を覚ますと、空は茜色に染まっていた。朝焼けかと思ったが、体がすげー痛い。これは絶対夕焼けだ。ぽかぽか陽気に誘われてがっつり寝ていたようだ。勇者はまだ戻ってきていない。
 見れば火は消えていて、これから夜を超すにはさすがに薪が足りない。日が落ち切ってしまう前に水と食料も探してこなければ。
 凝り固まってしまった体は軽く伸ばしても違和感がぬぐえず、完全に寝違えてしまった首に失敗したなと思いつつ、俺は探索を開始した。
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