勇者をゾンビにしてみた結果

襟川竜

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キメラとゾンビとイカれ研究者②

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「アレっぽいな」
「アレっぽいですね」
 前にもしたような気がする会話をしながら、俺達は2つ目の研究所を見つけた。歩いて2日ほどの場所にあった研究所は、1つ目と地上の建物が似ている。こっちも地下が主要部なのかもしれない。
「どうする?こっちも一晩様子見でいいのか?」
「いえ、こちらは稼働しています」
「なんでわかるんだよ」
「あそこを」
「あん?………鳥?」
 勇者が指したのは建物の上階。鳥が何羽か中に入っていく。
「おそらくナナワタリです。伝書鳥の一種で帰巣本能が強いのが特徴です」
「鳥でやりとりしてんのか」
「伝令の馬を走らせるより早い時もありますし、何より扱っている内容が極秘事項でしょうからね」
「極秘なのに鳥なのか?」
「馬を走らせる人間が密偵という可能性もありますし、金を積まれて裏切る可能性もなくはないですから」
「ふーん」
「一つ目から場所も近いですし、ここに移転した、と考えるのが妥当でしょうね」
「なるほど」
「皆殺しと全破壊ならこのままでもサクッといけますが、キメラの救出が最優先ならば何日か監視をした方がいいでしょうね」
「ならまずはこっちの拠点確保だな」
 勇者と行動を共にし始めてから約7日。少しだけどコイツの事がわかってきた。
 とにかく本心を語らない。武器を手に襲いかかってくる盗賊なんかには容赦がないが、戦う術を持たないものは徹底的に助ける。行くなと言っても聞きやしない。命令である、と明確に宣言しない限りある程度は俺の支配をねじ伏せられるようだ。俺がまだ未熟なのもあるけれど、勇者の精神力もかなり強い。人助けに興味はないけれど昨日(勇者が勝手に)助けた商人からはお礼にたんまりと金をもらった。まあ、抑圧し過ぎて暴走されても困るし、ある程度は人助けさせてもいいかもしれない。
 俺のことは嫌いを通り越して憎いと思っているんじゃないかとは思うが、何せ全く顔にも態度にも出さない。一度やると決めたからなのか、キメラ救出にも積極的で現状できる限りの最善策を提示してくる。常に冷静で最優先事項に対してのブレというものが全くない。戦力として申し分ないのはそうなのだが、たまに一切の感情がないように感じられてゾッとする。生前と同じはずなのに、こいつのほうがゾンビよりも死んでいるように感じる。

「では行ってきますね」
「おう」
 夜も更け、いつものように勇者が偵察に向かう。
「…はぁ」
 あいつは死体だから睡眠なんて必要ないけど、俺はそうじゃない。あいつをゾンビにしてからろくに寝てもいないし、常に気を張っているせいかここにきてドッと疲れが出てきたらしい。だるいし眠いしため息も止まらない。研究所に居た頃は眠るというよりは気絶がほとんどで、革命軍に助けられてやっと眠るを覚えた。眠れない、寝付けないなんてよくある事で、特に気になんてしてなかったけど…。気を許せる仲間がいるっていう状況は、こうも違うんだな。
 なんとなく、膝を抱える。考えがうまくまとまらなくて、ああ、きっと眠いんだ。眠いから不安になって。眠いから寂しくなって。眠いから落ち込んで。少し寝たら、そういうのなくなるかな…?
 バチン、と木がはぜる音でハッとする。
 今、寝て…?
 やべ、意識飛んでた。
 口元のよだれを拭う。勇者はまだ戻ってきていないみたいで、俺が寝てた(気絶してた)のはほんの少しだけだったようだ。寝首をかかれないとも限らないんだし気を付けないと。
「しっかりしろ俺、リーダーや師匠をはじめとしたみんなの仇をとるんだろ。疲れたとか言ってる場合じゃないんだよ」
 バチンと思いっきり両手で頬を叩く。ジンジンと痛いが気合は入ったし眠気も飛んだ。
「俺がやらなきゃ。革命軍の生き残りとして、ちゃんと責任を果たさなきゃ…」

 勇者が戻ってきたのは、それから約5分後くらいだった。
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