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復讐したい俺と急に乗り気な勇者様②

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 味気ない魚を食べた後、俺達はひとまずこの近くにある革命軍のアジトに向かうことにした。近くの村にはまだ元勇者御一行がいる可能性の方が高く、さすがに今の俺達では太刀打ちできないと判断した。いくら勇者が帝国最強とはいえ、浄化術を使われたら即お陀仏だ。俺単体じゃ戦力にはならない。奴らとの決着は後回しで、先に武器やらを調達しようと考えたってわけだ。直前まで使用していたアジトなら、まだ予備の武器が残っているかもしれない。
「いいか?もしかしたら、万が一でも革命軍の生き残りがいるかもしれない。もし居たなら絶対攻撃するなよ」
「努力はしますが、僕の場合、反射神経みたいなものですから。お約束は致しかねます」
「ったく、息をするように殺すなよ…」
 本当なら千里眼を使って確認するのが早いんだが、できればそれはまだ隠しておきたい。いくら俺の使い魔といえ、やっぱり手の内を全て晒すのは良くないと思うんだ。
「僕は外で待機でも構わないのですが…」
「お前の武器を取りに行くんだろうが。9割方無人なんだから二度手間だろ」
「適当に見繕っていただいてもいいのですがね」
「しょーがねーだろ、その適当がわからねぇんだから」
 村とはほぼ反対方向、鬱蒼とした森の中に一部だけひらけた場所がある。そこには廃墟と化した教会。リーダー曰く、廃墟になって10年は経っているだろう。朽ちた扉は片方無くなり、ステンドグラスにはたくさんのヒビがはいり、外観は何かの蔦が伸び放題。そんな教会の中、聖ルマリナ像の下には地下への隠し階段がある。
「キメラの気配はなさそうですね」
「なら行くぞ。『灯りよファ=レス
死霊術ネクロマンシー以外の魔法サディも使えるんですね」
「支援系なら一通りはな」
「なるほど。僕は今天術ルルーラ使えませんし、ありがたいです」
 道中に死体がなくてホッとはしたものの、同時に生き残りもいないようでなんともやるせない。まずは武器を確保するために武器庫として使っていた部屋へと向かう。
「はぁー、ずいぶん集めていたんですね」
「そりゃ相手が相手だからな。けど、やっぱあんまり残ってないかぁ」
「十分ですよ。そもそも剣は消耗品ですから、今暫く使えればそれでいいです」
「お前ずっと聖剣使ってたじゃん」
「確かにあれは名剣でした。でも、いくら名剣といえど手入れは必要です。正直に言って大変でした。何せ斬り伏せる数が数ですから」
「さらっと言うな、もっと詫びろ」
「嫌ですよ」
「あ"?」
「僕も君達も信念をぶつけ合った結果です。お互いにどうしても譲れない思いがあった。それ故の決別、それ故の戦いです。なので、殺めた相手に敬意は払えど、謝罪をするというのは、それこそ失礼というものです」
「それは…」
 確かに俺たちは理想のために戦った。俺は直接手にかけたことはないけど、兵士以外の奴らを殺したこともある。理屈っていうのか?勇者の言いたいことはなんとなくわかる。でも、納得というか…なんというか…。気持ちの問題って、やつなのかな。
「これと…あ、これもいいな」
 もんもんとする俺をよそに、なんだか楽しそうに剣を選んでいる。反射で殺すとか言ってたし、俺とは全然違う考え方なんだろうな。後先考えてなかったとはいえ、こいつを使うと決めた以上は憎んでばかりもいられない。怖い、憎い、なんて感じるのは意識しているからだって師匠が言ってたな。悟りを開け、無心の境地に至れ、って。死霊術師ネクロマンサーになるためにはゾンビへの恐怖心をなくすのだ!とか扱かれたっけ。今こそ無心の境地が必要なのかもな。復讐を成し遂げるためにも憎しみの心を捨て……るのはなんか嫌だから封印くらいにしておこう。
「護身用に君も短剣くらい装備しておいた方がいいですよ」
「俺はいいよ、使えないし」
「なら、このナイフとかいかがです?」
「だから使えねぇって」
「いやいや、ナイフ一本有ると無いとでは大違いですよ。蔦や枝をきったり、魚を捌いたりと大活躍です。復讐という目的上、隠密が基本になります。今後は野営中心です。ナイフが無いと大変な場面がすごくたくさん出てきますよ」
「そう言われると、そんな気もしてきた」
「ちょうどホルダーも残っていますし、ありがたく使わせていただきましょう」
 そういうと勇者はササっと俺にナイフを装備した。そして勇者自身はというと長、中、短とちゃっかり3種類の剣を確保している。
「これでよしっと。厚かましいのですが、できれば服も着替えたいのですが…」
「わかってるって。こっちだ」
 俺達は隣の部屋へ移動し、チェストを開ける。
「服っつっても、お前が今着てるやつよりマシ程度の古着だけどな。俺たちにとっちゃ服だって貴重品だからよ」
「十分ですよ。こんな返り血だらけに比べたら、まともな傭兵くらいには見えるはずですしね」
「お前の服、もはや返り血染めだもんな」
「まさしくその通りです」
「隠密って言うなら黒ずくめか?」
「流石に目立ちますよ」
「じゃあ白ずくめとか」
「白ずくめになっていいのは針金の髪と岩の肌を保つキメラだけです」
「え、なんのこだわり?」
「以前読んだ小説に書いてありました」
「どんな小説だよ…」
「白ずくめも印象に残りますし、その辺にいそうな村人、旅人、傭兵あたりになりすますのが良いかと」
「その辺にいそう、ねぇ。……これとかこれは?」
「いいですね。あ、この布とかも使えそうですね」
 そんなこんなで着替えとこの先役に立ちそうな薬や地図、魔法具サディールなんかをちょうど良さげなカバンに詰め込んでいく。それから、この先はどうしても路銀が必要になる。金目の物も持てるだけ袋に詰め込んだ。食料はないから、換金してから調達だな。
「では行きますか?」
「最後に、リーダーの手記を探したい」
「手記ですか?」
「ああ。各地にあるキメラの研究施設の情報が書いてあるんだ。今すぐにでも王の首を跳ね飛ばしてやりたいところだが、もしまだ稼働してる研究施設とこがあって、まだ仲間が囚われているなら、そいつらを助けたい。リーダーが、俺にしてくれたみたいに」
「魔王…いえ、リーダーさんは、とても優しい方だったのですね」
「リーダーは、俺たちみんなのひかりだよ」
「そうでしたか…。手記を探しましょうどういう本ですか?」
「確か、茶色い表紙で片手で持てるくらいのやつ」
「どの辺りがリーダーさんの私物ですか?」
「このあたりの箱のどれかなんだけど…」
「では、手分けして探しましょうか」
 まだ煎じる前の薬草やら、包帯代わりにするために取ってあった古布とか、そんなハズレの箱を3つ開けた時「これじゃないですか?」と勇者が言った。本を開けば、汚い寄りの難解な文字が並んでいる。確かにリーダーの手記だ。えーっと場所は調べてあるのにまだ行ってない研究施設は……。
「こちらの地図、印がついていますよ。もしかして研究施設の場所なのでは?」
「どれどれ…」
 照らし合わせると、どうやらまだ3箇所襲撃していないようだった。
「まずはここにある研究施設に行く。まだ使われているなら仲間を助けて研究者共は皆殺しにして施設をぶっ壊す。誰もいなくても2度と使われないように施設をぶっ壊す」
「今までも施設を襲撃…もとい、キメラ達を救出したことはありますか?」
「空振りもあったみたいだけど、俺が知っている限りでは二箇所回ってどっちからも救出したぜ」
「なるほど。反…革命軍の進路はこちらからこうでした。つまり、一番近いこの施設を目指していた可能性が高いです。キメラ達がいる可能性は高いと思われます」
「わかった。いいか、キメラ達がお前に攻撃したとしても、絶対に手を出すんじゃないからな」
「わかっていますよ。君の命令がない限り僕は行動しませんよ。反射で斬り伏せないように努めますので」
 若干の不安は覚えたが、命令にしたがうというならばガンガン命令すればいいだけだ。少なくとも頭でっかちの研究者なんて勇者にかかれば赤子の手をひねるようなもの。一晩で急に従順になったのだけが怖いが、使えるものは使うのが俺なりの復讐なんだし。まずは実験体にされている仲間を助け出す。次のことは終わったあとに考えればいい。
 俺は持ち物の最終チェックをし、勇者を連れて近くにある研究施設へと向かった。
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