上 下
12 / 19

復讐したい俺と急に乗り気な勇者様②

しおりを挟む
 味気ない魚を食べた後、俺達はひとまずこの近くにある革命軍のアジトに向かうことにした。近くの村にはまだ元勇者御一行がいる可能性の方が高く、さすがに今の俺達では太刀打ちできないと判断した。いくら勇者が帝国最強とはいえ、浄化術を使われたら即お陀仏だ。俺単体じゃ戦力にはならない。奴らとの決着は後回しで、先に武器やらを調達しようと考えたってわけだ。直前まで使用していたアジトなら、まだ予備の武器が残っているかもしれない。
「いいか?もしかしたら、万が一でも革命軍の生き残りがいるかもしれない。もし居たなら絶対攻撃するなよ」
「努力はしますが、僕の場合、反射神経みたいなものですから。お約束は致しかねます」
「ったく、息をするように殺すなよ…」
 本当なら千里眼を使って確認するのが早いんだが、できればそれはまだ隠しておきたい。いくら俺の使い魔といえ、やっぱり手の内を全て晒すのは良くないと思うんだ。
「僕は外で待機でも構わないのですが…」
「お前の武器を取りに行くんだろうが。9割方無人なんだから二度手間だろ」
「適当に見繕っていただいてもいいのですがね」
「しょーがねーだろ、その適当がわからねぇんだから」
 村とはほぼ反対方向、鬱蒼とした森の中に一部だけひらけた場所がある。そこには廃墟と化した教会。リーダー曰く、廃墟になって10年は経っているだろう。朽ちた扉は片方無くなり、ステンドグラスにはたくさんのヒビがはいり、外観は何かの蔦が伸び放題。そんな教会の中、聖ルマリナ像の下には地下への隠し階段がある。
「キメラの気配はなさそうですね」
「なら行くぞ。『灯りよファ=レス
死霊術ネクロマンシー以外の魔法サディも使えるんですね」
「支援系なら一通りはな」
「なるほど。僕は今天術ルルーラ使えませんし、ありがたいです」
 道中に死体がなくてホッとはしたものの、同時に生き残りもいないようでなんともやるせない。まずは武器を確保するために武器庫として使っていた部屋へと向かう。
「はぁー、ずいぶん集めていたんですね」
「そりゃ相手が相手だからな。けど、やっぱあんまり残ってないかぁ」
「十分ですよ。そもそも剣は消耗品ですから、今暫く使えればそれでいいです」
「お前ずっと聖剣使ってたじゃん」
「確かにあれは名剣でした。でも、いくら名剣といえど手入れは必要です。正直に言って大変でした。何せ斬り伏せる数が数ですから」
「さらっと言うな、もっと詫びろ」
「嫌ですよ」
「あ"?」
「僕も君達も信念をぶつけ合った結果です。お互いにどうしても譲れない思いがあった。それ故の決別、それ故の戦いです。なので、殺めた相手に敬意は払えど、謝罪をするというのは、それこそ失礼というものです」
「それは…」
 確かに俺たちは理想のために戦った。俺は直接手にかけたことはないけど、兵士以外の奴らを殺したこともある。理屈っていうのか?勇者の言いたいことはなんとなくわかる。でも、納得というか…なんというか…。気持ちの問題って、やつなのかな。
「これと…あ、これもいいな」
 もんもんとする俺をよそに、なんだか楽しそうに剣を選んでいる。反射で殺すとか言ってたし、俺とは全然違う考え方なんだろうな。後先考えてなかったとはいえ、こいつを使うと決めた以上は憎んでばかりもいられない。怖い、憎い、なんて感じるのは意識しているからだって師匠が言ってたな。悟りを開け、無心の境地に至れ、って。死霊術師ネクロマンサーになるためにはゾンビへの恐怖心をなくすのだ!とか扱かれたっけ。今こそ無心の境地が必要なのかもな。復讐を成し遂げるためにも憎しみの心を捨て……るのはなんか嫌だから封印くらいにしておこう。
「護身用に君も短剣くらい装備しておいた方がいいですよ」
「俺はいいよ、使えないし」
「なら、このナイフとかいかがです?」
「だから使えねぇって」
「いやいや、ナイフ一本有ると無いとでは大違いですよ。蔦や枝をきったり、魚を捌いたりと大活躍です。復讐という目的上、隠密が基本になります。今後は野営中心です。ナイフが無いと大変な場面がすごくたくさん出てきますよ」
「そう言われると、そんな気もしてきた」
「ちょうどホルダーも残っていますし、ありがたく使わせていただきましょう」
 そういうと勇者はササっと俺にナイフを装備した。そして勇者自身はというと長、中、短とちゃっかり3種類の剣を確保している。
「これでよしっと。厚かましいのですが、できれば服も着替えたいのですが…」
「わかってるって。こっちだ」
 俺達は隣の部屋へ移動し、チェストを開ける。
「服っつっても、お前が今着てるやつよりマシ程度の古着だけどな。俺たちにとっちゃ服だって貴重品だからよ」
「十分ですよ。こんな返り血だらけに比べたら、まともな傭兵くらいには見えるはずですしね」
「お前の服、もはや返り血染めだもんな」
「まさしくその通りです」
「隠密って言うなら黒ずくめか?」
「流石に目立ちますよ」
「じゃあ白ずくめとか」
「白ずくめになっていいのは針金の髪と岩の肌を保つキメラだけです」
「え、なんのこだわり?」
「以前読んだ小説に書いてありました」
「どんな小説だよ…」
「白ずくめも印象に残りますし、その辺にいそうな村人、旅人、傭兵あたりになりすますのが良いかと」
「その辺にいそう、ねぇ。……これとかこれは?」
「いいですね。あ、この布とかも使えそうですね」
 そんなこんなで着替えとこの先役に立ちそうな薬や地図、魔法具サディールなんかをちょうど良さげなカバンに詰め込んでいく。それから、この先はどうしても路銀が必要になる。金目の物も持てるだけ袋に詰め込んだ。食料はないから、換金してから調達だな。
「では行きますか?」
「最後に、リーダーの手記を探したい」
「手記ですか?」
「ああ。各地にあるキメラの研究施設の情報が書いてあるんだ。今すぐにでも王の首を跳ね飛ばしてやりたいところだが、もしまだ稼働してる研究施設とこがあって、まだ仲間が囚われているなら、そいつらを助けたい。リーダーが、俺にしてくれたみたいに」
「魔王…いえ、リーダーさんは、とても優しい方だったのですね」
「リーダーは、俺たちみんなのひかりだよ」
「そうでしたか…。手記を探しましょうどういう本ですか?」
「確か、茶色い表紙で片手で持てるくらいのやつ」
「どの辺りがリーダーさんの私物ですか?」
「このあたりの箱のどれかなんだけど…」
「では、手分けして探しましょうか」
 まだ煎じる前の薬草やら、包帯代わりにするために取ってあった古布とか、そんなハズレの箱を3つ開けた時「これじゃないですか?」と勇者が言った。本を開けば、汚い寄りの難解な文字が並んでいる。確かにリーダーの手記だ。えーっと場所は調べてあるのにまだ行ってない研究施設は……。
「こちらの地図、印がついていますよ。もしかして研究施設の場所なのでは?」
「どれどれ…」
 照らし合わせると、どうやらまだ3箇所襲撃していないようだった。
「まずはここにある研究施設に行く。まだ使われているなら仲間を助けて研究者共は皆殺しにして施設をぶっ壊す。誰もいなくても2度と使われないように施設をぶっ壊す」
「今までも施設を襲撃…もとい、キメラ達を救出したことはありますか?」
「空振りもあったみたいだけど、俺が知っている限りでは二箇所回ってどっちからも救出したぜ」
「なるほど。反…革命軍の進路はこちらからこうでした。つまり、一番近いこの施設を目指していた可能性が高いです。キメラ達がいる可能性は高いと思われます」
「わかった。いいか、キメラ達がお前に攻撃したとしても、絶対に手を出すんじゃないからな」
「わかっていますよ。君の命令がない限り僕は行動しませんよ。反射で斬り伏せないように努めますので」
 若干の不安は覚えたが、命令にしたがうというならばガンガン命令すればいいだけだ。少なくとも頭でっかちの研究者なんて勇者にかかれば赤子の手をひねるようなもの。一晩で急に従順になったのだけが怖いが、使えるものは使うのが俺なりの復讐なんだし。まずは実験体にされている仲間を助け出す。次のことは終わったあとに考えればいい。
 俺は持ち物の最終チェックをし、勇者を連れて近くにある研究施設へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ
ファンタジー
クラウス・アイゼンシュタイン、二十五歳、C級冒険者。滅んだとされる死霊術士の末裔だ。 勇者パーティーに「荷物持ち」として雇われていた彼は、突然パーティーを追放されてしまう。 S級モンスターがうろつく危険な場所に取り残され、途方に暮れるクラウス。 そんな彼に救いの手を差しのべたのは、五百年前の勇者親子の霊魂だった。 五百年前に不慮の死を遂げたという勇者親子の霊は、その地で自分たちの意志を継いでくれる死霊術士を待ち続けていたのだった。 魔王討伐を手伝うという条件で、クラウスは最強の女勇者リリスをその身に憑依させることになる。 S級モンスターを瞬殺できるほどの強さを手に入れたクラウスはどうなってしまうのか!? 「凄いのは俺じゃなくて、リリスなんだけどなぁ」 落ちこぼれ死霊術士と最強の美少女勇者(幽霊)のコンビが織りなす「死霊術」ファンタジー、開幕!

じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅
ファンタジー
「お前は勇者に相応しくない」 勇者として異世界に召喚された俺は、即行で処刑されることになった。 理由は、俺が「死霊術師/ネクロマンサー」だから…… 冗談じゃない!この能力を使って、誰にも負けない第三勢力を作ってやる!! ==================== 主人公『桜下』は十四歳。突如として異世界に召喚されてしまった、ごく普通の少年だ。いや、”だった”。 彼が目を覚ました時、そこには見知らぬ国、見知らぬ人、見知らぬ大地が広がっていた。 人々は、彼をこう呼んだ。”勇者様”と。 状況を受け入れられない彼をよそに、人々はにわかに騒ぎ始める。 「こやつは、ネクロマンサーだ!」 次の瞬間、彼の肩書は”勇者”から”罪人”へと書き換わった。 牢獄にぶち込まれ、死を待つだけの存在となった桜下。 何もかもが彼を蚊帳の外に放置したまま、刻一刻と死が迫る。絶望する桜下。 そんな彼に、声が掛けられる。「このまま死を待つおつもりか?」……だが牢獄には、彼以外は誰もいないはずだった。 そこに立っていたのは、一体の骸骨。かつて桜下と同じように死を遂げた、過去の勇者の成れの果てだった。 「そなたが望むのならば、手を貸そう」 桜下は悩んだ末に、骨だけとなった手を取った。 そして桜下は、決意する。復讐?否。報復?否、否。 勇者として戦いに身を投じる気も、魔王に寝返って人類を殺戮して回る気も、彼には無かった。 若干十四歳の少年には、復讐の蜜の味も、血を見て興奮する性癖も分からないのだ。 故に彼が望むのは、ただ一つ。 「俺はこの世界で、自由に生きてやる!」 ==================== そして彼は出会うことになる。 呪いの森をさ迷い続ける、ゾンビの少女に。 自らの葬儀で涙を流す、幽霊のシスターに。 主なき城を守り続ける、首なし騎士に。 そして彼は知ることになる。 この世界の文化と人々の暮らし、独自の生態系と環境を。 この世界において、『勇者』がどのような役割を持つのかを。 『勇者』とは何か?そして、『魔王』とはどんな存在なのか?……その、答えを。 これは、十四歳の少年が、誰にも負けない第三勢力を作るまでの物語。 ==================== ※毎週月~土曜日の、0時更新です。 ※時々挿絵がつきます。 ※アンデッドが登場する都合、死亡などの残酷な描写を含みます。ご了承ください。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...