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復讐したい俺と急に乗り気な勇者様

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「ずいぶん早かったな」
「……」
 次の日、朝日を背に勇者は戻ってきた。最終的に俺の命令に従うことはわかっていたけど、まさかこんなに早く戻るとは、正直言って予想外だった。最低でも2、3日はかかるものだと思ったんだけどな。
 キメラから見れば無慈悲な魔王でも、帝国民から見れば理想の勇者様。命令に抵抗して抵抗して徐々に追い詰めて、先に母娘の体力と精神力が尽きての決着だと思ってた。まさか一晩で終わるとは…。
「君の言っていた復讐の件ですが、武器を向けた者に関しては疑問すら抱かずに切り伏せましょう。君の盾として刃に貫かれる事も厭いません。なのでどうか、戦う術のない者を斬るのは今回で最後にしていただけませんか?」
 逆光で顔は見えないが、とても穏やかな声だった。殺気も何もない、水面のような静けさが逆にゾッとする。怒りやら悲しみやら絶望やらの色んな感情が混ざった故の抜け落ちみたいなもんだろうか。
「最初に言ったけど、俺は帝国に住む奴ら全員殺したい。兵士も民も関係なくな。兵を屠ってくれるというなら、強制的に命令はしない。けど、それじゃあ民は殺せない」
「邪魔はしないので、殺すなら君がやってください」
「ふむ」
 どうでもよくなった、て感じはしないけどな。本当に邪魔しないのかどうか怪しいが従ってくれるっていうなら問題ないような気がする。俺じゃ勝てないヤツだけでも始末してくれるなら、残りは野獣なりその辺の死体をゾンビにして襲わせるなり、方法はいくらでもあるか。
 見たところ体の傷は治ってるみたいだし(逆光でよく見えないけど)腐敗臭も消えてる。ちゃんと命令通り食ったみたいだし、だからこその提案なんだろうな。一応コイツを絶望させるっていう目標は達成かな。つーか、こんなに早く決着つくなら寝てないで千里眼で観戦すりゃよかったぜ。まあ、ずっと見てられるような余力はもう残っちゃいなかったけどよ。
「文句言わずに斬ってくれるっていうなら、その提案飲んでやるよ。ただし、石ころだろうが俺が武器だと判断したら容赦なく斬らせるからな」
「…わかりました。ありがとうございます」
 そういうと勇者は背を向けた。
「近くに川を見つけたので、血を洗い流してきます」
「いってらー」 
 そう言うと勇者はわりとしっかりとした足取りで消えていった。
 さて、この後はどうするかな。強制の呪印がちゃんと機能する事も確認できたし、手始めに近くの村を襲うってのもありだけど…。元勇者一行がいるんじゃ、迂闊なことは出来ねぇよなぁ。武器もなけりゃ食料も路銀もない。勇者なんてボロ布だし。いつまでもボロ布着せておく訳にもいかないよな、悪目立ちするし。俺は瞳孔以外人間と変わらないからいいとして、復讐するならちゃんと考えねぇと。つい勢いだけでここまできちまったけど、やっぱまずいよな。
 一応睡眠をとったことで冷静になったのか、俺何やってんだろうなーというのが今の状態だ。勇者のやつも今頃川で頭冷やしてんのかもな。逆らえない以上、どうやって俺を止めようかとか考えてるのかもな。よく考えたら1番憎い相手と今後ずっと一緒に行動するとか、これただの自殺行為じゃねーか。ストレスで死ぬわ。
「はぁぁぁ…。マジで俺何やってんだよ。リーダー、師匠、みんな、バカでごめん」
 こうなったら腹を括るしかない。勇者をただの死体に戻せばストレスとはサヨナラだろうが、こんなに使えるゾンビなんてそうそう作れるわけがない。やれるところまでやってみよう。今の俺にできることをきちんと把握して、それと情報収集も大事だ。下準備は念入りにってリーダーも言ってた。革命軍の生き残りはたぶん俺だけだろうし、一度近くのアジトに行ってみよう。何かしらの情報や金目のもの、武器なんかもあるかもしれない。
 
グゥゥゥゥ

 無い頭で考えすぎたのだろうか、急に腹がなった。それも結構デカめの音で。誰もいないのになんだか恥ずかしい。そういや、なんも食ってなかったな。
「大きい音ですね。野獣かと思っちゃいました」
 ふふっと笑いながら勇者が戻ってきた。小綺麗にはなっているが、ボロ布のせいであんまり変わった感じはしない。ただ、濡れてしっとりした髪のせいで妙に色っぽい。別にそっちの趣味はねぇけどさ、同性でも大人の色気みたいなの感じることあるだろ?
「早いお帰りで」
「魚が獲れたので一緒に朝ごはんにでもしようかと思いまして」
「昨晩あんな事になってよく笑顔でいられるな。勇者は好青年であるべし、みないな掟でもあるのか?」
「そういう訳では…。ただ、君の復讐が終わるまでずっと一緒にいる訳でしょう?思うところが無い訳ではありませんが、割り切らないと精神的に保たないのではと思いまして。お互い発狂しても困るでしょう?」
「なるほど。信用はしなくても信頼は築くってやつか」
「そう言うことです。それと、一度でいいからこうやって誰かと一緒にご飯食べてみたかったんです」
「は?」
「な、なんでも無いです!」
 そういうと勇者は消えかけていた焚き火に薪を足し、魚に枝を刺して焼き始めた。
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