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予言通り勇者が魔王を倒した結果③

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 廃墟と化した部屋の中に夕日が差し込む。俺も、そろそろ行かないと。
 見下ろす勇者は血なのか夕日なのか、色々赤かった。
 可哀想に。
 あの言動。あれは、仲間だなんて思っていなかったヤツラの言動だ。仲間どころか人とすら思っていなかったかもしれない。
 同情はする。けど、同情それ復讐心これとは別物だ。
「なんでだよ、勝手に死ぬなよ。あんたに死なれたら、俺は…どうしたらいいんだよ」
 もちろん答えなんて返ってくるわけもなく。雨ざらしの部屋に吹き込む風が雨の匂いを運んできた。
 目の前で仇が死んで。しかも仲間に殺されて。それが最初から決まっていた勇者のエンディングだなんて、納得できるものでもない。
 けど、勇者は死んだ。俺の復讐は始まる前に終わった。勇者にケンカを売って死ぬという俺の未来はなくなった。
 なら生きるか?いや、無理だ。革命軍全員の命なんて背負えない。重すぎる。
 なんで俺1人生き残ったんだ…。
 勇者に復讐することだけが、俺に残された贖罪だったのに…。
 虚しさ、虚無感とでもいうんだろうか。そういうのが心に広がる。
 日が沈みきるまえにポツリポツリと雨が降り出した。日が沈めば血の匂いを嗅ぎつけて野獣が来るだろう。そうすりゃ勇者の死体なんてペロリだ。
 いっそ俺も食べられてしまおうか。そうしたら何も考えずにすむ。人生を終われる。勇者と一緒に野獣に…。

 イヤだ。

 虚無感の広がる胸の中に、けど確かに何かがこみ上げてきた。
 これはなんだ?怒りか?
 わからない。表現するにいい言葉を俺は知らない。
 ただ、この終わりは勝ち逃げだ。
 確かに勇者は死んだ。復讐する相手は死んだ。直接の仇は死んだ。けど、勇者の仲間達がまだ残っている。正確には仲間じゃないのかもしれないけど、俺から見れば仲間だ。勇者一行だ。ヤツラはまだ生きている。すべての責任をおそらく勇者に押し付けて、ヤツラはこの後の人生を楽しく過ごすんだ。そんなの、許されない。俺の復讐はまだ、終わっていない!
 そうと決まれば、さて、どうしたものか。腐っていてもヤツラはここまでたどり着いた猛者だ。勇者の力がデカかったにしろ、この世界で一番強いのはアイツらだ。俺じゃ勝てない。
 ゾンビの大群を使役できるように特訓したとしても、向こうに聖職者がいる限り勝ち目はない。天術を使われればゾンビなんて一発で浄化されちまう。
 アイツらをぎゃふんと言わせるには…。
 考えろ、考えろ俺!ない脳みそフル稼働させて考えるんだ。
 どうしたら復讐できる?俺自身には戦闘力なんてない。使える武器は死霊術ネクロマンシーと千里眼だけだ。ならゾンビを工夫して…。
 ふと、倒れている勇者に目が止まる。
 ああ、俺はなんてバカでなんて頭がいいのだろう。

 勇者こいつをゾンビにしよう。

 思い立ったが吉日、というやつだ。俺は懐からチョーク(メフニョム貝の殻を粉末にして棒状に練り固めたものだ)を取り出して床に魔法陣を描いていく。雨も降ってきたし、日が暮れる前にやらないと、せっかくの死体がダメになる。
 マスターである俺には逆らえないように。死んだばかりなら魂はまだその辺にあるはずだから、それを体に戻せれば勇者への復讐にもなる。最強の勇者を使役する、その優越感を味わってみたいとうのもある。
 足を掴んで魔法陣の中に死体を引きずりセットする。
「呪われし我が言の葉を聞け、天に反逆する我が意志を知れ。役目を終えしその体に今一度息吹を。我が魔力を持って蘇れ。天に昇らんとする魂魄よ、我が言の葉は地獄への鎖、我と共に堕ちよ。我は天に反逆する者、我は地獄に堕ちる者。お前に拒否権はない。来い、我はお前のマスターなるぞ!」
 突然雷が魔法陣に、いや、勇者の死体に落ちた。突然の出来事に俺はふっ飛ばされて床に転がる。
 慌てて起き上がれば、勇者の死体は黒焦げ…ではなく無事でホッと胸をなでおろした。
 結構強引な術式に変更したし、うまくいったかどうかはわからない。師匠は『アレンジはお前にはまだ早い』とか言ってたから、ぶっつけ本番だ。

 しばらく経っても勇者は目を覚まさない。
 そうだよな…。まだ師匠のサポートなしで、一人でゾンビを作って成功した事なんてないんだから。
 失敗したんだろう、そう思って諦めかけた時だった。
「ん…」
 ゆっくりと、勇者が目を開けた。
 成功したことが嬉しくて、生き返った(正確にはゾンビだが)勇者が憎らしくて。なんとも表現し難い感情がこみ上げてきて、俺は寝起きの勇者を怒鳴りつけた。

「なに勝手に死んでやがる!俺はまだお前に復讐してないんだぞ!」
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