勇者をゾンビにしてみた結果

襟川竜

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予言通り勇者が魔王を倒した結果②

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「なん…だよ、これ…」
 何が起きたのかわからなかった。
 いや、見えてるんだからわかってるんだ。ただ、理解が追いついていないだけで。
 だって、そうだろ?
 魔王と呼ばれたリーダーを殺した男だぞ?
 一人で何百…いや、何千もの仲間を殺した男が、敵なんていない男が、無敵にも思える男が…。
 
 ありえないだろ。ありえないよな。なんなんだよコレ…。
「マジ…なのか…?」
 俺は恐る恐る勇者に手を伸ばした。まだ、あたたかい。でも脈は…ない。
「なんだよそれ…なんで…なんでだよ…」
 足に力が入らず、俺は膝から崩れ落ちた。
 たとえ返り討ちにあったとしても、こいつに復讐してやろうって。師匠やリーダー、みんなの仇を取るんだって。呪いの一つでも吐いてやるって。
 なのに、なんでこんな…。
 状況がまったく理解できない。元々頭は良くない…どころかむしろ悪いけど、でも、俺じゃなくたって理解なんてできないはずだ。最強の男が自身の持っていた聖剣で磔にされているなんて、きっと勇者自身も想像なんてしなかったはずだ。
 リーダーは一人で勇者を迎え撃っていた。勇者も一人だった。仲間はまだ駆けつけていなかった。それは千里眼でずっと見ていた俺が一番良くわかっている。
 じゃあ、誰が?
 愕然としていた俺の耳が音を拾った。数人の声と足音だ。俺は慌てて隠れる。
 やってきたのは勇者の仲間達だった。

「やっぱりやめましょうよ。可哀想で見てられません」
 そう言ったのは金髪ロングの魔法使い風の女だった。大胆に胸元のあいた黒と紫とレースの服にツバ付きの三角帽をかぶっている。
「じゃーお前は見なきゃいいだろ」
 口の悪い男が返す。軽鎧にナイフを装備した三白眼は、勇者の仲間というよりはゴロツキっぽい。
「聖剣なんて折れたとか見当たらなかったでいいじゃないですか」
「何言ってんだよ、証拠がなきゃ約束の金がもらえないかもしれねーだろ」
「さすがに約束を反故にはされんだろ」
 食って掛かるゴロツキに聖職者風の大男がやれやれと肩をすくめながら言った。
「オレサマは慎重派なんだよ」
「はっ。ビビリなだけだろ」
「んだとぅ!?」
 白銀の鎧を着込んだ騎士風の女に言われ、ゴロツキは矛先を彼女へと向けた。
「あたしは聖剣の回収には賛成だけどね。聖剣という証拠さえあれは、命の保証をしてもらえるかもだし」
 そう言ったのは地味目の魔法使い風の女。ボサボサの茶髪に丸メガネ、おまけにそばかすの根暗そうなやつだ。
「それにしても、勇者さんはなんて可哀想なのかしら」
 悲劇に酔っているかのような口調で最後の一人、弓を背負った爆乳女が頬に手を当てながら言った。
「せっかく魔王を倒したというのに、平和になった世の中を見る前に殺されてしまうなんて。しかも、仲間であるわたくし達に。ああ、なんて可哀想…」
 可哀想と言う割に嬉しそうに聞こえる。
 まてまて、今なんて言った?
 仲間に、殺された…?
「予言通りなんだから勇者サマも納得するだろーよ。な、勇者サマ」
 そう言ってゴロツキは死体となった勇者に蹴りを入れた。もちろん勇者はピクリとも動かない。
「星降る夜の…なんだっけ?」
 ヘラヘラと笑いながら聞くゴロツキに大男が答えた。
「数多の星が降り注ぎし夜、1人の男児が生まれるであろう。その者、魔王を倒す勇者となりて100年の争いに終止符を打つ」
「そうそう、それそれ」
「勇者のボウヤは立派に役目を果たした。見事魔王を打倒した。アタシ達にはほとんど出番がなかったな」
「手を汚さなくていいのは楽だったわ」
「ちゃんと倒したのに、可哀想ですわ」
「勇者サマがちゃんと仕事をしたんだ。だったらオレサマたちもちゃぁんと仕事しないとなぁ」
「死の山に勇者は立ち、第二の魔王にならん。これを止める術、最早なく。親愛なる友に別れを告げ、勇者は漸く歩みを止める」
「勇者さんって、予言の後半部分は知っていたのかしら?」
「知らなかったと思う。じゃなきゃパドに聖剣で刺された時に『なんで…?』なんて馬鹿な質問しないでしょ」
「まぁ、ますます可哀想…。勇者に担ぎ上げられたどころか、ただの使い捨ての駒だったなんて…。ああ、本当に可哀想。何という悲劇かしら」
「どっちでもいーって。よっこら…せっと!」
 ゴロツキは死体から剣を抜こうとするが、思いの外深く刺さっていたのかうまく抜けず、死体を踏みつけるように足をかけて引っこ抜いた。支えを失った死体はドサリと地面に落ちるが、誰も気にかけていない。
「よーし、これでオーケー。さ、帰ろうぜ。これでオレサマ達は晴れて英雄だ。勇者も讃えられて語り継がれるんだ。よかったな、クソガキ」
 あろうことかゴロツキは勇者の頭に足を置き、グリグリと踏みつけた。
「パド、死者を愚弄するな」
「へいへい、しつれーしました」
「死体はこのままでいいのか?一応仲間ってことでここまで来たんだ、埋めてやったほうが…」
「放っておけば野獣が食ってくれんだろ。わざわざ重労働しなくてもいいて」
「あたしも死体触りたくないし、賛成」
「弔ってもらえないなんて、可哀想な勇者様」
「ならメリーが弔えば?」
「嫌です。死体なんて触ったら血がついてしまうじゃないですか」
「賛成多数で放置決定。日が暮れる前に街まで行こうぜ。反乱軍の生き残りがいたって、オレサマたちにはもう襲いかかってこねーだろーし」
「なぜだ?」
「勇者と魔王が死んだ今、一番強いのはオレサマたち6人だからだよ」
「なるほど」
「墓にはちゃんと『勇者○○、ここに眠る』って書いてやるからよ」
「そこはちゃんと名前を書いてあげてほしいわ」
「こいつ、名前なんだっけ?」
「さあ?」
「知らない」
「覚えてないですわね」
 そういうと6人は勇者の死体には目もくれずに歩き出した。もう勇者のことなんて忘れ去っているみたいだ。

 彼らの足音が聞こえなくなり、千里眼でも完全に出ていったのを確認してから、俺はようやく息をついた。
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