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第四幕 愉比拿蛇
第三七話
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「冬殿!」
宿祢の必死な声にハッとする。
気が付けばわたしは元の場所に居た。
ゆなちゃんと七草さんはいなくなり、代わりに目の前には巨大な巨大すぎる蛇が首をもたげていた。
「大丈夫でござるか?」
「うん、平気」
大蛇は口から炎を吐く。
それをお姉さんが防御壁で防ぐ。
鱗を銃弾のように撃ち出す。
それを迦楼羅丸と秋ちゃんが叩き落とした。
体を揺らし、跳ね飛ばそうとする。
それを天景が受け止め、跳ね返した。
あらゆる属性の、あらゆる種族の、あらゆる攻撃。
全部、愉比拿蛇が取り込んだ力。
取り込み過ぎて、暴走して、どうする事も出来ない巨大な力。
「助けなきゃ」
「うむ、皆の助太刀に…」
「それもあるけど、そうじゃないよ」
心配する宿祢に笑って、わたしは一歩踏み出す。
「ゆなちゃん、聞こえる?」
けど、わたしの声は届かなかったみたいで、愉比拿蛇は妖術で襲い掛かってくる。
ゆなちゃんを助ける為には、ゆなちゃんを苦しめているこの沢山の力を何とかしなくちゃいけない。
「待っててゆなちゃん、今助けるから!もう少しだけ、頑張って!」
聞こえると信じてわたしは叫んだ。
弓を出し、戦列に加わる。
「みんな聞いて。愉比拿蛇の本体はわたし達の味方なの。今目の前にいるのは、制御しきれずに暴走している悪い力なの。この力を何とかできたら、愉比拿蛇を…ゆなちゃんを助けられるの」
「どういう意図で助けると言っているのかわからんが、この力を何とかすれば愉比拿蛇は大人しくなるんだな?」
「うん!」
「わかった」
そういうと迦楼羅丸は大蛇に向かって走り出した。
「よくわからぬが、冬殿に従うでござる」「右に同じ、かな」「仕方ない…」
宿祢が、秋ちゃんが、天景が、わたしを信じて大蛇に向かって行く。
「ここは私達に任せて、思いっきりやって頂戴、冬」
「うん、ありがとう」
お姉さんは勾玉に霊力を込める。
どうやら、お姉さんの武器は勾玉みたい。
「闇を照らす希望の炎、悪しき力を焼き尽くせ。浄炎・山茶花」
お姉さんの霊力が勾玉を通じ、炎となって愉比拿蛇に向かって行く。
けど、愉比拿蛇は氷の息を吐いて炎を消した。
その背後に、跳躍した迦楼羅丸が迫る。
「炎獄残影・鎌鼬」
わたしには刀が何本にも分裂したように見えた。
残影が見える程に素早い連続切りに、愉比拿蛇は体を捩よじる。
しっぽを叩きつけるようにして迦楼羅丸を追い払った。
「捕えろ、樹縛」
天景が叫ぶと同時に地面から何本ものツタが現れ、愉比拿蛇に巻きついた。
身動きの取れなくなったところに秋ちゃんが迫る。
「雷電光波・建御雷」
刀身に宿った雷が愉比拿蛇を直撃した。
苦しそうな声を上げた愉比拿蛇だったけれど、すぐに口から炎を吐きだす。
「水泡散開」
宿祢が出した数個の水の塊が秋ちゃんを守る。
「春告げ鳥に唄え!」
秋ちゃんの周りに沢山の花びらが現れた。
「花鳥神風・花吹雪!」
掛け声と共に花びらが愉比拿蛇の視界を奪う。
「「双炎獄門・烈火断刀」」
迦楼羅丸と天景が左右から同時に同じ攻撃を仕掛ける。
瞬時にお互いの力を理解しあったのかもしれない。
初めての共闘なのに、寸分たがわずに真っ赤に燃え盛る炎で出来た巨大な刀が同時に愉比拿蛇を貫いた。
「しゃああああああ」
苦しそうに叫ぶ愉比拿蛇の体、刀が突き刺さった部分から勢いよく黒い煙のようなものが出てきた。
黒い煙が噴き出すと愉比拿蛇の体は少し小さくなったように見える。
まるで空気の抜けた風船みたい。
「なんかすっごく嫌な感じ…」
「そういう事ね。黒い煙に触れては駄目よ。それは四百年以上積もりに積もった邪気よ」
「邪気?」
「さっき自分で言っていたじゃない。愉比拿蛇の悪い力よ。どうやら暴走している原因は、あの大量の邪気のようね」
「じゃあ、あれを何とかすればゆなちゃんを助けられるのね」
「おそらくは」
「よーし」
わたしは弓をキリリと引き絞る。
矢は狙い通りの場所に飛んでいったけれど、硬いうろこに阻まれて刺さる事はなかった。今のわたしじゃ、まだ届かないんだ。
でも諦めたりなんかしないよ。
百発一中、数撃ちゃ当たるって言うんだからっ。
宿祢の必死な声にハッとする。
気が付けばわたしは元の場所に居た。
ゆなちゃんと七草さんはいなくなり、代わりに目の前には巨大な巨大すぎる蛇が首をもたげていた。
「大丈夫でござるか?」
「うん、平気」
大蛇は口から炎を吐く。
それをお姉さんが防御壁で防ぐ。
鱗を銃弾のように撃ち出す。
それを迦楼羅丸と秋ちゃんが叩き落とした。
体を揺らし、跳ね飛ばそうとする。
それを天景が受け止め、跳ね返した。
あらゆる属性の、あらゆる種族の、あらゆる攻撃。
全部、愉比拿蛇が取り込んだ力。
取り込み過ぎて、暴走して、どうする事も出来ない巨大な力。
「助けなきゃ」
「うむ、皆の助太刀に…」
「それもあるけど、そうじゃないよ」
心配する宿祢に笑って、わたしは一歩踏み出す。
「ゆなちゃん、聞こえる?」
けど、わたしの声は届かなかったみたいで、愉比拿蛇は妖術で襲い掛かってくる。
ゆなちゃんを助ける為には、ゆなちゃんを苦しめているこの沢山の力を何とかしなくちゃいけない。
「待っててゆなちゃん、今助けるから!もう少しだけ、頑張って!」
聞こえると信じてわたしは叫んだ。
弓を出し、戦列に加わる。
「みんな聞いて。愉比拿蛇の本体はわたし達の味方なの。今目の前にいるのは、制御しきれずに暴走している悪い力なの。この力を何とかできたら、愉比拿蛇を…ゆなちゃんを助けられるの」
「どういう意図で助けると言っているのかわからんが、この力を何とかすれば愉比拿蛇は大人しくなるんだな?」
「うん!」
「わかった」
そういうと迦楼羅丸は大蛇に向かって走り出した。
「よくわからぬが、冬殿に従うでござる」「右に同じ、かな」「仕方ない…」
宿祢が、秋ちゃんが、天景が、わたしを信じて大蛇に向かって行く。
「ここは私達に任せて、思いっきりやって頂戴、冬」
「うん、ありがとう」
お姉さんは勾玉に霊力を込める。
どうやら、お姉さんの武器は勾玉みたい。
「闇を照らす希望の炎、悪しき力を焼き尽くせ。浄炎・山茶花」
お姉さんの霊力が勾玉を通じ、炎となって愉比拿蛇に向かって行く。
けど、愉比拿蛇は氷の息を吐いて炎を消した。
その背後に、跳躍した迦楼羅丸が迫る。
「炎獄残影・鎌鼬」
わたしには刀が何本にも分裂したように見えた。
残影が見える程に素早い連続切りに、愉比拿蛇は体を捩よじる。
しっぽを叩きつけるようにして迦楼羅丸を追い払った。
「捕えろ、樹縛」
天景が叫ぶと同時に地面から何本ものツタが現れ、愉比拿蛇に巻きついた。
身動きの取れなくなったところに秋ちゃんが迫る。
「雷電光波・建御雷」
刀身に宿った雷が愉比拿蛇を直撃した。
苦しそうな声を上げた愉比拿蛇だったけれど、すぐに口から炎を吐きだす。
「水泡散開」
宿祢が出した数個の水の塊が秋ちゃんを守る。
「春告げ鳥に唄え!」
秋ちゃんの周りに沢山の花びらが現れた。
「花鳥神風・花吹雪!」
掛け声と共に花びらが愉比拿蛇の視界を奪う。
「「双炎獄門・烈火断刀」」
迦楼羅丸と天景が左右から同時に同じ攻撃を仕掛ける。
瞬時にお互いの力を理解しあったのかもしれない。
初めての共闘なのに、寸分たがわずに真っ赤に燃え盛る炎で出来た巨大な刀が同時に愉比拿蛇を貫いた。
「しゃああああああ」
苦しそうに叫ぶ愉比拿蛇の体、刀が突き刺さった部分から勢いよく黒い煙のようなものが出てきた。
黒い煙が噴き出すと愉比拿蛇の体は少し小さくなったように見える。
まるで空気の抜けた風船みたい。
「なんかすっごく嫌な感じ…」
「そういう事ね。黒い煙に触れては駄目よ。それは四百年以上積もりに積もった邪気よ」
「邪気?」
「さっき自分で言っていたじゃない。愉比拿蛇の悪い力よ。どうやら暴走している原因は、あの大量の邪気のようね」
「じゃあ、あれを何とかすればゆなちゃんを助けられるのね」
「おそらくは」
「よーし」
わたしは弓をキリリと引き絞る。
矢は狙い通りの場所に飛んでいったけれど、硬いうろこに阻まれて刺さる事はなかった。今のわたしじゃ、まだ届かないんだ。
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