四季の姫巫女

襟川竜

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第四幕 愉比拿蛇

第二九話

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愉比拿蛇対策会議の最中さなか、冬が決意を固めて入ってきた。
それは、たった四人で愉比拿蛇を倒しに行くというものだった。
妹を亡くしたばかりの誠士郎は当然反対した。
だが、当主達は躊躇いつつも反対はしなかった。
当然と言えば当然だ。
愉比拿蛇の猛威を目の当たりにしたばかりなのだ。
誰も彼もが恐怖にとらわれていた。
姫巫女達は、ことりでさえ愉比拿蛇と戦う事を拒み結界の強化へと回った。
愉比拿蛇は倒さなければならない。
しかし、自分は戦いたくない。
戦えば怪我だけでは済まない。
弥生のように命を落とすかもしれない。
そう考えただけで、討伐体を編成しようにも参加者がいない。
身内は出したくないと考える当主も多く、充実でさえ、なかなか決断はできなかった。
そんな中で、自ら名乗り出た冬という存在は貴重だった。
例え命を落としても、元はただの女中、何も問題はないだろう。
そう考える者も多くいた。
危険だと止める誠士郎に、冬は「大丈夫です」と答えて笑った。
一刻も早く愉比拿蛇を倒さなければ、いつ秋桜館に被害が及ぶかもわからない。
それは誠士郎とてわかっていた。
それでも引き留めたのは、弥生のようになってほしくなかったから。
大切な親友に、自分と同じ思いはさせたくなかった。
いつまでも結論の出ない会議を続けるよりも冬に行かせるべき。
その意見に、ほぼ全ての者が賛同した。
そして、充実が決断を下す。
「七草冬、お前に愉比拿蛇討伐の命を下す」
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