四季の姫巫女

襟川竜

文字の大きさ
上 下
28 / 103
第弐幕 宿祢

第十二話

しおりを挟む
冬の必死の攻撃は、听穣に当たる事はなかった。
だが、それでも一瞬とはいえ隙を生じさせた事は事実。
その隙を迦楼羅丸が見逃すはずがない。
驚く宿祢の腕を引き、周囲にいた天狗を二、三人蹴り飛ばす。
そのまま听穣に接近し、掌底突きを入れた。
だがその攻撃は軽くかわされる。
迦楼羅丸はかわされると読んでいたのだろう、転びかけていた冬の腕を掴んで宿祢へと放り投げた。
「きゃっ」
「冬殿!」
軽々と宙を舞った冬を、慌てて宿祢が受け止める。
「小娘がお前を守ると決めたんだ。さっさと逃げな」
「し、しかし…」
「いいから逃げるよ!」
躊躇う宿祢の腕を引き冬は走り出した。
「逃がすな、追え!」
听穣の指示に天狗達が後を追おうと走り出した。
だが、その前に迦楼羅丸が立ちはだかる。
「行かせやしねぇ」
手のひらを天狗達に向け、なにやらまじないを唱える。
すると、その手から紅く鮮烈な炎が噴き出した。
「鬼火!」
轟々と燃える炎は渦を巻き、天狗達に襲い掛かる。
「させぬっ!」
听穣は炎の正面に立ち刀を薙いだ。
その剣圧で炎を一刀両断にする。
「行けっ!何としてでも宿祢の首をとれ!」
その言葉に駈け出す天狗達を蹴り飛ばし殴り飛ばすも、迦楼羅丸一人では手が足りない。
横をすり抜けた何人かの天狗達が冬の後を追った。
「ちぃっ」
「お前さんの相手は、俺がしてやるぜ」
「ふん。貴様では役不足だ」
「試してみるかい?」
ニヤリと笑う听穣を見て、迦楼羅丸は少し距離を取った。
再び炎を出すが、今度は放つのではなく、刀へとその姿を変える。
「へぇ。鬼ってのはそんな事も出来るのか」
「風を操る天狗とは相性が悪そうだがな」
両者とも距離を取り、隙を伺う。
風で木の枝が揺れ、果物同士がぶつかり音を立てた。
それを合図に、両者は走り出し刃を交えた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...